会議は聞く力、書く力、伝える力を養う場【スマート会議術第62回】

会議は聞く力、書く力、伝える力を養う場【スマート会議術第62回】株式会社ONDO 代表取締役 谷 益美 氏

香川県を拠点に、ファシリテーター&ビジネスコーチとして企業研修や講演など、全国を飛び回る谷益美氏。また、働き方改革や女性のリーダー育成、イベントづくりなど年間150本以上の場づくりにも積極的に関わっている。

『リーダーのための!ファシリテーションスキル』『マンガでやさしくわかるファシリテーション』など著書も多く、作家やイラストレーターとしても活躍する谷氏に、会議におけるファシリテーションの重要性についてお話を伺った。

目次

質問には「具体化する」ためと「広げる」ための2種類がある

――立場に関係なくファシリテーションをうまく進めるコツはありますか。
ファシリテーションがうまくやれている人は、質問が上手なんです。自分がわからないことだけじゃなく、「あの人がわからない顔をしているな」というときに、「それはどういう意味ですか?」「プロジェクトの目的ってそもそも何でしたっけ?」って聞く。みんながわかってないことを代弁して聞く。わかっている人にしゃべってもらって確認を取ったりしているんです。
質問には大きく分けて2つあります。「自分のため」と、「相手やチームのため」。「自分のため」というのは、自分の疑問を解消する質問。先輩や上司に「自分で調べろ」とか「ググれ」と言われる類の質問です。
一方、「相手やチームのため」というのは、たとえば「会議を良くする」という話になったときに、「どういう会議を指しているの?」「経営会議のこと?」「定例会議のこと?」「良くするってどういうこと?」と、みんな違う解釈をしているかもしれないことを聞く質問。みんなの解釈を引き出して、共有をして定義づけするための質問です。自分だけのためではなく、みんなのためだったり、相手のためだったりする質問なんです。
ファシリテーション力を上げるには、まず、この2種類の質問があることを理解した上で、「みんなのための質問力」を上げることが必要です。
そのために、2種類のフレーズを使うことをお勧めします。1つは「たとえば?」とか、「具体的に言うと?」というフレーズ。たとえば「会議を良くしよう」という会議改善会議のときに、「会議ってたとえばどれのことを言っていますか?」とか、「良くするって、具体的にどういうことですか?」と聞く。具体的にしていくためのフレーズです。
「たとえば、どういうことですか?」と聞くと、たいていはっきりしていないことが露呈するんです。「いや、いつもやる会議じゃない?」と。「いつもやる会議って何ですか?」と続けて聞く。そういうのを重ねてきちんと共有する。
もう1つが、「他には?」とか「まだある?」という広げるためのフレーズ。1つの質問に1つの答えでOKではなくて、まだあるんじゃない?と質問を重ねていきます。「会議って定例会議のことだろ」と言われたら、「他にもありませんか?」と言って、「とりあえず全部出しませんか?」と広げていくフレーズです。
この2種類のフレーズを使えるだけでも会議がグッと変わると思います。わからないから聞くのではなくて、共有されていないから共有するために聞く。そのための質問です。

会議を迷走させないための5W1HとGROW

――会議を迷走させないためのフレームワークがあればお教えください。
もっとも便利なフレームワークのひとつに「5W1H」があります。何のために(WHY)、誰が(Who)、いつ(When)、何を(What)、どこで(Where)、どんなふうに(How)。で、5W1H。そもそも何のために、誰が、いつ、何を、どこで、どんなふうに(How)やるのか、というのが決まっていないと、会議は終わってはいけないんです。
よくあるのが、「じゃ、とりあえず新企画、これから始動な!」みたいな、意気込みだけで終わっているパターン。「とりあえず新企画の話、検討しておこうか、次の会議までに」って。何を検討するのか、次の会議まではわかったけど、どのように検討するのか、誰がやるのかを決めずに終わるからやらないし、やっても質が悪い。
たとえば5W1Hというフレームワークを、会議の最初と最後に必ず押さえておけばいい会議になるはずです。会議前には、「何のため」の会議なのか、終わるときには、「誰が、いつ、何を、どこで、どんな風に」やるのかをきちんと確認する。フレームワークを知って活用することで、「これ抜けているな」ということに気づけるようになり、質問することができるようになるんです。
もう1つは、コーチングでよく使うGROWモデルというフレームワーク。ゴール(G)と、現状=リアリティ(R)と、ゴールに向けて現状を近づけていくためのさまざまな選択肢=オプション(O)。そして、それをちゃんとやるという意志、ウィル(W)。その頭文字をとって、GROWモデルといいます。
「最近お客様からの広告出稿が減った。契約を解除するお客様のほうが多い。新しいお客様が来ない。どうしよう…」という問題が起きているとします。こういった問題を扱う会議では、すぐに「で、どうする?」と対策を考える議論になりがち。でも、「どうする?」の前に、そもそもどのぐらいの顧客数を取らないといけなくて、どういうお客様が必要かという、理想的なゴール、目指すべき状態を共有することが大切。目指すべきゴールを抜かしたまま、議論することが、結構多いんです。
もしもGROWモデルが頭に入っていたら、「待って。そもそもどういう状態になればいいんだっけ?」って聞くことができる。フレームワークが頭にあることで、その穴を埋める質問ができるようになる。5W1HとGROWぐらい覚えておけば、会議は十分回せると思います。余力がある人は、SWOTとか3Cとか4Pとか、マーケティングのフレームワークをいろいろ持っておくと便利です。

ホワイトボードの前に立とう

――新人や発言が苦手な人が会議で積極的に参加するにはどうすればいいですか。
若い方が学びに来られたときに、よくお勧めするのが「書記」です。ホワイトボードの前に立って、「すみません、いまのはどういう意味ですか?」って聞きながら整理して書いていく。そうすれば、自身でも理解が深まるし、場にいい影響を与えられる。角も立たないし、眠くもならない(笑)。
また、もしできれば、図解したり、ちょっとした絵が描けたりするとより分かりやすくなっていいですね。たとえば、タムラカイさんという富士通の方が『ラクガキノート術』という本を出されているのですが、彼は「やり方さえわかれば、誰でも描ける」と提唱しているんです。お絵描きはみんな難しいと勝手に思っているけど、そうじゃないと。
私も彼の本を参考に、授業でもよく使わせてもらうんですが、彼のメソッドを使えば、誰でもすぐに100パターンの人の表情を描けるようになります。やり方は簡単で、顔の表情を決める、眉毛と目と口の3つのパーツを組み合わせて描く。これだけです。目と口を5種類ずつ、眉毛を4種類のパターンのパーツにして、それを組み合わせる。5×5×4で100パターンの表情が描ける、というのが彼のメソッドです。このやり方を伝えると、絵を描くのが苦手、と言っていた人も楽しみながら描き始めるんです。
「絵を描きなさい」といきなり言われても、みんな二の足を踏みます。ファシリテーションもそうです。ファシリテーションのスキルも難しく考えず、小さなコツを知って実践することが、大きな一歩につながると思います。
あとは練習あるのみ。そして、板書を練習するために、必ずしもホワイトボードを使う必要はありません。自分が参加する勉強会とか、セミナーとか、会議とか、テレビを見ながらのノートを使ったメモでOK。ただ、そのノートは、人に見せることを意識して書くようにしてみましょう。ノートって普通は自分のためにとりますよね。他の人に見せるとなると書き方が変わる。もっときれいに書こうとするし、見せる相手によってレベル感を考えて書くと思うんです。普段から他人の目線を意識してメモを書くことで、みんなのためのメモの書き方が身につきます。ノートに書くことは自分の勉強のためでもあるけど、他の人に共有するためのものとしても機能します。
また、話が散漫になって、議論があっちこっちに向かってしまう会議ってありますよね。そんな場合は、自分の中でまとめる上でのキーワードを決める。たとえば、営業会議に出るときには、「営業のコツ」をまとめるつもりで参加する。お客様とのミーティングであれば、「顧客ニーズ」に絞ってまとめてみる。そんな風に、キーワードに沿ってメモを取ることで、聞く力も上がります。聞く力を上げるために、アウトプットを意識する。セミナーなどに行ったときとか、つまらない会議のときとか。「会議の発言に見る人間関係」をスケッチしてみようとか、何かテーマを決めてやってみるといいですよ。いまは写真も一緒に入れられるデジタルノートもありますから、「見せるノート」の作成にぜひチャレンジしてみてください。
絵や写真を上手に取り入れた谷氏のノート

「つまんねえ」って思うなら、面白くすればいい

――今後、会議はどのように変わっていくべきだと考えますか。
まず「やって良かった」という場にするべきです。みんながやって良かったねと思える。その意義や価値を全員がちゃんと感じている。「何だったの、あれ?」ではなくて、「やって良かったね」という場にする。
もう1つは、何らかの新しさを生み出す場であるべきだと思います。会議という場を通じて、新しいアイデアを出せる人が育っていくとか。新しい何かが生れていくような創造的な場であるとことが重要だと思っています。
――会議はビジネスパーソンとして成長する場になり得るということですか。
そうです。会議では、不特定多数の全然違う人たちの話をお互いに理解して、それに対する自分の意見をわかりやすく述べることが求められます。そのためには聞く力も、書いて見える化する力も、伝える力も本当はすごく高い次元で必要になるんです。
会議をうまく回せると感じたら、力がついている証拠だと思います。「あいつがいると会議がうまく回るよね」っていうのは、デキる人の特徴じゃないですか。そんな人材に成長できるプロセスをうまく会社でつくっていければいいですね。新人研修のようにオフサイトの勉強だけではなく、会議の中で。ビジネスって結構会議で動いていて、機会はたくさんあると思うんです。
――「会議がつまらない」とか、「時間のムダ」と思っている人でも、個人で学ぶ場にすることができますか。
できると思っています。「つまんねえ」って言っている時点で、「じゃあ自分から面白くしたらええやん」と思うんですけどね(笑)。「会議なんてつまらない」って言っても、出ざるを得ない。だったら、どうしたら面白くなるのかを考えて、動けばいいのになと思います。

文・鈴木涼太
写真・佐坂和也

谷 益美(たに ますみ)株式会社ONDO
ファシリテーター&ビジネスコーチ、イラストレーター。企業、大学、官公庁などでコーチング研修やコーポレートコーチングなど、年間150本以上の実践的学びの場づくりを行う。2015年、優れた講義を実施する教員に贈られる「早稲田大学Teaching Award」を受賞。香川大学卒。建材商社営業職、IT企業営業職を経て2005年独立。早稲田大学ビジネススクール、岡山大学で非常勤講師。雑誌やウェブサイトへの記事寄稿、取材依頼等多数。著書に『リーダーのための!ファシリテーションスキル』『リーダーのための!コーチングスキル』(すばる舎)、『マンガでやさしくわかるファシリテーション』(日本能率協会マネジメントセンター)など多数。

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