生存のカギを握る3つの会議【スマート会議術第105回】

生存のカギを握る3つの会議【スマート会議術第105回】弁護士 徐東輝氏

数多くのスタートアップ企業のサポートに尽力する弁護士の徐東輝氏。弁護士としてさまざまな企業のコンサルティングを手掛ける職業柄、徐東輝氏が会議のプロであるのは当たり前かもしれない。しかし、彼は「最初は低レベルの会議しかしていなかった」と振り返る。

そんな徐東輝氏が会議のノウハウを覚えたのは、NPOでの活動からだったと言う。弁護士でありながら、若くしてNPOの代表や企業の経営を掛け持ちでこなす徐東輝氏は、いかにして組織を束ねて動かしていったのか。東輝流組織論についてお話を伺った。

目次

会議に大切な4つの要素

――弁護士としてさまざまな企業のコンサルティングに携わる中で、会議に欠かせないと思われる条件があればお教えください。
会議に大切な4つの要素に、アジェンダ(議題)とゴール設定、時間制限、ファシリテーターの存在があると考えています。
僕は大学院生のときに「政治×テクノロジー×教育」を軸にしたMielka(ミエルカ)というNPO法人を立ち上げたのですが、いま振り返るとすごく質の低い会議をしていたんです。「今日は何話す?」っていう程度のレベルだった。その頃から会議のあり方がおかしいよなって疑問を抱いて、社会人の先輩たちに「会社ではどういう会議をやっているのですか?」と聞いて回ったんです。
そのときに出てきた最大公約数が、「アジェンダを設定して事前に共有する」ということでした。そのアジェンダを「議論」「報告」「確認」「決定」という4つに分けて、何にするかをまず決めます。そして、そのアジェンダで何を達成すればゴールなのかを決めます。
意思決定ができればゴールなのか、全体的に議論できればゴールなのか、どこまでの議論ができればゴールなのかを決めて、時間制限を共有しておく。そうすれば、全体的に何が重要なのか優先順位が決まって、大体この会議は何時間ぐらいで終わるっていうのがわかります。
ファシリテーターを決めて、そのファシリテーターに従ってタイムキーピングをしながら議論を回していくことができれば、うまくいくことがわかったので、それをずっとやっていました。
法律事務所に入所してからも、最初は思ったより会議はうまくできていなかったんです。弁護士ってクライアントとの会議はやるんですけど、弁護士内部のちゃんとした会議って意外とうまくできているところが少ないんです。いまの事務所も大手法律事務所から若手が集まって独立した新しい事務所なので、会議のノウハウを持っているものだと思いきや、まったく持っていなかったんですよね。
なので、僕がNPOで培ってきたノウハウを導入してやった結果、当時4~5時間かけても終わらなかったような経営戦略会議とかが、1時間半~2時間で終わるようになった。
基本的に会議に参加する前に会議が終わった姿が見えていないと、本質的な議論がちゃんとできないことを痛感しました。アジェンダ、ゴール設定、時間制限、ファシリテーターっていうのが、すごく重要なんだなって改めて思いました。
僕はムダ話とか雑談が始まった瞬間に貧乏揺すりを始めちゃうタチなんです(笑)。会議に参加している人全員の時間×人数分を奪っていると思うと、ムダな議論がすごく嫌なんですね。話が脱線しても事前にアジェンダとゴールさえ設定していれば、元に戻しやすいんです。

生死にかかわる危機感がある企業は会議も効率的になる

――大企業より、スタートアップの若い企業のほうが、効率的に会議を進められる人が多い印象がありますが実情はどうですか。
ベンチャーや小さい会社、小さい組織のほうが会議がうまくなるのは本質的に当たり前なのかと思います。なぜなら、それで決めたことをちゃんと実行して結果を出さないと死んでしまうから。大きい組織は多分そんなことをしなくてもすぐには死なない。曖昧にしていても、責任者が不明瞭でも、気づかないうちに忘れられていることもあり得る。そういう意味では生き死にに直結しているベンチャー企業や小さいNPOのほうが、ちゃんとやらないと死んでしまう。そこが違うのかなと思います。
僕たちの事務所も独立したものの、まだ本当にやっていけるのか生死を分かつような規模の事務所です。いまは30~40人のある程度の規模の事務所ですが、成長していかないと死んでしまうような事務所でしたし、NPOも誰かが休んでしまうとすぐに終わってしまう。結果を出さないと潰れてしまう組織。だからこそ、会議を効率的に進めていって、誰が責任者で、誰が実行者で、誰がコントリビューターで、ネクストステップが何かも明確にしていかないと、1週間後に進捗が出てこない。進捗が出ないということは何の意味もないことをやり続けるだけになる。
――変わらないと生き残れないという危機感がある会社と、いままで大きくなってきて成長してきたのだから、それをあえて変えるよりも守りが重視される会社があって、そういう会社は会議においても「守り」の姿勢が出てくるんですね。
そうですね。イノベーションのジレンマみたいに感じます。いまはそもそも変革が当たり前になっていて、政治情勢も経済情勢もすごいスピードで変わる。世界は変わっているのに自分の会社だけは変わらないのは、物理力学的にもちょっとおかしいと思っています。守ること、すなわち現状維持というのも変化に合わせて変化していかなきゃいけないってことなので、守るということはすなわち変化だと思います。
何かしらの変化を加えていかないと、守ることすらできない。守らないといけない組織においても、適切な守り方、変わり方はあるはずです。でも、その意識をもって業務をしてきた人が、すごく少ないんだろうなと感じますね。
――そういう意識はまだ根づいていないというか、本当の危機が直面しているのに、実感がないゆでガエル状態とも言えますね。
そうですね。ただ、僕の世代の大企業にいる人たちからは、そこまで非生産的なあり得ないような会議に直面したという話はあまり聞かないです。とはいえ、会議の量が多すぎるとか、会議をやったもののネクストステップがまったく見えてこないとか、そういう話はちょくちょく聞きます。僕らの世代が30歳~35歳ぐらいの間で、ある程度の責任ある地位に行きはじめると思うので、そのときに自分たちの周りから変えていかないと、何も変わっていかないと思いますね。
僕も事務所に入ったり会社に入ったりして、末席の会議でも勝手にアジェンダをつくって、勝手にファシリテーターをしたりするので、わりと個人でも変えていけると思っています。問題意識を持っている人たちがコミットしないといけないのかなと思います。

従業員エンゲージメントが低い組織はいずれ死んでしまう

――いまは転職や起業がしやすくなっていて、旧態依然の会社では優秀な人ほど抜けていく現状もあります。
それはまさにそうだと思います。特にアメリカでは「従業員エンゲージメント」と言われていて、従業員が社内で本当に自分がやりたいことができているのか、モチベーションを高めていけるのかちゃんとできない限り、離職率が高まるんですよね。採用コストがものすごくかかっているにもかかわらず、育てた社員がすぐ離れてしまうのはすごくリスクだと思います。非効率な会議もそうですが、従業員エンゲージメントが低い組織はいずれ死んでしまうので、そうならないようには気をつけたいと思っていますね。
――そうならないためのポイントはありますか。
いくつかあって、たとえば僕の事務所で言うと、僕が導入した会議が3つあります。ひとつが3カ月に1回のCEOとの 1 on 1ミーティングを全社員でやる。まだ従業員が50人未満なので、社長と事務所の代表と全社員が 1 on 1ミーティングをやるのがひとつ。
もうひとつが半年に1回事務所を出て、海の家とか温泉とかに行って、半年間に溜まった課題を全部解決するというオフサイトミーティング。そこで事務所や自分が抱えている課題を匿名でポストしてもらって、それを全部解決するというのを一日かけてやります。
最後はマネジャーとの 1 on 1とパルスチェック。「いまあなたは自分の仕事に満足できていますか」とか、「上司と関係良好ですか」とか、「自分がやっていることが組織の利益につながっていると思いますか」といった質問をして、その回答を元に直属の上長のマネジャーと一対一で会議をします。
この3つを取り入れて、自分が組織のために何か役に立っているのだろうか、組織に溜まって見えない課題はないのか、対話によって全部回収することができるようにします。うちの事務所は私的な事情で辞めた人が一人だけいますが、会社の事情で辞めた人はいない。そういう意味では、いい感じの従業員エンゲージメントが生まれているのかとは思っています。
――最近は1 on 1ミーティングを導入する企業が増えていますが、会社によって1 on 1ミーティングの定義や求めることがまだバラついている印象もあります。
うちの事務所では、CEOとの 1 on 1とマネジャーとの 1 on 1はまったく違う目的をもってやっています。マネジャーとの 1 on 1は、完全にパルスチェックの確認なんです。パルスは波長という意味で心臓のパルスと似てるんですけど、自分の体調どうですかとか、精神的に大丈夫ですかとか、やりたいことはできていますかっていうことの確認ですね。
パルスチェックというのはクラウドベンダーのコンカーさんの命名ですが、それを参考に自分たち流にアレンジしてやっています。基本的に業務内と業務外の話をマネジャーに任せているのですが、どちらもできるようにしてあげる。人生相談とかもやってあげるみたいなところですね。
CEO との1 on 1は、単純にCEOに言いたいことを言える場所にしていて、マネージャーにも言えないことが言える場所であればよいので、雑談でもいいんです。給料交渉をしてもいい。自分が組織の中で思ったことを何でも言っていい場所にしています。自由に話す雰囲気づくりの意味でも場所は非常に大切なので、 1 on 1ミーティングは外のおしゃれなカフェなどを使ってやります。
特に業務外コミュニケーションは重視するようにしています。Googleなどもやっていることですけど、業務上のコミュニケーションだけだと人間的な信頼関係は生まれにくい。心理的安全性も高まりにくいんですよね。この人なら信頼できるとか、この組織ならやっていけるという信頼関係が生まれにくいので、業務外コミュニケーションをなるべく取るようにしていています。雑談もそうですし、一緒にゲームする場所をつくったり、わざとチームランチを入れてみたりとか、そういうのをやるようにはしています。
――そのような心理的安全性を含め、環境づくり以外に地位や経験に関係なく自由に発言でき、かつ個々のモチベーションを維持するためにはどんなことに心がけたらいいと思いますか。
何をしたら自分が幸せになれるかという“ウェルビーング”を早く決めたほうがいいですね。本とかを読んでこうであるべきだという「べき論」に囚われるのではなく、自分でウェルビーイングであるために何をしたらいいかを決める。個々人で何が自分にとって一番いい状態なのかを自分で決めます。
自分の会社の会議がなぜダメなのかをいきなり理屈で考えるのではなく、自分のウェルビーングにどう結びついているのか考えるんです。それがわからないとモチベーションは絶対にわかない。パニックゾーンに陥って混乱するようなヤバい仕事なんてできないし、ピンチも乗り越えられないです。
ただ、そのためには考えることに本気にならなきゃいけない。考えることを放棄してしまっていたら何も始まらない。どんな環境であってもどんな立場であっても、一個人ができることはあるはずなんです。毎月給料をもらっていることは、それだけの価値があるということなので、評価に値する以上のことはできるはず。
どの会社にもある程度考える人はたくさんいます。でもほとんどの人がただ考えるだけで行動しない。行動してもしなくても給料は変わらないから、行動してもメリットがない、面倒くさいと思ってしまうんです。でも、障害を乗り越えた先にどんなウェルビーイングがあるのか見えてくれば、行動するはずなんです。
自分にとって何が心身ともに一番良好な状態でいられるのか、ウェルビーイングがわかると人生の優先順位が決まるので、迷ったり悩んだりすることなく、楽しい毎日が送れると思いますよ。

文・鈴木涼太

徐 東輝(そぅ とんふぃ)
弁護士(法律事務所ZeLo・外国法共同事業)、NPO法人「Mielka」代表、「JAPAN CHOICE」運営、「NewsPicks」プロピッカー。京都大学法学部卒。京都大学法科大学院修了(京都大学総長賞受賞)。2016年司法試験合格。2017年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。データ戦略、アルゴリズム規制対応、プライバシー規制対応を始めとする戦略法務を得意とする。ベンチャーファイナンス案件及びファンド組成案件を多数取り扱う。スタートアップの業務支援の対価として金銭以外の株式または新株予約権等を取得するスキームを複数構築。IT系上場企業に出向し、ECサービス、システム開発、ゲーム事業等の法務及び紛争を担当。子会社10社以上の内部監査も担当し、リスク事象の未然防止実績多数。個人データを多数取り扱う事業者に対する規制対応を行い、Apple Storeランク1位のビジネススキームを事業サイドと確立。

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