with コロナ時代の会議のあり方【スマート会議術第123回】

with コロナ時代の会議のあり方【スマート会議術第123回】マキナ株式会社 代表取締役 植川悠氏

新型コロナウイルスの影響を受けて、多くの企業がテレワークを導入し始めている。コロナ禍が収束した後も、テレワークの流れは止まらないだろう。なぜならテレワークは働き方改革の一環でもあり、仕事の効率化や生産性向上に一役買うと考えられているからだ。

実際に「通勤時間が省ける」「会議が短くなった」など、テレワークならではのメリットを実感している人たちも多い。しかし一方で、「対話しづらい」「ストレスが溜まる」「自宅では集中できない」などと、戸惑う人たちが多いのもまた事実だ。

では今後、ますます浸透していくテレワークを上手にこなすにはどんなことに気をつけたらよいだろうか。テレワークにおいて、まず欠かせないのがリモート会議だ。自宅勤務になっても、会社の人やお客さんとの打ち合わせやコミュニケーションは不可欠。リモート会議を双方にストレスなく進めるためには、リモートならではのコミュニケーションの仕方がある。

会議のムダを減らすクラウドサービスのSavetimeを開発したマキナの植川悠氏に、テレワーク時代の会議のあり方についてお話を伺った。

目次

テレワークは全員でやることが効果的

――新型コロナウイルスによってテレワークを導入する企業が増えていますが、コロナ以前とコロナ以後でテレワークに違いは感じますか。
これまでも働き方改革の一環でテレワークを導入していた会社もありますし、私自身、部分的なテレワークはやったことがありました。それがコロナ禍によって全社員がフルテレワークになった会社が多かったと思います。いままで感じていたメリット・デメリットと、今回の全社員によるテレワークにおけるメリット・デメリットは変わったでしょうね。
これまでのテレワークは、テレワークをする一部の人の疎外感が高かった。会議室には4人いて、リモートの人が1人だけモニターの中にいるみたいな状態ですね。会議室は盛り上がっているけれど、リモートの人は状況が良くわからない感じで雰囲気に入っていけないといったことが多かった。
いままでは、テレワークをする人はマイノリティで疎外感が高いというデメリットが強かったと思いますが、テレワークが多数派になると全員の行動がテレワークを前提としたものになり、疎外感も情報の格差もなくなる。テレワークは基本的には全員でやったほうがいいということがわかった。この認識が得られたのはとても大きかったですね。
――ご自身が具体的に感じたメリット・デメリットはありますか。
もちろん、通勤がないとか、その分使える時間が増えるといった点はありますが、会社を経営するという面では、採用(雇用)の選択肢が増えるということはメリットでしょうね。いままで企業において、物理的な距離というのは採用上大きな問題でした。人事の方が日本中を回って新卒採用活動をするといったところから始まって、転勤の費用、家族の転勤に伴う退職、採用力を上げるための本社の立地など、ありとあらゆる問題が物理的な制約を受けていたいと思いますが、そういった問題の大半がなくなるわけです。
これは、テレワークを前提にして採用と就労をできる企業のほうが、そうでない企業よりも採用力が高い、ということを意味します。正規雇用もそうですが、副業、インターンなども含めて、場所を問わず、時間を問わず仕事をできるような仕事が増えていくのではないでしょうか。ここからさらに「言語」という制約をなくすことができる会社は、国内から採用する必要さえなくなり、海外の人材も視野に入れて採用活動ができるようになります。
テレワークのデメリットは、ちょっとした雑談をするような余白やきっかけが少ないので、会議やテキストチャットにしづらいような情報が社内に流通しづらくなったり、1対1の信頼関係を形成しづらくなったりすることでしょうか。ちょっとコーヒーでも飲みに行こうかとか、明日ランチ一緒に行こうかみたいな、すこしずつ築いていた人間関係が同じようにはつくりづらくなったと思います。だから、いまはこれまでつくっていた余白をどうやってつくるかを模索している感じですよね。別の方法で人間関係をつくる技術をみんなが磨こうとしているところですかね。
雑談しやすい環境をつくるためにオンラインでWeb会議ツールを常時接続しておくという手段もありますが、生活音が入るので抵抗感がある人も多いでしょう。私も会社では、スピーカーは常時オンにして誰かが話しかければ全員に聞こえるようにしていますが、自分のマイクはミュートにしています。ただ慣れてくればマイクも全員オンにした状態で仕事するという会社も出てくるかもしれませんね。「生活音が入っちゃうけど、まぁいいか」みたいなに意識が変わり、家とオフィスの境界がもっと曖昧な世の中に変化していく可能性はあるかもしれません。

付加価値をつける意味でのオフィスは形を変えて残る

――日本の住宅事情だと自宅でのテレワークはなかなか難しいですね。
そうですね。日本ほど狭小な住宅事情を抱えている国は世界の先進国でもあまりないので、欧米のほうが楽だろうなとは思います。家族がWebカメラに映らないように隠れているような話もよく聞きますよね。そういう意味ではテレワークの普及に伴って人口が地方へ分散し、住環境が改善する傾向が強まっていってほしいですね。
――テレワークだと働く場所を限定されることはなくなりますが、一方で大都会の高層ビルで働きたいという憧れのようなニーズも強くありそうですよね。
そうですね。いままで人気のあったエリアの付加価値はさらに上がるでしょうね。貴重な場所とかブランドのある場所が持つ影響力は下がらないと思います。リアルな場所が無意味になるわけではない。ブランドのない土地は均一化し、ブランドのある土地はさらに価値が上がっていくような二極化が起きるのではないでしょうか。東京でいえば、中心部の価値は変わらないが、その外側の価値が均一化すると思います。週に1回しか会社にいかないならば、会社まで1時間でも1時間半でも広い家に住みたいですし、会社に全くいかないならば、地方も選択肢になります。
――週1回だけの出勤なら、なおさら付加価値の高いオフィスに行きたいと思うかもしれませんね。郊外の広いところより、狭くても夜景のきれいな都心のおしゃれなビルで働きたいと。
大半をテレワークに移行する会社の場合には、オフィスがより機能的なものから象徴的なものなり、作業する利便性ではなく、オフィスに行く体験の素晴らしさが求められそうですね。面積は減るけど、坪単価あたりのコストを上げて出社したときにすばらしい体験ができる場所が必要になると思います。
こうしたオフィスを1社で契約しても、使っていない時間帯、誰もいない日が多いようならば、いままでの貸会議室やコワーキングといったものとはまた違う新しいシェアオフィスの業態が生まれるきっかけにもなると思います。私もフルテレワークになっても月1回とかは全員で集まりたいと思います。これまでの貸し会議室はどちらかというとセミナーや研修の用途で集まるような類の会議室が多かった。ときどき社員が集まって1日を過ごすための会議室ではなかったと思います。その日はみんなここに集まって仕事をしようといった「1日だけ使うオフィス」のようなニーズあり得るだろうと思います。

テレワークで進む本当の意味での多様化

――一方で家をオフィスにしなければならない、というのもまたいろいろと課題が多いですよね。今後もきっとその流れはしばらく変わらないだろうから、パラダイムシフトが求められていると思います。
テレワークで会社に行かなくてもいいけど、家でやるのは厳しいという問題もありますよね。自宅の近隣のターミナル駅でコワーキングしたり、シェアオフィスで働きたいというニーズはすごく増えそうですね。緊急事態宣言が出た頃に、カフェなどを観察していたのですが、お客さんの半分くらいは会社に出社できないけど家でも働けない人たちが仕事している感じでした。いままでのシェアオフィスやコワーキングの立地は都心が中心ですが、今後はどちらかというと住宅街に近くて都心まで出なくてもいい地点で働けるようなサテライトオフィスは増えていくと思います。
――そうなれば通勤ラッシュは消えていくかもしれないしメリットは大きいですね。
はい。サテライト的なシェアオフィス群と、月に1回だけみんなでわざわざ集まって働くようなちょっと本社施設と、本当の意味で働き方が多様化しそうですね。いつ、どこで、何をするのかに応じて改めていろいろなものが大きく変化していくきっかけになると思います。

人が決めることの重要性は高まっていく

――今後、会議はどう変わっていくべきか、あるいは変わっていくと思いますか。
どんなにテレワークが進んで人がどこで働くようになっても、どれほどAIが進化しても、人が決めることの重要性は逆に高まっていくと思います。テレワークが進む、というのは場所ではなく能力によって労働力の価値が決定されるようになる、ということを意味します。世界中で「貴重な労働力はどこに住んでいようが高い」という状態が加速するわけです。働く側も、地価の高い場所にいる意味が薄れるので、すでにシリコンバレーから離れようとする動きが始まっていますよね。
一方で、汎用的なAIは非常に安く、多くの企業がアクセスできるようになっていきます。極端なこと言えばAIで解決できる問題は、どの企業でも解ける問題なわけです。画像認識のAIはいまや非常に安く使えますが、どの会社でもちょっとコストをかければ使えますよね。裏返すと、AIが成熟し社会に浸透していく中で、企業間の競争はAIでやれないことの差分で何をやっているのかが問われるようになります。つまり結局「人間が何をするのか」ということですね。
そのため今後も会社内におけるコミュニケーションや人間による意思決定が重要であり、会社の成果を決定づけると思います。働く人の成果が、どういった意思決定をできたのか、どのような難しい判断をできたのか、といった点で問われるでしょう。経営者はすでにそうだと思いますが、こういった側面が多くのホワイトカラーにまで拡大していくと思います。
テレワークになって、いままでなんとなく会議室に座っていた上司の価値がまったくなかったことがわかった、みたいな笑い話を聞きますが、まさに働き手のアウトプットやアウトカムが見えやすくなるのがテレワークです。Savetimeはこういった変化を前提として、より多くの人が、会議で良いコミュニケーションができ、質の高い意思決定ができるように支援していきたいですね。
世の中全体の変化でいえば、会議に関わらず、働き方を変えるとか、働くための仕組みを変えるところに積極的に投資できる世の中になるといいなと思っています。日本人はどちらかと言えば根性と気合でどうにかしようという国民性だと思いますが、今回のコロナ禍でやり方を変えることの重要性に気づいた。働き方を変えるところにしっかりと投資できる世の中になるよう、私も後押しをしていければと思います。

文・鈴木涼太

植川 悠(うえかわ ゆう)マキナ株式会社
マキナ株式会社代表取締役社長。慶應義塾大学環境情報学卒。東京大学大学院情報学修士。2006年~2012年、シンクタンクにて流通・小売業、製造業等に対するコンサルティング、経済産業省、内閣府、農林水産省等の調査研究に従事。2012年にスローガンに入社し、取締役としてGoodfindにおけるセミナー講師、メディアディベロップメントディビジョンのディビジョンマネジャーを務める。2017年にマキナ株式会社を設立。会議のムダを減らすクラウドサービスSavetimeを開発。趣味は、自転車に乗り、ときどきドラムを叩いて、希に海に潜ること。
Savetime
https://youtu.be/YM9YFrjvado

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