予定調和ではない、感動の会議。その実現のために必要なこととは?【スマート会議術第13回】

予定調和ではない、感動の会議。その実現のために必要なこととは?【スマート会議術第13回】公益財団法人日本生産性本部 主席経営コンサルタント 寺沢 俊哉氏

株式会社パルコにて、新規事業開発やマーケティングを行い、現在は公益財団法人日本生産性本部で、経営コンサルタントを務めている寺沢俊哉さん。著書「感動の会議! リーダーが会議で『人を動かす』技術」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)は、寺沢さんが、それまでのキャリアを通じて出会った会議の達人から学んだ、会議術をまとめた一冊です。今回は寺沢さんに「感動の会議」とは何かについてお話を伺いました。

目次

すばらしいリーダーは、全員が「会議の達人」?

――寺沢さんの著書「感動の会議!」は、「あの人にならついていきたい――そう思わせる経営者、あの人と仕事がしたい――そう思わせるマネジャー、あの人になら進行をまかせられる――そう思わせるチームリーダー。素晴らしいリーダーは全員、『会議の達人』でした」という印象的な一文で始まります。すばらしいリーダーはなぜ、みんな会議の達人なのでしょうか?
「会議」という言葉は、実はいろいろな意味を含んでいます。
例えば、会議を「関係者を巻き込んでいくためのもの」と定義すれば、こうしたコミュニケーションが上手な人は、会議室の中でも外でも自然にできる。ですから、「すばらしいリーダー、イコール会議の達人」というよりも、人を巻き込む方法が上手な人が、すばらしいリーダーともいえ、会議はその能力を可視化する場のひとつというイメージです。
感動の会議!
――会議の達人には、3つの共通点(原則)があるそうですね。
1つ目は「会議はゴールを決めて行う」です。主催者が明確なゴールを持っていない、なんとなくの会議は論外です。
2つ目は「課題達成だけでなく、参加者の満足を引き出す」ということです。つまり、会議の達人は参加者に対して「なぜここに呼ばれているのか」という参加の意義をはっきりさせて、役割や期待を伝えてから会議を行います。
最後は「会議のオーナーとして責任を持っている」ことです。これは「こういう会議は嫌だ」というアンケートを、私のメルマガ読者の約1,000人に取ったときに出てきたものです。主催者が他人事の会議はダメだということです。
――どれも基本的なことのように思えますが、それができていない会議は多いものなのでしょうか?
驚くほどできていないですね。
まず、呼ばなくていい人を呼んでいるというケースが非常に多い。そして、その会議では何を決めるのが目標なのか、はっきりしていないケースもたくさんある。もし、目標がはっきりしていたとしても、それを決めたあとに、誰がどう行動するのかまで決定することを忘れてしまっている場合も多いですね。

会議を成功させる3つのステップ

――「感動の会議!」では、会議を成功させるための技術として「3つのステップ」を紹介されています。
はい。「共鳴」「発見」そして「合意」の3ステップです。
最初の「共鳴」は、とても基本的なことですが、やる気のない人を会議に呼んでしまったり、テーマがハッキリしないうちに「問題を解決しましょう」と言ってしまったりして、参加者が「自分事」化できていないことが多いと感じています。テーマに対して全員が、「これから取り組むぞ」という気持ちになっていることが会議の前提となります。
続いての「発見」は、「共鳴」の段階でやる気になった人たちが、課題解決に向けて一歩踏み出している状態です。単なるプレゼンテーションや情報共有なら、このステップは必要ありませんが、会議は主催者側だけでは解決できない課題を、専門家の知恵を活用して解決するというものです。そこで必要なのが、アイディアを「発見」するというプロセスとなります。
最後のステップである「合意」は、「発見」で出てきた数々のアイディアの中から決定するということです。「誰が意思決定するか」などの細かい部分はありますが、ここで一番重要なのは「決める」ということです。そして忘れがちなのが、「誰がいつまでに行動するか」を決めることでもあります。
以上の3つのステップの「発見」と「合意」は、問題解決技法でいうところの「発散」と「収束」に該当しますが、その前提として「共鳴」が必要だと私は考えています。
――ありがちな会議は、とかくトップダウンになりがちで、会社の慣習や人間関係的な情感に左右されやすくなってしまうという印象があります。その場合の問題点と改善ポイントなどはありますか?
初歩的な話となりますが「人の発言中にしゃべらない」など、「グラウンドルール」と呼ばれる、守らなければならないルールを最初に決めておきます。最初にゴールだけでなく、会議のルールも固めることが重要なんです。
最初に決めておけば、ルールを破った発言をしている人に対しては「そこにルールが書いてありますよね」と言えるし、そこで笑いが生まれるんです。笑えるということは重要です。
あとから「お前がダメだからルールを作った」みたいになってしまうと、それはニュアンスとして攻撃に近くなり、雰囲気が悪くなってしまいますので。

「形式的な会議」を減らすためのチェックリスト

――寺沢さんがコンサルティングされてきた中で、「ここを変えたら会議が変わった」という成功例を教えていただけますか?
当たり前と思っていることを疑うことは重要です。
医薬品関係の企業の事例をお話しすると、医薬品系の企業というのは、品質管理など法律で規定されている会議が多いのです。株主総会のように形式的に会議をしないといけないし、記録として議事録を細かく取らないといけなくなる。
でも、それを続けていると、会議とはそういうものだという体質ができてしまって、法律で定められていない普通の会議でも「一語一句議事録を取らないとダメ」みたいな空気になって、会議が非常に堅苦しく面倒臭いものになってしまう。そこで、私のような外部の人間が仕切って「普通の会議ではホワイトボードを写真に撮ればいいんですよ」と言うと「そうだったんだ!」ということになったりする。初歩的なようですが、それだけで不必要な慣習が減り、会議にかかる時間を減らせます。
とにかく「形式的な会議を減らす」というのは効果的ですね。正直、会議の内容は簡単には変わりません。ファシリテーターの研修をやっても、本人たちの能力の問題もあるし、社風の問題もある。会議の中身自体を劇的に変えるのは、とても大きな話になってしまいがちです。だから、最初に手をつけるのは会議の形式からになるんです。
――「形式的な会議を減らす」ためには、朝礼、定例会議、新規プロジェクト会議、部門間横断会議、役員会議など、数ある会議の中から、どれに手をつければいいでしょうか?
ケースバイケースですね。変えたいところから変えていく場合もありますが、基本的には会議を4つに分類して、そこにあてはまらないものを削っていくことが多いです。
1つ目は「モチベーションが上がればいい会議」です。これは、終わったときに「楽しかった」となりさえすれば構わない会議を指します。懇親会や飲み会、表彰式など、気持ちが高まればいいという「共鳴」だけの集まりです。朝礼もここに含まれると思います。
2つ目は「意思決定をする会議」です。つまり、終わったときに何かを決めている、基本的な会議ですね。
次は「アイディアを出す会議」です。決めきれなくてもアイディアが出ればいいというもので、ブレストなどもここに含まれます。
最後は「人を育てる会議」です。これは、研修の形をとるときもあれば、別の場合もあります。例えば、新人を会議に出席させることで、会社やプロジェクト全体の雰囲気や流れを学ばせるというものです。本人は会議に貢献していないけど、本人の能力開発には意味があるというものもここに含まれます。
この4つにあてはまらないものの代表として、「情報共有会議」が挙げられます。そういうものは、メールなどを使えばいいという場合が多いです。「情報共有」をNGにした途端、結構会議は開けなくなっていくものです。

その場に居合わせると感動してしまう、奇跡のような会議のために

――会議室についてこだわりなどがあれば教えていただけますか?
フレキシブルに対応できる部屋が一番いいですね。
最近は、会議室ではなくダンススタジオを借りることもあります。最初にお話ししたように、会議を「関係者を巻き込んでいくためのもの」と定義すれば、会議は会議室じゃなくてもできるんです。極端な話、屋外でやってもいいと思います。
設備面で考えると、最初に消えるのは机ですね。みんなで何かを書くにしても、ホワイトボードをU字で囲んで座ってしまえばいい。大抵の会議においては、机の重要度は低いと思っています。
――やはりホワイトボードは重要でしょうか?
はい。リアルに共有できる媒体は、場所よりも重要だと思います。昔はホワイトボードがない会社がたくさんあったので、模造紙を持っていったくらいです。参加者としても自分の意見がそこに入ったことが確認できますし、進行状況の把握やアイディアの整理だけでなく、最終的な達成感にもつながってきます。
――会議の達人の3つの共通点のうち「課題達成だけでなく、参加者の満足を引き出す」にも通じるわけですね。
そうです。会議は人が集まって行うものなので、共有する空気や媒体は大切です。
本来、会議というものは、それぞれの人間が一ヵ所に集まった以上、「一人では出すことのできなかったいいものを生み出したい」という空気を持つべき場です。予定調和じゃなく、瞬間瞬間にそこでしか生まれないものがある。
もちろん、いつもそんな奇跡のような場面には出くわせません。でも、そこに居合わせたときに「すごい!」と感動してしまうような会議は確実にありますし、できるだけ多くそういう会議を体験したい。そのためには、参加者の共鳴や満足を意識することは不可欠だと思っています。

文・写真:坂上春希

寺沢 俊哉(てらさわ としや)公益財団法人日本生産性本部
慶應義塾大学 理工学部管理工学科卒業後、株式会社パルコにて、新規事業開発やマーケティング等に従事。現在は公益財団法人日本生産性本部の主席経営コンサルタントとして、各種事業体の診断指導のほか、リーダーシップ、エグゼクティブコーチング、モチベーションアップなどのテーマで人材育成の任にあたる。著書に「感動の会議! リーダーが会議で『人を動かす』技術」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)「経営コンサルティング・ノウハウ7 人材育成」(中央経済社)「人前で話す 教える技術」(生産性出版)など多数。

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