働き方改革のカギを握るコワーキングスペース【スマート会議術第125回】

働き方改革のカギを握るコワーキングスペース【スマート会議術第125回】株式会社いいオフィス 代表取締役 龍崎コウ

いまコワーキングスペースが熱い。

「いいオフィス」の代表・龍崎コウ氏は、年内に300店舗、最終的には全国に2万店舗、世界に10万店舗の目標を掲げ、コワーキングスペースのフランチャイズに取り組んでいる。

働き方改革が叫ばれるものの、効率化や生産性の向上は遅々として進まず、まだまだ社会全体が改革に向けてシフトしているとは言い難い状況が続いている。しかし、新型コロナウイルスの影響で、私たちは否が応でも変革しなければならない時を迎えている。

その変革のカギを握るのがコワーキングスペースだ。

人との接触を避けるために推奨されたテレワーク。そしてテレワークに伴って在宅勤務によるストレス、マネージメントや自主管理の難しさなど、新たな課題も生まれた。

「いいオフィスは、コワーキングスペースをつくることによってオフィスのあり方をアップデートし、働く場所の流動性を高め、それにより結果として地域活性にも貢献できる。そんなビジネスモデルです」

そう語る龍崎氏。

果たしてコワーキングスペースは今後どんな役割を担い、働き方をどのように変えていこうとしているのか。龍崎氏が考えるwithコロナ時代の働き方改革についてお話を伺った。

目次

コワーキングスペースは家でもオフィスでもないサードプレイス

――シェアオフィス、コワーキングスペース、レンタルスペース、ドロップインと、いろいろな言葉が出てきていますが、それぞれどんな棲み分けになっているのですか。
シェアオフィスはあくまでも、空間を個室に区切って企業さんに貸します。サテライトオフィスの要素があって、自分たちの個室がほしいという形ですね。そして、比較的オープンスペースになっていて、みなさん自由に座って自由に仕事してくださいっていうのがコワーキングスペース。
コワーキングの「コ(Co)」は「共同」を意味するように、みなさんが一緒にやってコミュニティを生んでいきましょうという形です。レンタルスペースはコワーキングスペースとあまり意味は変わらないと思いますが、どちらかというと年配の方にはレンタルスペースと言ったほうがイメージを理解しやすいってことだと思います。WeWork*1さんのおかげでシェアオフィスという言葉が浸透してきて、コワーキングという言葉もこの5~6年で知られてきました。
基本的にいろいろな形があって、まだどれも主流ではないと思います。主流でないからこそ、オープンスペースを利用して仕事をしていくというコワーキングスペースのあり方をアップデートしていかなければなりません。いまはフリーランスの方やノマドワーカーが使うという印象が強いですが、オフィスワーカーなどのホワイトカラーと言われる人たちが家の近くにあるコワーキングスペースを使う形に変えていきたい。そうすると、今までとまったく違った市場ができる。フリーランスの方々だけではなく、大企業の方々も自宅の近くのコワーキングスペースを使う形にもっていきたいと考えています。
「いいオフィス」品川
――コワーキングスペースと契約しても、その場所まで行く時間が通勤と変わらないと面倒臭くなって結局あまり利用しなくなりますよね。
そうですね。たとえばいま浜松町にいて、その後に渋谷に行く用事ができたとき、約束の時間まで1時間空いたとします。その場合、みなさんスターバックスとかで時間をつぶすわけですよね。そういうときに、どこに行っても「いいオフィス」があって、すぐにチェックインして利用できるようにしたい。出張に行っても見知らぬ土地だけど「いいオフィス」がある。海外に行ったときにスターバックスがあるとすごく安心しませんか。とりあえずスターバックスに行けば間違いないかなという安心感です。同様に「いいオフィス」に行けばオフィスワークがすべてできるという環境を整えていくことが大事だと思っています。いろいろな方のいろいろな使い方があると思っているので、それらに対して提案をしていきたいですね。
――コワーキングスペースは働くうえでどんな存在になっていくのでしょうか。
家でもなく、オフィスでもないサードプレイス*2でしょうか。図書館に近いイメージです。図書館に行って勉強をするような形がコワーキンスペースかなと思っています。
ただ、会員さんたちに対してもっと付加価値をつけていけなければならない。同じ場所で働く者同士が仕事を紹介し合ったり、仕事の発注先を用意してあげたり、また逆に仕事を依頼したり。彼らもコワーキンスペースを利用することで、所得が上がっていく仕組みをつくるのが「いいオフィス」の付加価値だと思います。

WeWork*1
米国ニューヨークに本社を置く、コワーキングスペースを提供する企業。29カ国111都市に528カ所以上の拠点を有し、急成長を遂げユニコーンと呼ばれる。ソフトバンクも出資し日本にも上陸したが、現在は赤字経営を改善できずIPOは延期、評価額も78%下落するなど苦境にある。

サードプレイス*2
コミュニティにおいて、自宅や職場とは隔離された、心地のよい第3の居場所を指す。アメリカの社会学者、レイ・オルデンバーグが著書『ザ・グレート・グッド・プレイス』で、市民社会、民主主義、市民参加、ある場所への特別な思いを確立するのに重要だと論じている。サードプレイスの例としては、カフェ、クラブ、公園などが挙げられるが、スターバックスが使ったことで広く知られるようになった。

オフィスはいまの5割ぐらいの広さで十分

――テレワークでは社員同士のコミュニケーションがうまくとれないという声も多いようです。
コミュニケーションがとれていない、とりづらいとなるのは、昔のタバコの一服と同じだと思っています。「喫煙所で話しているとアイデアが生まれるんだよな~」と言っていたのと同じで、じつはそれ以外にコミュニケーションをとる方法はいくらでもあるんじゃないかと思います。
私の父の世代はみんなだいたいタバコを吸っていました。「喫煙所に行けばいいアイデアが浮かぶ」って(笑)。「喫煙所に行くとみんなと話して普通にコミュニケーションが生まれる」ってよく聞きますよね。でもタバコを吸わなくてもコミュニケーションなんかいかようにでもできる。逆に普段からコミュニケーションができている人にしてみれば「喫煙所に行く時間がムダ」となりますよね。
毎週月曜日の11時から1時間ほど顔を合わせて会議をする
いま、「いいオフィス」は完全にテレワークとなっていますが、毎週月曜日に全員が集まる形にしています。月曜日は会議を集中させることが多いですが、残りの週4日に関しては全国の「いいオフィス」で自由に仕事してくださいとなっています。コミュニケーション自体は週1回で十分かなと思っています。
――いつも顔を会わせていることがコミュニケーションをとるための最適解というわけではないのですね。
テレワークが中心になっても週に1回・1時間でも、顔を合わせるだけで違ってくると感じています。ただ、テレワークをやったからといって、すぐにオフィスをなくしましょうという考え方ではありません。
オフィスはいまの5割ぐらいの広さで十分です。残りの5割の部分を削減した経費で、コワーキングスペースを使うとか、自宅のテレワークの設備を重視するとか、そういった部分に使ったほうがいい。ムダなところを全部排除していくとだいたい5割ぐらい、本当はもっと削減すれば3割くらいに落とせるはずなんです。ただ、いきなり無理して全部切ってしまうと大変ですから、私は5割ぐらいでいいと思っています。
ほとんどの会社の営業は、午前中に出社して、午後からみんな営業に行って、席はいつも空いているというパターンですよね。本社で一日中仕事している人たちは本社ですべきだと思っています。そういう人たちをふまえるとだいたい5割ぐらいになるんだろうなって考えています。
いずれにしても、みんなが集まる場所は絶対に必要だと思います。テレワークになって自宅やコワーキングスペースを使うようになっても、拠点となるオフィスは残すべきだと思います。私はいつも「オフィスは絶対に確保してください」って伝えています。

誰もやっていないことだからアドバンテージが得られる

――テレワークは時間と場所の拘束から解放される代わりに、より成果主義になっていくと思いますが、そうなると働き方そのものが大きく変わる可能性がありますよね。
変わらざるを得ないというか、強制的に変わると思います。成果主義になればなるほど、できる人が圧倒的に稼げてしまう。会社や組織をつくらなくても稼げて、会社自体も徐々に必要性がなくなっていくだろう思います。今後は何かをするために会社をつくるのではなくて、何かのプロジェクトをやってみて、うまくいったら法人化されていく。組織ではなくチームになっていき、そのサービスがヒットしたら法人になり組織になっていく。自分が持たないスキルの人同士が集まって、自分たちの得意なものをくっつけてチームができる。そういう流れになっていくのではないでしょうか。
過激に聞こえてしまうかもしれませんが、逆にできない人たちはできない人たちで集まると思います。そういう人たちのためにもオフィスがないといけません。教育をリアルで行い仕事を一人前にしていく。しかし、いまの段階ではできない人たちのために「稼げる人たちはいいけど、できない人はどうなるのか?」と議論をするよりも、時代が変わっていく中で「どうやったらいまよりパフォーマンスを上げていけるか?」という議論をしていくべきだと思います。
たとえば、いまAmazonによって多くの人たちがその便利さを享受しています。でもAmazonのおかげで商売が立ち行かなくなった人たちもいる。そこは時代の先見性とかいろいろな要素があって、変わらざるを得なくなり、結局追いつけなかった人たちも時代に応じて変わっていくしかない。世はスクラップ&ビルドで回っていくものではないでしょうか。
大きな変革の波は10年に一度は必ず来ている。いまはコロナ禍もあって、コワーキングスペースのニーズが高まっていますが、10年後はどうなっているかわかりません。果たしてそんなの必要なの?ということになるかもしれない。だからこそ常に考え続けなければいけない。日本社会はいままで組織ありきで個人に考えさせない仕組みをつくってきた。でも、イノベーションを起こしていかなければならない中、個々が時代に合わせて新しいことを考えていかなきゃいけないと思っています。
300店舗に始まり、1000店舗、10万店舗へとコワーキングスペースをネットワーク化しようという考え方は、まだ世界で誰もやっていないことです。だからこそ、「いいオフィス」はある程度のアドバンテージが得られていくんじゃないかと考えています。ただそれを自分たちで独占しようとはまったく思っていない。みなさんで一緒にやっていきましょうという形でやっています。

「いいオフィスはいいオフィスだ」とブランドの総称になればいい

――コロナ禍の状況で実際にテレワークを体験したものの、うまくいかずに困惑している人たちも結構いると思います。
そうですね。みんな急に強制的にテレワークを始めた状態で、たぶんまだ準備ができていないのだと思います。住宅事情もそうですし、リモート会議の仕方、マネージメントの難しさなど、準備が完全にできていない状態です。今回はいい試験になっていると思いますが、それでも実際にテレワークをしたという企業は全体の23%なんですよね。77%はまだ出社しているのが現状です。全部をテレワークにする必要はないので、テレワークができる部署はテレワークしていけばいいと思います。
そんなに焦って全部をテレワークにする形にしなくてもいいと思っています。2割はコワーキング、3割はテレワークといった感じで、5割ぐらいがオフィスで仕事をすればいいんじゃないでしょうか。そうすれば、都市への一極集中で地価が高くなるのではなく、日本全体の土地がまんべんなく少しずつ値上がりしてくる。その流れの中で、大手企業さんもいろいろなアイデアを生んで、渋谷や丸の内で稼ぎましょうという形だけじゃなくて、自宅にこういうスペースをつくってこういうふうに売っていきましょうという新しいサービスが売れるようになるはずなんです。
私たちは1年ぐらいかけて少しずつテレワークを主流にしていければ、基本的にはテレワークとオフィスの間にコワーキングがあるので、勝手にここをユーザーが通ると思っているんです。そのときのために、ちゃんと市場をちゃんとつくっておこうと。ただ、つくるにしても300店舗以上はないと話にならない。300店舗を越えて初めて、大半の社員さんの自宅の近くになんとなくあるという形が理解されてきます。そうなってきたら大手企業さんも「社員のためにいいよね」と参加してくるだろうと考えています。
「いいオフィス」広島
――「いいオフィス」のブランドを維持・拡張していくために特に意識していることはありますか。
まず営業には、会員さんが「自分たちがそこで一日仕事をして苦じゃないか」「そこで一日仕事をしたいと思えるか」を基準にして営業するよう伝えています。会員さんがそこで仕事をして、「いいオフィスで仕事してくるわ」と自信を持ってみんなに言える場所であることが絶対条件ですね。
また、「いいオフィス」の加盟店になっていただくと、「いいオフィス浜松町 by ~」という形で、加盟店さんの名前(会社名)が入ります。加盟店さんが適当なコワーキングスペースをつくったり運営したりしていると、byの後がその会社名であるのでブランドイメージが落ちるんですよね。だからみなさんは、できる範囲以上の品質を維持するようになっています。
また「いいオフィス」という名称は固有名詞ではなく抽象的にも感じますよね。「あ、いいオフィスだ」「ここもいいオフィスだったなあ」というように、「このいいオフィス(名称)はいいオフィス(GOOD OFFICE)だ」となってくれればと。
いずれは、いいオフィスという抽象的な呼び名は全国のコワーキングスペースが月額2万で使い放題なオフィスネットワークがいいオフィスというサービスの総称になってくればいいと考えています。

文・鈴木涼太
写真・大井成義

龍崎コウ(りゅうざき こう)株式会社いいオフィス
株式会社いいオフィス代表取締役。芝浦工業大学情報工学科卒業後、ガリバーインターナショナルに入社。営業から本社FC管理チームにてSVになる。その経験から健全な経営とは財務からと実感し、独立。2014年、取引先でもあった株式会社LIGに入社。LIGでCFOを務める傍ら、働く場所の流動性、自由度を高めるために副社長として推進した事業の中のひとつであるコワーキングスペースのいいオフィス株式会社を設立。契約ベースでは2020年6月の時点で180店舗。2021年3月までには300店舗に展開する予定。コンビニのようにどこにでもあるコワーキングスペースを世界中に10万店舗を目指す。

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