いまはテレワークを振り返るいいチャンス【スマート会議術第129回】

いまはテレワークを振り返るいいチャンス【スマート会議術第129回】カスタマーズ・ファースト株式会社 代表取締役 片桐あい
米国の大手IT企業のサン・マイクロシステムズで、日本のみならず海外のメンバーとも連携し、20年前からテレワークで業務をこなしてきたという片桐あい氏。

大手国内ITベンダーとの協業プロジェクトや海外のメンバーとの業務系プロジェクト運営の経験と実績を基に、現在はオリジナルワークやケーススタディ、現場を意識したロールプレイングなど、体感型の研修を実施するなど業務カウンセラーとして活躍する。

コロナ禍によって、突然訪れたテレワーク。通勤や会議など時短のメリットは大きい一方、コミュニケーションに課題を抱える企業も多い。はたしてテレワークは一過性のものとして終わってしまうのか。あるいは今後、働き方改革の一躍を担うキーワードとなるのか。

この6月に『これからのテレワーク──新しい時代の働き方の教科書』を上梓した片桐氏に、テレワークのメリットと課題についてお話を伺った。
目次

リモート面談のメリットに多くの人が気づいた

――テレワークが推奨されて、オンラインでも1on1ミーティングのように一対一で話す機会が増えていますね。
オンライン面談は意外といいですよね。もちろんベースの関係性がないと難しいですが、自宅からだと結構リラックスをして臨めますよね。一対一で話をするときに、普段目を合わせられないようなシャイな人でも、きちっとカメラを向くことで目が合わなくってもちゃんと心を開いて会話をする状態に入りやすかったり、部屋にあるちょっとしたものに「何それ、趣味なの?」と言って個人的な話のきっかけを得たりすることもある。普段こんなこと聞けないなっていう深い話も「ところでこれってどうなの? 前から聞こうと思ってたんだけどさぁ」みたいな感じで話をすることもできるので、チャレンジしてみるといいと思います。
――家庭訪問みたいですね。自分の城で先生と話し合うのでちょっと気持ちが開放されるみたいな(笑)。
そうそう。家庭訪問です。で、そのときに大切なことは自己開示ですね。マネージャーからまず開示したほうがいいですよね。たとえば「なんか最近さぁ、リモートになっちゃって人と会話する機会がなくて寂しいよなぁ」と、自分から本音の部分をちょっと出すのは大事です。第三者が聞いているとなかなか言えなかったり、会議室で改めてするような話もオンラインだとできたりする。まずは自分から開示をしてみて相手の反応なども見つつ、2~3回重ねていく。そういう意味でリモート面談のメリットを感じるという話はよく聞きます。
――個別面談をするときに、実際に狭い会議室で2人きりでやると、緊張感もあって説教が先立ったりしますが、オンラインだと説教はしにくい空気もありそうですね。
そうですね。オンラインで説教されても心はオフラインにできるし、殴られることもない(笑)。心理的・物理的な安全性が担保されるんですね。リアルに密室で一対一で話をすると泣きそうになるくらい嫌だとか、吐きそうになるという人もいますが、物理的に離れているし、所詮13インチぐらいのモニタの中の話なので。
――顔を見たくなければ勝手に画面のワイプを小さくすればいいですもんね(笑)。
そうなんですよ、小さくしちゃえば済む(笑)。そのあたりは距離感も保てるし、「あ、もうこれ以上入っちゃいけないな」って深追いをせずにオフラインにすることもできる。リアルだと話している最中にさっと立ち去るのは難しいですが、もうこれ以上は無理と思ったときにオフラインにする選択もあるので、そこはお互いに安心して会話することができます。あと、自分の姿も映せるじゃないですか。自分の怒っている姿を見ながら会話したくないですよね(笑)。
――自分を客観視できる意味では冷静になれそうですね。
そうなんです。相手を見るだけじゃなく、自分もカメラをオンにして会話をすると、目をつりあげていたり真っ赤な顔になっていたりすると、嫌でも目に入るので抑止力になる。
――面談中の録画もできますしね。
録画はエビデンスになるのでパワハラ面談にもなりにくいですね。録画すると相手にわかっちゃいますが、あらかじめ録画するルールにしておけばいいし、こっそりスクリーンショットとかは撮れるじゃないですか。「上司めっちゃ激昂中」みたいな(笑)。そこは自分もマネージャーも理解したうえで使えるし、面談を受ける側からしても、自分の身を守ることができる。そういう意味ではいいツールですよね。

変化に対応する力がすごく大事になってきている

――リモート会議をするうえでもファシリテーターの役目はやはり必要でしょうか。
ファシリテーターはいたほうがいいと思います。ファシリテーターとかシステム管理者とか大仰にしなくても、○○係でもいいと思うんですよ。ツール係みたいな人を置いて、その人に使いやすいツールとか、バージョンアップがあったらそこを必ずキャッチアップして配信するように係を決めればいいと思います。ツール類は会社によってバラバラになりがちですが、やはり同じチームで仕事をしていくうえでは、基本的なルールが決まっていないとミスコミュニケーションが絶対起きるんですね。「見た」「見てない」「既読がついていたでしょ」という議論をすることはまったく意味がないし、関係性も悪くなるので、ある程度の基本的なルールとツールは決めておきたいですね。
――偉い人が社内にいるシステム担当者に「作っておいて」「やっておいて」って言って、システム担当者がツールだけ用意すると、運用しているうちに不都合があってアップデートしたくても、誰が責任者かわからないまま放置されてしまうことがよくあります。
本当にそう。それがお客さんの案件だったら要件定義は必須じゃないですか。社内であってもそこは手を抜かずにきちん要件定義はしてほしい。使いにくいシステムを使わされているフラストレーションは結構溜まりますからね。
緊急事態宣言が出たこの数カ月の間は仕方がなかったと思うんですよ。待ったなしだったし、やらなきゃいけないことと、やらなくていいことも整理されていないまま始まっているので。だからいまこそ、この数カ月の出来事をちゃんと振り返ってほしいですね。
すべてがテレワークになればいいというわけでもないと思うんですね。テレワークだとできないこともある程度確認できたと思うので、テレワークでやるべきこと、これはオンラインでもできることっていう整理をもう1回したうえで、要る要らないをちゃんと仕分ける。やるのであればどのツールを使うのが適切かみんなのコンセンサスをとって、必要であれば○○係も運用ルールも決める。その整理整頓をするのか、中途半端に前の状態に戻るのかで会社がどう成長していくかが決まる。せっかく強制的にテレワークをさせられた経験があるので、この経験を生かすも殺すも、マネージャーやそこで働く人の力にかかってきてると思います。いまが整理をするチャンスなんです。
変化に対応する力がすごく大事になってきます。変化は心理的に不安になるんです。突如として変化を強いられた中にいる人たちって、すごく不安定になるんですよね。不安だし、戻りたいけど戻れない。先に進みたいけど進めない。そういう意味でこの数カ月間みんなトランジッションゾーン(過渡期)にいた。でも、やってみたら意外とできるなって感覚をつかんだ人たちは、新しいゾーンに入っていく。一方でやっぱり元の生活が良かったよねって古い世界に戻ろうとする人たちもいて、やっぱりそれはこの数カ月が身になっていないんですよね。
戻ってはいけないわけではありません。見直した結果、戻ったほうがいいという理由があれば戻ればいいと思います。でも、この数カ月間経験してきたことは生かせることもあるはずですから、その間に得たことを盛り込んで、新しい世界に行ってほしいんですよ。だからこのトランジッションゾーンにいた私たちの経験を生かして、「で、結果的にどうするの?」という話し合いをしていただきたいなと思っています。
――喉元過ぎれば熱さを忘れるって会社も多い気がします。
多いと思います。なかったことにしちゃう会社は多いと思います。でもそれはもったいないです。コロナ禍でこれだけ苦痛を伴う期間を過ごしてきたわけだし、こんなに日常が変わってしまったっていうこともあると思うんだけど、一方でテレワークの可能性に気づいた方もたくさんいます。
以前だったら辞めなくちゃいけなかった仕事を、テレワークのおかげで辞めなくて済むかもしれない。たとえば介護をしなければいけない人だってうまくやればできるし、ワークライフバランスもちゃんと考えてできる感覚をつかんだ方もきっといらっしゃると思います。どんな仕事であっても、1カ月に1回だけならテレワークすることはできると思うんですよ。経費精算とかレポートとか整理するための1日でもいいし、家でできること、できないことはあると思うけれども、どんな仕事であっても月1日とか半日ぐらいはできると思います。1回やることによって、現場から切り離してみると改善できたり、落ち着いてレポートが作れたりすることがあるので、新しい働き方を手に入れてほしいですね。
「うちはテレワークなんてできないよ」と言う会社さんも結構ありましたが、でも本当にそうなのかなっていうことです。現場から離れてみると見えることも結構あるじゃないですか。当たり前の日常が当たり前ではないとか、客観的に見るとムダがあるとことに気づいたりすることもありますから。
――これまで当たり前だった通勤時間や通勤ラッシュがいかにムダなのかはみんな実感しましたね(笑)。
殺人的な通勤ラッシュは減ってきた気がしますよね。満員電車で肋骨が折れると思うようなときもあるじゃないですか。いまは少なくとも肋骨が折れるなんてことはないですよね(笑)。

文・鈴木涼太
写真・大井成義

片桐 あい(かたぎり あい)カスタマーズ・ファースト株式会社
カスタマーズ・ファースト株式会社代表取締役、産業カウンセラー、キャリアカウンセラー。行動習慣ナビゲーター。人間関係問題解決コンサルタント。サン・マイクロシステムズ株式会社(現・日本オラクル株式会)サポート・サービス部門に23年間勤務。2009年から「キャリアディベロップメント&トレーニング」という部署を立ち上げ、延べ1500名のエンジニアの育成に携わる。また、グローバルのプロジェクトで「エンジニアのトレーニングの開発」のためのメンバーに選出され、各国の教育担当とカリキュラムを開発する。卓越したコミュニケーション能力・問題解決能力を武器に2012年に独立し、企業研修講師となる。これまで、年間約120件登壇し、約2万5000名の育成に従事。また、人財育成コンサルティングで、延べ3400名の育成にも尽力。著書に『職場の「苦手な人」を最強の味方に変える方法』(2019年5月 PHP研究所)、『一流のエンジニアは「カタカナ」を使わない!』(2020年4月 さくら舎)、『これからのテレワーク』(2020年5月 自由国民社)がある。

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