マグネットスタジオが運営する会場には、原宿のライブハウスや品川の会議室、日本橋の和室レンタルスペースなど多様なタイプがあるが、｢原点はイベントホール｣と水口さんは話す。もともとファッションショー制作会社の経験をもつ薗田光史代表が、2000年からイベントホール運営に特化した事業展開をしてきた。会議室を専門とする運営会社にくらべると、対応できるイベント内容の範囲が幅広く、利用者へのアドバイスや機材についての知識も豊富なことが強みとなっている。 「イベントには流れがあります。ファッションショーやコンサート、会議などそれぞれに時間の流れがあって、会場設備の面でアドバイスが必要なタイミングには必ず現場にいること、また事前に準備すべきことなど、経験則からでないと気づかないポイントがあるんです」 こうした利用者目線での運営経験が蓄積され、最近では場所にマッチした会場設計や経営面の戦略、対応する機材選択などについてコンサルティング業務を開始。2010年にオープンした日本橋三井ホールのコンサルを実施し、運営も任されている。

多くの会場をもつマグネットスタジオでは、会場担当者が異動することもある。品川から浅草橋にエリアが変わっても「○○さんがいるなら、今回は浅草橋でやります」と利用者が場所でなくスタッフで会場を選択することがよくあると、水口さんは話す。「イベントを開催したいけれど、この内容にマッチした会場はありますか？」といった問合せもふえてきているという。 指名や相談が多いのは、スタッフへの信頼の高さの現れだろう。利用者とこのような関係性を築けるのは、マニュアルをもたないという運営方針や、一催事につき一担当で営業から現場管理、請求・見積もりの処理までワンストップで対応する担当制にあるようだ。水口さんは「イベント現場で起こりうることは多岐にわたりすぎて、マニュアルをつくろうとしてもつくることができないんです（笑）」というが、実際のところ「瞬時に判断することが多いイベントの現場では、自分で考えるということがなによりも求められる」からだと、マニュアルに頼らない理由を教えてくれた。 つまり、すべて言われたとおりにすることだけが運営者の役割ではないという考えだ。時には運営スタッフはイベント全体の流れから、入念なリハーサルによってイベント開始に影響を及ぼすと判断すれば、今の作業を止めてでも次のステップへと移るよう促すタイムキーパーのような存在でなければならない。また、主催者の要望よりも経験則からよりよい解決策があれば別の提案をすることもある。

これまで民間企業の会場運営に携わってきたマグネットスタジオにとって、今年6月にオープンする大崎ブライトコアホールは、地域交流を促進する役割をもつ会場の運営という、新たな領域となる。 マグネットスタジオが区に提案したのは、民間企業への提案と同様に収益を見込める運営体制に加え、区が目指す会場本来の役割を実現する運営に対する考え方だ。 「街の活性化を目的とした会場建設もふえてきました。会場は、そこでのイベントが集客の呼び水となってビル内にひとを集めるだけでなく、イベント前後の食事やショッピングなど、街全体にひとの流れをつくる装置だと考えています」 前述の大崎の会場では、「たとえば土日だけでも地域に開放するなど、収益だけではなく、地域貢献を考える会場運営をしていきたいですね」と今後の抱負を語る。