助手席に座っていたら、いつまでも道を覚えられない【スマート会議術第50回】

助手席に座っていたら、いつまでも道を覚えられない【スマート会議術第50回】株式会社アクティブラーニング 副社長 得能 絵理子 氏

グローバル社会化、AIやIoTなどITの進歩によって、仕事のあり方が大きく変わろうとしている。昨日の正解が明日は間違いにもなる。昨日の勝者が明日の敗者にもなる。

経済成長率が停滞し、生産性も低いといわれる日本企業のビジネス慣習はもはや時代遅れなのか。日本のこれまでの「正解を求める」受動型教育は限界に来ているのか。

世界を席巻する変化の渦の中、アクティブラーニングは、能動的人材の育成を通じて、さまざまな教育機関や企業の支援を行ってきた。

能動的人材とは、自分で考えて、行動できる人材、既存のやり方を超えるような、新しい解を自分で導き出せるような人材のこと。

はたして、能動的人材はどのように育てられるのか。アクティブラーニングの得能絵理子氏に、いまの日本企業が抱える課題と能動的人材の育成方法について語ってもらった。

目次

助手席に座っているとなぜ能動的になれないのか

――能動性はどのように培われるのですか。
能動性は社会的・環境的要因によっても左右されます。弊社ではそれを「ドライバーズ効果」と呼んでいます。たとえば、ドライブをしているとき、運転席に座っている人はしっかり道を覚えます。運転手は自分で「右だ」、「左だ」とその場で意思決定し、考えながら運転しています。しかし、助手席に座っている人は同じ景色を見ていても、ボーっとしており、全然道を覚えていない。
助手席の人も運転席に座れば道を覚えるでしょう。つまり、誰であっても助手席に座ると受動的になりやすい環境ができてしまうということです。
同じ意味で、我々が「教育のジレンマ」と呼んでいる事象があります。教える側と教えられる側という関係性になった時点で、教えられる側が能動性を失う現象のことです。
教室の中で最も能動的になっているのは誰か? それは、先生です。教科書の内容を自分なりの言葉に再構築し、アウトプットする。さらには時間のマネジメントもしなければなりません。当然頭を使います。しかし、先生が能動的になればなるほど、生徒は受動的になっていく。その状態で、膨大な情報をシャワーのように浴びせたとしても、脳は閉じています。だから、まったく吸収されません。
解決するためには、彼らをドライバーにする必要があります。つまり、助手席から運転席へ席を変える必要がある。一番簡単なのは、アウトプットさせること。たとえば、先生が何か言ったことに対し、「いま先生が言ったことを覚えている? 自分の言葉でアウトプットしてごらん」と、発言させることなんです。
さすがにアウトプットしながら受動的になることは難しい。一番効果的な方法はペアでのアウトプットです。ペアを組んで、「さあ、話してごらん」と言われているのに、何も話さないっていうのは、なかなかできないですからね。
私が授業をするときは、アウトプットすることを事前に生徒に伝えておきます。「このあとアウトプットするから、ちゃんと記憶してね」と言うと、ものすごく記憶力が上がります。言った場合と、言わなかった場合では、記憶の質が2~3倍近く変わるんです。
――会議でも同じことが言えそうですね。
会議でも同じです。話す人が固定されている会議では、それ以外の人は助手席にいる可能性が高い。気づくと、「マネージャーだけが話す白けた会議」になりがちです。
ですから、会議の主催者は、会議における、メンバーのアウトプット時間を設計することが重要です。弊社が支援したある会社では、重要な情報共有をしたあとに必ずペアで感想を言わせるという方法をとっています。感想を言うことをみんな知っているので、話を聞いていないということがなくなったそうです。ペアで話させると、5分程度時間は奪われますが、先ほどの授業の例と同様で、まったく吸収されない状態で情報をいくらシェアしても意味がありません。
もちろん、すべての物事に対して能動的になる必要はないでしょう。人間は、オン/オフをしながらバランスを保っているので、能動的にならないものがあってもいいと思います。ただ、相手に情報をきちんとインプットさせたいという場合は、オン/オフを本人の自由に任せるのではなく、コントロールする必要があるということです。
――ドライバーになったほうが確実に楽しくなりますよね。
楽しいです。アウトプットをするとやっぱり楽しいんですよ。先ほど紹介したペアワークをやっている会社でも、普段ムスッと話を聞いている人が、ペアで話すと途端に笑顔になったりします。人間は、ただその場にいるだけ、ただ聞いているだけより、自分の考えや意見をアウトプットしたほうが、数段楽しみを感じる生き物なのだと思います。

能動的な若者についていけない「古い会社」

――能動的な人材が育っていくことで、旧態依然の働き方も変わってきそうですね。
そうなってくると、今度は人事さんから、「能動的な人材が増えてきて扱い方が難しくなった」と言われることもあります。「いままでだったら、先輩に気を遣って言わないようなこともガンガン言ってくる。あの子たちって、どうなんですかね?」って(笑)。
確かに、アウトプットもただ言えばいいってものではないですよね。しかし、アウトプットをまったくしないよりは良い、とまず受け止め、そのアウトプットの質を高めるように誘導することが大切だと思います。
この会社では何を言ってもムダだと受け止められてしまえば、閉じてしまった回路を再び開かせることはとても難しい。
今年の秋、日経新聞の「新人が4月に転職サイトに登録する」というニュースが話題になりました。入社した4月に転職サイトに登録する子が急激に増えているそうです。見切りのスピードが早くなっている中、「この会社は古い体質だと」思われないように気をつけなければなりません。
自分の意見を述べてくれるうちに、どういうアウトプットをすれば、より良い対話ができるかを教えることが重要です。

知的交配(コラボレーション)における差異の必要性

――今日の企業では、同質性より多様性が重視されていますが、なぜ多様性が求められるのですか。
たとえば、目の前に同じ形の青いボールが4つあって、「この中から好きなものを選んでください」と言われたら、すごく選びづらい。どれを選んでも同じだからです。そこに、もし1個赤いボールがあったとしたならば、好き嫌いは別として、目立ちますよね。
「差異なくして選択なし」。誰かに選択をしてもらうためには、「他との違いは何か?」を明確に打ち出す必要があります。
組織も、いままでと同じ人材が同じやり方を継続していると、これまで同様の青いボールしか出せない。だから、これまでと違う視点をもった人材が求められるのです。
そうした多様性を他社に求めて、オープンイノベーションの流れも進んでいるのでしょうね。

いいアイデアは出ないのではなくて、生かせないだけ

――高度情報化社会になって、GAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)のように1人の天才が世の中を大きく変える時代になっている印象があります。日本は教育を含め、その流れに乗れていないのでは。
1人の天才をつくっていく教育も、今後進んでいけばいいと思います。同質化を求めるばかりで、天才を育てる土壌が日本にはほとんどなかったことを考えると、そういう教育の可能性は大いにあるでしょう。
しかし、天才であってもビジネスを作っていくのは難しい。GAFAを生み出した米国でさえ、スタートアップが成功する確率は7%、AirbnbやAmazonのように大成功する確率は0.3% と言われています。
だから、単純に数を考えたときに、天才型だけに頼らず、組織型もちゃんと大切に育てるべきだと思っています。むしろ、組織型でもいいアイデアの種は出てきていると思います。ただこれを実行に移すためには、多くの「許可」を得なければならない。この許可を与える人が、自分の役割を果たすために、多くの種を潰すストッパーになっている。
ですから、組織型を促進するためには、いわゆる「部長陣」に、「ストップさせる」のではなく、「進化させる」サポートをするのが自分たちの役割だと教えなければなりません。しかし、これをできるのは“新部長”だけです。長く部長的役割を果たしている人に、思考や行動パターンを変えろと言うのは難しい。なら課長や部長になりたての若手管理職に、こうした意識変容を導くトレ-ニングをすべきだと思います。
弊社では、管理職向けに「育てる技術」というのを教えていますが、これがとてもうまく機能しています。多くの会社を変えることに成功しました。
――アイデア以上に、アクションを起こす判断をする人がカギを握ると。
そうですね。意思決定権限のある部長陣にお伝えしたいのは、助産師になってほしいということです。もちろんアイデアの中には稚拙なものもあるかもしれませんし、説得できないのは部下のレベルが低いということもあるでしょう。それは許可する必要はありません。しかし、アイデアという赤ん坊を持ってきたメンバーに対して、批判をして「中絶」をさせてしまうケースがあまりに多い。ぜひ、応援し、ともに生み出す助産師さんの役割を買って出てもらえたらと思います。それができるのは意思決定権のある人だけだと思います。

新しい視点を見出したときに、本当にいい会議になる

――得能さんが考えるスマート会議とは何ですか。
別視点を楽しんで、新しいものをつくれる会議かなと思います。というのも、情報共有だけだったら、イントラネットか何かに入れておいて、それぞれが勝手に見ればいいと思います。
「会議でしかできないことは何か?」。それを考えると、みんなで議論しながら新しいものを生み出していくことかなと思います。なので、「スマート会議」と私が思うものは、異なった知識や経験をもつ参加者が、まるで1つの頭脳のように、「違い」を活用しあえる会議でしょうか。
ニューロンの中には、さまざまな知識や体験が入っていますが、そこが敵対化するということはないですよね。同じ会社で働いている以上、競い合う意味も、相手を打ち負かす必要もない。あくまで違いをメリットとして受け入れ、自分の素材と相手の素材でどう進化させるかをみんなが楽しめるようになれば、本当のスマート会議になるのではないでしょうか。

文・鈴木涼太
写真・佐坂和也

得能 絵理子(とくのう えりこ)株式会社アクティブラーニング
早稲田大学卒業。株式会社アクティブラーニング副社長。キャリア育成、企業改革、地方自治体改革等のプロジェクト等に従事。学生時より、経産省のプロジェクトで学生リーダーとなり、坂本龍一氏等、各界の著名人にインタビューを敢行。卒業後、(株)アクティブラーニングに入社。その高いコミュニケーション力がかわれ、入社後すぐに、学校、企業などでの研修講師を開始。日経新聞社主催セミナーや、日経BP社ビズカレッジPREMIUMで講師を務める。柔らかいファシリテーションスタイルは、企業研修、学校教育でも高い評価を得ている。

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