筋トレなくして能動的人材は育たない【スマート会議術第49回】

筋トレなくして能動的人材は育たない【スマート会議術第49回】株式会社アクティブラーニング 副社長 得能 絵理子 氏

グローバル社会化、AIやIoTなどITの進歩によって、仕事のあり方が大きく変わろうとしている。昨日の正解が明日には間違いになる。昨日の勝者が明日の敗者にもなる。

経済成長率が停滞し、生産性も低いといわれる日本企業のビジネス慣習は、もはや時代遅れなのか。日本のこれまでの「正解を求める」受動型教育は限界に来ているのか。

世界を席巻する変化の渦の中、アクティブラーニング社は、能動的人材の育成を通じて、さまざまな教育機関や企業の支援を行ってきた。

能動的人材とは、自分で考えて、行動できる人材、既存のやり方を超えるような、新しい解を自分で導き出せるような人材のこと。

はたして能動的人材はどのように育てられるのか。アクティブラーニング社の得能絵理子氏に、いまの日本企業が抱える課題と、能動的人材の育成方法について語ってもらった。

目次

アクティブラーニングとの出会い

――御社の社名でもあるアクティブラーニングについてお教えください。
アクティブラーニングというのは、「能動的人材」がキーワードになっています。いまの日本の教育は、先生が一方的に教えて、正解を暗記していく教育が中心です。つまり「受動的人材」の育成です。一方で、いまはネットで検索すれば正解がすぐ出てくる時代です。だから正解をひたすら覚える教育が、本当に一番いい教育なのかというと、ちょっと違う。
では、どうしたら能動的に自分なりの正解を見つけることができるのか? それを考えたものがアクティブラーニングです。
――得能さんご自身は、どういうきっかけでアクティブラーニングに関わるようになったのですか。
実は学生時代は、教育には興味がなかったんです。全然やるつもりがなくて。一番やりたくない職業が人に教えることだったんです(笑)。
だから、学生のときは営業系やゲーム系など、いろいろな会社でインターンシップをやりました。でも、その中でたまたま、アクティブラーニングという教育の会社に出会って、やってみたらすごく面白いなと思って。自分に合う気がしたので、この会社に入ることに決めました。
――インターン生として具体的にどんなことをされたのですか。
弊社では、インターン生でも必ずプロジェクトを付与されるんです。その中で、経済産業省が進めている新人育成のプロジェクトに携わることになったんです。「学生がやれるようなプロジェクトはないか」というお話をいただいたので、「各界の著名人インタビューをやりませんか」と提案して、やらせていただくことになりました。
このとき、まさに自分がアクティブラーニングを体験して、「能動的に自分で何かをするって、こんなに楽しいんだ」と思ったんです。そういうことを、もっといろいろな会社や教育機関にお伝えしたいなという思いで、この会社でアクティブラーニングを始めたという感じです。

「受動的人材」から「能動的人材」へ

――いま日本は経済成長が停滞していて、「生産性が低い」と言われています。その中で日本の「受動的人材」を育成する教育をどのように考えられますか。
そもそも先生が一方的に教える受動的教育が悪いと思ってはいません。受動教育と能動教育はセットであるべきだと考えています。
たとえば、英語を学習しているときに、単語を何もインプットしていないという状態で、「アクティブラーニングしてください」というのは不可能なんです。受動学習の中で、しっかりインプットをして、それを能動学習として、ちゃんとアウトプットする2段階がないと、そもそも学習が成立しません。
ただ、いままでの日本の教育は、インプットだけにすごく力を注いできたのは事実です。アウトプットの機会が本当に少なかった。そのアウトプットのやり方の質と量を変えませんか、というのがアクティブラーニングの考え方です。なので教育の中では、インプットとアウトプットがセットで必要なものだと思っています。
――アウトプットのやり方はどのように学ぶのですか。
アクティブラーニングは、いままでにないやり方ですが、学校の先生方も意欲的に頑張ってくださっています。そうすると、どうしても、アウトプットさせていくときのテクニックやファシリテーションスキルが問われるんです。
たとえば、「何か質問はありますか?」といきなり問うのはダメ。これまでアウトプットをする環境になかった人たちに、「さあ、何かを言ってごらん」と言っても、答えるのは大変難しい。
会社でやる会議もそうです。突然「話せ」と言われても話せません。その人が話しやすい環境をつくることが重要です。
アウトプットを促すファシリテーションでは、「安心の提示」…アウトプットに対する精神的なハードルをなくす。

どんな意見を言っても、頭ごなしに否定されることはないという雰囲気づくり。

「階段の提示」…アウトプットに対する技術的なハードルをなくす。
難しい質問からではなく、簡単な答えやすい質問から投げかけていく。

「結果への評価」…アウトプットに対する前向きな印象を促す。
アウトプットした内容を褒められ、人に意見を伝えることの楽しさを学習する。

というプロセスを踏んでいきます。
日本の学校のように、そもそも生徒がアウトプットする環境がなかったような場所では、相手の意見を引き出すファシリテーションスキルは非常に問われてくると思います。
もちろん、アウトプットさせると時間がかかります。ですから、アクティブラーニングは、一部が非効率になってしまうところもあるのも事実です。でも、その非効率性を乗り越えてやっていかないと、いつまでも変わらない。いままでの教育や会社の体制と変わらない。それを変えていきたいというのが、アクティブラーニングの流れだと思います。

異文化同士の知的交配の難しさ

――アクティブラーニングでは、「知的交配」を強く提唱されていますが、これはどんな意味を持つのですか。
オープンイノベーションの流れがいろいろなところで起きています。弊社でも、ある大きなメーカーから「コラボレーションの研修をしたい」という依頼を受けたことがあったんです。
「いつもと同じメンバーで考えてもなかなか新しいアイデアは生まれにくい。自分とは違う能力、違うバックグラウンドを持った人たちを巻き込んで、新しいものをつくっていきたいけど、やり方がわからない。だからファシリテーションをしてほしい」と言われました。実際、カルチャーが違う会社の人材に、「さあ、どうぞ知的交配(コラボレーション)してください」と言っても、うまくいきません。
大切なことは、正しいプロセスを踏むことです。まず異なった人材で、コラボレーションをする場合、共通の目的をもつことが大切です。しかし、上から与えられたものではなかなか本気で取り組んでくれません。体験を通した共感の醸成が不可欠なのです。さまざまなファシリテートされた「体験」を通しながら、段階的に共感を醸成し、どの立場からでも見える「北極星」を作り上げることができれば、異なった素材が1つの目的のために交配、昇華を始めるというわけです。
オープンイノベーションの流れで、今後、いろいろな会社が知的交配(コラボレーション)を行っていくと思います。そうすると、影でその交配を進めるファシリテーターの役割がとても重要になっていくと思います。

「能動性がない」と嘆いても、何も変わらない

――会議で若い人たちが自分の意見を主張できないと、どんな弊害が生まれますか。
会議で上司ばかりが話をしていることが多いですよね。特に若手の人たちは、自分の意見を言う機会がなかったりします。日本の場合、言われたことをただこなすことが、自分の業務だと思っている方がちょっと多いかなと思うんです。上司からするとやりやすいし、素晴らしいことだと思うのですが。
ただ、組織力という意味で5年後10年後を見据えると、非常に弱い組織をつくってしまう可能性があります。
誰か1人が意思決定をして、「こうだ」と決めてしまうことに慣れてしまうと、社員の考える力が低下していってしまう。ベルトコンベアに流れてくる決まりきった作業をこなすだけでは、それこそ、ロボットに仕事を奪われてしまいます。
ですから、管理職が行うべきは、自分なりの回答をつくって思考錯誤する体験を部下に与えていくことなんです。
「筋力」 にたとえるとわかりやすいかもしれません。たとえば能動性に関して、よく人事の方からご相談を受けるんです。「うちの新人は能動性がなくて、自分から主体的にやらないんですよ」と。
そのときはいつも、「彼らに『能動性がない』って100回言っても、絶対に能動的にはなりません。まず筋トレをさせてください」って言います。筋トレというのはたとえですが、筋肉がない人に、いきなり『バーベルを持ち上げてください』と言っても難しいですよね。サポートしながらその機会をつくってあげる、練習機会をつくってあげることが重要なんです。
たとえば、「会議の中でメンバーに話を振っていますか? まったく振らないで、突然『誰か意見がある人はいますか?』と言っても、筋力がないので手を挙げられないですよ」という話をしています。
最初は先輩や組織がその機会をつくってあげる。その中で、少しずつできるようになって、「あ、筋肉がついてきたかも」ってなってくる。そこで必要なのが成功体験なんです。筋トレって、きついし辛い。だから、初めはウザいなと思います。そのときに、筋トレをしながらも、「あ、筋トレをしたら、こんないいことがあった」ということを設計してあげるのが重要です。褒めるのもいいと思いますし、意見を取り入れるのもいいでしょう。逆にせっかく意見を出したのに、否定されたら、もう二度と言いたくないと思ってしまいます。
特に、最初は筋力がないので、たいした意見を出せないんです。先輩や上司から見たら浅い。でも、そのときに「浅い!」と言っても意味がない。むしろ、「こういう視点ってすごくいいね」って、ちょっと褒めてあげながら成功体験をつくってあげるんです。
「そうか、こういうことが求められているんだ」と本人が理解し始めると、その筋トレを楽しみ始めます。「もっとやりたい」と思うようになってくると、そのあとは、先輩が何かしてあげなくても、筋肉ができて自分でやりたいと思うので、能動的に動く環境ができる。
なので、組織の中で、この先5年後、10年後ということを見据えるのであれば、単に上意下達ではなく、能動的になれる環境を整備してあげることが、とても重要です。ちょっと時間はかかるかもしれないですが、そういった発話ができる環境づくりが大切だと思います。

インプットの筋トレはみんな十分やっている。必要なのはアウトプットの筋トレ

――筋トレをしたくてもできない環境の人たちが、自力で何かをする方法はありますか。
もちろん筋トレができるのは会社だけではありません。社外で自分で筋トレをすることも十分あり得ると思います。これまでも本を読んだり、誰かに話を聞きに行ったりと、みなさん、勉強は結構やっていると思うんです。でもそれはインプットだけで、アウトプットではないんです。インプットをする筋力はすでに持っているという人が多いので、アウトプットをする筋力をぜひ養っていただきたいと思います。
たとえば、普段の会話の中でも、Aさんが何かを言って、それに対して「そうだね」と言うだけではなく、「私はそれに対してこういう視点で面白いと思った」ということを伝える。「僕はこういうふうに考えるんだよ。なぜなら…」と反論をあえてしてみるのもいいかもしれません。普段の会話から、自分の意見をちゃんとアウトプットする意識をすることをおすすめします。

「受動タスク」+「能動タスク」で生まれる改革

――本質的に受動的な仕事もあると思いますが、すべての仕事は能動的であるべきですか。
私の会社では、仕事には「受動タスク」と「能動タスク」があるという分類をしています。受動タスクはやらなきゃいけない、必須の作業。それをやることによってお金をもらっている作業です。それに対して、能動タスクは改善したり、改革したりする作業。やらなくても死なない、未来のための業務という考え方です。
受動タスクだけをやっていくと問題が起こります。受動タスクは一般的に、肥大化するという特徴を持っています。最初はスキルがなかったところから、スキルが上がっていくので、頼まれる仕事も増えてくるし、売上げが上がると受注量も増えていく。だから、絶対的に肥大化してしまうんです。肥大化すると、これまでは自分の管理の下、タスクをこなしてきたのに、逆にタスクに支配されて歯車になっていく。当然面白みは減っていきます。
それを避けるためには、受動タスクをやりながら、定期的に能動タスクを入れる必要があります。「いまやっている業務をどうしたらもっとより良くできるんだろう」と考えて、やり方を改善していくことで、少しずつ受動タスクを減らしていく。
そして、その能動タスクを繰り返すことによって、「改革」と言われるような、抜本的な対策さえも導いていけると言われています。改革は当然ですが、パッと思いついて、ガッとやるような軽いものではありません。これまでの蓄積があって、その中で見えてきたものを使って、「あ、これだったら、いま抜本的に仕組みごと変えられるのでは?」と答えが見つかるもの。ゼロからできるものではありません。
自分がその仕事を楽しむためにも、受動タスクに対して、どう能動的に改革や改善をしていくか、それが大事だと思います。

文・鈴木涼太
写真・佐坂和也

得能 絵理子(とくのう えりこ)株式会社アクティブラーニング
早稲田大学卒業。株式会社アクティブラーニング副社長。キャリア育成、企業改革、地方自治体改革等のプロジェクト等に従事。学生時より、経産省のプロジェクトで学生リーダーとなり、坂本龍一氏等、各界の著名人にインタビューを敢行。卒業後、(株)アクティブラーニングに入社。その高いコミュニケーション力がかわれ、入社後すぐに、学校、企業などでの研修講師を開始。日経新聞社主催セミナーや、日経BP社ビズカレッジPREMIUMで講師を務める。柔らかいファシリテーションスタイルは、企業研修、学校教育でも高い評価を得ている。

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