価値観を共有するチームは強い【スマート会議術第128回】

価値観を共有するチームは強い【スマート会議術第128回】カスタマーズ・ファースト株式会社 代表取締役 片桐あい

コロナ禍を受けて加速化が進むテレワーク。今後も新しい生活様式の中で多くの企業が導入し、決して一過性で終わることないだろう。

「テレワーク時代はマネージャーの役割がますます重要になる」

そう語る片桐あい氏は、20年前からテレワークを実施してきた、いわば“テレワークのスペシャリスト”だ。米国の大手IT企業のサン・マイクロシステムズで業務改善プロジェクト・マネージャとして、国内のみならず海外のメンバーとも連携し、さまざまな企業の課題を解決。そして、産業カウンセラーとしての知識と経験を活かし、キャリア研修やメンタルヘルス研修など数多くの経験と実績を持つ。

テレワークは働き方改革の一環としてコロナ禍以前から推奨され、一部の企業がそのメリットを享受してきた一方、まだ対応しきれずに戸惑う企業も少なくない。いま突然訪れたテレワーク時代に、はたして私たちは順応していくことができるのだろうか。

そんなテレワーク時代に向けて、『これからのテレワーク──新しい時代の働き方の教科書』を上梓した片桐あい氏に、これからの働き方についてヒントを伺った。

目次

テレワークで働き方に迷う人びと

――著書『これからのテレワーク──新しい時代の働き方の教科書』は、まさにwithコロナ時代の働き方改革の提案になっていますが、やはりコロナ禍を受けての出版だったのですか。
はい。緊急事態宣言によって、何の準備もないまま急に会社に行けなくなったという方々の声をよく聞きました。突然テレワークをしなさいと言われて、「自分たちはこれから何を基準に評価されるんだろう」という不安の声が多かったのです。
最初は仕事のゴールや評価基準が変わるわけでもないのに、なぜそこで悩んでいるんだろう?と思ったのですが、「上司は目の前で汗水たらして仕事している様子が見える人を評価する」って言うんですよね。それがそもそもおかしいと思ったのですが、おそらく世の中にそういう方がたくさんいる。私は20年ぐらいテレワークをしてきたので、もしかしたら役に立つ話ができるんじゃないかと思い、提案した企画が約1カ月で緊急出版となりました。
――20年前にすでにテレワークをする必然性があったのですか。
当時はJavaを開発した本社が米国にあるサン・マイクロシステムズ(現・日本オラクル)の日本法人に勤めていたのですが、プロジェクトごとに世界各地にマネージャーがいたので、離れたところにいるマネージャーが部下をマネージメントするスタイルをとっていました。私自身もプロジェクトメンバーは海外にいることがほとんどだったので、普通にテレワークをせざるを得ない環境だったんですね。 
また、私は育児をしていたのでフルタイム勤務が難しかったこともありました。2人の子どもを育てながら働いていたのですが、申請すれば在宅勤務もできたんです。それがちょうど20年前で、その当時からそういう働き方が許されていたのが大きかったですね。
――20年前はインターネットが普及してきたばかりの頃だと思いますが、ITの進歩によってテレワークの環境はどのように変わってきていますか。
最初はやはり電話でした。高い回線料を払って海外の人と電話で話す。やがてCiscoとかPolycomといった複数の離れた人たちと同時に会話ができる電話会議システムができました。でも、お互い回線の状態も不安定だし、トラフィック(転送データ量)が結構あったので、聞きづらいな~という感じもありました。その後に、たとえばCiscoのWebexやSkypeといった画像つきの電話会議システムやビデオ会議システムが出てきました。ただ、それも画質はかなり粗いし、音声も宇宙との交信みたいにディレイ(遅延)が結構あったりとかして聞きにくい感じだったので、やっぱりその当時にできる最大限の機能を使ってお互いに工夫をしながら進めていたという感じです。いまのZoomに代表されるような電話会議システムは回線も含めて本当にストレスがなく、やりたいことがほぼ実現できるのでやっぱり進化を感じますね。

変化に対応しなくてもいい理由を求める人は厳しい

――今回コロナ禍で初めてテレワークをやってみて、コミュニケーションがしづらいという声は多かったようです。
そうですね。コミュニケーションの問題は間違いなくあります。マネージメント側も慣れていないし、働く側にしても連携だったり、指示系統だったり、2人が同じ作業をしたりとか、やっぱり見えなくなったことによってミスも起きがちになる。連携不足によっていろいろ問題は明るみに出たのではないかなと思います。
かといってコミュニケーションってやりすぎも良くないし、監視をしたりされたりする状態も、やはりモチベーションに悪影響があります。マイクロマネージメントで指示通り進んでいるかいちいち細かく確認されたり、1時間に1本電話がきたり、メールがきたり、返事がないと「どうなってるんだ!」みたいな感じになったりする話も聞きます。そこは性善説に立ってお互いの信頼関係を築きながら仕事をすることがすごく大事だと思います。
――特に大企業だとルールでがんじがらめになりそうなのは想像がつきますね。
そうですね。本当は緊急事態だからルールよりも優先してやらなければいけないこととか、やりにくいルールを変えることが重要ですが、母体が大きいとなかなかすぐにできないという悩みがあったと思います。
一方、中小企業はおそらく費用の問題で、1人1台のパソコンが用意できないとか、使っているツールのユーザーライセンスを増やさなければいけないなど出費がかさむ。そういうハード面やライセンスの問題によって、お金がかかってしまうところは悩みどころだったと思います。
――著書では、テレワークを初めてやる人にとって基本的なことが解説されていますが、読者からはどんな反響がありましたか。
いまはテレワーク関連の本がたくさん出ていますが、Zoomの使い方みたいなシステム周りの紹介の話が多いですね。私はそういうハード面よりはコミュニケーションを軸にしたソフト面をお伝えしようと思いました。
一緒に働く人への気遣いだったり、チームワークだったり、モチベーションだったり、仕事の成果は人の内側に働きかけることによって出せるということを押し出しました。お金や時間をかけなきゃできないことではなく、すぐできることを書いたので、その点について役に立ったという声をいただくことが多かったですね。
――テレワークではなくても、もともとちゃんとコミュニケーションができていない人がツールのせいにしている気もします。
変化を受け入れられない人は「ツールが」「環境が」と言いわけして、なかなか飛び込まなかった。やっぱり今回の変化で、情報に踊らされたり、変化に対応しなくてもいい理由を外側に求めたりした人たちは厳しかったと思います。「どうなるかわからないけど、とりあえずやってみよう」ってやり始めた人はうまくいってもいかなくても、何かしらの結果を得られるので、その結果をもとに次のアクションが起こせる。そういう試みができる人とできない人の差が、これからは大きくなっていくと思います。

パフォーマンスを可視化することが大事

――テレワークになったことで大きく変わったことはありますか。
テレワークになったことで結果を見て判断するという成果がわかりやすくなりましたよね。忙しそうにしているとか、働いているように見える人が、テレワークになった途端にアウトプットだけ見ると「えっ? こんだけ?」みたいな(笑)。そういう結果しか出せなくなってしまう人がおそらく一定数出てきたでしょうね。「この人、いままで何をしてきたんだろう?」となったときに、仕事のあり方そのものを立ち返って考える必要が出てきたと思います。
もうひとつは、仕事ができるのに奥ゆかしくて自分でアピールができない人も、自分でアピールしていかないと評価されにくいし、会社も残念な結果になってしまうこと。つまり裏方さんとして一所懸命やっていても、「その仕事をやっていますよ」「これが仕事の成果に紐づいていますよ」ってアピールしないと、テレワークだと見えづらくなる。
アピールができなかったことで、その人のパフォーマンスが低いと判断されてリストラされたあとに、じつは会社のために役に立っていたと気づいても遅い。だからやっぱり自分の仕事の成果をアピールする、マネージャーは目に見えないパフォーマンスをちゃんと評価する。これもビジネススキルとしてはこれからさらに大事になってくると思います。
――マネージャーの裁量でできることって工夫すれば結構あると思います。いつも90分かかっている会議を30分に凝縮するだけでも集中力が変わりますよね。時間が3分の1になったら3分の1のパフォーマンスしか出せないかっていうとそうとは限らない。そういう時間の刻みもパフォーマンスを客観的に評価するうえで重要だと感じます。
重要ですよね。もちろん見える化が難しい職種の方々もいると思いますが、何らかの工夫をして見える化していくことも大切なスキルだと思います。ちゃんとパフォーマンスを可視化できる人と、ざっくりと「減ったかな」みたいな感じでしか表現できない人とでは大きな差が出てくる。マネージメントもそうだし、働く人も自分のパフォーマンスをきちっと正当に評価してもらうためにはすごく必要なスキルじゃないかなと思います。
――アウトプットでしか評価されなくなってくると、9時から5時まで会社にいれば仕事をしていたように見えた人も成果で評価せざるを得ないから、効率や生産性は上がると考えてよいのでしょうか。
そうですね。ただ、効率や生産性ばかりを追求していても、人のモチベーションが下がっては意味がありません。モチベーションも効率や生産性に大きく影響しますが、人のモチベーションを何点上げましたって評価もアピールもできないので、なかなか数値化ができない。仕事の成果ともうひとつは、人間性やチームのモチベーションを高めていくことで、ムードに貢献していくこともすごく大事なことだと思います。
たとえば360度フィードバックとか、満足度を測るとか、Thanksレターや表彰制度を作ったりすることで、見えなくなったり離れてしまったりした分、人間らしい関わり方は、あえてやっていかないと人間関係が希薄になってしまうので、成果とモチベーションの二軸で見ていくべきだと思います。

チームにどうなってほしいかというビジョンを持つ

――テレワークのデメリットとして、なかなか雑談ができないという話をよく聞きます。コミュニケーションを円滑にしたり、アイデアを出したりするうえで雑談を求める人は多いですね。
そうなんです。だから私は「雑談は意識してください」と言っています(笑)。成果や仕事のアピールなどで足跡を残すことも大事ですが、「雑談」という余白も欠かせない。テレワークは本来ワークライフバランスの点でもメリットが大きいですが、逆効果になる場合もあります。仕事とプライベートの切れ間がなくなってしまうという方が出てきたのも事実です。仕事をしながら常に家庭のことを考えて、家庭のことをしながら常に仕事のことを考えてみたいな、中途半端な感じで集中力を欠くという方もいます。
そこはあえて周囲の人たちもお互いに気をつけるとか、声がけをすることがメンタルの不調を防いだり、不調者に早く気づいたりすることにもなるので、特にリーダーとして新たな力としてはそういう雑談力や情報収集は求められますね。
たとえば親御さんがちょっと調子悪くてとか、子どもが熱を出しやすくてとか、そういう話はあえてしないと聞けないですよね。それが隣にいてあくびをしていたら「寝不足?どうしたの?」とか聞けるけど、テレワークだとそれもできなくなる。だから会議の前にちょっと雑談の時間をとるような工夫をしてほしいと思います。
――一歩間違えるとプライベートに踏み込みすぎることにもなるので、難しいところですね。
そうですね。セクハラ、パワハラと受けとられることもあるので、やはり普段から関係性を築いておくことがすごく大事だと思います。セクハラ、パワハラに発展するのは、必ずその手前に問題があるんですよ。もともと関係性の良くない上司だったり、何か言われてモヤモヤしたりしているときに、ちょっと言われた嫌味な一言とかでスイッチが入ってしまう。
電車で人の足を踏んだ人は気づかなくても、踏まれたほうはずっと覚えているものです。周りの人も「さっきの言い過ぎじゃなかったですか」と言ってあげないといけない。特に若手社員は叱られ慣れてないし、自分が貢献できてないんじゃないかと不安を抱きながら仕事をしている人も多いので、ちょっとした一言がとどめになってしまうこともあります。だから、特に若手メンバーは網の目のようにみんなで見てあげるように心がけてほしいです。
――テレワークではいままで以上にマネージャーの役割が重要になりますね。
本当にそうだと思います。チームがうまくいっているマネージャーと、チームがうまくいかないマネージャーって、チームにどうなってほしいかというビジョンを持っているかどうかで決まってきます。 
たとえばマネージャーには、半期や年に一度、自分の部門をどうしていきたいかというのを語ってほしいんですよ。マネージャーが上層部から下りてくる指示をそのまま下に下ろすだけでは人はついてきません。中間管理職の人も「だって上からそう言われているから」って感じで落とし込むだけだと、下の人も「それ、あなたのゴールじゃないんですか」ってなるので。
マネージャーの付加価値とか自身の価値観を言葉にすることがすごく大事なんです。なぜこの仕事をしなければならないのか、この仕事にはどんな意味があるのか、この仕事を通してどんな世界を実現したいのかを時間をかけて語る。そういうことを語ることによって、一体感が生まれるし、仕事で判断に迷うようなことがあったときも、マネージャーの思いや大事にしているビジョンを思い出すと「あ、じゃあこっちかな」って現場で判断ができるようになったりするんです。
違う価値観を持つ人たちも、その違う価値観をお互いに共有する場を持つ。価値観は人によって違うものだから良し悪しは決められないし、正解はない。だからそれがきちっと共有できるチームは強いし、お互いのことをリスペクトできる。そういうマネージャーさんをたくさん育てたいと思って、研修でも必ず価値観については扱います。
片桐あい(かたぎり あい)
カスタマーズ・ファースト株式会社代表取締役、産業カウンセラー、キャリアカウンセラー。行動習慣ナビゲーター。人間関係問題解決コンサルタント。サン・マイクロシステムズ株式会社(現・日本オラクル株式会)サポート・サービス部門に23年間勤務。2009年から「キャリアディベロップメント&トレーニング」という部署を立ち上げ、延べ1500名のエンジニアの育成に携わる。また、グローバルのプロジェクトで「エンジニアのトレーニングの開発」のためのメンバーに選出され、各国の教育担当とカリキュラムを開発する。卓越したコミュニケーション能力・問題解決能力を武器に2012年に独立し、企業研修講師となる。これまで、年間約120件登壇し、約2万5000名の育成に従事。また、人財育成コンサルティングで、延べ3400名の育成にも尽力。著書に『職場の「苦手な人」を最強の味方に変える方法』(2019年5月 PHP研究所)、『一流のエンジニアは「カタカナ」を使わない!』(2020年4月 さくら舎)、『これからのテレワーク』(2020年5月 自由国民社)がある。

文・鈴木涼太
写真・大井成義

この記事の連載・シリーズ

  • ライセンスオンラインならWeb上で見積もりから購入まですべて完結!

イベント・セミナー特別企画

  • 【初心者必読】成功するイベント・セミナーの作り方
  • 【集客セミナー塾】セミナーで大きく差がつく小さなこだわり
  • 「会議HACK!」とは?

人気記事ランキング

最新インタビュー

新着記事

会議あるある川柳(会議のオキテ)

反論で 居場所なくなり…【会議のオキテ07】

タグ

PAGE
TOP