Googleでは失敗したときに“Fail Bell”を鳴らしてお祝いする【スマート会議術第153回】

Googleでは失敗したときに“Fail Bell”を鳴らしてお祝いする【スマート会議術第153回】イーディーエル株式会社代表取締役 平塚知真子氏

コロナ禍の影響下、テレワークの普及とともに資料の共有や作成、保存などのクラウド化が一気に進みつつある。しかし、そんな中で、「テレワーク格差」が生まれているのも事実だ。オンラインでの円滑なやりとりを上手く使いこなし、仕事をこなしている「テレワーク強者」と、いまだに旧態依然の慣習に縛られながらムダな時間を費やす「テレワーク弱者」だ。

そんなテレワーク格差を埋めるべく、昨年秋、出版されたのが平塚知真子氏の著書『Google式10Xリモート仕事術――あなたはまだホントのGoogleを知らない』である。平塚氏は、「Google 認定トレーナー」と「Google Cloud Partner Specialization Education」の2つを保有する国内唯一のトレーナー経営者だ。現在、Googleが認定する研修専門パートナー企業のうち「上級」に認定されているのは世界30社で日本国内では2社のみ。そのうちの1社が平塚氏が経営するイーディーエルである。

平塚氏は言う。

「10%改善するより10倍にするほうがカンタン」

著書名にもある10X(テンエックス)とは、未来から逆算するGoogleの10X(テンエックス)思考のことで、Googleの急成長の秘密とされている。

クラウドサービスの使い方を通じて、テレワーク時代の成果を10倍にするGoogle式10Xリモート仕事術とは何か? その思想の背景にある考え方についてお話を伺った。

目次

教育を考える中で知ったクラウドの力

――日本唯一のGoogle最高位パートナーということですが、これはどういう役割を果たすのでしょうか。
Googleは個人と法人とそれぞれパートナーを組んで、それぞれのパートナーに主体的に動いてもらいたいとパートナー制度をつくっています。
主に教育現場でGoogleのアプリを使って生産性を上げたり、教え方を変えたりすることに取り組む個人向けの最高位の資格がGoogle認定トレーナーです。日本にいま20人くらいしかいないのですが、私はたぶん6番目ぐらいに取らせていただきました。
一方、法人向けでは、3段階あるうちの一番上の資格が「Google Cloud Partner Specialization Education」です。私が代表を務めている会社が認定を受けており、国内では2社のみがこの認定を受けた研修企業となります。
その個人・法人の両方を持っている人は国内では私一人しかいません。そこで、「 Google 最高位パートナー」と呼ばれるようになりました。役割としては、やはり日本の情報化を草の根ベースで全国津々浦々推進することだと考えています。
――どういう経緯でGoogle認定トレーナーをやろうと思われたのですか。
もともと出版社に勤めていたのですが、子育てを機に育児情報誌を自費出版する活動を始めたんです。でも、皆さんも子育てで忙しいので会議ひとつまともにできない(笑)。その中でメールを使って議事録を共有すると、そのまま次の会議に出ても話題に乗り遅れないとか、そういうテクノロジーを上手に使って組織が活性化するようになっていきました。
――そのときにすでにGoogleに関わっていたのですか。
そのときはまだ単なる主婦でしたし、そんなにGoogleは使っていなかったです。ところがこの活動の中でご縁があって、2003年から国立情報学研究所の新井紀子*先生の研究室で働くことになりました。そこでテクノロジーと組織の情報共有について薫陶を得たことがきっかけになっていると思います。新井先生はAIとはそもそも何なのか、テクノロジーが組織や教育にもたらすベネフィットとは何かといったことを研究されていらしたのですが、そのときに新井先生がGoogleを信頼していたので、その影響が大きいですね。
やはり一人で情報を集めて本にするより、複数のお母さんたちが持つそれぞれの視点で情報を編集したほうがパワフルですよね。同じ立場の人がみんな喜んでくれたことから、これがコミュニティの力だなって気づくことができました。そのコミュニティの力を引き出すのに、テクノロジーってめちゃくちゃ役に立つじゃん!っていう発見が原点にありました。
それがきっかけになって大学院に行くことになって、コミュニティの力を引き出すテクノロジーの可能性と、そこで必要となる「学び」の重要性に気がついたんです。どうやってテクノロジーを使えばいいのか、私たちは学校で学んでいないからです。
新しい時代にふさわしい新しい学びをデザインして提供する必要があるんじゃないかと。そこで会社を立ち上げてからずっとそれを仕事にしています(笑)。
――大学院の専攻は何だったのですか。
大学も大学院も教育学です。それも成人教育とか教育社会学っていわれる分野でした。大人になってからも学ぶことは必要不可欠。自分に必要な情報を仕入れるのはすごく大事だと思っています。あとはやっぱり、一人ではできないことや、自分にはわからないことがあっても、すごく得意な方や経験豊富な方に相談したりして他者の力を借りれば、解決するじゃないですか。大人になってからのほうがコラボレーションスキルがさらに重要になってくると思います。
いまみたいにコロナ禍で人に会えなくても、テクノロジーをうまく使えば情報を持っている方とつながり、リソースを活用することができる。たとえばGoogleフォームとかチャットを使うことによって、1分間で100人の意見をリアルタイムに見える化できるんです。
テクノロジーをうまく活用することで一気に問題解決できる。そんな活用アイデアを発見すると「こういう使い方って知ってる? 知ってる?」って言いたいのが高じていまに至る感じです(笑)。
――Wikipediaやヤフー知恵袋みたいな集合知ですね。
そうですね。そこからさらにクラウドで会話や議論し、テーマを深めることもできます。あとはコロナ禍でテレワークが始まったときに、会社の引き出しの中じゃないと自分の書類がないとか、会社から持ち出せないとか、誰が持っているかわからないから問い合わせのメールをいっぱいして、それだけで時間が終わっちゃったとか、情報の共有がいまだにうまくいってない。
それを一瞬にして解決できるのがGoogleの「クラウドにデータを保存する」って考え方だと思っています。新井先生のおかげで私にとって2003年からクラウドがすごく身近だったので、Googleのトレーニングを始めたときにも、この経験はものすごく役に立ちました。
クラウドとは「共有」なんです。ファイルを共有してしまえば、最初のプロセスから全部共有されます。そうすると、20%、30%のところで「これどう考えてやっているの」とか。「こっちの方向じゃなきゃダメじゃない?」とか。そういうツッコミを入れてもらえる。だから完成してから共有するより、知らず方向を間違えたり、無駄になるリスクを減らすことができるんです。
あと、Googleは最初からデータを端末には保存させません。保存先は全部クラウドで、しかも自動保存。1回共有をかけておけば、そのあとはずっと更新の度に相手に自動通知されるので、二度とメールする必要がなくなります。常に1クリックで確認できるんです。
情報は同期されるので速いし、簡単だし、安全。1つのアカウントでさまざまなアプリを組み合わせ、データを使い回せるので、いちいちログインしたりログアウトしたり、パスワード何だっけ? と考える必要もない。とはいえ、大きな会社さんの場合、いきなりGoogleを使うのは無理があると思うんです(笑)。
――無理というのはどういう点ですか。
日本ではこれまで、Google をビジネスシーンで使うということがあまり一般的ではありませんでした。そのためすでに別のツールでシステム化されちゃっていることが多いと思うからです。また、データをクラウドで管理することへの不安感がとても強いですよね。あとはGoogleはすごく進化が速いので、十分理解してから導入しようとすると導入の壁が高くなると思うんですね。
だから、Googleを100%使わなくてもいい。たとえば組織の中の10%とか20%、イノベーティブに、スピーディーに、社内で新しいことにチャレンジしなきゃいけないところからまずは試しにGoogleを使っていただくといいのではないでしょうか。たぶん進化のスピードが加速化されると思います。Googleのアプリを使うか使わないかというだけでなく、Googleがどうしてこの20年間でここまで大きな成功を遂げて、こんなに毎年革新的な取り組みができているのかという、Googleの哲学とか考え方がわかると、「クラウド」をもっと効率よく、生産性高く使えるようになるんじゃないかなって思っています。

新井紀子*
数学者。専門は数理論理学、遠隔教育。国立情報学研究所社会共有知研究センター長・教授。

「上手な失敗をしろ」とGoogleは言う

――いまはクラウドを利用することに多くの企業は慣れているのでしょうか。
「クラウドの利用は怖い」という方はまだ多くいらっしゃいます。「何が怖いんですか」っていうと、「だってセキュリティが…」っておっしゃるんです。でもクラウド時代のセキュリティは従来のセキュリティの常識を上書きしていただく必要があります。
つまり、みんなで使うわけだから、ユーザー一人ひとりのセキュリティに対するリテラシーを上げる必要があるんです。要するにみんなで家の合カギを持っていて、その中の1人がそのへんの誰でも取れるところにカギをポンと置いておいたら、その家のセキュリティリスクは跳ね上がるということです。
だから、使う人全員のリテラシーを上げる。パスワードやアカウントの管理に関する考え方だけでなく、共有を誰にいつどこまでかけるか、どの権限を持たせるかとか、そういう「ルール」を改めて社内でしっかりと決めることが重要なんです。
セキュリティでは機密性が問われますが、利便性が置き去りにされて、機密性ばかり問われているのがいまの問題点かなって思います。わざわざ会社のネットワークにつないでからじゃないと、会社のシステムに入れないような仕組みにしておくと、やはり回線が細くていつまで経ってもつながらないとか、ダウンロードにめちゃくちゃ時間がかかるといった問題が生じる。でもそれを通さないでGoogleに直接つないだほうが、じつは圧倒的に利便性がいい。しかし、そこには機密性を守る社内ルールが新たに必要です。
いま時代が大きく変わってテレワークありきになってきたので、テレワークで本当に社員の皆さんが快適に仕事ができる環境や、新しいルールを考えていただく必要がある。でも、Googleを使ってアプリ連携させて、データを共同編集するなんて経験もあまりないわけです。
みんな失敗するのが怖いんですよね。失敗したくないし、もし失敗して、みんなから「こんなこともできないのか?」「大丈夫なの?」と言われたくないからチャレンジもしない。でも、去年までと同じことをやっていたら成功しない。「上手な失敗をしろ」とGoogleは言っていますが、特に管理職の方の失敗に関する考え方はすごく大事になってくるんじゃないかなと思っています。
本にも書いたのですが、Googleでは失敗したときに“Fail Bell”を鳴らしてお祝いする(笑)。「失敗おめでとう~!」って鳴らすんです(笑)。こういうのに象徴されるGoogleのオープンマインド、チャレンジ精神をいまは学ぶ必要があるのかなって思います。
昨年1月にフィンランドとオランダ、イギリスの3カ国教育視察ツアーに参加したのですが、どこもITを学校で使うことが日本より5年ぐらい先に進んでいるんですね。でも、新しいテクノロジーに抵抗する層がいるのは日本だけじゃないんですよ。なぜ抵抗するのかって聞くと、クラウド=共有になると自分のプロセスが全部明らかになっちゃうと抵抗するんだそうです。共有すると「自分がダメだって言われるんじゃないか」とか、「未熟なところを見られたくない」、だから「共有したくない」って言う先生がすごくいたそうです。
だけどいまはそんなこと言っている場合じゃない(笑)。これをやることがベストだと思うから、みんなでやろうよってなってやった結果、いまは8割の人が「もう過去には戻りたくない」「昔は孤独だった」「共有するという発想を取り入れて良かった」って回答しているんですよ。やっぱりみんな不安だし、みんな失敗したくないし、それは日本人だけじゃなくて、万国共通なんだなって、ちょっと救われた感じです(笑)。

10Xはどうなりたいかという目標

――Googleは世界中の選り抜きの優秀な人たちが集まっています。そういう人たちの組織で成立する10Xの発想が普通の会社で使えるのでしょうか。
もちろん使えます!10Xを成功させる人の特徴は、「何のために」をハッキリ意識できているということなんですね。あとは「誰のために」も重要で、届かないような大きい目標を立てるのが10Xだってよく説明されるんですけど、Googleはそれに加えて「あなたのその10Xは、誰を幸せにしたいプロジェクトなんですか?」って聞くんですよ。だから自分が笑顔にしたい人を巻き込む10Xの目標を立てるのが重要なんです。みんながこの10倍の目標を達成したときに、どんなふうにハッピーになるんだろう? これによってどんな世界がつくれるんだろう? そのためにみんなで頑張ろうよって言ったときに、目標に一歩でも近づくんだったら失敗する価値があるよね、ということです。
私は10Xの目標って会社だけじゃなくて人生の目標でもいいと思っています。あるいは自分のコミュニティや仲良しの3人グループでもいい。たとえば家庭でいうと、10倍の目標を立てることで、自分たちの家族にとってどういうことが実現したら一番ハッピーなのかってことを考えて、旦那さんにとっても、自分にとっても、子どもにとってもハッピーってなったら、当然それを実現するために旦那さんにも協力してもらえるはずじゃないですか。
自分一人だけの目標だと「それって私に何の関係があるの?」って言われて、協力してもらえないと思います。それが、自分にも関係していると思える目標で、実現したら確かにすごくみんながハッピーになれるよねって思えることであれば、力を貸そうかなってなると思うんですよね。だから能力とかそういうことよりも、「私たちどうなりたいんだっけ?」ってことかなと思います。
――会社のダメージが大きいとなかなか失敗は許されないですよね。
それはそうですよね。許せる失敗と、やってはいけない失敗があると思うんです。会社の信頼を落とすなどの「取り返しのつかない失敗」はもちろんダメです。だけど、成功するために試行錯誤して、何がやっちゃいけないのか、何がうまくいかないのかに辿り着くための失敗は、早くやれば早く成功に近づくわけですよね。
組織の9割はいままで通り。うち1~2割のメンバーが新しいことにチャレンジして、試行錯誤しつつ、今後飛躍する事業の柱になるようなアイデアを生み出そうとすることは、たぶんどの会社にも必要だし、できるんじゃないかなと思います。
「昨日までと同じことをやっていて10倍の目標達成できると思いますか?」 って聞くと、ほぼ100%の人が「いや、無理でしょうね」っておっしゃるんですよ。つまり「10X目標」を設定しただけで、そこで「イノベーション(革新)」が起きる環境をつくることができるわけです。
Google では「昨日とは違う明日を今日つくること」、これをイノベーションと呼んでいます。だから、何かいままでやったことがないことに1つでも挑戦できればそれもイノベーションです。また、Googleの場合は組み合わせ。いままで組んだことのない相手と組んでみるとか、ターゲットにしたことのない人をターゲットとしてみるとか。自分以外の他者を巻き込んで10Xする。そこに革新が生まれる。まったく誰も想像つかないような、突拍子もないものがポーンと出てくるっていうのは、なかなか難しいですからね。
だからGoogleは一人の天才から生まれるものじゃなくて、多様性のあるメンバーの心理的安全性が確保されたところで、情報と意見が交換されたことによってイノベーションが生まれるって言っているんです。

文・鈴木涼太
写真・大井成義

平塚 知真子(ひらつか ちまこ)イーディーエル株式会社
イーディーエル株式会社代表取締役。早稲田大学第一文学部(教育学専修)卒。筑波大学大学院教育研究科修了(教育学修士)。筑波大学大学院非常勤講師。「Google 認定トレーナー」及び「Google Cloud Partner Specialization Education」の2つを保有する国内唯一の女性トレーナー経営者。数時間でITスキルを劇的に引き上げる指導に定評があり、「Google 最高位パートナー」と呼ばれる。出版社勤務を経て専業主婦になるも、学習欲が高じて大学院に進学。在学中に事業欲が高まり、教育会社を起業し、現在に至る。「日本に最高のITスキルを伝え、広める」を信条に、教育関連者やビジネスパーソンへ最新のITおよびクラウドスキルを指導中。パソコンやタブレットを四六時中見ているため、月に1回はデジタル断捨離し、温泉をめぐることが趣味。近著に『Google式10Xリモート仕事術――あなたはまだホントのGoogleを知らない』がある。

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