テレワークの恩恵を受ける人、受けられない人【スマート会議術第149回】

テレワークの恩恵を受ける人、受けられない人【スマート会議術第149回】弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士 藤井 総氏

コロナ禍の影響で、テレワークが一気に加速した2020年。そんな状況に先駆けて、2015年に「世界を便利にしてくれるITサービスを弁護士が法律でサポートする」ことをミッションに掲げ、弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所を起ち上げた藤井総弁護士。

「独立するにあたって完全に自分がやりたかった事務所、つまり完全にIT化して、事務所に出る必要がない、スタッフも雇わない、そういうIT化した事務所にしようと思ってスタートしました」

そう語る藤井氏は、テレワークが私たちにもたらす恩恵を信じ、日本全国、そして世界中に所在する各士業や専門家と連携を深め、分野や場所を問わず、ワンストップで多くの企業の働き方改革のサポートをしている。

しかし一方で、いまコロナ禍で半ば強制的にテレワークを始めてみたものの「コミュニケーションが難しい」「労務管理が難しい」「人事評価が難しい」といった困惑の声をばっさりと斬り捨てる。

「それができないと言うのは、マネージメント層の能力の問題です。きちんと成果物や数字で管理してください、となるだけなので、テレワークになったからといって大きな問題が発生したというわけではなくて、前から課題だったのではないかなと思います」

「テレワークだから」という言い訳は、じつは時代の潮流に乗れない企業の体質を象徴しているのかもしれない。

はたして藤井氏が考える「テレワーク時代に変われない企業」の本質とは何か?

目次

テレワークで気をつけるべきはメンタルのケア

――コロナ禍以前・以後で、ITを取り巻くビジネス環境はどのように変わってきましたか。
まずIT業界で言うと、すでにコロナ前から働き方改革や、オリンピックの混雑緩和、労働人口減少の中での労働力確保など、そういった点からテレワークをやっている企業は多かったので、コロナになってもそこまで劇的には変わっていないです。一方で、いままで全然テレワークをやっていなかった企業は大変な混乱に陥っているという印象はあります。だから、以前からコロナに関係なく取り組んできた企業と、そうではない企業の明暗が分かれた気はします。
――コロナ禍で、半ば強制的にテレワークをやることになった企業からの相談も増えたと思いますが、どんな相談が多いですか。
初歩的なことが多いです。会社のデスクトップのメーラーしか使えないから、そもそもメールの送受信をどうすればいいのか、テレビ会議をしたいけど何を使えばいいのかなど、そのレベルで困っている企業さんも多いですね。私のクライアントさんはみなIT業界なのでそういった話はありませんが、周りの話を聞いていると、その話のレベルから困ってしまっている企業さんも多いみたいです。とある大企業では会社に行かないとメールが使えないから、緊急事態宣言中は輪番で会社に社員が行って、そこでメールを送っていたという話も聞きました。
――ITスキル以外でも相談されることはありますか。
やはり誰とも会わずに黙々と作業することになった場合に、新入社員や転職してきたばかりの社員が会社のメンバーとうまくコミュニケーションできなかったり、仕事がしっかり引き継げなかったり、孤立してしまったりして、メンタルがちょっと病んでしまうような問題が起きたりしています。オンラインで仕事ができるといえども、会って話さないとなかなか人間関係はできなかったりするので、それがまったくないゼロの状態で仕事していると、結構ストレスが溜まったりもするみたいですね。

労務管理はマネージメント層の能力の問題

――テレワークによって時間、人事評価といった労務管理やコミュニケーションが難しくなったという声が多いですが、この点についての実情はどう見ていますか。
労働時間の管理は、始業・終業に関して勤怠管理ツールがありますし、そういったツール使わなくても勤怠メールを送るだけでも管理できますよね。勤怠管理そのものは既存のツールや新しいツールを使うことで、容易にできるのではないかなと思います。
次に、マネージメント層の成果の管理に関しても、アウトプットの数字・成果物ベースで従業員を評価するのであれば、面と向かって会わなくても数字と成果物でチェックすればいいだけの話ですから、難しいと言う方はもともとテレワーク前の出社しているときに何を見ていたのかということになります。何となく仕事してるような雰囲気や様子で、何となくふんわりと判断していただけということになる。いまはそれができないから、きちんと成果物や数字で管理しないといけないことが浮き彫りになった。
それができないと言うのは、マネージメント層の能力の問題です。きちんと成果物や数字で管理してくださいとなるだけなので、テレワークになったからといって大きな問題が発生したというわけではなくて、前から課題だったのではないかなと思います。
コミュニケーションの問題は確かにその通りで、オンラインミーティングだけだと人間関係の形成は難しかったりするので、週1回でもいいので、きちんとディスタンスを保って、会って全体会議するなど、そういうリアルに会う機会は設けたほうがいいのではないかと思います。
まとめると、時間管理についてはツールを使って簡単にできます。部下の評価やマネージメントに関しては、成果物や数字で客観的にアウトプットで判断すればできます。最後の人間関係に関しては、確かにメールやチャットだと雑談などしにくかったりして難しいので、リアルに会う場はどこかで設けたほうがいいということです。
――テレワークを言い訳に問題を避けている気がしますね。
そうですね。きちんと従業員に適した仕事を采配し、それをやってもらって成果を期限までに出してもらって、成果をチェック&フィードバックするというのが本来のマネージャーの仕事です。にもかかわらず、何となく仕事を振って、何となく遅くまで残って、真面目な顔をしてパソコンを叩いているなど、そういうところでふんわりと評価してきたのが問題だと思います。
Excelのマクロを使えば一瞬で計算が終わることを、電卓を叩いてExcelに手入力をしている人は8時間ずっとそれをやっていて、一見すごい作業をしているようだけど、実際はマクロを使って1分で終わることをダラダラやっているだけなので、全然成果物がない、アウトプットがない人でしかない。
それがいままでは何か仕事をしている様子だから評価されてきたけど、実際テレワークになって、成果物だけで判断すると、「この人8時間かけてこれだけしか出してこない」「全然アウトプットが出せない人」になる。残酷といえば残酷ですけど、テレワークによってそういうところが明らかになった。マネージャーが成果物でチェックできないというのは、それはマネージャーの責任なので、きちんと意識改革して、これからは成果物で判断しましょうよ、ということですね。
――よく欧米のジョブスクリプション型が、日本の企業文化や風土になかなか馴染まないというような言い方もされます。
そもそも数字の設定ができないのではないですかね。数字の目標を設定するから、達成したかどうかがわかるにもかかわらず、いまいち仕事を理解していない上司が適切な数字を出すことができない。だから「とりあえず頑張って」みたいな感じで、「はい、1週間頑張りましたね」ってところで、何となく評価してしまう。上司の目標・ゴール設定ができないところが問題なのではないでしょうか。目標・ゴールの基準がなければ、達成度に関しても判断できません。
強制的にテレワークになった結果、それができないことによって、全然マネージメントができていないことが露呈してしまった。勤務態度というふわっとした評価、つまり何となく机に座って、仕事してる様子というところだけで、いままでは評価できたのが、それができなくなったわけですから。

誰がテレワークの恩恵を受けることができるのか

――テレワークの実施に際して法的に対処しなければいけないことは多いのですか。
法的な部分では就業規則を直す必要があるところもあるのですが、就業規則に記載がなくても、どうにかなる部分も多いです。「テレワークをやろう」と言って従業員が同意すれば、就業場所の変更に関しては、従業員が同意すれば問題なくできます。仮に同意しなくても、合理的な理由があれば就業場所の変更を命ずることは可能です。もちろん就業規則に、就業場所として会社以外にも自宅が定められていたり、あるいは会社が自宅での就業を命じることができるとされていたらベストですが、なくても今回の緊急事態宣言のような合理的理由があれば、自宅での仕事を命ずることができますので、法的にクリアしないといけない問題は、じつはさほどないんです。
だから就業規則をなあなあにしてテレワークをしている会社も多いのですが、じつはそこまで就業規則をきちきちに決めなくても、法的にはそんなに問題にならない。だからテレワークは簡単に導入できるわけだから、ごちゃごちゃ言ってないで、早くやったほうがいいのではないかなと思うところです(笑)。
――ごちゃごちゃ言う会社こそ、相談して就業規則をきっちりすべきなのかなと思いますが。
そうですね。もちろん就業規則にびっしり書いてあったほうが、従業員とのトラブルにもなりにくいですからね。通信費や光熱費を誰が負担するのかに関しても、法律の原則上は会社が負担する義務はない。機器に関しては、会社指定のものを従業員負担で買わせるのであれば、費用負担に関する記載をしないといけないですが、本人のパソコンを使ってもらうか、あるいは会社が貸与するのであれば、それでも問題ないので、特に就業規則に書かないと何もできないというわけではないです。
――コロナ禍のこともあって、テレワークが「従業員のためにやっている」という福利厚生的な空気も感じます。
あるテレワークのアンケート結果によると、多くのテレワークを実践した社員がテレワークを評価していて、その理由が「通勤電車に乗らなくていい」や、「通勤時間がなくなったので、プライベートの時間が増えた」など、そういう面でテレワークを評価している人が多いですね。でもそれだけで手放しでテレワークを歓迎するのは、ちょっとどうかなと思います。
というのは、さきほども言ったように、テレワークになると勤務態度でなく、成果物や数字で客観的にジャッジされますので、成果物や数字を出せない、いままで何となく働いているように装って何となく評価されてきた人は、これからまったく評価されなくなってしまいますから。通勤時間が減ったことを喜ぶよりも、「あなたは成果物や数字で判断されてOKですか?」というところを見つめ直したほうがいいかなと思います。
――福利厚生的な意識で「社員のためにやっている」「通勤の時間を減らして、ライフワークバランスを保持するため」と言っても、企業が成長しないと本末転倒ですよね。
そうですね。特にいまは労働人口が減って、優秀な人材の奪い合いのご時世ですから、多様な働き方を用意しないと優秀な人が入ってくれません。会社が優秀な人を採用して成長するためにも、テレワークを制度として設けることは不可避なわけです。既存の社員の満足度向上のためにやるのではなくて、そうでもしないとこれからの時代、優秀な人材は雇えませんよということ。会社の成長のためにもテレワークをやることは必要ですよね。地方にいて出社は難しいけど優秀に働ける人間にチャンスを与えるなど、そういった意味でテレワークは大事です。

オンラインにオーラは通用しない

――テレワークになったとき、いままでふんぞり返っていた上司が、リモート会議ではモニターに平等に並ぶことで存在感がなくなってきているという声も聞きます。
テレビ会議で存在感を示せないということは、きちんとした建設的なコメントや議論ができないわけですから、そういう人を会議に参加させることはあまり意味がないですよね。情報共有させたいのであれば、会議が終わったあとにサマリーをチャットなどで流せば済む話。会議に参加するからには建設的な提案や議論をして、アジェンダを解決すべく発言しないと存在感を示せない。つまり存在感がないのであれば、そもそも参加しないで結果だけ報告を受ければいいということですね。
――リアルな場で「意味のないことを言うな」と否定ばかりする偉い人が、オンラインで並列になると、さらりとスルーされそうですね。
そうなんです。以前聞いた話ですが、すごく有名な講演する方がいらっしゃって、オーラがすごいので、登壇すると「会場がおぉ~!」ってなるんだけど、いざZoomなどでオンライン登壇すると、オーラがまったく伝わらなくて、どうやってオーラを出すかご苦労されているそうです(笑)。
Zoomなどのテレビ会議になると、映像と音声しか伝わらなくて、オーラ、雰囲気的なものが全然伝わらなくなるので、純粋にどういう発言をするかだけが問われます。オーラというか雰囲気でその場の空気をコントロールしていた人たちは、だんだん立場がなくなりますよね。でも、それは本来そうあるべきであって、何となく雰囲気で場をコントロールするのはおかしい。やっぱり発言内容できちんと議論すべきなので、そういう適切な発言ができない人は、そもそも参加しなくていいのではないでしょうか。
Aさんがまともな議論しているにもかかわらず、Bさんがオーラでそれをねじ伏せたら、結局Bさんのオーラでねじ伏せた不合理な意見が通ってしまったら意味がないので、むしろZoomなどのテレビ会議になることによって、純粋に内容だけで勝負される会議になるので、すごく良かったのではないかなと思います。

文・鈴木涼太
写真・大井成義

藤井 総(ふじい そう)弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。「世界を便利にしてくれるITサービスをサポートする」ことを使命(ミッション)に掲げて、ITサービスを運営する企業に「法律顧問サービス」を提供している。2015年に弁護士法人ファースト法律事務所を開設。ITサービスを提供する企業やIT関連部門、IT関連組織が法律顧問サービスの主な導入企業になり、その業種はASPサービス事業者、ISP事業者、EDI事業、ハードウェアメーカー、コンサルティングファーム、海外政府系機関等、多様。中堅・上場企業だけでなく、ベンチャー企業もサポートしている。また、業務にチャットを導入することで、サービス提供エリアは全国。事務所所在地は東京(丸の内)でありながら、東北、関東、関西、中部、九州など、全国に点在している顧問先と、リアルタイムでのやり取りを可能にしている。2018年に弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所に名称変更。取扱業務は、コーポレート、契約書・Webサービスの利用規約(作成・審査・交渉サポート)、労働問題、債権回収、知的財産、経済特別法、訴訟など、企業法務全般に対応している。著書に『テレワークをはじめよう』『IT業界人事労務の教科書』など多数。

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