会議変革から始めるワークスタイル変革【スマート会議術第38回】

会議変革から始めるワークスタイル変革【スマート会議術第38回】株式会社内田洋行 橋本 雅司 氏

企業が生き残るためには、より生産性が高い組織の実現が必須だ。オフィス環境構築として知られる内田洋行は、売り上げの約60%をICT(情報通信技術)関連が占めている。成長分野と位置付けられているのは、知的生産性向上を目指す企業のために、コミュニケーションの活性化、情報や知識の共有、会議のICTの高度活用といった「働き方変革」ソリューションだ。

そして、「チェンジ・ワーキング®」をキャッチフレーズに、「働き方」と「働く場」の変革を支援するさまざまな商品やサービスを提供している。

「働き方変革」を実現するためにはどんなビジョンを描き、どんな「働く場」を構築すべきなのか。内田洋行のICTプロダクト企画部プロダクト2課課長の橋本雅司氏にお話を伺った。

目次

会議室の「カラ予約」をなくしてタイムリーに会議を行う

――会議にありがちな問題点と、その解決策についてお教えください。
会議には「会議前」「会議中」「会議後」という3つのフェーズがあります。まず、「会議前」の段階でよく起こるのは、会議室の予約やメンバーのスケジュール調整に時間がかかるという問題です。空いている会議室を探すのに時間がかかり、結果的には「会議室の空きがないなら仕方ない、打ち合わせは来週に延ばそう」という本末転倒なことになる。しかし、実際には予約した人がそのまま放置して使用していないという、「カラ予約」の状態になっていることが少なくないのです。使われていなくても予約表が埋まっていて、使いたい人が使えないという状況です。弊社の調査では、この「カラ予約」の状況が多くの企業で25%くらい発生していると考えています。
――会議室が足りない、というより、そもそも効率的に使われていないのですね。
そうなんです。たとえば、そういったムダな現状を解決する手段として、弊社では2008年から「会議室運用管理システム」を提供しています。スケジューラーで予約するところまでは、どの企業も普通にやられていますが、「会議室運用管理システム」は、会議室の入り口にタブレット端末を置いているのが特徴です。予約した時間が来ると、タブレット端末に予約内容と「入室ボタン」が表示がされます。そして、会議に参加する人が会議室に来て「入室ボタン」を押さないと、自動的にその予約がキャンセルされるのです。たとえば15時開始の予約を入れたら、15時10分までにボタンを押して会議室に入らないと、自動的にキャンセルされます。予約表から、その予約データが削除されるので、その時点で、社内の人全員が、その時間が空いていることがわかるようになります。空いていれば、他の人が活用するという、そういった仕組みなんです。
また、会議終了前の5分前にアラームを鳴らすこともできます。会議室の入り口の端末に接続された室内のスピーカーから会議終了5分前に会議室内に音楽を流すようにできるんです。
こういった仕組みを使うことによって、会議開始時間までに部屋前の端末のボタンを押すことで、開始時間の遅れを防げます。また、終了前にアラームを鳴らすことによって、会議のまとめを促し、しっかりと時間通りに終わらせられます。
――前週に入れられた予約が急にキャンセルされても、そのまま放置されているときはどうすればいいのですか。
弊社には2つのタイプの「会議室運用管理システム」があって、1つは、グループウェアと連動するもの。もう1つは独自にサーバーを設けるもの。グループウェア連携タイプは、グループウェアの機能に依存するので、機能のカスタマイズはできないですが、独自サーバータイプは、リマインダーメールを事前に出せるようにカスタマイズも可能です。予約している人に通知をして「本当に使いますか? 使わないんだったらキャンセルですよ」と、2段階にすることができます。そういうことで「カラ予約」を防いで、他の人がタイムリーに使えるようにします。
会議室を効率的に利用するための「会議室運用管理システムSmartRooms」

「会議中」の効率化のカギを握るマルチスクリーン

――「会議中」の課題はどんなことがありますか。
「会議中」にありがちな問題点としては、資料が配布されてはじめて議題を知ったり、アジェンダを把握してなくて進行についていけなかったりすることがあります。事前の周知と共に、会議中も全員にその会議の目的やゴールを意識させなければいけません。そのためにマルチスクリーンの環境を用意しておくと便利ですね。マルチスクリーンとは、2カ所以上の複数のスクリーンやディスプレイを使用する環境のことです。複数のディスプレイがあれば、議題についての説明資料だけでなく、それとは別に当日の議題を常に表示しておくことができるので、会議の目的やゴールを意識しやすくなります。また、議事録をリアルタイムに表示しながら会議を進めれば、参加者が議論の流れを把握しやすくなります。マルチスクリーンをより活用するためには、ワイヤレス投影システムを利用すると、自在に議題や会議資料、議事録を複数のスクリーンに自由自在に表示できるので便利です。
ワイヤレス投影システムを使って表示されたマルチスクリーン
ボタンをワンクリックして無線投影できるワイヤレス投影システム「ClickShare」
――「会議後」の課題はどんなことがありますか。
「会議後」によくある問題は、会議が終わったあと、やりっぱなしで終わってしまうこと。一番大事なことは会議で決めたことを、メンバーがすぐに実行に移すことですよね。会議が終わって議事録を待っていると、次週の会議直前まで共有されないことってよくありませんか。あるいは数日後でも、会議で決めたことを忘れているとか。
とりあえず手書きでもいいので、みんなすぐに議事録が欲しいんです。終わったらすぐ、メールで自分のパソコンに送られていれば、次に何をやればいいのかわかるので、会議の目的は達成しますよね。
弊社では議事録を素早く作って共有する道具として、電子ボードを活用しています。いま、ここで使っているのは、カナダのSMART Technologiesというメーカーの「SMART Board」という電子ボードです。この電子ボードの特長は、非常に直感的に操作できるので、ICTにあまり詳しくない人でも使えるというところです。普段、会議をしているときも、これをホワイトボード代わりに使います。会議の板書を手書きで書いて、それをみんなが見ながらデータとして編集し、PDFやパワーポイントに書き出してメールやサーバーを通じて共有します。会議を終了した時点で全員に議事録を配信できるので、次のアクションが早くできます。
直感的に使える電子ボード 「SMART Board」

会議室をオープンにすることで効率化を図る

――会議を活発にするための会議室の作り方はありますか。
内田洋行で導入している会議室の特徴は、基本的に間仕切りがなく、マルチスクリーン、マルチプロジェクターを利用して、大型のホワイトボードや電子ボードをたくさん用意しているという点です。
弊社では、営業がお客様のところに行く時間がない理由の1つに会議が長いという課題がありました。その解決策の1つとして間仕切りをなくし、中に閉じこもる機会を減らしました。オープンで、すぐにミーティングができる環境を作ることにしたんです。わざわざ会議室に行くミーティングではなくて、自席の横で、ちょっとした打ち合わせをする頻度を高めて、長時間の会議をなくす。間仕切りがないので、どこで誰が何の打ち合わせをしているかを可視化する。誰が何をやっているのかを共有できるというメリットがあります。
打ち合わせをしているときに、「この情報はあいつが持っている」とわかったら、簡単に呼び込んで、このミーティングコーナーに入れることもできます。こういった間仕切りのないオープンな環境を作ることが、会議やコミュニケーションの活性化につながると考えています。
ワイヤレス投影もこういった環境にはすごく有効です。パソコンを持って来ればすぐに映せますし、端っこにいても、すぐに映せます。発表者の交代やケーブルのつなぎ替えで発生するムダな時間を減らせます。
――役員会議や戦略会議など、情報がオープンになると困る会議もありますが、その場合は? 
もちろん、そういう機密性の高い会議の場合は、天井まで間仕切られた会議室も用意しています。特に最近は、お客様も音漏れに関して気にされるケースが増えていますね。防音や遮音だけでなく、吸音パネルを部屋の内側に設置して、残響音を減らすという取り組みも増えています。吸音パネルを取り付けることで、小さな声でも聞こえやすく、外に音漏れしないようにする仕組みです。銀行の相談窓口など、オープンスペースでのプライバシー確保やセキュリティが求められるケースで、そういった取り組みをしている企業さんも増えてきていますね。
オープンでありながら吸音パネルで音漏れを防ぐ打ち合わせルーム

固定席から業務にあわせて自ら働く場や席を選ぶワークスタイルへ

――業種や会社の規模でオフィス環境の取り組みに違いはありますか。
業種によって大きな違いはないかもしれません。ただ、いま2020年に向けて首都圏では再開発や大規模なオフィスビルの竣工が控えており、大企業がオフィス移転をする機会が増えています。大企業がオフィス移転をすると、その空いたビルにまた、別の企業が入ることが増える。オフィス移転のタイミングで会議の仕方を見直したいという企業が、業種や規模に関わらず非常に多いですね。
――総体的に見られる大きな流れはありますか。
たとえばIT系の企業であれば、数年前から、ソフトウェアの開発のプロセスが、ウォーターフォール型から、アジャイル型にシフトしています。アジャイル型は、ウォーターフォール型のように工程表通りに1ターン終わったらミーティングして、レビューするという流れにならない。作業して、途中で試作をレビューして、と1日の中でも何回もレビューをするようなケースも増えています。そういったお客様は、執務席の近くにミーティングコーナーを作って、作業とレビューミーティングが、すぐにできるようなレイアウトに変えてきているようなところもあります。
いわゆる島型レイアウトでデスクを並べた固定席のオフィスではなく、フレキシブルにレイアウトや座席位置を変える運用のオフィスも増えていますね。業務やミーティングの人数など用途に合わせて、簡単にレイアウトを変えたり、執務スペースのすぐ横でミーティングができるようにするためです。このようなオフィスでは、いつでも簡単に移動できるように、テーブルやディスプレイスタンドも全部キャスターがついているものが望ましいですね。

伝達型会議を減らし、検討型会議を増やす

――1980年代に「ニューオフィス推進運動」という通産省(現・経産省)主導の政策がありましたが、現在の「働き方変革」との違いは何なのですか。
いわゆるニューオフィスブームですね。当時はバブル時代ということもあって、形から入っていたきらいもあったと思います。現在のようなITインフラやツールがない中で、フリーアドレスオフィスやテレオフィス、リゾートオフィスなどにトライしていました。しかし、ITインフラなどが十分ではなかったために、なかなか理想通りの働き方はできなかったかもしれませんね。
――その頃、すでにフリーアドレスという考え方はあったのですね。
そうですね。私が内田洋行に入社した頃はまさにその頃でした。私が入ったときのオフィスはフリーアドレスだったんです。ただ、フリーアドレスと言っても、スペースの圧縮のためという意図が強かったですね。たとえば営業が100人いたら、常時同時に100人が座ることはないだろうということで、席を70席ぐらいしか用意しないで、空いていたら使うという考え方です。
現在のフリーアドレスは、業務に合わせて自分の働く場所を選んで仕事をしていいという発想です。用途に応じていろいろなスペースが用意されているんです。
そういう意味で、内田洋行では「フリーアドレス」と言わずに「アクティブ・コモンズ」という言葉を使っています。自席を固定されずに自分のしたいところで仕事をする。個人が集中して仕事をしたいときもあれば、メンバーを集めてミーティングをしたいときもあるし、集中して資料を作りたいときもある。そういう1日の中の仕事の流れに応じて、選択して席を選べるレイアウトになっています。席数自体は、人数分ちゃんとあるんです。
アクティブ・コモンズのオフィス。
固定席が無いため、各自の荷物や重要書類を収納するロッカーが設置されている。
――まさにオフィス内ノマドですね。
そうですね。会議も同様です。会議の中身も、伝達ミーティングで時間を費やすのはもったいない。そういったことはわざわざ会議室を予約しなくても、ショートミーティングの形で終わらせればいい。会議は伝達型よりも、もっと戦略を立てたり、お客様への提案内容を検討したりという検討型に集約していくべきです。
伝達型も検討型も同じような会議の運用をしていては、ムダは減りません。目的に応じて、いろいろな会議ツールを使ったり、仕組みを変えたりすることが重要です。弊社はその変革によって、会議全体の時間は10%削減できました。一方で、新しいことを生み出すための検討会議に割いた時間は17%増えているんです。

文・鈴木涼太
写真・向山裕太

橋本 雅司(はしもと まさし)株式会社内田洋行
株式会社内田洋行 ICTリサーチ&デベロップメントディビジョン ICTプロダクト企画部プロダクト2課 課長。内田洋行 オフィスエンジニアリング事業部営業部門を経て、2008年より会議やコミュニケーションの活性化や効率化を支援するICTソリューションの企画業務に携わる。現在は、営業統括部門のスタッフとして、教育・公共・民間のすべてのマーケットに対するICT商品・ソリューションの企画を担当。

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