良いプレゼンは、腹落ちする、納得する、もっと聞きたくなる【スマート会議術第178回】

良いプレゼンは、腹落ちする、納得する、もっと聞きたくなる【スマート会議術第178回】有限会社エマメイコーポレーション 代表取締役 大塚寿氏

経験豊富なビジネスパーソンであっても、プレゼンテーション(以下プレゼン)や営業に苦手意識を持つ人は少なくないだろう。ビジネスコンサルタントの大塚寿氏は「良いプレゼンは、腹落ちする、納得する、もっと聞きたくなる」と言う。では、どうすれば誰もが「腹落ちする、納得する、もっと聞きたくなる」プレゼンができるようになるのか。「良いプレゼン」は「売れるプレゼン」「上手なプレゼン」と何が違うのか?

大塚氏は、営業としての長年の経験と実績を凝縮した著書も多数あり、今年6月には著書『<営業サプリ式>大塚寿の売れる営業力養成講座』を上梓。同書は顧客との交渉術から、プレゼンの上達法、実践的なリモート対応までを網羅した、まさに“営業のバイブル”と言える営業の参考書だ。

<営業サプリ式>大塚寿の売れる営業力養成講座

では、大塚氏が「営業の要」と言うプレゼンはどうすれば上達するのか。情報収集から練習方法、心構えまで、プレゼンや営業が苦手だという人にこそ知ってほしいプレゼンの修得術について、大塚氏にお話を伺った。

目次

何を武器にするか、どこを戦場とするかを考える

――いま日本は先進国でありながら、徐々に欧米に離され、アジアの新興国に追いつかれ追い抜かれようとしています。グローバル市場で日本企業が生き残っていくために、プレゼンや営業という観点からやれることありますか。
考えることは2つしかありません。営業という点では、何を武器にして戦うかという競争優位性と、どこで戦うかの土俵を決めることだと思います。世界で戦うときも、日本が戦いやすい領域、技術の分野、国があります。そこをまず選ぶことと、そこに対してどういう武器で戦うかを決めて、切り口をどうするかということだと思います。
プレゼンという観点では、準備するときに何を武器にして、どこで戦うのかを決めて、そのシナリオを描く。相手は何を基準にして決めるのか、意思決定の基準を把握する。複数名いるときは、ステークホルダーの人たちの意思決定基準が機能特性なのか、コストなのか、納期なのか、品質なのかなど、意思決定基準の比重を見ていきます。
――観察力や洞察力が非常に問われそうですね。
観察力・洞察力もそうですが、事前情報の収集がすごく重要になります。お客さんがどういう人なのか、前任者やその人を知っていそうな人に聞く。新しいことをやるのが好きなのか、保守的なのかという企業文化は必ず把握しておきたいですね。新しいもの好きな会社とわかれば、最初に高くても新しいものを持っていける。業界によっては「こういうのが出たら、この業界に持っていけ」というお決まりの順番があります。「オーナー企業に持っていけ」という掟もあって、そういった優先して行く順番の知見を持っていることはすごく強いと思います。
全体の2.5~3%くらいのお客さんは、プレゼンをすれば「待ってました!」とばかりに買ってくれるんです。「こういうの待ってたんだよ。いいね、これ」って、子どものおもちゃみたいに買ってくれます(笑)。口下手の方は、すでにニーズが合致している2.5~3%の層にいるお客さんを見つけるようにすればいいと思います。
次の10~13.5%ぐらいの層は、ベネフィットが伝われば買ってくれます。ベネフィットとは商品を通して得られる恩恵のことです。ただし、この層はベネフィットを共有しないと買ってくれないので、ベネフィットを理解してもらうためのコミュニケーション力が求められます。
――相手のことをどれだけ知るかが重要なんですね。
そうです。まさに孫子の故事でいう「彼を知り己を知れば百戦殆からず」です。そうなれば回答を見ながら試験を受けているようなものです。うまくいろいろな人から情報を集めて把握しておくと戦い方がわかってきます。
お客さんも一人ならいいですが、たとえば現場の担当者とその上の課長と話を進めていったら、あとで部長が出てきてひっくり返えされることはよくあります。そのときに課長が責任を逃れようとして「俺、そんなこと言ってませんよ」と、梯子を外されることだって結構ありますからね(笑)。
だから部長がどんな人か、部長と課長の関係はどうなのかといった事前情報を知っておくことは大きいのです。決裁権のない人をどんなに説得したところで、部長が出てきて差し戻されたり、役員がオーナー社長のところに持っていったときに、オーナー社長のそのときの気分でひっくり返ったりするなら、最初からオーナーのところに行って話したほうが早い。
――現実には担当者を飛び越えていきなり上層部と交渉するのは難しくありませんか。
確かに多くのビジネスパーソンができないと言うかもしれませんが、私がいたリクルートではそれをやるんですよ。出入り禁止になってもやる(笑)。というのは、決裁権のない人といくらやっても決まらない。どうせ決まらないのであれば、出入り禁止になっても同じでしょという考えなんです。
実際、1000人以下の規模の会社であれば担当者にアポをとるのも部長にアポをとるのも、結局難易度は一緒なんです。社長をお願いしても意外と出てきてくれます。私たちは従業員20万人規模の企業でも最初から部長にアプローチします。一度成功体験をつかめば、「社長が出てきたんだから、専務や常務なら大丈夫だな」みたいな耐性はできてきますよね(笑)。

どんな形でもまずは手応えをつかむ

――現在、営業のコンサルティングをされる企業にはどんなニーズが一番多いですか。
一番多いのは、お客さんとの商談のやり方ですね。要は“売れる営業”にしてくれというのが最大のニーズです。どこを強化すれば売れるのか、できるだけ実践的な営業の方法を教えてくださいというのが多いです。
お客さんとのコミュニケーションも、「こう言われたらこう切り返せ」といった方法ですね。あとは「営業がオンラインになってしまったけどどうしたらいいのか?」といった悩みや素朴な疑問に答えることが多いです。考え方や理屈はいいから、とにかく答えが欲しいという要望がほとんどです(笑)。
でも、答えと言っても1つではなく、選択肢が複数あることが大事だと思っています。3択から1つ選ぶとか、5つあるけど自分の性格やスキルに一番合ったやり方でやるようにと指導しています。技術と営業ではバックグラウンドも違うので、それぞれ自分に合うやり方を選んでもらうのが一番いい。
実は営業のすごく上手な人のやり方にはあまり価値がないんです。特殊すぎてどんなにすごくても自分にはとても真似できないと思われてしまうんですよ。大谷翔平選手にホームランの打ち方を教わっても大谷選手のように打てるわけではないのと同じですね。
――根本的な概念やノウハウを体系的に覚えるより、自分に合った具体的なケーススタディを真似して形から入ったほうがいいということですか。
まずは表層的でも問題ありません。重要なのは「手応え」です。最初は形だけで表層的だったとしても、使ってみて良かったのか悪かったのか必ず結果は出ます。とにかく手応えをつかむことです。
「これをやってみたけどダメだった。でもこれはなんかスッと馴染んだ」とトライ&エラーを重ねていくことで手応えを感じると、人は「自分はこれを昔からやっていた」という錯覚を起こします。その時点で血肉になっているんですよね。形から入っていても、手応えを感じた時点でもう表層的ではなくなります。自分の一部になっていて再現できる。その数を増やしていけばいいだけだから、まずは表層的でもいいの形から入ることですね。
――スポーツに通じますね。いくらバッティングの本を読んでもホームランが打てるようになるわけじゃない。
バッティングの練習で「身体が開いてる」と言われても、素人じゃ何のことかわからないじゃないですか。そういう意味では、いまはプレゼンの練習もスマホで簡単に動画が撮れるようになったのですごく練習がやりやすくなりましたね。
お客さんにプレゼンすることになったら、上司や先輩にお客さん役をお願いして、レビュアーを一人つけて誰かに撮ってもらう。終わってから第三者に「ここが良かった、でもここは改善するともっと良くなるよ」という2点についてレビューしてもらいます。このトレーニング方法はロールプレイング(以下ロープレ)と呼ばれます。
そして今度は自分のプレゼンを見る。そうすると百聞は一見に如かずで、「ここの説明はわかりにくいなあ」ということが自分でわかる。そこを修正して繰り返していけば、どんどんプレゼンは上手になります。
――セルフチェックは会社とかで強制的にやらないと自分ではなかなかやらないですよね。
自主的には絶対にやらないですね(笑)。だから時間を決めて、強制的でいいと思います。英会話に似ていて、ヒアリングの練習を続けると、1000時間経ったときにいきなり聴けるようになったという話がよくありますよね。英会話と同じで何回も繰り返していくうちに、急に上手になった手応えを感じる瞬間があると思います。とにかくロープレとレビューの回数を重ねることがすごく大事ですね。
――日本人は欧米に比べてプレゼンの苦手意識が強いと思うのですが、これはやはり国民性の違いでしょうか。あるいは単にプレゼンの練習をする機会がないだけでしょうか。
特にアメリカはプレゼンについては練習が徹底していますね。プレゼンじゃないけどディベートやディスカッションでも「自分の意見はこうだよ」「人のことは攻撃しちゃいけない。ただし反論はしようね」などルールもしっかりしている。アメリカでは学校の授業も日本みたいに先生が一方的に話すのではなく、授業=討議だと思っている人もいるくらいです。
――そもそもプレゼンは日本人の文化に馴染まないのでしょうか。
一般的には馴染まないかもしれませんが、ビジネスには合うと思います。ビジネスは全部コミュニケーションが前提だし、プレゼンのない仕事はないですから。極論すればプレゼンは日本語の文法よりも英語の文法を使ったほうがいいと思います。「これはこうです。理由は3つあります」と結論から言って、理由を説明する。いわゆるPREP法という「結論・主張(Point)→理由(Reason)→具体例(Example)→結論・主張(Point)」の順番で話を展開するフレームワークですね。そのセオリーを知っているだけでプレゼンは絶対有利に働きます。

「売れるプレゼン」と「上手なプレゼン」の違い

――最後にテクニック的なこと以外に、プレゼンでこれだけは意識しておくべきという心得があればお教えください。
売れるためのプレゼンの方法はいろいろあって、人によって流派もさまざまですが、一番肝心なのは感情移入だと思います。プレゼンも営業も自分と相手の間にあるのは結局コミュニケーションです。そのコミュニケーションをどうやってマネジメントするかということだと思います。
上手なプレゼンのノウハウやスキルは構造や論理で説明はできますが、その根底に流れるのは結局感情です。相手にどうやって興味・関心を持ったのかがすごく大きい。だから自己暗示でいいのでまずお客さんのことに興味・関心を持つ。興味・関心を持たないとコミュニケーションを展開する土台ができないですから。
この人は自分、もしくは自分の会社に興味・関心を持ってくれているなと思われたら距離が近くなりますよね。そうすると、やりとりされる情報は密になるし、熱気も帯びる。ミーティングやプレゼンのあとに、「なんか良かったな」という感触、温度感が残るんですよね。複数の会社からプレゼンを受けたときに、それは決定的な差になると思います。
ただ感情移入と言っても自分の熱意を伝えるという意味ではなくて、お客さんとやりとりしているうちにお互いに高まっていく温度ですね。つまり意気投合するかどうかです。
――ただプレゼンが上手なだけではダメなんですね。
プレゼンがすごく上手でも次に進めない人は結構いますよ。話し方も段取りも見た目もいいけど、次につながらない、受注できないという人がいます。こういう人は策に溺れるというか、独りよがりになってお客さんの期待や課題と絡み合っていないことが多いですね。これはだいたい目標設定を間違えていることが原因です。ゴールがずれてしまっている。
最初はゴールを設定しているのに、上手がゆえに自分でノッてくるわけです。それで自分のやりたいほうに走ってしまう。それでお客さんの望んでいることとずれてくる。自分のやりたい方向とか自分のできる方向に向かってしまうから、お客さんを置いてきぼりにして「そういうことじゃないんだよなあ」となってしまう。
だから、プレゼンが上手だからといって必ずしも売れるわけじゃない。見た目は上手だけど、お客さんの本質にたどり着いていないわけです。話し方、アイコンタクト、ビジュアル、キャッチコピーも特に文句をつけるところはない。でもお客さんのニーズに対しては、ずれているほどではないにしてもドンピシャではないというのは、もったいないですよね。
逆にプレゼンは下手でも次の段階に進めて受注までできたらそれが「売れるプレゼン」ですよね。
前回、プレゼンはつかみとオチが肝心だという話をしましたが、オチがゴールだとしたらゴール設定を絶対にずらさないことですね。相手によっての良いプレゼンとは、腹落ちすること、納得すること、もっと聞きたくなることです。悪いプレゼンは、ストーリーがない、文字が多い、For You感がない。自己満足で「御社のために」「○○部長のために」という相手が見えなくなってしまう。 

文・写真:鈴木涼太

大塚 寿(おおつか ひさし)エマメイコーポレーション
エマメイコーポレーション代表取締役。1962年群馬県生まれ。株式会社リクルートを経て、サンダーバード国際経営大学院でMBA取得。現在、オーダーメイド型企業研修、営業研修を展開するエマメイコーポレーション代表取締役。リクルート社の伝説の営業パーソンが講師陣に名を連ねるオンライン営業研修「営業サプリ」において「売れる営業養成講座」の執筆・総合監修を務める。著書に『<営業サプリ式>大塚寿の売れる営業力養成講座』(日本実業出版社)『リクルート流』(PHP研究所)、『"惜しい部下"を動かす方法ベスト30』(KADOKAWA)、ベストセラー『40代を後悔しない50のリスト』(ダイヤモンド社)、『できる40代は、「これ」しかやらない』、『50歳からは、「これ」しかやらない』(共にPHP研究所)など多数。

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