コミュニケーションの決め手は「いい気分にさせる力」【スマート会議術第159回】

コミュニケーションの決め手は「いい気分にさせる力」【スマート会議術第159回】株式会社グローコム代表取締役 岡本純子氏

テレワークを強いられる企業が増える中、コミュニケーション力の有無が改めて問われている。テレワークによって「コミュニケーションがしづらい」という声が増えているからだ。ビジネスにおいてオンラインとオフラインでコミュニケーションのあり方はどのように違うのか

相手に“伝わる”コミュニケーション力は生まれもった才能なのか? それともトレーニングで身につくものなのか?

自身、「コミュニケーションが苦手だった」と語る岡本純子氏は、10年間の新聞記者を経た後、コミュニケーションのスキルを磨きたいと、渡米を決意した。日本にはコミュニケーションを体系的に教えてくれる場がなかったからだ。

帰国後はPR会社を経て、現在はコミュニケーション・ストラテジストとして主に経営者を中心にエグゼクティブ向けのコーチングを行う。昨年秋、これまでの経験で培ったスキルやノウハウをまとめた『世界最高の話し方』を上梓した。コロナ禍でコミュニケーションに問題意識を持っている人が増えていることもあり、12万部のベストセラーとなっている。テレワークでコミュニケーションの有り様が変わる中、話し上手になるための心構えや、つながり重視のマネジメント手法を伺った。

目次

アメリカでは伝えることが科学されている

――岡本さんはもともと新聞記者だったということですが、どういう経緯でコミュニケーション、PRの世界に入ったのですか。
もともと「伝える」ということに興味はあったんですね。新聞記者は10年やりました。言葉で伝える、文章で伝えるという仕事をやってきたのですが、活字だけで伝える事には限界があるのではないかと、疑問を持ったんですよね。記事を書いて伝える、それで伝わるはず。でも、全然伝わっていないんじゃないかなという思いもあって。
それでアメリカに行って、MIT(マサチューセッツ工科大学)でメディアの研究をしました。そこで驚いたのは、アメリカではメディアというのはいわゆる新聞やテレビのことじゃないんですよね。あらゆる伝える手段・媒介のことで、その頃はインターネットが出てきていたので、インターネットの研究が盛んだったんですけど、「伝えることが科学されているな」と非常に強く感じました。
「どうやって人に伝えて、人が動いていくのか」が科学的に研究されていて、とても面白かった。そこで研究して、日本に帰って、新聞記者じゃなく違う形で伝える仕事ができないかと思ってPRを始めました。
PRの世界では多層的なコミュニケーションの手段をいろいろ学びました。気がつくと、スティーブ・ジョブズの“connecting the dots”じゃないですけれど、コミュニケーションという横串を通して、日常のありゆる課題のソリューションが提供できるのではないかと、どんどん面白くなってきた。コミュニケーションは人間の営みの最も大切なものなのに日本にはあまり包括的な知見がない。そこをもっと科学的に研究したらどうなるんだろうと思って、いまに至ります。
私自身、もともと半コミュ障みたいな感じだったのですよ(笑)。新聞記者としての岡本純子はわりと度胸を持って話すんです。「ここで自分が質問しなきゃ」とか「インタビューしなきゃ」というミッションを持てばうまくいくんだけれど、素の私になるとコミュニケーションができない。たとえばヘアサロン行っても、美容師さんと話すのも恥ずかしいってなっちゃうんですよ(笑)。
――役者さんが役に憑依するのと一緒ですね。
そうですね。だからその苦手意識を克服したいというのがアメリカに行った理由だったんです。苦手意識があっても日本ではそれを救済する手段がなかった。アメリカであれば、学校や会社帰りに20~30ドル払って鍛える手段がたくさんある。コミュニケーションを鍛える場、鍛えてくれる教師がいる。結局コミュニケーションの9割ぐらいは場数と慣れなんです。日本でもそういう場をどんどんつくっていかなきゃいけないんじゃないかなと思います。

connecting the dots*
スティーブ・ジョブズが2005年6月にスタンフォード大学の卒業式で行ったスピーチで言った言葉。直訳すると「点と点をつなぐ」だが、そのときに一生懸命にのめり込んで獲得したものが、あとで結果としてものすごく役に立つことがあるという意味を示している。

話す力は聴く力によって養われる

――日本人のコミュニケーション力の弱さの原因はどこにあると考えますか。
日本のコミュニケーション力の貧困の原因はたくさんあると思いますが、ひとつにオーディエンス(聴衆)力、観客力の弱さがあります。聴く人が基本的に冷たいんです。講演したり、人前で話したりすると、みんな面白いのか面白くないのかよくわからない表情で聴く。あとで「面白かったです」とか言ってくださるのですが、全然そういう表情をしていなかったりする(笑)。「面白いよ」って顔をしてくれれば、もっと自信を持って話せるようになるのですが、オーディエンスが冷たいので、ただ早く読んで終わらせちゃおうってなってしまうところがある。
聴く側ももう少し反応を示してあげてもいいのかなとは強く感じますよね。ノートをとっているわけでもないし、ずっとムッとした顔。それが海外ではやっぱり優しいんですよね、うんうんっていう表情もあるし、目も合うし、うなずいてくれる人もいたりするので、それが話す力を養っていく気がします。
話す力と聴く力は相関関係があると思います。日本人は話す力だけでなく、やはり聴く力も弱い。たとえば日本の本屋さん行くとコミュニケーション関連の本はたくさんありますけれど、いかに自分が主導権をとって伝えるかっていうのが目的になっていて、聴く、質問するという点にあまりフォーカスされていない。
それぐらい話すことに苦手意識を持っている人が多いとは思います。だから、どうやって自分の意見を伝えるかという話すことに関心が向かっていますが、その話す力は聴く力によって養われるということはあまり意識されていない。いかに自分の言いたいことを伝えるか、いかに自分が剛速球を投げられるかに注力している。剛速球を投げるのが重要なのではなくて、キャッチボールすることが重要だということがまだ理解されていない気がします。
オンラインになると、特に難しいと思います。まず目線が合わない。人の反応がわからないことが話しにくい原因になる。だから私はなるべく、うんうんとうなずいてあげたり、笑顔を見せたり、表情をなるべく見せるようにしています。聴く立場の側が「うんうん、なるほどね」みたいな表情を見せてあげる。
ちょっとうれしそうな表情をするとか、うなずいてあげるとか、それもひとつの聴く動作ですよね。そういった思いやりが、しゃべる人をもっと楽にしていきますし、もっと意見が弾んだり、相手の反応もわかったりするので、「あ、これはダメだったな」というのがわかる。リアルはそれがわかりやすくできるので、なるべくリアルに近づけていくためには、聴き手としての思いやりがすごく重要になってくる気がします。「何を話せばいいのか?」じゃなくて、本当は「何を聴けばいいのか?」なんです。

正論は異論には勝てず、正しいことは楽しいことに勝てない

――オンラインでは特に表情がわかりづらい、声が聴き取りにくいといった障壁もコミュニケーションを難しくする一因だと思いますが、実際、表情や声はかなり重要なのでしょうか。
心理学者のメラビアンが検証した法則が有名ですが、そもそも人の印象は見た目からの印象と、声からの印象と、内容で分けたときに、見た目の印象が55%、声、耳からの印象が38%、何を言うかで形づくられるのは7%ぐらいしかないと言われています。メラビアンという人がどういうふうに出したかはわからないですけど、神話的によく言われています(笑)。
体感的には見た目の比率がもっと大きいのでは?と感じる方は多いですね。一方で、「何を言ったか」という言葉の印象が7%しかなく、38%は声の情報、声によって印象がつくられているというのは意外だと感じる人が多いです。
声がなぜ重要なのか。声はメリハリが大事なんです。高さ低さ、スピード、トーンのメリハリが人間のコミュニケーションでは一番重要になる。声によってものすごく変化がつけられるんです。高い声とか低い声とか、ゆっくりとか、速くしゃべるとか、メリハリをつけられる。アクセントをつけるとか、間をつくるとか。だからプレゼンでの一番の禁じ手は変化がないこと。プレゼンで声を使い分けるのは、非常に大きな意味があるのです。説得力を持って誰かを説き伏せたいときには、低い声を使うとか目的によって使い方を分ける。声が印象をつくるというメラビアンの法則は、納得のいく結果なのかなという気はします。
また、「何を言うか」という言葉ももちろん大切ですが、言葉だけではやっぱり伝わらない。コミュニケーションにおいて、「この人は自分のことを思ってくれている」とか「好意を持ってくれている」といった、表情やしぐさなどでも「いい気分にさせる力」はやっぱりすごく重要なんですよね。
たとえば、それをやったのがトランプ元大統領で、コミュニケーションの常識は、「before トランプ」「after トランプ」で変わりました。いまの時代、正しいことを正しく伝えればいいわけではないんですよ。
正論は異論には勝てないし、正しいことは楽しいことには勝てない時代。ただ本当につまらないことをつまらないままに伝えて、それで正義だからっていうのが通用しなくなっている。そういった時代において、言葉だけを伝えればいいというのは、通用しなくなっちゃっていると感じます。

メラビアンの法則*
1971年にカリフォルニア大学ロサンゼルス校の心理学者であるアルバート・メラビアンが提唱した概念。「感情や気持ちを伝えるコミュニケーションをとる際、どんな情報に基づいて印象が決定されるのか」ということを検証したもので、その割合が示された。

コミュニケーション=リーダーシップ

――コミュニケーションにおいて、リーダーが最も身につけていくべきことは何でしょうか。
やっぱりエネルギーですね。私は「情」と「熱」と言っていますが、感情と熱量。何か言えば伝わるだろうとか、何も言わなくても伝わるということは絶対にない(笑)。ボールは投げなきゃ受け止めてもらえないし、かといって自分の好きな球種のボールを何球投げたところで、向こうが受け取ってくれなければ意味がない。そういった意味で「リーダーシップ=コミュニケーション」という認識をまずは持つことが大切だと思います。
日本では「コミュニケーションは学ぶものじゃない」という意識を強く感じるんですよね。コミュニケーションにルールがあると思われていない。生まれつきの才能だと思われている。だからそんなものは学べもしないだろうし、練習するものでもないだろうという意識がすごく強い。
リーダーシップにはコミュニケーションは欠かせない。でも、そのためにルールを学ぶという常識がなかった。プレゼンでも自分でスライドをつくって淡々と読めばいいという常識しかなかった。なんとなく自然発生的に伝わっているだろうという認識があって、戦略性はまったくなかった。その意識の違いですね。コミュニケーションも本来はアカデミックな学問であって、人類学とか脳科学とか心理学とかの知見でもって、こういうふうにすれば人を動かせるとかっていうのが研究されている分野なんですよね。
――日本ではコミュニケーションが学べる大学もあまり見かけないですね。
少ないです。本当にすっぽり抜けていますね。日本人にとって一番欠けている部分はそこなんじゃないですかね。日本人はすごくいいモノをつくります。でもそのいいモノの良さを伝える力がなかったら、意味がない。それで損してしまう。大したものをつくっていなくても、アピールする力が強くて売れている事例はすごくたくさんある。日本人は本当にいいモノをいっぱいつくるのに、「いつかお天道様はわかってくれるでしょう」では絶対に伝わっていかない。もっとコミュニケーションを戦略的に、経営戦略としても捉えていくべきじゃないかなと考えています。
――社会人になると、みんな突然いろいろな人とコミュニケーションをしなければならなくなります。学生時代みたいに友だちばかりではない。上下関係もあるし、経験の差もある。そんなとき、利害も価値観も違う人たちと上手にコミュニケーションをするために心がけておくべきことはありますか。
たぶん皆さんの悩みは「何か言うとウザがられるんじゃないか」とか、「何か言うとセクハラ、パワハラと言われてしまうんじゃないか」とか、上手にコミュニケーションをしたいけどどうしていいかわからないということではないかと思うのですが、「話すのを2割、聴くのを8割」がコミュニケーションの基本ですね。
説得して「こうしろよ」「こうしたい」と価値観を押しつけるのではなく、どうやってうまく対話をしていくかという技術を磨いていくしかないですね。人はつながり欲求を持っている生き物なので、聞いてほしい欲求があるんですよ。人とつながりたい欲求の中で、話を聴いてほしいと思っている人はすごく多い。一方で、親身になって聴いてくれる人があまりいない。その需給のバランスが孤独に結びついているんじゃないかと。うまく需給が結びついた状態がいい対話になる。
だから勝手に「お前はこうだ」「私はこうしたい」と言うのではなく、聴いてあげて、「そうだね」って受け止めてあげるのが大切です。私は「ミカン保管の法則」と呼んでいるのですが、「承認(とめる)」「共」「賞賛(める)」「謝」。この4つの動作をやっていくだけで、あなたは半沢直樹になれます(笑)。

文・鈴木涼太
写真・大井成義

岡本 純子(おかもと じゅんこ) 株式会社グローコム
コミュニケーション・ストラテジスト。株式会社グローコム代表取締役社長。企業やビジネスプロフェッショナルの「コミュ力」強化を支援するスペシャリスト。早稲田大学政経学部政治学科卒、英ケンブリッジ大学院国際関係学修士、元・米MIT(マサチューセッツ工科大学)比較メディア学客員研究員。読売新聞経済部記者、電通パブリックリレーションズコンサルタントを経て現在に至る。コミュニケーションの最先端ノウハウやスキルを基にしたリーダーシップ人材育成・研修、企業PRのコンサルティングを手がける。これまでに1000人近い社長、企業幹部のプレゼン・スピーチなどのコミュニケーションコーチングを手掛け、オジサン観察に励む。その経験をもとに、オジサンのコミュ力改善や「孤独にならない生き方」探求をライフワークとする。著書に『世界最高の話し方―1000人以上の社長・企業幹部の話し方を変えた!』(東洋経済新報社)、『世界一孤独な日本のオジサン』(角川新書)がある。

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