「心理的安全性」があればテレワークの成功確率89%【スマート会議術第164回】

「心理的安全性」があればテレワークの成功確率89%【スマート会議術第164回】株式会社クロスリバー代表取締役社長 CEO 越川慎司氏

元マイクロソフト業務執行役員としてPowerPointやMicrosoft Teamsなどの責任者等を務めてきた越川慎司氏。現在はクロスリバー代表取締役社長として、これまで734社16万人の働き方改革を支援してきた。

そして昨年末、その経験とノウハウを凝縮した著書『超・会議術~テレワーク時代の新しい働き方』を上梓。1年以上続くコロナ禍の最中、テレワーク時代における「オンライン会議」の作法も織り込み、ビジネスパーソンの時間を奪う「ムダな会議」を一掃する方法を伝授。

起業以来、自ら4年間週休3日を実践しながら、企業の働き方改革やテレワークを支援してきた越川氏。テレワーク時代の最適なアウトプットを最速で得るためのノウハウを伺った。

目次

議事録は簡素化、効率化されていく

――事前の会議資料や議事録の作成は新人が通過儀礼的にやることが多いですが、会議資料を上手に作成するコツはありますか。
参加者約8000人の追跡調査でわかったのですが、議事録を見ない人は9割弱です。作ってもほとんど見られていない。見られない資料を作るのはムダなので、作るのが目的の議事録はやめたほうがいいと思います。それが情報共有するものであれば、情報共有してその人にどうしてほしいのかが設計されていないと意味がありません。
確かに教育のために入社1年目の方が議事録を作ることが多いですが、それは会議の効果や効率とは別の人材育成という目的であればいいと思います。議事録は文章力を鍛えるためには有効な手段ですが、会議の運営とはまったく切り離して考えたほうがいいです。
議事録は今後テクノロジーが一番入ってくるところだと思います。どんどん簡素化、効率化されていくことになると思います。オンライン会議サービスのZoomもMicrosoft Teamsも文字起こし機能が実装されていきます。誰が何を話したかを確認するだけであれば、文字起こし機能で十分ですし、録画機能を使えば誰がしゃべっていたかもわかります。AI議事録などもいろいろサービスが出ていますから、基本は話した内容を右から左に文字に起こす作業は、徐々にテクノロジーで置き換えられていきます。
――9割弱が見ない議事録をなぜみんな作るのでしょうか。
「重要そう」だからです。実は議事録以外にパワーポイントの資料もそうですが、重要そうな資料、重要そうな情報といった「~そうな」とつくものは約8割が使われないんです。重要な資料は99%見られるのですが、「重要そうな」資料は8割が使われない。
議事録は、参加できなかった人に見せるといった目的もあります。もし参加できなかった人があとで見るなら議事録は効果的です。なぜならば次回開催するときに、前回の様子を説明しなくていいので、形に残しておいたほうがいい。ただ、参加しなかった1、2名のために何時間もかけて作るのは効率化したほうがいい。テクノロジーを使って見てもらうほうがよっぽど効率的だと思います。どういうアクションで終わったということを意思決定会議から実行者である現場の方々に伝えるのが目的ですから、議事録にこだわらずチャットの箇条書きでも十分伝わるんじゃないかなと思います。

テレワークに成功している企業業は22.1%

――テレワークになってコミュニケーションが難しくなったという声が多いと思います。テレワークがメインになってきたときに、どのようにうまくコミュニケーションしていけばいいですか。
827社に「テレワークに成功していますか?」とアンケートをとったところ、「成功している」と答えた企業は22.1%しかいませんでした。失敗してしまった残りの77.9%には共通点が2つあります。まず1つは、手段であるべきテレワークを目的化してしまうこと。テレワークすることが目的の企業はうまくいきません。もう1つは成功の定義が決まってないこと。テレワークを通じて何がしたいのかという山の頂上が決まってない企業は、いくら山登りしても頂上に着かない。逆に言えば目的と手段をはき違えずに成功の定義が決まっていれば成功確率が上がります。
一般的な成功確率が22%で、その2つの「目的と手段をはき違えないで成功の定義を持っている」企業の成功確率は68%ぐらいでしたので、成功確率3倍となります。2つの要素があれば成功に近づくわけです。
――会社にビジョンや理念とかがあれば、テレワークを目的化してしまうことはないと思うのですが。
ビジョンを持ってない企業はないと思いますので、自分の仕事の目的、チームの目的が明確かということだと思います。昨年2020年にテレワークに取り組んだ企業の77%がBCP(事業継続)でした。それまでやっていたことをコロナ禍でもこなせるようにするという目的は間違っていないと思います。
コロナ禍になったからといって、こなすべき仕事が極端に下がるわけでもないですし、人が増えるわけでもありません。そういった意味では、出勤しなくても仕事が回せるというのは、1つの成功の定義としてはあると思います。ただ、出勤していたときには隣の人に協力を求められていたのが、テレワークではそれができませんから、仕事のやり方としては大きく変えていかないと、いままでの仕事がこなせなくなるという実情があると思います。

8888で心理的安全を確保する

――コミュニケーションがとりづらくなっているというのは結構言い訳にすぎず、テレワーク以前はコミュニケーションとれていたのかという、逆の問題提起が出てくるように感じます。
まったくそのとおりです。出勤時に「心理的安全性」がとれたチームは、テレワークの成功確率89%です。だから腹を割って話せる関係性を事前に持っているかどうかが非常に重要になってきます。心理的安全性はテレワークか対面かに関係なく、組織の中で共通言語を持っているかどうかなんです。
心理的安全性がとれている組織をチームA、「うちはコミュニケーションがとれていない」というメンバーが6割以上いる組織をチームBと分けて調査をしました。コロナ禍前の2019年時点での比較で、チームAはチームBよりも会議時間が25%短いし、総労働時間も少ないし、働きがいを感じるメンバーも多い。
一方、チームBは、資料作成時間が圧倒的に長い。パワーポイント資料の23%が上司に対する過剰な気遣いで作られています。その資料の8割は結果的に使われませんでした。「こんな資料必要ですかね?」と気軽に確認できないので、テレワークだとさらに資料作成時間が長くなるという傾向があります。
精神疾患になる人も多いし、エース級が辞めてくという悪い傾向があるにもチームBです。両チームが2020年からテレワークを実施しました。すると、チームAは「テレワークがうまくいっています」と答えたのが89%、チームBは「うまくいっていません」と回答したのが92%。心理的安全性があれば、出勤していてもテレワークであっても成果を出しやすいことがわかりました。
この心理的安全性は会議で会話によって育まれるもの。テレワークによってカジュアルな会話が減った組織は要注意です。意図的にチーム内のコミュニケーション頻度と密度を高めていく必要があります。
クライアント各社といわゆる行動実験を毎週いろいろ新しいことをやっているのですが、再現性があって効果が出やすいことが2つあります。
まず1つが「社内会議の冒頭2分間雑談」。これは非常に効果があります。たとえば冒頭2分間だけ雑談をして、2分間経ったら終わらせるという強制ルールです。そうすると発言者数は1.9倍になって、発言数は1.7倍になる。それだけ発言が増えても、逆に時間より早く終わる可能性が45%高い。初めに空気を温めることがいかに大切かということです。雑談のネタにも勝ちパターンがあって、大きく4つの定番パターンがあって、天気の話と、時事ネタと、家族の話と、飲食が多いです。
もう1つは感情共有という施策です。Microsoft TeamsやSlackには「いいね!」マークがありますが、オンライン会議でも使うべきです。僕が3年半前から企業に浸透させているのは「8888」です(笑)。僕が日本で初めて使ったのですが、パチパチパチパチ(拍手)の意味です。
一般企業ではオンライン会議で自分の顔を映す人は驚くべきことに2割以下です。顔を出したくないし、発言も恥ずかしい。特に最初に発言するのは一番抵抗感がある。だから顔を映して最初に発言してくれる人を意図的に褒めるのです。そのために「8888」ってみんなで送るんですよ。どういう意味ですかって言われたら「君の意見が素晴らしかったから、パチパチパチパチって送ったんだよ」って言うと、一気に盛り上がって、みんなで「8888」の応酬になるんですよ。それが発言を増やして心理的安全性を生むことがわかって、いま「8888」を使っているクライアント企業は増えています。
オンライン会議で拍手する人はまずいないと思うので、そういった「いいね!」とか「素敵だね!」みたいなアイコンや「8888」を使って感情共有することがテレワークでは必要だということですね。冒頭2分間と感情共有の雑談は、どの企業でもうまくいっています。本にも書きましたが、「会議」より「会話」が重要ということです。

心理的安全性があればどこで働いても機能する

――「会議」より「会話」が重要だというのは、心理的安全性をどれだけ確保するかということに尽きる?
そうですね。テレワークは労働時間が17%増えるという結果が出ています。では労働時間を減らすためにはどうしたらいいかを考えたときにムダをなくそうとします。じゃあ何でムダが発生するかというと、その原因のひとつが過剰な気遣いです。「いまちょっといいですか?」と言えなかったり、パワーポイントを派手に作ったりとか。そんなムダを削る基本となるのが心理的安全性です。心理的安全性をとるための施策を500社で300回以上やったら、成功するパターンが見えてきたというのがいまの状態です。
――テレワークゆえのデメリットは、心理的安全性という面ではオンラインだろうがオフラインだろうが関係ないってことですね。
そうです。今後はテレワークをする人と、在宅勤務の人と、会議でも会議室で参加する人とリモートで参加する人がハイブリッドになっていくと思います。その中で心理的安全性がとれている組織であれば、誰がどこで働いていようとコミュニケーションはとれるということです。
ただ、心理的安全性をとるという行為は、オンラインよりも対面のほうが圧倒的に楽なんです。今後はすべての業務をテレワークにしようという企業は少ないと思いますが、「出勤したときに何をするか」と考えたほうがいいです。出勤したときにちゃんと腹を割って話せる関係性があれば、テレワークを継続する人がいても業務がこなせる、利益が上がるということだと思います。
会議を否定しているわけではなくて、変化に対応していくためには多様な選択肢を持たなければいけない。対面する集合型の会議でも成果を残し、リモート会議でも成果を残すことができる企業は今後も生き残れると思います。

文・鈴木涼太

越川 慎司(こしかわ しんじ)株式会社クロスリバー
株式会社クロスリバー代表取締役社長 CEO/アグリゲーター。元マイクロソフト業務執行役員。国内通信会社、米系通信会社、ITベンチャーを経て、米マイクロソフトに入社。11年にわたり在籍しExcelやPowerPointなどの事業責任者を務める。2017年に株式会社クロスリバーを設立。3年以上週休3日・テレワーク・複業を実践し、真の働き方改革を推進すべく700社以上のリモートワークの導入支援をしている。メディア出演、講演多数、受講者満足度は平均94%、自発的に行動を起こす受講者が続出。著書に『超・会議術』や『AI分析で分かったトップ5%社員の習慣』など15冊。

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