プレゼンもセミナーも、相手とのアイコンタクトが欠かせない【スマート会議術第20回】

プレゼンもセミナーも、相手とのアイコンタクトが欠かせない【スマート会議術第20回】バレオコンマネジメントコンサルティング パートナー/アジアパシフィック代表 太田 信之氏

ソニーや多国籍コングロマリット企業のGEを経て、今は外資系の経営コンサルティングファーム・バレオコンマネジメントコンサルティングのパートナー、アジアパシフィック代表として活躍する太田信之氏。

「プレゼンもセミナーもオーディエンスとのアイコンタクトが欠かせない」と断言する。

自分本位になりがちな主張をするのではなく、あくまでも相手との目と目を合わせたコミュニケーションが重要であると言う。「資料を読むだけ」になりがちな日本のプレゼンテーションスタイルに、もっとも足りないものは何か? 相手に伝わるコミュニケーションとは何か?

長年世界のさまざまな企業を相手にコンサルティングをしてきた経験から、日本のビジネスパーソンが抱えるコミュニケーションの課題と、解決するためのノウハウについて語ってもらった。

目次

パワポを捨てて、カラダで表現しよう

――プレゼンテーション(以下プレゼン)やセミナーで特に注意したいことをお教えください。
まず、できるだけパワーポイント(以下パワポ)に頼らないこと。インパクトがあるプレゼンは、パワポの内容ではなく、話している人の動作や言葉にインパクトがあるんです。それが良いプレゼンだと思います。
学会発表のように論理的に、細かいことを間違いなく説明する目的だったら、パワポに頼ることもアリだと思いますが、企業のプレゼンでは厳しいですね。
ビジネスでのプレゼンやセミナーは、参加者の興味を引いて、態度変容を促すことが目的です。だから、発表というより、コミュニケーションをする意識が必要なんです。そのためには、資料を読み上げるよりは、アイコンタクトをして、聞いている人がプレゼンテーターとコミュニケーションをしている実感がもてることが重要です。参加者がたくさんいて、直接対話ができなくても、コミュニケーションができて、参加意識が芽生えるのが、良いプレゼンだと思います。念のためですが、TED*のような身ぶり手ぶりの大きなプレゼンをする、という意味ではありません。意思決定者や考え方・行動を変えてもらいたい人と、資料の読み上げでなく、アイコンタクトをしっかりもつという主旨です。
――プレゼンをするとき、大人数と少人数でやり方は変わってきますか。
本質的には変わらないですね。ただ目線の動かし方などは違ってきますよね。目線を合わせない人もいますので、そういうときはキーパーソンを見極める必要がありますね。
――少人数のプレゼンで、目線以外で注意点はありますか。
報告書など、本当は紙の資料はないほうがいいのですが、求められたら配らざるを得ません。そうするとみんな紙の資料を見て、なかなか自分を見てくれない。そういうときは「資料には書いていないんですが」「ちょっとスクリーンを見てもらえますか」と言って顔を上げてもらいます。ここでアイコンタクトに持ち込む。多少パーソナルな雰囲気を出して、本当にそれが大事だということを強調するようにします。
本当はパワポは禁止にして、レジュメも要点だけに絞る。そうすれば少なくとも話す人も何が焦点か絞らなきゃいけなくなるし、本当に話すことがなければ時間の節約もできる。
パワポは便利だけど、美しくつくろうとすることに時間をかけがちになります。5W1Hを話して議論して済めばそのほうが確実に効率は上がります。「それで進むんだったら、会議の資料なんてつくらなくてもいいじゃん!」という会社も、最近は結構増えてきています。
プレゼンでは、とにかく一番言いたいことに焦点を絞ることが重要です。そのうえでツールが必要だったら、スクリーンや紙の資料を使えばいい。最初にパワポでつくった資料ありきになると、フォーカスすべきポイントがぼやけてしまうんです。

ホワイトボードだけで、すべてその場で決着をつける

――パワポのようなドキュメントがないと、具体的にどんなメリットがあるのでしょうか。
僕が一番衝撃を受けたのは、GEに転職したときです。当時ちょうどGEが日本の生命保険会社を買収したときでした。米国本社からファシリテーターと呼ばれる人が来ることになったんです。当時、僕はファシリテーターという言葉もよく知らなかったので懐疑的だったんですね。
いくらGE本社の人で専門家だといっても、日本の保険会社で、みんな買収されてクビになるかもしれないと戦々恐々としている人たちです。本音で議論なんてできるわけないと。ましてや言葉の通じない米国人?っていう偏見もあって。
ところが、そのファシリテーターの女性は、パワポなどの資料を一切使わず、英語でフリップチャート(模造紙)にばーっと書き始めるんです。で、通訳を通して参加者一人一人に「どう思いますか?」「今おっしゃったことはこういうことですか?」って、がんがん聞いていくんです。「全員言いましたね?本当に大丈夫ですね?」って。
こうやって、たとえば営業所の数をいくつにするのがいいのかについて、みんなのアイデアを出し、大きな方向性を決めるんです。そして最後に「ここで決まったのだから、この場から出たら絶対に反対とかって言わないでくださいね。本当に大丈夫ですか?」って何度も聞いて確認します。
そうすると、日本人の社員はしばらく黙っているんですが、少しずつ日本語で話し始めるんです。それを見て「今話し始めたということは、まだ言ってないことがあるんですよね?」って、とにかくその場ですべてをクリアにして決定するんです。
彼女が来てから、1週間でパワポはほとんど使うことなく、膨大な意思決定をしていくんです。それを体験したときに「これだ!」と思いましたね。

どんなに広い会場でもオーディエンスとのアイコンタクトをする

――大きな会場でのプレゼンでは、パワポなしでやるのはなかなか大変だと思いますが。
そうですね。その代わり私はそういう会場に行くと、文字は28ポイントくらい大きくしてキーワードだけ、あるいは写真とキーワードだけで、あとは話を中心にするように気をつけています。
あとは会場を左後方からZ字型に見渡すよう心がけます。このZ字型に目線を動かしていけば、後ろのほうの席の人でも目が合う人はいたりするので、できるだけそうやってアイコンタクトをするように心がけています。
そうすると自分がちゃんと多くの人とコミュニケーションできていると自信がもてるんです。オーディエンスには「この人、何か焦っているんじゃない?」とか「緊張しているんじゃない?」というのがすぐに見透かされるんです。自分が自信をもっているとオーディエンスも、「この人、信頼できそうな気がする」と思ってもらえますからね。
――たとえばTEDはプレゼンの見本のように言われますが、ビジネスでのプレゼンとは違うのでしょうか。
TEDは昔のサイレント映画みたいなものだと思います。弁士が映像に合わせて「ババンバンバン!そのときこんなことがありまして…」って、ストーリーで引き込む方法。そういう意味では情報を共有するプレゼンの目的としてはすごいなと思いますね。
TEDのプレゼンでも、もちろん効果的にツールを使っている人もいますが、スティーブ・ジョブズのように、有名なプレゼンテーターほど、身ぶりとトークで勝負していますよね。
人間は忘れるのが当たり前。本当にそのときに伝えたいことを1つか2つにフォーカスしても、明日になったら忘れている。それが当然だと思ってやらないとインパクトのあるプレゼンなんてできませんよ。

照明の調節がプレゼンテーターの存在感を決める

――セミナーの会場を選ぶときに重視するポイントはありますか。
年に一度お客さんとオフレコで事例を発表するセミナーがあるんですが、そこで安心できる会場だと、結局毎年同じところを使うことが多いですね。
――安心できる、良かったというのはどういうところが基準になりますか。
当たり前のことができるところですね。空調の調節がやりやすいかとか。ちょっと広いところだと照明のオンオフが前、後、3列×3列くらいでできるかとか、明るさの調整がレバーで無制限にできるとか。あとマイクがハウリングしないことも確認します。
僕としては当たり前なんですが、意外と探すのが難しい。結構いろいろな会場を見ても全部パーフェクトな会場ってなかなかない。
――照明の微調整ができるというのは、結構重要なんですね。
パワポでスクリーンに映すときは、主催の方が必ず照明を消すんですよね。でも照明を消してプレゼンテーターが見えないと、もうコミュニケーションができない。スクリーンの前だけ消したときに、遠くにいる人にも見やすいくらいの明るさが必要になります。でも、プレゼンテーターが暗闇の中に入らないようにするのが、結構難しい。だからスクリーンとプレゼンテーターの両方がちゃんと見えるようにすることが、すごく大事なんです。
――主役はあくまでも話す人ということですね。
オーディエンスの人から見ると声がどこから聞こえているのかわからないと、コミュニケーションにならない。なので、ちゃんとオーディエンスとアイコンタクトができて、そこに存在しているとわかって、かつスクリーンがちゃんと見える必要があるんです。いい会場はスクリーンのところだけピンポイントで消せる設定があったりします。それはすごく重視しています。

オーディエンス同士でのコミュニケーションを演出する

――セミナーの参加者を退屈させないために工夫していることはありますか。
人数が多くて一方通行になりそうなときは、どこかで一度止めて、隣同士の数人で強引にグループをつくってもらって、「ちょっと自由にお話しください」ってお願いすることはあります。
そうすると最初はぎこちなかったりしますが、「ああ言っていたけど、よくわからなかったよね」とか、「ここはこうだったね」とか楽しそうに話してくれるようになります。一度でもそういう場をつくると、熱心に話していたり、私をガン見している人がいたりするんです。それから話しかけると、いろいろ質問してきて、2wayが成立する。単にテクニック的なことですけど、ワークショップで手を動かすのに近くて、記憶にも残りやすくなると思います。

――ありがとうございました。

TED*
Technology Entertainment Designの略。毎年大規模な世界的講演会を開催(主催)している非営利団体。講演者には著名な人物も多い。

文・鈴木涼太
写真・佐坂和也

太田 信之(おおた のぶゆき)バレオコンマネジメントコンサルティング/アジアパシフィック
国際基督教大学にて社会科学専修。同大学院行政学研究科にて行政学修士取得。英ロンドンスクールオブエコノミクス産業関係学科博士課程にて、組織論・社会心理学を研究。株主、経営者から中間管理職、生産ラインまで、組織内の幅広い階層で「フューチャープルーフ(未来への証明)」をテーマに顧客との共創型コンをサルティングを行う。最近ではテクノロジーと経営、イノベーションと新規事業、グローバル化とオペレーションモデル人財、プロセス(バリューチェーン)変革などのテーマが増えてきている。著書に『外資系コンサルが実践している 英語ファシリテーションの技術』(日本経済新聞出版社)がある。

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