マグロ漁船式!会議はゲームだ!【スマート会議術第21回】

マグロ漁船式!会議はゲームだ!【スマート会議術第21回】株式会社ネクストスタンダード 代表取締役社長 齊藤 正明氏

大学卒業後、バイオ系企業に就職。入社2年目に上司から突然「漁船に乗ってこい」と言われ、マグロ漁船に乗せられる。そこは、一度陸を離れると40~50日は戻らず、コンビニにも病院にも行けない、ケータイも通じない職場だった。

「マグロ船なんて、借金がある人が乗せられるところだろ~。人生終わったぁ!」と思ったと言う。しかし、齊藤正明氏は、過酷な環境で、生き生きと働く漁師たちの姿を見て衝撃を受けた。

そんなマグロ漁船で得た経験を基に、ネクストスタンダードを設立し、研究者から人材コンサルタントに転身。その漁師姿からは想像のつかない理路整然とした弁舌で、数多くの経営者たちを頷かせていく。

そんな齊藤氏に、マグロ漁船で学んだという、組織でのコミュニケーションのあり方や、ファシリテーターの役割について語ってもらった。

目次

アイデアの原石を集めるマグロ漁船会議

――マグロ漁船内ではどんな会議をするのですか?
たとえば、船で大分県を出発してから漁場に着くまでは12日間かかります。その間はみんなで漁具の整備をするんです。円卓を囲むようにあぐらをかいて何千本もある釣り針をピカピカに磨きながら。で、「そろそろ新品の備品を買ったほうがいいんじゃねぇか」とか、「漁のやり方を変えたほうがいいんじゃねぇか」とか。まさに会議のように話し合っています。
漁船で働く彼らはマグロがいっぱい獲れれば、給料にも反映されるので、「どうしたら楽しく働きながらいっぱい獲れるだろうか」、ということを会議も含め常に話し合う。
「あのキャバクラで一番人気の女の子はどうしたら落とせるか」といった仕事とまったく関係ない話もよくしています。そこでは女の子が絶対落ちないと思うような意見も好き勝手に出てくる。「ガリガリ君を1年分送ってみたら?」「ベンツを買ってやったらどうだ」とか、つまらない意見でも、何でもいいんですよね。そうすると、誰もが意見を発言することができて、多角的なアイデアが出てきますし、全員の参加意識が高められるんです。
――気軽に発言できる雰囲気が重要だと。
会社の会議でありがちなのが、「それ予算のこと考えているのか?」「それ数年前にやってダメだったんだよ」と言い、意見を撃ち落としてしまうことです。たとえ、その発言が論理的に正しくても、撃ち落とすことはやってはいけない。
最初の意見は、いい意味で踏み石やアイデアの原石みたいなものです。たくさん出せば、「あっ、これとこれを組み合わせればいいんじゃないか!」と思いつき、さらに新しい案が生まれる。上司が「まだまだ仕事のことわかっていないな」と言うと、誰も手を挙げなくなるんです。ましてや「頭使ってんのか、バカ!」といった人格否定は論外です。

会議のほとんどはムダ!? 30分という短さがカギを握る

――ムダに時間の長い会議がある実情を、どう見られていますか。
私は現場クラスの会議なら、早く具体的に何かを決めるほうが絶対に良いと思っています。具体的には、会議の長さは1回最大30分、頻度は1週間に1回が標準です。PDCAのサイクルを小さく高速に繰り返すのが、結果的に一番成果が出てくると思います。
――大きなことを決めるために会議を10回やるより、小さなことを決めて10回トライしたほうがいいと。
そうですね。大きいことを決めようとしても、決まらないし、何を決めているのかもわからなくなる。店舗や営業部のように、日々の売上が出るような場合なら、情報も古くなってしまいます。
マグロ船の会議では、決めたことが上手くいくかどうかはあまり詰めないで、コストも手間もかからないようなものであれば、「じゃやってみるか!」という気楽さがありました。ダメだったら改善する、良かったら続ける。というサイクルを早くしっかりと回していくことが大切だと思います。

ゴールを隠した会議はムダ

――時間だけが過ぎて何も決まらずに終わってしまう、という会議も多いと思います。その原因は何だと思いますか。
定例会議などでよくあるのが、「今日何か話ある?」って順番に聞いていくような会議。終了の条件がはっきりしていないので、議論はできても結論が出せません。そのため、長い時間話したけれど何も決まっていないということが起きるのです。
以前、ある会社で研修をしていたとき、そこでは定例会議をしていました。社員に「定例会議にどのようなイメージがありますか」と聞くと、7割の人が「時間のムダ」と回答したんです。上司の方は自分が批判されたと思って、怒った顔をしていましたけど(笑)。本来は会議が始まる前に「今日の30分の会議で決めたいのはこれだよ」と示さなければいけない。終了の条件をちゃんと決めておかないと、結論が出ないので、本当にムダなんですよ。
――その条件を明確にしていないせいで、なんとなく集まっている状態になっていると。
サッカーであれば、ゴールが見えていて、みんなゴールを目指してプレーしますよね。でもたいていの会議は、ゴールが隠されている。ゴールが見えない状態で、ただ「球を蹴れ」と言われて、2時間話しただけで終了になってしまうんです。
――なぜ、ゴールが隠されてしまうのですか。
責任逃れです。もし決定事項に成果が出なかったとき、「いや、でもあれはみんなが同意したから」と言いたいんです。どこに責任の所在があるのかわからなくしてしまう。会議をして全員で決めてはいますが、会議を始めた部長まで自分の責任を逃れようとしてしまうんです。だから、最初にゴールを決めたがらないんです。
マグロ船の場合、結局最後に判断するのは船長なので、多数決で決まった結論も全部無視しちゃうときがあるんですよ。最後の意思決定は独断ですが、その代わり責任をとるのは船長なんです。
――誰に責任があるのか決めておくことが大切だと。
そうですね。会議でいうと意思決定者とファシリテーターが別というイメージです。ファシリテーターはみんなの意見を集めて、それをリーダーである船長に渡すんです。

ファシリテーターの仕事は、みんなが納得できる結論に辿り着かせること

――会議を成功させるために、ファシリテーターがやるべきことは?
必ず何かを決めることと、みんなが満足できること。この2つの要素を満たしてあげるのが、ファシリテーターの役割です。
――みんなが満足できる、というのは難しいのでは?
「みんなの満足」というと、得てして「自分の意見が通った」ことの満足と捉えられがちなのですが、そういうことではありません。誰も考えていなかった新しいアイデアが生まれるというのが、一番みんなが感動して、納得できると思うんです。それは意思決定でも、企画立案でも同様です。
「あっ、それ考えてもみなかった。確かにこの案とこの案を組み合わせると、そんな企画ができるよね」って、たくさん出た意見を拾い、第三のアイデアに持っていく。もちろん、それが必ずできるかは別で、理想ではあると思っています。ですが、その誰もが考えてなかった納得できるアイデアに辿り着かせることがファシリテーターの仕事なんです。
そのために、ファシリテーターは、会議前に設計図をつくり、会議になったら、それがちゃんと実現できるようにする。「これを決めたら会議は終わりだよ」という終了条件も会議前に準備することですね。そして、終わった後に、残した記録を次の会議に生かせるようにしておく。ファシリテーターの訓練が足りないと、最大公約数を集めただけの可もなく不可もないアイデアで収まってしまいます。

会議はモンスターを倒すゲームのように

――ファシリテーターとしては、会議の準備が非常に重要になりますね。
そうですね。基本はゲームと一緒です。ゴールが決まっていて、このモンスターを倒すと何点もらえるとか、経験値がいくつもらえるとか、全部数字で見えるようになっていますよね。
数字も何もわからない状態で「仕事をやれ」と言われても、面白くも何ともない。成果が上がっていくのが目に見えると、仕事自体のやりがいや、面白さを感じてもらえるようになります。
会議がつまらない、ムダって思うなら、会議もゲームと思わせるほうが絶対にいいと思うんです。
――ゲームと思わせるためにゴールを決め、プロセスを1つずつクリアにし、その過程を可視化することが必要だと?
企業の年配の方には「仕事をゲームと思うなんてふざけてる」と思う人もいます。でも、ゲームと仕事、どっちを楽しく一生懸命やっているかというと、ゲームなんですよ(笑)。
むしろ経営者が、「お前、そんな仕事のやり方だったらゲームじゃ勝てねぇぞ!」と言ってあげることが正しいと思うんですよね。

文・鈴木涼太
写真・佐坂和也

齊藤 正明(さいとう まさあき)株式会社ネクストスタンダード
2000年、北里大学水産学部卒業。バイオ系企業の研究部門に配属され、マグロ船に乗ったのを機に漁師たちの姿に感銘を受ける。2007年に退職し、人材育成の研修を行うネクストスタンダードを設立。2010年、著書 『会社人生で必要な知恵はすべてマグロ船で学んだ』が、「ビジネス書大賞 2010」で7位を受賞。2011年TSUTAYAが主催する『第2回講師オーディション』でグランプリを受賞。年200回以上の講演をこなす。主な著書に『マグロ船仕事術―日本一のマグロ船から学んだ!マネジメントとリーダーシップの極意』(ダイヤモンド社)、『仕事は流されればうまくいく』(主婦の友社)、 『マグロ船で学んだ「ダメ」な自分の活かし方』(学研パブリッシング)、『自己啓発は私を啓発しない』(マイナビ新書)、『そうか!「会議」 はこうすればよかったんだ』(マイナビ新書)、『海の男のストレスマネジメント』(角川フォレスタ)など多数。

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