ダメな案をたくさん出すほうが、早くいい案を出せる【スマート会議術第60回】

ダメな案をたくさん出すほうが、早くいい案を出せる【スマート会議術第60回】アイデアプラント 石井 力重 氏

アイデアプラントの代表として企業や自治体・大学などのアイデア創出の支援を行う石井力重氏。東北大学・大学院でナノテクノロジーや創造工学、経済学を学び、商社勤務後、行政機関で産学官連携のプロジェクトに携わる。そして、そこで培ったブレストのノウハウを生かし、「ブラスター」「nekonote」などさまざまな「創造性育成ツール」を開発してきた。

そんな“ブレストの専門家”である石井力重氏に、会議の効率化やアイデアの創出方法についてお話を伺った。

目次

遠い要素を結びつけることで、意外なアイデアを生む

――ブレストでどんなに発言しろと言われても、そもそもインプットがないとアウトプットも難しくありませんか。
インプットには「ニューインフォメーションの到来は、異質なものを結びつける触媒になる」という側面があります。
我々の頭の中を概念空間だと思ってください。たとえば腕時計の改良をしようと思ったとき、まずベルトとか、電池とか、見え方とか、概念空間上の距離の近いものばかり浮かびます。でも、どうやっても、これ以上ないっていうぐらい出尽くしたら、脳は苦し紛れに腕時計とはおよそ関係ないものを結びつけようとするんです。
たとえば、検討し始めの頃に、頭の片隅でふと犬を想起しても腕時計と結びつけようとは考えません。でも、意味のある要素を全部使い切ったら、脳は遠い要素もつないでみるわけです。犬と腕時計? ダメだ、わからない。次は、マグロと腕時計? うーん、わからない。
あるいは椅子と腕時計。椅子といえば座るもの。長い時間座っていると血流が悪くなる。・・・このあたりから論理的ではない断片的な連想が起こったりします。その際の頭の中を実況中継してみますと…椅子は何に使う? 座ることに使う。なぜ座る? 疲れをとるため。あ、疲れをとる、この要素はアリだな。疲れをとる腕時計って、どうだろう。具体的にはどういう機構? 微弱な電流が出て、つけているとだんだん肩こりがとれる。そういう腕時計だったら欲しいかも。あるいは、ワイヤレス充電のパッドが卓上にあって、腕時計をつけたままの腕を乗せると、バンドが血流を良くするように振動してくれて、肩こりがとれる。そんな腕時計だったら欲しいかも。
こんなふうにして遠い要素を結びつける。これが意外なアイデアを生んだり、クリエイティブジャンプを引き起こしたりするメカニズムです。
インプットに話を戻します。発想しているとき、新しいインフォメーションが外からやってきたりして、コツンと頭を叩くと、距離が遠い要素同士の接続を誘発されたりします。そのインプット自体は刺激になるだけで、組み合わせには使われない。つまり触媒、みたいなものです。先の例でいえば、腕時計とおよそ関係ないものとして、たまたま椅子が視界に飛び込んできた。結果として「疲れをとる×腕時計」という結びつきを生んだ。椅子はどこにいっちゃったの? となりますが、それでいいんです。「ニューインフォメーションの到来」は、異質な要素の結びつきを引き起こす触媒になる。この特性に基づけば、クリエイティブジャンプには、そのままは使われないものもたくさんみて、刺激のシャワーを浴びるのがいいわけです。
なので、僕はいろいろな会社で「開発テーマと関係ないところに行っても経費が出るようにしてあげてください」と言います。「たとえば、自動車開発チームが、京都の伝統芸能を体験しに行った、というのなら、それもニューインフォメーションの到来機会を増やすので、ぜひ経費で落としてあげてほしい」と言うんです。でも、上長さんたちは「いやー、そんな経費の使い方は…」と渋い顔。だけど、同業他社でも主題に関係あるものならたいていインプットをしています。せっかく視察に行くなら、もう一歩足を延ばして本当に無関係なことも見てくる。そういう自由度が大事なのです。
この話は、新しい情報を見に行こう、ということですが、一方で、日々の周辺環境の中にも、たくさんのインプットを得る方法もあります。
カラーバスというテクニックを紹介します。バスは風呂のことで、バスタブに知識を投げ込もうということです。この技法は、加藤昌治氏の『考具 ―考えるための道具、持っていますか? 』に詳しく紹介されています。
たとえば大学で200人に講義をします。彼らに「明日の1限は座学はなし。その代わり、赤いものを見て、30個写真を撮るか、メモをしてきなさい」と課題を出すんです。「何のため?」って言われても、「それはいまは秘密」と言う。
2時限目の講義は、「あなたは雑誌の編集者です。新しい雑誌の創刊企画プロジェクトに加わることになりました。いままでにない雑誌を考えてみてください」とお題を与えます。「海外旅行? いや、それはすでにあるな」と、たいていのものは雑誌になっていますので簡単に新しいアイデアは出てきません。
「みなさん、出尽くしたところで、これ以上ないってなりましたね。では30枚の写真を見て、それを無理やり雑誌の主題にしてみてください」と投げかけます。学生たちは、赤いフェラーリを見て「週刊フェラーリ、なんか組み立て型付録付き雑誌ですでにありそう」。赤いポストを見て「週刊ポスト。これは違う雑誌だな」とやりながら、中には予想のつかないものを考えてくる人も出てきます。
面白いのは、その素材となったものは毎朝見ていたものである、という点です。我々は毎朝のルーチンワークたる通勤・通学では、脳の能力を節約し、活性化された記憶、意識の中には、それらを登らせません。知ってもいても意識に登ってこない膨大な要素がいっぱいあるわけで、発想作業のときには、そういう記憶の大鍋をぐるぐるかき混ぜ、たくさんの要素が表面に浮かんでくるようにします。カラーバスは、まったく新しいものを発見するという側面も少しはありますが、普段はコールできない大量の記憶情報を発想の作業台に乗せ直して、結びつける対象を劇的に増加させるテクニックです。

アイデアは、洞窟の穴の奥にある宝物

――いくら時間をかけてもなかなかいいアイデアが思い浮かばないと悩む人は多いと思いますが、何か打開策はありませんか。
意外かもしれませんが、いいアイデアだけを出そうとするのは非効率な仕事の仕方です。「凡案を言うのは時間のムダだ。いい案だけを出そう」と、みんなが腕組みしてしゃべらない会議はよくあるんです。
アイデアは、洞窟の穴の奥にある宝物です。これを手前にある平凡なアイデアが邪魔して奥から取り出すことができない。手前にあるものからしか取り出せないのに、奥のものが何かの拍子に出てくるまで待っている。そんなやり方をしていることが多いんです。
平均的には、頭の中で考えているより、ダメな案をたくさん出すほうが、いい案を出すまでの時間が短いです。いい案だけを出そうして腕組みしたまま時計の針が一回転しているようなときは、ペンをもってダメな案を大量に吐き出していくこと。20分も続けると凡案・駄案も枯渇しはじめ、いい案も出てきます。
――それはムダな案がインスピレーションを促したり、触媒の役割を果たしたりするということですか。
脳を箱、アイデアをそこに入っているボール群のようなモデルで表現するならば、クリエイティブなアイデアは箱の底のほうに入っているものなんです。何かアイデアを出そうとしたときは、手前に凡案がたくさん並ぶ。そういう頭の傾向があります。
何かを思いつこうとしたら、そのときに初めに出てくる5~6個は、誰が考えても似たようなものが出る。初めに思いつくのは凡案・駄案なんです。これはスウェーデンのフレドリック・ヘレーンの「アイデアメーション」という考え方です。
このモデルに、箱の中に手を突っ込んでボールを取ろうとするロボットアームを登場させます。これは、アイデアを閃くための認知的な努力だと思ってください。このロボットアームは、バカバカしい行動原理があります。何かに触れると掴んじゃうんです。掴まずに奥まで突っ込むことはできない。で、手前のほうのものはアイデアメーションなので掴んでみて、「こんなのダメなアイデアだな、出すまでもないや」ってことで手を放しちゃう。中に戻しちゃうんです。腕の位置を動かしてまた別のものを掴んでいくわけですが、そうすると、さっき放したアイデアを掴んじゃうことが起きています。「同じことばかり思いつくようになっちゃった」と感じて、コーヒーでも飲むか、となる。箱の底にあるクリエイティブアイデアを最短の時間で取ろうとするなら、その戦略は極めて単純です。“掴んだら出す”です。思いついたら外に出す。つまり、掴んだら言ってしまうんです。言葉に出して口から言う。あるいは、口に出して言えなければ手で書いてしまう。
「言う」か「書く」かの行為をすると、手前のボール(凡案)が消えていきます。だんだん奥のほうへアームが延びていく。掴めるボールがあらかたなくなると、出し尽くして苦しいという状態です。ここまでくると、そのうち苦し紛れにパッと掴んだものが、出してみると意外と光っている。独創的なアイデアというのは、アイデアメーションの先にあるものなんです。できる限り早い時間でいいアイデアを取り出したいとき、最も賢い選択肢はムダなアイデアをたくさん出すことなんです。

深度を深めるPPGブレスト

――ブレスト方法のひとつであるPPG(ペア・ペア・グループ)ブレストについてお教えください。
PPGブレストは集団のコミュニケーションをもっとクリエイティブにするように調整したブレスト方法です。簡単に言うと、ペアブレスト6分を2回、最後に集団ブレストをグループでやる。
――それは、量を出す発想とは違うのですか。
違います。たとえば、会議室に8人の人がいたとします。いきなり「みんな活発にブレストしてくれ」と言ってもなかなかアイデアは出ないわけです。だいたい特定の人がしゃべっている。あるいは、誰もしゃべらないからファシリテーターが自分で言って自分で板書しているみたいなときってありますよね。
そういうときはファシリテーターが「2人でペアになって6分間ブレストしてください」と言う。そうすると、上司の前では発言しにくかったけど、横の同僚とだったら気軽にしゃべってアイデアが出るわけです。
6分経ったらペアを変えます。そうすると、さっきと違うペアになり「さっきどんな案が出ました?」という話にもなる。そんな話をしながら、もう1回アイデア出しをすると結構いいものが出てくる。
最後にグループに戻すと、それぞれ2回ぐらい誰かにアイデアを話しているので、わりとアイデアがカタチになっているんです。その状態で「みなさんブレストをしてください」とやると結構意見が出る。
PPGにはもう1つ、コミュニケーションの深度が深まるという特性があります。たとえば、普通のブレストで、誰かがすごくいいことを言って「あ、すごく面白い!もっと聞きたい」となることがあります。でも「俺もしゃべりたいのになあ」と、発言の機会を待っている人もいる。だから、“深掘りしたかったけど、まあそのぐらいにしておこう”となってしまう。
ブレストは量を出すのには向いていますが、浅くしかしゃべれない方法でもあるんです。どんどん出るけど、1つのアイデアを深掘りすることに向いていない。でも、ペアになってしゃべっていると、1つのアイデアを深く掘り下げることもできる。こういう、コミュニケーション深度を堀り下げられるという良さがペアのときにはあります。
2回ぐらい深掘りしたアイデアがある状態からブレストに入るので、かなりの数のアイデアがメンバーの中にあるんです。よく「事前にアイデアを考えてきて」と宿題を出してもほとんどの人がやってこないことってあります。ならば、PPGブレストで、その場で2回気軽にペアで発想させてしまう。それからみんなでブレストに進むとものすごくよく出るようになります。

AI 以後、人間に残された3つの役割

――企業の成長戦略において、ブレストはどれくらい重要なものですか。
これからは、常に第3の選択肢をつくり出せる能力が成長する組織には重要になります。AかBかという二者択一に思える局面で、どっちにするかの議論をするだけではなく、第3のプランCを考え出して、新しい可能性を試していく能力が必要な時代になるだろうと思います。そういう中で、効果的なブレストは、いまよりももっと重要になるでしょう。
これからのテクノロジーの進歩でインパクトのあるものはAIでしょうね。いろいろなものにその呼び名を使っていますが、本来のAIは、人間と同じような振る舞いができるものを言います。そうしたAIが登場したあとも人がする仕事が3つあると言われています。感情労働、創造、意思決定、です。
感情的スキルも創造力もなしにできる、事務的に対処するだけの業務なら、単純なものから消えていきます。複雑で不定形な仕事をする部門でも、仕事のうち繰り返せる作業部分はAIがサポートしていくでしょう。
じゃあ「接客と開発以外の部門は消えるか?」というとそうでもなく、経理部も総務部も残るでしょう。人間の気持ちがわかることが大事な仕事だったり、判断材料の少ない創造的提案に対して意思決定していく仕事だったり。そういう感情力と創造力を生かす仕事は各部門、将来も残るでしょう。部門名や組織体系はだいぶ変わるかもしれませんが。
一人の仕事時間の中でみても、オペレーショナルな作業と創造的な作業の割合は変わります。創造性の部分がずっと多くなる。さらに経営層以外にはほとんどなかった意思決定の作業も無視できないボリュームの仕事量になっていくでしょう。
急には組織風土もあって変わらないとしても、10~20年ぐらいの間に、感情・創造・意思決定の三力のある組織になっていくでしょう。そのとき人々は、温かく、創造的で、強い仕事の日々を送っていると思います。
石井 力重(いしい りきえ)
アイデアプラント代表(https://ideaplant.jp/)。アイデア創出支援の専門家。日本創造学会所属。東北大学大学院・理学研究科修士課程卒業。ブレインストーミングや創造技法の実践と理論の両面に強い興味を持ち、創造工学(Creative Problem Solving、TRIZ)を研究。創造的思考を支援する「アイデア創出の道具」を作り、世界中の企業や研究機関で使われている。早稲田大学、奈良女子大学でデザイン論・創造学を担当。著書に『アイデア・スイッチ 次々と発想を生み出す装置』(日本実業出版)がある。

文・鈴木涼太
写真・佐坂和也

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