コミュニケーションとは信頼関係の構築である【スマート会議術第142回】

コミュニケーションとは信頼関係の構築である【スマート会議術第142回】東京女子大学教授 橋元良明氏

携帯電話やインターネットの普及に伴い、コミュニケーションの形が日進月歩で変化する時代。特にこの20年は、人類史上、かつてないほどコミュニケーション様式に変化が生じ、私たちの社会生活にも大きな影響を及ぼしている。

そんなコミュニケーション様式の移り変わりを、データで裏付けながら分析し続ける東京女子大学の橋元良明教授。その研究分野は、「コミュニケーション論」「メディア心理学」「社会情報学」「情報行動論」など多岐にわたる。

インターネットやSNSメディアが発達し、オンラインによるコミュニケーション革命の黎明期といえる昨今、橋元教授はあえて対面のコミュニケーション、オンとオフの切り替え、心理的安全性の重要性を強調する。

メディアコミュニケーションを専門とする橋元教授に、信頼を築くために必要なコミュニケーションのあり方についてお話を伺った。

目次

対面でしか得られない情報がある

――直接会う対面コミュニケーションとオンラインを使ってのコミュニケーションで、私たちはどういうつき合い方をしていけばいいのでしょうか。
オンラインは移動しないでもいろいろなことがやりとりできるし、効率面ではなくすことはできないです。でも人間は効率や論理だけで生きていくわけじゃなく感情的なやりとりもあるので、対面的なものはなくなりません。仕事だって効率、論理だけで進めていくわけではなくて、お互い信頼のうえに成り立っている。やはり対面と非対面は合わせて使わないとダメってことですよね。オンラインだけでは十分な信頼感が生まれない場合もありますし、それだけは不足すると思います。
たとえば端的な例でいうと、営業ではいろいろ説得系のコミュニケーションが入っていますよね。そういうときには論理とか文字で表される中身だけでは決してうまくいかないわけです。相手に自分のことを信頼してもらわないと、契約を結んだり、お金を払ってもらったりできないわけですから、それをオンラインだけで済ますのは非常に難しいと思いますね。それに比べ会社の実績や商品スペックなど、単にデータを伝える場合には別に対面でやる必要はないわけですよね。仕事内容によっても変わるし、当然それぞれの話術とか性格とかによっても変わると思います。
――信頼関係を築くことがすごく重要になっている時代において、文字、音声、映像いろいろあると思いますが、その使いわけも難しいと思います。うまく伝えるためにカギを握るのは何だと考えられますか。
商品の効能とかメリットとか論理的な部分はやっぱり文字ベースとか、モノ中心に持っていったほうが説得力は増すと思います。ただこれで「相手に騙されない」とか、「よくわからないけど御社に任せておいたら損はない」といったことは論理的に分析できない。これはやはり対面、声とか顔の表情とかも合わせた要素が重要なので、テキストベースの情報だけを見て「はい、こんなに良いことがありますよ」って言ってもなかなかうまくいかないと思います。
信頼感を持たせて、論理的に話して相手が理解してくれるのであれば、詳しく説明すればいい。たとえばパソコンを例にとると、その性能、スペックを理解できない人にいくら詳しく説明したってしょうがない。そういう人には直接会って、にっこり笑って、いろいろ口で伝えたほうがうまくいく。相手がものすごく詳しい人だったら、「騙そうとしているんじゃないか」と逆に疑心を抱かせるし、そういう場合はめちゃくちゃ詳しいスペックの、あるいは分析データを持っていけばいいし、相手によりけりです。
結局、人と人の信頼関係ですね。医療なんかでもそうですよね。「この人を信じられる」と思ったら精神的に治っちゃうような(笑)。
――ずっとモニターだけ見ていて患者さんの顔をまったく見ないでボソボソしゃべる先生とか、いくら優秀だとしてもやっぱり信頼したくないです(笑)。 
信頼できないですよね。もちろん頭も良さそうなんだけど、この医者の言うことには従いたくないとか、言っていることも本当かどうか疑わしいって心情的にそうなりますよね(笑)。
――若い研修生でも、面と向かって目を見てちゃんと真摯にやってくれると、そういう先生に診てもらいたくなります。人間性が伝わるコミュニケーションはやはりリアルが一番強い気がします。
やはり対面でしょうね。声だけではやっぱり足りない。ましてや文字だけではわからない。
――コロナ禍がこのまま続けば対面が減っていくケースは増えると思いますが、オンラインの中で、そういう対面が持つメリットを活かしていくにはどういう工夫をしていけばいいのでしょうか。
対面に近づける意味で、中身だけを形式的にしゃべるのではなくて、差し支えのない範囲でプライベートについて話すこともあっていいと思います。「この人は普通の人間だな、仕事のためだけにやっているんじゃないんだな」と思ってもらう工夫をする。自分が話すだけじゃなくて相手からも引き出す。そういうやりとりの部分を多くする必要はあると思います。会議でも形式的に業務伝達だけで済まされても、なかなか発言する気にもなれないけど、人となりがわかるような話になってくると、対面に近づいてきますよね。

中途半端なルーティンがストレスを増やす

――テレワークによって自宅で仕事をすることで、仕事とプライベートの区別が難しくなったという声も多いです。頭を切り分けるのに物理的環境は大きいですか。
それは大きいと思いますよ。家にいてはそんなに簡単に変えられないと思います。
――通勤時間はともかく、切り替えスイッチという意味で、会社という場所があることはそれなりの意味があるわけですね。
家のプライベートな面と、会社に行ってパブリック、オフィシャルな面と中間のはざまが通勤中――そういう棲み分けにだんだん慣れていって会社に行くという段階があるけれど、家でずっと在宅するとそれがないので、在宅でどう切り替えていいかわからないですよね。それがメンタルな面で相当な疲れを感じる原因でもあると思うんです。
この夏実施したアンケート「緊急事態宣言で人々の行動・意識はどう変わったか?」の調査結果によると、在宅勤務でストレスが増えた人と減った人はほぼ半々なんですが、面白いのが、毎日通勤するより、週数回通勤する人のほうがストレスは増加しているんですよね。中途半端だからですよね。あと、中途半端という意味では、7割が会社に行って3割が在宅だと、在宅者は取り残されているような気がする。会社ではみんなうまくやっているような気がする。ひょっとしたら自分の悪口を言ってるんじゃないかとかね(笑)。まばら在宅のほうがストレスが増すみたいですね。全員が在宅だったらみな同じ条件だからいいんですけど。
――お正月にあまり長い間休むと復帰するのに時間かかるのと近いですよね(笑)。ようやく慣れたと思ったらまた元に戻ってという繰り返しが続くように。
そうですね。どちらも慣れないみたいな。それと全体的に7割出社しているのに少数だけ在宅っていうのが加わると、ますます不安感、孤独感が増す。
行きたいときは行けばいいというように自分の判断に任せられればストレスは少ないとは思いますけど、強制的に「あなたは週1回です」とか言われると自分の意思が束縛を受けて不安感が増しますよね。双方のメリットのいいとこどりをして、もし在宅でもそのままいけるのであれば、通勤ラッシュも緩和されるし、いいところもたくさんあるので、たとえば自分の裁量で1/3在宅で、2/3会社みたいにやっていけるんだったら、これで両方のいいところ組み合わせればいいと思います。
――先生自身もやはりそういう組み合わせを望みますか。
本とか資料を研究室に置いているので、ずっと在宅勤務だと物理的にそれを見られないのもあります。学生の指導も、たとえば授業終わったあとに研究室で「これさっきの資料ね」って渡せるのに、そういうこともできないとかあるので、ある程度は研究室、大学には行きたいと思っています。いまみたいに満員電車に乗らなくていい環境はいいなとは思っていますね。もともと大学教員は時間をずらして通えるので通勤ラッシュにはそんなに苦しんではいませんが(笑)。週2回ぐらい大学へ行って、あとは家で授業とか研究ができれば最高かなとは思っていますけどね(笑)。

オンラインで奪われるもの

――いろいろな企業を見ていると、オンラインになったことで会議が手軽にできるようになって、目的も明確になり、時間は短くなる一方で、共有カレンダーに次々入れられるなど、会議の頻度は増えている印象があります。
リアルだと、場合によってはわざわざ遠くから集まったからとか、違う部署から集まって「この際だから言っておこう」という気持ちもあるので、雑談も当然増えますよね。やっぱり時間が延びがちなんだけど、結局その雑談とかでいろいろチームワークができたりする、相手のこともいろいろわかったりすることもあるので、一長一短ですよね。会議は短いほうがいいに決まっているけれど、本当に形式的に「はい、おしまい」ってそういうところもありますよね。
――「短くすればいい」と、そこに集約しちゃって「短くしたからOK」と終わっているところが多い。ムダが省けて結果的に短くなるのではなく、時短だけが目標になってしまっているという話は結構聞きます。
それだと、思わぬ発想やアイデアといったクリエイティビティが出しつらくなっちゃいますよね。
――会議において対面とオンラインでは何が一番違うと感じられますか。
オンラインではノンバーバルな部分が欠けるとか、カメラ位置によって顔が近すぎて威圧感を与えるとか適切な距離感が侵害されたような気になって、心理的なプレッシャーを受けるんですよね。それで精神的に威圧感を感じる人がいるとか、あるいはZoomなどでデフォルトでレコーディングされていると、それを意識する人もいて「何を言ったかレコーディングされているので、下手なことは言えない」って自由にしゃべれない人がいるとかですね。もちろん徐々に慣れていくと思うのですが、リモート会議がこんなに増えているという現象は初めての体験ですから。
――コミュニケーションにおける心理的安全性を確保するためには何が必要ですか。
基本的に承認欲求の充足というのは本当に大事です。若い人に限らず自分が認められている、存在する意義がある、自分が発言したことは無視されない、そういう環境、特にメンタルな面で最低限整える必要があります。バカにされているとか聞いてもらえないと思ったら誰だって発言するのをやめてしまいます。認めてほしいという承認欲求をまず確保してあげることでしょうね。
――そういう意味でオンラインは心理的安全性が比較的確保されている環境ではありませんか。いままでふんぞり返っていた上司もオンラインになって平等に並ぶと、きちんと理解してもらえるように責任ある発言をしないと存在感が薄くなりますよね。
オンラインでは対等感が大きくなっていますね。これは昔ながらの会議よりずっといいところでしょうね。でもオンラインでも中には声高に一人しゃべり続けるとか、一人で長時間しゃべる人もいる。それはやっぱり避けないとダメですね。オンラインだからこそ、ますます短くわかりやすく、順番に回してやる。顔が見えていても見えていなくても、少なくとも参加しているのがわかるのであれば、ある程度順番に発言の機会は回していく。そういうのは最低限のルールとして守っていく必要があります。
オンラインに限りませんが、挙手してから発言するとか、一人がみんなの発言をある程度短くまとめるとか、司会者は平等に振り分けるなど偏らないようにするルールを確認したうえで会議を進めるのは最低限必要でしょうね。
橋元良明(はしもと よしあき)
東京女子大学現代教養学部教授。東京大学情報学環教授を経て2020 年より現職。専攻はコミュニケーション論。京都府京都市生まれ。東京大学文学部心理学科卒業。1982年、同大学院社会学研究科修士課程修了。東京大学新聞研究所助手、社会情報研究所助教授、教授、2000年に情報学環教授。2020年退職。専門は情報行動論、コミュニケーション論。情報行動の変遷と社会への影響、メディア利用が青少年に及ぼす影響等について研究を進めている。主な著書に『背理のコミュニケーション』『ネオデジタルネイティブの誕生』『メディアと日本人―変わりゆく日常』など多数。

文・鈴木涼太
写真・大井成義

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