プレゼンはアート的な表現行為です【スマート会議術第126回】

プレゼンはアート的な表現行為です【スマート会議術第126回】プレゼンテーション研究所所長 奥部諒氏

東京大学大学院でプレゼンについて研究し、プレゼンテーション協会の公認パートナーを務め、プレゼンテーション研究所所長としても活躍する奥部諒氏。

高校時代にYouTubeで見たスティーブ・ジョブズのプレゼンに衝撃を受け、以後プレゼンに関わる道を選ぶ。今年4月からIT企業に勤務する新卒の社会人でありながら、これからもプレゼンターのサポートとプレゼンの啓蒙活動を続けていくという。プレゼンはビジネスパーソンにとって、なぜ重要なのか。

若くして起業家や企業へのプレゼンコーチ、各社イベントの企画からマネージメントまで数多くのサポートをしてきた奥部氏が見たプレゼンの魅力と果たす役割、そしてその課題について語ってもらった。

目次

もともと、どんなきっかけでプレゼンに興味を持たれたのですか。

――もともと、どんなきっかけでプレゼンに興味を持たれたのですか。
プレゼンについて本格的に学び始めたのは大学院からです。高校生ときはプレゼンがそもそもどういうものかよくわかってなかったのですが、たまたまYouTubeでスティーブ・ジョブズのiPodのプレゼンを見たんです。「1000曲をポケットに」で有名なプレゼンを見たときに、英語は全然わからなかったのですが、パフォーマンスがめちゃめちゃカッコいい!と思ったんです(笑)。大きな舞台でこれだけの大勢の人の前でしゃべるなんて、なんてカッコいいんだろうと思ったのがプレゼンに興味を持ったのがきっかけでした。
でも、その後プレゼンやスピーチのコンテストに出たわけでもなく、普通に地元の大学に進学しました。でも大学がつまらなかったんですよね。もともと京都大学を志望していたこともあって、京大に編入しようと思って1年休学したのですが、結局落ちちゃったんです。
そのときに、たまたま京都でお会いした京大の学生と話して、「スティーブ・ジョブズのプレゼンがすごく好きなんです」という話をしたら、TEDxの存在を教えてもらったんですね。京都にアメリカのTEDから公式にライセンスを受けたTEDxKyotoがあるので、興味があればスタッフとしてやってみないかと誘われたんです。
ただ、自宅が神戸だったこともあり、京都は遠かったので、返答に渋っていたら、神戸にも同じ団体があるということを教えてもらいました。そこで、神戸にあるTEDxKobeの代表の方にメールを送り、僕も一緒にやりたいですって話をして入れてもらいました。
――TEDxKobeでは具体的にはどんな活動をしたのですか。
ボランティアですが、社会人や学生の人たちと一緒にイベントをつくったり、スピーカーの方々のプレゼンのお手伝いをさせていただいたりしていました。スライドをつくって、修正し、話す内容を決めて、原稿をブラッシュアップしてということをやっていましたね。実際にリハーサルをしてもらい、もっとこうしたほうがいいですというアドバイスをしたりもしていました。その経験を通じてプレゼンは自分がするだけじゃなくて、プレゼンをする場をつくったり、プレゼンターのお手伝いをしたりするアプローチもあるということを知りました。
――プレゼン資料もつくってあげるのですね。
ベンチャー企業などの若い人だと、ご自身でつくられている方もいると思いますが、大企業などでは、資料作成が得意な人や部署が作成して、実際にプレゼンをする人に一度それを使ってプレゼンをしてもらい、ダメだったら修正を加えるということをやっている場合も多いと思います。TEDやTEDxも同じで、もちろん全部ご自身でつくられる方もいますが、全員が全員デザインが得意だったり、きれいなスライドがつくれたりするわけではない。たぶん自分でできる人のほうが少数派なのではないでしょうか。ですので、プレゼンターに合わせた資料を作成して、一緒にブラッシュアップしていくことをやっています。
――ご自身でプレゼンすることはないのですか。
基本的には僕は裏方なので登壇して話すことはほとんどないですね。僕はあまり人前に立つのが好きではないので(笑)。僕の興味関心は「何か伝えたいことがあるけど、うまく伝えられない」「あの人にわかってほしいんだけど、わかってもらえない」「世の中にとってもいい話だと思うけど、どう表現していいかわからない」「どこでどうやっていいのかわからない」と思っている人たちを手助けすることなんです。僕はこれを「評価の土台に上げる」と表現しています。まずは、どんなアイデアであっても評価に晒される場所まで行かないと、ないのと同じだと思っているので。
人前で話すのが苦手というだけの理由で、せっかくいいものを持っているのに世の中に何もアウトプットされずに、アイデアのままで消滅していくのが、すごくもどかしいし、つまらない。でもそういう人がたくさんいるんです。僕はそういう人たちの手助けがしたいだけなので、僕が人前に立たなくてもできることはあると思っています。

TEDx*
アメリカに本拠地を置きプレゼンイベントを運営する非営利団体TEDから公式にライセンスを受けて行われるプレゼンイベント、コミュニティのこと。TEDxは“Ideas worth spreading”(広める価値のあるアイデア)という理念に賛同し、価値あるアイデアの波及を行うために世界各地で生まれているコミュニティ。

スティーブ・ジョブズとビル・ゲイツのプレゼンは何が違ったのか

――スティーブ・ジョブズのプレゼンに衝撃を受けた高校生のときから、プレゼンについて研究されてきた中で何か見えてきたことはありますか。
スティーブ・ジョブズのプレゼンは、多くの方が分析・研究をされているし、それはそれでたぶん正しいことだと思います。一方で、僕は仮説のひとつとして、プレゼンとアート的な表現行為はわりと近似していると考えています。
ジョブズのプレゼンは、もちろん製品自体のインパクトやストーリーの立て方とか構成も上手い。ただ、それ以上にジョブズのプレゼンが素晴らしいのは、彼自身がiPhoneやiPodをめちゃめちゃ好きで、めちゃめちゃ愛していて、めちゃめちゃ自信を持っていて、これはめちゃめちゃいいモノだと信じてまったく疑っていないことだと思うんです。
だからプレゼンの言葉とか雰囲気からものすごい熱量が伝わってくる。あと、彼はプレゼンの準備に3カ月くらいかけていたと言われますが、彼のプレゼンはまるで一人演劇に近い。たぶんそれは誰にでもできることではないのだろうなと。ジョブズのプレゼンを真似するのは大変ですし、真似する必要もないと思っています。もし真似をするのであれば、話したい内容とか伝えたい内容にどうやって気持ちを乗せるかだと思うんですよね。
TechCrunch*のプレゼンを見るとすごく面白いのですが、TechCrunchのファイナリストになる人たちのプレゼンってやっぱり熱量がすごい。もちろんビジネスとしてのユニークさとか、テクノロジーとしての革新性なんかもありますが、それ以上に「たぶんこの人めちゃくちゃ自分の製品が好きだろうな」というのがすごく伝わってくる。その熱量は魅力的なプレゼンをするうえですごく重要な要素だと思っています。
――ビル・ゲイツの昔のプレゼンを見ると、「えっ?世界一稼いだビジネスマンのプレゼンってこんなものなの?」って思うくらい残念な印象を受けたことがあったのですが、晩年のビル・ゲイツを見るとすごく面白いプレゼンになっていて驚いたことがあります。ビル・ゲイツくらいの人でもやっぱり勉強するのかと感心したのですが、彼は何がどう変わったのですか。
ビル・ゲイツの昔のプレゼンっていわゆる理系的なプレゼンという印象でしたね。
――確かにできるだけ詳しく正確に伝えようとしている感じはありました。
スティーブ・ジョブズのプレゼンを見ていると、じつは「そこ、もうちょっと詳しく教えてくれない?」っていう突っ込みポイントがあるんですよね。情報量としては完璧ではない。そもそもiPhoneだったらiPhoneの機能のすべてを伝えることを目的としていない。いいプレゼンってそもそも情報量としては決して多いわけじゃないんですよね。
初期の頃のビル・ゲイツのプレゼンはとにかく情報量が多いんです。お役所や大企業はやたらに文字の多いスライドや資料を使いますよね。あれはなるべく突っ込まれないように情報を目一杯に詰め込んでいるんだと思います。論理の飛躍がないようにして、突っ込まれそうな情報を事前に抑えておくことを優先しているので、どうしても情報量が増えちゃうんですよね。加えて、情報量を増やすことで、読み手や聴き手が勘違いすることがないように配慮しているという側面もあると思います。
ただ、多くの人はそこまで細かな情報を求めていない。そういう意味で初期のビル・ゲイツのプレゼンは、伝えたいことを導き出すためのありとあらゆる情報が詰められている。でも聞いている側はそんなところには興味がないし、そんな細かい内容を頭に入れるのは大変で、聞いていてもただ疲れるだけです。
一方、ジョブズは本当に必要なことしかしゃべらない。もっと知りたければ勝手に調べてくれ、というスタンスですよね(笑)。iPhoneを構成する細かな要素とか、なぜ素晴らしいかみたいな要素まで網羅していない。聞く側が本当に必要で知りたい情報しか伝えていないので、そこが初期のビル・ゲイツとジョブズの大きな違いでしょうね。
でもビル・ゲイツはそれを学んで、わりと後期にはジョブズ寄りのプレゼンになっていって、本当にユーザーが知りたいことだけ、記者が知りたいことだけをまとめるようになった。それで昔と比べてすごく聞きやすくなったんですね。

TechCrunch(テッククランチ)*
アメリカのニュースサイトで、主にIT系のスタートアップやWebに関するニュースを配信。 IT系の起業家、経営者が主な読者対象者だが、デベロッパーやデザイナー、マーケッターの読者も多い。

シンプルにすればいいわけではない

――ここ数年で変わってきたと感じる傾向やトレンドはありますか。
いい雰囲気に変わってきているのは、見本になる良いプレゼンに触れる機会が増えたことですね。TEDやTechCrunchのようなクオリティの高いプレゼンに簡単にアクセスできるようになったおかげで、プレゼンに対して苦手意識を持っている人や、やらないといけないと思っている人が学べるようになったのはとても良いことだと思います。
一方で良くないトレンドとして、何でもかんでも情報量を削るプレゼンが増えてきたことです。シンプルが大切なのは間違っていないのですが、シンプルにするのは本当に難しいんですよ。ざっと箇条書きに5つ並べたものから、シンプルにしようとして単純に5つを1つに減らすとか、そういう荒業が目立ちますね。確かに1枚のスライドに5行と1行だったら、1行のほうがシンプルだけど、それで本当に伝えたいことが伝わっているの? と心配になるプレゼンが増えてきたなって感じます。
――削ぎ落としていくのとはしょるのとは違いますよね。
最初からシンプルを目指さないほうがいいと思います。とりあえずつくってみる。つくってからどうシンプルにできるか、どこを削れるかを考える。ただはしょるんじゃなくて表現を変えたり、長さを変えたりする。配置を変えたりして、シンプルにする。どこを削って、どこをシンプルに変えるのかを一旦つくってから見極めるプロセスは必要だと思います。最初からとりあえずシンプルにしようと思ってやってしまうと、よほど熟達していない限り、失敗します。
あとは、何が言いたいかを最初の段階で決めておく。伝える相手が何を求めていて、自分は彼らに対して何をしたいのか。単純に説明したいだけなのか、仕組みを理解してほしいのか、買ってほしいのか、何かプロジェクトに賛同してほしいのか、どういうアクションを相手に期待しているのかというのをまずは明確にする。最初に決めておかないと、全部がごちゃ混ぜになってしまう。何が言いたいかを最初に決めておかないと、削る基準がわからなくなるんですよ。そうすると、とりあえず文字数だけ減らしただけのスカスカなプレゼンになってしまう。
――自分たちの会社、自分たちの商品、自分たちのサービスをとにかく知ってもらいたいあまりに、自分都合でしか考えられなくなって、ターゲットを見失って、ポイントも絞り切れなくなってしまうんですね。
そうです。結果として見た目はすごくきれいだけど、何を言っているのかよくわからないスライドはよく見ます。そういう人たちは、削るときの基準がないんです。自分都合で何となく要らないだろう、何となく複雑だろうって、何となくはしょっちゃうから余計わからなくなる。自分が話したいことを話しても売れなければ意味がないし、いくらはしょっても伝わらなければ意味がない。プレゼンをつくる側がそこを意識的に変えていかないといいプレゼンはできないと思います。

文・鈴木涼太
写真・大井成義

奥部 諒(おくべ りょう)プレゼンテーション研究所
東京大学大学院学際情報学府修了。プレゼンテーション協会オフィシャルパートナー、Logicool Spotlight Ambassador、国際系カンファレンスでの登壇者のプレゼンコーチ、代表等を経て東京大学大学院に進学。理論と実践の両方向からプレゼンテーションを探求している。2016年にTEDxYouth@Kobeの代表、2017年にはTEDxUTokyoの代表を務める。東京大学大学院在学中はプレゼンテーションをテーマに研究を行い、その傍ら、大手企業や行政の依頼でプレゼンテーションのコーチ、メンタリングを引き受ける。現在は、Fintech領域のPMとしてIT企業で働きながら、(社)プレゼンテーション協会の活動を行う。

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