クリエイティブな会議にはBGMが必要【POP IN MEETING 第1回】

クリエイティブな会議にはBGMが必要【POP IN MEETING 第1回】ミズベリング チーフディレクター 真田 武幸氏(左) プロデューサー 山名 清隆 氏(右)

会議のあり方に独特の理念を持ち、成長を続ける企業を紹介する「POP IN MEETING(会議を覗き見る)」。今回訪問したのは、河川の有効活用を目指す会議やイベントをプロデュースするミズベリング。

水害から市民生活を守るという観点から、国や都道府県ごとに整備され、きびしく管理されていた河川。しかし昨今、水辺の美しい街づくりを目指して規制緩和が進んでいます。日本の水辺の新しい活用の可能性を創造していくプロジェクトとして、国交省とクリエイターらの協力のもと、「ミズベリングプロジェクト」は立ちあがりました。

そんなミズベリングプロジェクトが、水辺の未来を作るために一般の参加者を交えて行っているイベントが、「未来創造型アイディア会議」です。本会議は、地域の水辺で何かを始めたいが、「始め方がわからない」「やっているけど進まない」という団体に、運営企画(セッションプラン)と進行手法(ファシリテーション)のノウハウを、「出張ミズベリング会議」と銘打って提供しているそうです。
気になるその会議手法や、そもそもどのような成り立ちなのか、そして、クリエイティブな会議の行い方について、ミズベリングプロジェクトのプロデューサーである山名清隆氏、チーフディレクターの真田武幸氏の両名に伺いました。

目次

始まりは、川のマイナスイメージ払拭のために行った“会議エンターテインメント”

――そもそも「未来創造型アイディア会議」とは、どのようにして作られたものなのでしょうか?
山名:川は全国各地にある地域の資源や資産なのですが、川の存在を前向きにとらえるという常識はそれまでなかったんです。
川というとどうしても「増水して氾濫する」というマイナスのイメージが強く、「川について話すこと=防災や事故を防ぐ方法を話すこと」になってしまったり、そもそも対話ではなく行政から市民への説明会になってしまったりといった感じでした。
仮に地域の人たちで話し合ったとしても、漁業権を持ってる人と川で遊びたい人と河川管理をしている人といったグループの対立になってしまうなど、本当に後ろ向きだったんですよ。そこでまず、川をポジティブにとらえる空気を作りたいと思い、のびのび話せる場を作ることにしたのがきっかけですね。
――最初の事例はどのようなものだったのでしょうか?
山名:2014年にイベント仕立ての“会議エンターテインメント”としてワークショップ形式で行ったミズベリング東京会議が最初の事例です。ネットで募集した参加者が200人ほど集まり、「隅田川の近くで隅田川の未来について話す」という内容でした。
当初、僕らとしては普通のことをやっていたつもりだったのですが、地元の人や屋形船などの河川業者にとっては衝撃的な出来事だったようですね。「川について前向きに話すなんて生まれて初めてだ」と驚かれました
ミズベリング東京会議の様子。
――ワークショップ形式で行ったとのことですが、参加者は何をしたのですか?
山名:ジャッジなしの、みんなで絵を描く会議をしました。通常、会議というとプレゼンテーションされたものをOKするかどうかという「合意を形成するもの」で、説明と説得に終始しがちなんですけど、僕らは創造的で前向きな創意建設をしようとしているんです
いい意味で「無責任に意見を言おうよ」という姿勢ですね。でも、言うだけでは仕方がないので、絵を描くことで成果が見えるようにしています。
――具体的な手法を教えていただけますか?
山名:普段、ビジネスの会議においてホワイトボードを使うように、参加者が思い描く未来の川の姿を各グループのテーブルで絵に描いていくんです。
その様子を専任のスタッフがリアルタイムに取材して実況中継し、他のテーブルにいるグループが何を考えているのかがわかるようにしているのも特徴ですね。
――実況中継というのはおもしろい試みですね。
山名:個人的にはワークショップって、自分が取り組んでいる最中は楽しいけれど、全グループの発表を聞くのが面倒臭いという問題があると感じていました。そこで、僕らは発表を聞く時間をいかに簡潔にできるかを目指しました。
巨大スクリーンにペンタブレットをつないで、各テーブルで描いている川の未来をスタッフのイラストレーターがまとめて、リアルタイムに1枚の絵にしていくんです。すると、みるみるうちに各テーブルのアイディアがまとめられていきました。
僕ら には、市民一人ひとりが熱意を表に出してもらって、自分たちの力で未来を変えていく「ソーシャルデザイン&オープンイノベーション」という理念があるのですが、それを具現化できるしくみにもなりましたね。
各自が描いた絵をプロのイラストレーターがまとめて 、全員が見られるよう大型モニタに映し出す。

未来を創造する会議のための3つのポイント

――ミズベリングプロジェクトでは、そうした「未来創造型アイディア会議」を各地に提供する試みを行っていますが、どういった方々から問い合わせが来るのでしょうか?
真田:半分は行政の方々で、残りは観光協会や商店街振興組合など街を元気にしようと考えている方々ですね。
――実際にミズベリングプロジェクトのスタッフが現地に行くのでしょうか?
真田:規模や内容にもよりますね。足を運ぶ場合もありますし、アドバイスだけをすることもあります。先日は四国から弊社にいらっしゃって2回ほどレクチャーをしたというケースもあります。
――未来創造型アイディア会議の特徴としてはどういうものが挙げられますか?
真田:ポイントとしては3つあります。
1つ目は、「バックキャスティング」です。普通は現在から未来を予想する「フォアキャスティング」が基本なのですが、理想の未来の側から現在を見る視点がバックキャスティングです。これは、固定した職業上の役割や経験的な観点から離れるための手法です。
フォアキャスティングだと課題解決型の会議しかできませんので、未来が決まってしまいがちです。僕らには「ポジティブに未来を考えることで、推進力が増す」という考えがありますので、より自由度の高いバックキャスティングを採用しています。
山名:2つ目は、「ラピッドイメージシェア」です
これは先ほどご説明した、みんなで絵を描きそれを確認するということです。ポジティブな会議には、各自が参加していること、コミットしていることが大切になってきます。コミットの仕方を作るという意味においても重要ですね。
――3つ目としては?
山名:出会いがアイディアを生む「デアイディア」ですね「アイディアは自分の中にあるんじゃなくて、自分と誰かとのあいだにある」という考え方ですその中間にあるものを引っ張り出すという感覚、人と会うと何かスパークするものがあるかもしれないという期待が重要なんです。
真田:国交省や財団と集まって行っているミズベリングプロジェクトの定例会議においても、出会いを誘発するようにしていて、会議のスケジュールを開示しているんですよ。
僕らは“半オープン”と呼んでいますが、問い合わせをしてくれれば誰でも来ていいよということにしてます。
山名:それと、できるだけ決定権を作らないようにしていますね。「この人が最終的に決める」という上司っているじゃないですか。たとえ会議にその人がいなくても、「あの人はどう思うだろう?」と力が働く人です。「こっちの案にしたいけど、部長はあっちを好みそう」とか。
でも、そういうのはくだらなくて、クリエイティビティがないですよね。その場にいる人たちの高い当事者意識でなされた質の高い議論こそが最大の決定力であり、どんなに偉い人が何を言おうが、そのテーブルで話されたことがトップなんだという考え方です。
普通だと合意になりがちですが、「創意は未来に向かう」という高い次元の意識を失わないようにすることが大切ですね。
そして、地域の中だけでどうするとかではなく、世界の中でどうなのかという視点。「これをCNNが取材しに来るか?」と考えることも重要です。会議はアイディアの畑、プラット“ファーム”であるべきです。
――そうして全国で水辺の未来図が描かれてきた中で、実現に向かって動いているアイディアはありますか?
真田:具体的にプロジェクトを進めるという話は実際にありますし、すでにイベントを立ち上げた人もいます。飛騨高山では青年会議所出身の方が実際に川床を作って、1週間だけお酒を飲めるというイベントを行いました。
飛騨高山で実現した川床の模様。

予定調和をぶった切り、合意よりもアイディアを重視する

――そうした経験などから、クリエイティブな会議を作るにあたってのノウハウがあれば教えていただけますか?
真田:「未来創造型アイディア会議」は、ワークショップを含めて2時間で完結するようにしています。
山名:ブレインストーミングならもっと長くていいんでしょうけど、ワークショップはせいぜい30分から1時間くらいで終わらせることが大事です。
真田:あとは、関係がフラットであることに注力していて、偉い人の挨拶をなくしたり、椅子の並べ方をあえて雑にしたりすることで、上下関係を作らないように意識しています。
ほかにも、司会があえて議事どおりに進めないようにしています。「ミズベリング東京会議」のときは、船から生中継を入れたのですが、ずっと同じことをしていると行き詰まって しまうので、テレビの中継のように「今、隅田川はどうなってますか?」とブレイクを入れるんです。
山名:計画を緻密に立てますが、最終的なアウトプットは無計画的に感じるようにするということも重要ですね。一番怖いのは予定調和ですので。始めは席順で行っていた自己紹介の順番を突然ランダムにするなどして、最初に「この場に予定調和はないんだ」と感じさせるようにしています。
ですから、会議の進行もほとんどアジェンダどおりにやらないですね。どれだけアジェンダを外してアドリブを入れられるかを考えています。
――確かに予定調和な会議は多い気がしますね。
山名:年配者や力を持っている人は持論をしゃべりたがるんですけど、持論は即、やめさせますね。おもしろくやめさせます(笑)。それと、パネルディスカッションだと司会が最後にまとめたがるんですけど、それもなしにしています。「今日はこういうことを学びましたね」とか。
そうなったら、「学ぶ必要なし」とぶった切って終わります。「まとめないんですか?」ってビックリされますけど(笑)。
――会議の雰囲気はどのように作られていますか?
山名:クリエイティブな会議をするには、会議のまえから参加者がワクワクしている状態を作ることが大事ですね。だから、会議室には音楽が流れているほうがいいし、自己紹介は手短なほうがいいです。
会議はシリアスな雰囲気になりがちですので、ある種のポップさを意図的に取り入れるべきです。会議にBGMはぜひ取り入れてほしいですね。自分は必ず小さなスピーカーを持って行って、「このメンバーならこういう曲を流したほうがいいな」と選曲しますその程度のことでも場は和むんですよ
真田:あとは場所を変えてみるということもいいと思います。普通だったらどこかの会議室になりがちですが、船に乗って川を見ながら会議をしてみるとか、人気のカフェを貸し切ってみるとか参加する人たちが「ここいいね!」と思うと、ポジティブな話ができるようになるんですよ
山名:会議は合意よりもアイディアです。「最高だね。みんなで向かっていこう!」という総意 が形成される瞬間の、みんなが一瞬にしてつながって勇気をもらうあの感じ。
会議室に入ったときとは違う状態になって帰っていくのが、最高の会議だと思います。そのためには、ある程度の準備は必要です。会議はある種の知的なゲームなんですけど、知性だけじゃない、本能的に喜びを感じることを大切にしてほしいですね。

〈お知らせ〉
3月3日(金)に会議のノウハウが学べるミズベリング・デアイデアスが開催されます。
http://mizbering.jp/md
興味のある方はぜひご参加ください。

文・写真:坂上春希

会議HACK!編集部
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