プレゼンの先には、叶えたい世界観がある【スマート会議術第97回】

プレゼンの先には、叶えたい世界観がある【スマート会議術第97回】株式会社morich代表取締役社長 森本千賀子氏

転職エージェント業を核に採用から組織・人事まで多様なソリューションマッチングを推進する森本千賀子氏。

そんな森本氏は昨年、一般社団法人プレゼンテーション協会のオフィシャルパートナーに就任した。

働き方が多様化する現代社会。明確な正解が存在しないと言われる昨今、キャリアデザインのプロである森本氏は、なぜプレゼンテーション協会に参画したのか。プレゼンを通して何を伝えていこうとしているのか。働き方改革が叫ばれる中、プレゼンの意義について語ってもらった。

目次

書道教室からプレゼンテーション協会へ

――プレゼンテーション協会にパートナーとして参加された経緯をお教えください。
私の友人が、書家でもあるプレゼンテーション協会・代表理事の前田鎌利さんのファンだったんです。ちょうど私が2年前に独立しようと思ったときに、友人知人が“独立記念パーティ”を開いてくれることになり、そこに書家の先生に揮毫していただこうと思ったのです。友人が鎌利さんのことを教えてくれて、そこで鎌利さんの書道教室に伺わせていただきました。
「とりあえず今日の書道教室を見ていってください」と言われて見学させていただきました。見ている中で、書への想いや空気感を感じ入りこの先生しかいない!!と確信してお願いさせていただきました。
プレゼンターとしての鎌利さんは本も読んでいて知っていたのですが、プレゼンについてもっと本格的に学びたいと思って、講演に呼んでいただいたのが第二段階ですね。そこから考え方やフィロソフィーに共感して追っかけみたいな感じになりました(笑)。
そんなお付き合いをさせていただくうちに、今回プレゼンテーション協会を立ち上げるにあたって、お手伝いしてくれないかとお話をいただき、参加することになりました。
――プレゼンテーション協会の活動にはどんな課題をもって参加される方が多いですか。
リーダーシップを学びたいという方や、ビジネススキルを上げたいという方が多いですね。リーダーや管理職の立場になるにあたって、どんな心構えやマインドセットが必要か、どういうスキルが必要か。そんなことを啓蒙してほしいという話をよくいただきます。
キャリア形成の選択肢が非常に増えている中、どういうキャリアを築いていけばいいのか、世の中はどういう人を求めているのかなどを伝えてほしいと言われることが多いです。

急速に拡大する転職市場

――働き方改革が叫ばれている近年、大きく変わってきている動きはありますか。
まず人材マーケット自体が大きく変わりました。人材職業紹介事業は許認可制で、厚労省・労働局の認可を受けて事業をやっていますが、この20年くらいで市場規模は何十倍にもなっています。いま首都圏だけで、毎月約150社、年間2000社超が許認可を受けています。コンビニの開業よりも多いと言われる大きなマーケットになっているんです。
これは転職が当たり前になってきているという証でもあります。本屋さんでも転職コーナーができるほど転職は当たり前になってきている。終身雇用が当たり前で、転職が非常にネガティブに思われていた時代と比べるとずいぶん変わりましたね。日本の当たり前の雇用システムだった三種の神器「終身雇用」「年功序列」「企業内組合」が崩壊しようとしているのだと感じます。
――終身雇用や年功序列が崩れてきた最大の要因は何ですか。
教育環境だったり景気の波だったり、いろいろな要因があると思います。いまは新入社員で入社しても、3分の1の人たちが3年以内に辞めていく世の中になっています。売り手市場になって、安易に就職先を選ぶようになったことも影響していると思います。
また、いまの40代の人たちは就職氷河期と言われた世代なので、本当にやりたかった、入りたかった業界に入れなかった人も多い。いまだったらもう一回挑戦できるんじゃないかという40代が動いているのもあります。
氷河期時代は新卒採用を絞った時期ですから、その世代は大企業でもやはり層が薄いんですよ。そこを補うために中途採用する企業側の事情もあります。つまり、中堅のマネジメントクラスがいま足りなくて、このクラスを中途採用をしてカバーしていこうという動きですね。
――若い人たちは少なくなっているから取り合い、氷河期の人たちもいまは取り合いになっているのですね。
そうです。特に若い人たちが取れないこともあるので、その分を2、3年で辞めちゃう第二新卒の中で補うこともあります。

プレゼンは相手に行動を起こさせるため

――セミナーを受けられる人は、転職を前提にしている人が多いのですか。
キャリアセミナーだと比較的そういう意識のある方が多いですね。もっと自分で成長したい、自分のバリューを上げたいという意欲のある方が、キャリアセミナーにいらっしゃいます。
――面接などで自分の価値を上げるプレゼンが上手な人の傾向はありますか。
面接でのプレゼンは皆さん苦手にされていますね。そもそもプレゼンを学ぶ場がないから仕方ありません。基本的に自分のことを表現する機会もないし、アドバイスを受ける場もあまりないんです。
だから社会人になってから現在に至るまで、同じ速度、同じ温度、同じ濃度で淡々と話されるんです。とにかく長いんですよ。長いし、相手が何を期待しているとか、相手に何を伝えたいのかということを意識しない。とりあえず1から10まで、ずっと同じペースで自己紹介をされる方が非常に多いです。
――できる限りたくさん伝えて理解してもらおうとアピールするからですか。
アピールということさえも、あまり意識されていない気がします。自分がやってきたことをずっと時系列で説明するだけ。だから自己紹介とか自己PRじゃなくて、単に自分の説明なんですよね。
プレゼンには必ず第三者がいます。プレゼンは相手に行動を起こさせるためなのに、自分の言いたいことをずっと言うだけの方が本当に多い。相手が何を期待して、何を求めているのかを意識しながら、しっかり時間配分を見ながらプレゼンできる人は意外と少ないです。
――経験豊富なベテランのほうが上手だったりするのですか。
世代は関係ないですね。意外と人事とかで面接する側の人も、いざ自分が面接される側になるとできないんですよ。
――40代~50代と比べると、いまの20代の人は人前でしゃべるのに慣れている印象もあります。
おそらくいまの20代は意見を述べたり、自分の思いを伝えたりする機会は40~50代と比べると多くなったと思います。あとはプレゼン力が求められる時代背景として、世の中がダイバーシティ(多様)になったということがあると思います。昔は同じ学校、同じクラス、同じクラブで完結していました。でも、いまは違う学校、違う属性、外国人、そういうバックグラウンドが違う人たちと一緒に何かをする機会が増えています。
もちろんビジネスでも、同じ部署の同じ価値観の人たちだけでつくるのではなく、いろいろなバックグラウンドや価値観の人たちと一緒に何か新しいソリューションをつくるような機会がすごく増えている。
昔だったら9時から5時までフルタイムで働く社員しかいなかった。たまに派遣社員やパートの人がいるくらいだった。でも、いまはいろいろな雇用形態、いろいろなバックグラウンドの人が増えた中で、ひとつの目標に向けてやっていかなきゃいけない。そういう価値観が違う中で伝えたいことを伝えなきゃいけない場面が増えた気はしますね。
――一社で単純に同じ価値観でひとつの製品だけをつくっているだけでは生き残れないということでしょうか。
同じことだけを繰り返ししているだけではリスクになる時代ですので、とにかく進化させなきゃいけない。既存事業だけでは生き残っていけない。新しい事業をどんどん生み出していかなきゃいけない。そういう危機感は大きいですね。

何が苦手なのかをちゃんと解明する

――プレゼンの苦手意識を克服するにはどうすればよいのでしょうか。
まず何が苦手なのかをちゃんと解明したほうがいいと思います。資料を作ることが苦手なのか、そもそも人の前で話すのが苦手なのか。人前でも少人数だったらいいのか。全然知らない人ばかりだったらいいのか。知っている人だったらいいのか。その人が苦手と思うシーンがあると思うので、それを解明してあげる。
トレーニングも腹筋を鍛えなきゃいけないのに、的外れの腕立て伏せをしていては上達しません。本当に苦手と思うことは何なのかを突き詰めていって、トラウマを除いてあげる。それはトレーニングをしたら済む話なのか、もっと根本的に解決しなきゃいけないものがあるのかを見極めます。
――苦手なポイントが理屈でわかっても、なかなか殻を破れない人もいると思います。
私がメンバーに話をするときに、「そもそも、何のためのプレゼンだと思う?」といった話をよくします。プレゼンをすることはあくまでも手段であって、その先には何か思いを伝えて、相手の人が動いてくれることによって、叶えたい世界観があるはずなんです。
本来の目的が何かを必ず明らかにする。人前で話すプレゼンが苦手だとすれば、別の方法があるのかないのか考えてみる。相手が動いてくれるためには、もしかしたら“手紙”のほうが効果があるかもしれない。
そもそもの本質が何なのかを明らかにしていく。それをちゃんと意識してもらうだけで変わると思います。
あとプレゼンをする人が当事者になりきれてない。彼らが当事者意識をもって、これをやることの価値をちゃんと実感してもらいます。やることに対してのロイヤルティを感じてもらう。そういう意識までもっていかないと、プレゼンの効果はなかなか現れません。
――指導する上長の責任も大きいですね。
はい。私の場合はいつもそう思ってやっています。基本的に人は誰しも責任を持っているけど、それを果たす環境を与えてあげていなかったとか、気づく環境を与えてあげなかったことが原因だと思っています。最終的には自分で考える力をつけないといけない。ニンジンをぶら下げたら頑張るみたいなことは本末転倒。その人自身が自分でエンジンをつけて回転させるためには、どうしたらいいかというのはよく考えますね。
何のためにこの場所にいるのか、何のためにこの仕事をしているのか。自分で選んだ人生だということに気づいてほしいです。「自分で選んでいる人生なんだから、ちゃんと責任を持って!自分の人生を正解にするのは自分次第」と、いつも私は言っています。
そういうことを意識したり、考えたりする時間をちゃんとつくってあげる。きっかけをつくってあげることは大事だと思っています。
一般社団法人 プレゼンテーション協会
一般社団法人 プレゼンテーション協会は「社内プレゼンの資料作成術」「プレゼン資料のデザイン図鑑」(ダイヤモンド社)などの著者で、年間200社以上に講演・研修を開催する前田鎌利氏が設立し、2019年11月よりビジネスや教育現場でのプレゼンテーションスキルの向上および普及を目的とした団体。ビジネスパーソンをはじめ、ご自身が伝えたいことを相手に伝えるようにするために、多くの参画企業と共に日本のプレゼンテーションを高めるためのスキルの普及・啓発を行います。
HP:https://presen.or.jp/

文・鈴木涼太
写真・佐坂和也

森本 千賀子(もりもと ちかこ)株式会社morich
株式会社morich代表取締役社長。
獨協大学外国語学部英語学科卒業後、1993年現リクルートキャリア入社。ベンチャーから大手上場企業まで多くの経営者との強いリレーションをべ―スに採用、組織課題を全方位にソリューションすることが強み。新人にして全社MVPを皮切りに30数回の受賞を経験。2012年NHK『プロフェッショナル~仕事の流儀~』出演。2017年3月、株式会社morich設立、NPO理事、社外役員・顧問などパラレルキャリアを体現、さらに活動領域を広げる。一般社団法人プレゼンテーション協会オフィシャルパートナー。

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