プレゼンテーションはつかみとオチで決まる【スマート会議術第177回】

プレゼンテーションはつかみとオチで決まる【スマート会議術第177回】有限会社エマメイコーポレーション 代表取締役 大塚寿氏

ビジネスコンサルタントの大塚寿氏は、知る人ぞ知るリクルートOBのレジェンドだ。しかし、リクルートでの在籍期間は短かった。大塚氏は入社して2年半で会社を辞め、リクルートで培った売れる営業のノウハウを体系化するために、アメリカでMBA(経営学修士)を修得することを決意する。

そして、MBAの2年間で600ものケース(事例)をこなし、ケースメソッド(事例研究)による討議によって進行する授業に衝撃を受けた。そこで日本の忙しいビジネスパーソンにも、研修を通してケースメソッドの効果を最大に上げる方法はないかと模索し続けた。

そして帰国後、エマメイコーポレーションを設立し、企業の規模、業界、現状、課題、具体個別性に配慮したオーダーメイドのケースを作成する。以来、今日までビジネスコンサルタントとしてオーダーメイド型企業研修や営業研修を展開、リクルートの伝説の営業パーソンが講師陣に名を連ねるオンライン営業研修「営業サプリ」の指揮・監修を手掛けてきた。

そんな長年の経験と実績で、いまや“営業の達人”として名を馳せる大塚氏だが、彼は「営業はプレゼンに始まり、プレゼンで終わる」と言う。プレゼンテーションはそれほどビジネスの支柱となる重要なスキルなのだ。

今年6月に『<営業サプリ式>大塚寿の売れる営業力養成講座』を上梓した大塚氏に、プレゼンテーションの極意についてお話を伺った。

『大塚寿の売れる営業力養成講座』(日本実業出版社)
目次

営業は「プレゼンに始まり、プレゼンに終わる」

――プレゼンテーションは、営業にとっても軸になる大切なスキルだと思います。大塚さんにとってプレゼンテーション(以下プレゼン)とは何でしょうか。
営業は「プレゼンに始まり、プレゼンに終わる」と言ってもいいくらい、プレゼンがすべてだと思います。プレゼンにはさまざまな流派があるのですが、私が好きなのはエンターテインメント系です。「プレゼンはエンターテインメント」という考えです。エンターテインメントで一番わかりやすいのは漫才やコントなどのお笑いですが、お笑いの原理原則はつかみとオチ。だからそれをプレゼンに移し替えると、どこでつかんで、どこを落としどころにするかということだと思います。
つかみはスタート、落としどころはゴールとも言えます。スタートとゴールが決まれば、その間のシナリオがいろいろ描けます。プレゼンをする相手がどういう人かわからなかったとしても、「ここでつかもう」というのを準備しておけばいいし、準備が足りなかったとしたら、出たところ勝負で、「今日はこういう背景を持った人たちだから、出だしはこういう話をしたらつかめるだろう」と想定することが非常に大事だと思います。
だからプレゼンはエンターテインメントと考えて盛り上げるということ。営業は勝たなければ意味がない。どんなに詳しく説明をして理解してもらったところで、受注できなかったら、そのプレゼンは負けですからね。
価格も機能も同じで差別化が難しくて、最終的に差別化のポイントがなかったら、「でも、あの会社の営業はなんか印象的だったな」と、プレゼンの印象が残っているところで買っちゃうんですよね。圧倒的な価格差があったり、機能特性で圧倒的に負けていたりしたらダメですけど、商品が互角だったらプレゼンで選ばれます。
1割~2割程度の価格差だったら、「あの営業とつき合いたい」とか「価格は高いけど、あの会社はいい情報を持ってきてくれる」といったことで、ひっくり返すのは可能です。そのためにもまず、つかみです。つかみはワハハと笑う面白さといったことではなく、お客さんがどれだけ得をするか、プラスになるかということ。この営業とつき合っていると何か得がありそうだと示せるかどうかが最強のカードだと思います。
――とはいえ、つかみとオチを考えるのはすごく難しい気がします。
それは受験でいうと過去問です。学校によって出やすい傾向があるのと同じで、お客さんの業界の特性やその企業が保守的なのか新しいもの好きなのか、いまどういう課題を持っているかなどパターン化できます。それをあらかじめ準備して、気の利いた情報を準備できるかどうか、そういう意味では、プレゼンは事前準備で決まります。
――面白い話を考えたり、自社の商品やサービスが、「こんなにいいですよ!」とアピールしたりするのではく、まずはプレゼンするお客さんをいかに知るかということですね。
はい。自分が売ろうとしている商品の強みが150キロのストレートだとします。でも、150キロのストレートをずっと投げ続けていると、バッターは目が慣れてきますよね。だからどんなに速くても一本調子だと打たれちゃうんですね。つまり、あっさり打ち返されてしまう。打ち返されないためには緩急(変化球)を使う。110キロ台のカーブとかストレートに見えるけど130キロのチェンジアップとかですね。そういう遅い変化球のあとに145キロを投げたほうが、150キロを投げ続けるよりも速く見える。それと同じで、商品力が150キロだとしたら、160キロや180キロにはならない。どうしたら速く見えるかが勝負だから、150キロで勝負するときも、より良く、より速く見えるカーブやチェンジアップを使う。それに匹敵するものが「御社の課題は…」ということです。
「最近こういう引き合いが多いですが、もし御社で○○についてお困りでしたら、こういう……」という、お客さんが困っていることと自社できることをうまくハマるように切り出す。
わかりやすいのが事例による裏づけです。同じ業種の同じ部門が抱える同じような課題をどうやって解決できたかという事例をbefore/afterのエピソードで語るとお客さんもイメージしやすい。「機能特性はこうです」と言うより、「現状、事象、課題が、この商品によってこうやって改善されました。その結果、こんなに良くなったんですよ」とストーリーで語る。そうすると「へぇ~」ってなりますよね。そのほうが、機能を説明するよりよっぽど雄弁ということになります。エピソードで語ると再現性が高いんです。
たとえば私が5000万円の案件をある部長にプレゼンをしたとします。5000万円ぐらいの案件だと普通は役員会や常務会で意思決定されますよね。その役員会の席に私はいません。その部長が役員に話すわけですが、機能などをあれこれ説明するより、私がストーリーで語って「へぇ~」って思ってもらった話のほうが、簡単にストーリーで語れる。つまりストーリーは独り歩きしても再現性が高いんです。
そうすると、役員の人たちの間でも「へぇ~」が広がる。ストーリーが伝染していくわけです。ただカタログみたいにスペックが羅列してあるより、ストーリーがあったほうがよっぽど魅力的に見えますよね。それが説明とプレゼンの違いだと思います。
――確かにスペックはなかなか頭に入らないですがストーリーなら空で言えますね。
そうです。「へぇ~」って思ったことなら、「昨日こんなことあったんだけどさ」というランチの会話と一緒です。ゴシップとか噂話とかと同じレベルで事例を語ると、相手にインプットされて「へぇ~」と思って簡単に人に伝えることができる。そういうふうにストーリー化すればいいのです。
たとえば「iPhoneは128GBの容量で……」と言うより、スティーブ・ジョブズのように「ポケットに1000曲入る」と言ったほうがイメージしやすい。スペックで語ることももちろん大事です。64GBから2倍になりましたと言うのも大事ですが、それによって何ができるかエピソードを語ったほうが、イメージがしやすいですよね。 

「話上手に売れる営業なし」の理由

――日本人は口下手とか笑顔をつくるのが苦手だとか、プレゼンや営業に対する苦手意識があって悩んでいる人も多いと思います。
プレゼンや営業に話し上手かどうかはあまり関係ありませんね。「話上手に売れる営業なし」という格言があるくらいです。なぜなら、話上手といってもお客さんは別に営業の話を聞きたいわけじゃない。ただ、目の前の問題を解決したいだけ。営業の仕事は一方的にペラペラ話すことじゃなくて、聞くことです。むしろ逆なんです。
だから口下手でも、内向的で暗い性格でもろ、ボキャブラリーが貧弱でも、お客さんが困っていることを察して真摯に答えられれば大丈夫です。技術者から“売れる営業”になる人は多いですが、それは口下手でも相手が困っていることに、その場でさっと回答やヒントを提示できるからです。ただ「この商品はすごいですよ!」とピント外れの説明をされるより、「御社が○○で困っているのであれば、○○するとすぐ直りますよ」と言われたほうが信頼できますよね。
お客さんの質問には何も答えられずに「持ち帰って連絡します」と言うより、その場で「これかこれです。だからこうします」って言ったほうが、その人が口下手で営業らしくなくても、ごまかそうとしないで真摯に向き合ってくれるほうが信頼できますよね。自分の営業成績のためではなく、お客さんのことを考えていると伝われば、「ずっとその人から買い続けたい」と思ってくれるだけでなく、他の人にも紹介してくれたりしてどんどん仕事が増えていったりするんです。
特にIT業界では営業に技術を語らせるより、エンジニアに営業を覚えてもらうほうが成果を上げることも多いですね。エンジニアとして採用して何年かエンジニアをやってもらって、そこからコミュニケーションが上手そうな人を営業にして成果を上げていたりします。
いまは技術の進化が速すぎるので、営業では簡単に語れなくなっていることもその原因の1つです。だから「持ち帰って返答します」と御用聞きにならざるを得ない。技術がわからないから、お客さんからは「技術のわかる人に相談したいから、わかる人を連れて来て」となる。「じゃあ今度はSEを連れてきます」となったら人件費が2倍になるので、最初からエンジニア一人でよくね?という話になっちゃうわけですね。
これからの時代はやはり技術を持っている人が強いですね。たとえば60歳になって定年になっても、再雇用になったときに一番売れていくのはエンジニアです。最先端の通信分野などはもちろんですが、逆に銀行などホストコンピューターを使っている業界では昔ながらのレガシーな技術も必要なんです。また、工場の立ち上げができるといったスキルのニーズも高く、知人に75歳でインドの工場の立ち上げやっている人もいますよ。

分業制に進化する営業体制

――近年はインターネットの発展もあって、営業もインバウンドマーケティングが中心になってきていますね。
そうですね。インバウンドマーケティングには、インサイドセールスとフィールドセールスがあって、まずはホームページやソリューションセミナーなどで人を集めますよね。
その問い合わせを、個人なのか、数十名の会社なのか、数百名の会社なのか、まずは区分しなければいけません。ターゲットになるかどうかも含めてどのくらいの温度感で応募してくれたのか、問い合わせしてくれたのかを見極め、インサイドセールスの人たちが連絡をします。
そして、これをまた分類して確度が高そうなものをリアルの営業のフィールドセールスにつないで、訪問して案件化する。数十万円の規模だと電話でクローズまでしないとコストが合わないでしょうし、数百万円以上、数千万や数億円になるのであればフィールドセールスにバトンタッチします。そこでインサイドセールスがアポをとってもいいし、事例も用意したいのであればフィールドセールスから連絡を入れてもいい。そういう段取りで分業していくのが主流になっています。営業だけで新規ばかりやっていると疲弊して潰れちゃうんですよね。
――入口の受け皿となるインサイドセールスとフィールドセールスの連携がうまくできなくて、対立構造になったり案件の奪い合いになったりはしませんか。
案件を取ることをポジティブに捉えるか、ネガティブに捉えるかですが、会社が受注するという目的を考えたらどちらでもいいわけです。発注するかどうかはお客さんが決めることだから、売り手は誰がやってもいいんです。仕事はホットにやったほうが進化をしていくので、対立はいいことだと考えればいいと思います。
ルールを決めれば奪い合いもあながち悪いことではないです。奪い合いが起こるというのは見込み客があるという前提なので。見込み客がない前提のほうが怖いですよね。だからプラスに考えるべきだと思います。
野球で言えば、先発、中継ぎ、クローズの分業制ですね。最近はメーカーもIT企業も営業がある程度までやって、込み入ったことはエンジニアがプレゼンすることも多いです。いまは、集めて、育てて、確度が上がったら渡すという分業制が徐々に主流になってきていますね。

文・写真:鈴木涼太

大塚 寿(おおつか ひさし)エマメイコーポレーション
エマメイコーポレーション代表取締役。1962年群馬県生まれ。株式会社リクルートを経て、サンダーバード国際経営大学院でMBA取得。現在、オーダーメイド型企業研修、営業研修を展開するエマメイコーポレーション代表取締役。リクルート社の伝説の営業パーソンが講師陣に名を連ねるオンライン営業研修「営業サプリ」において「売れる営業養成講座」の執筆・総合監修を務める。著書に『<営業サプリ式>大塚寿の売れる営業力養成講座』(日本実業出版社)『リクルート流』(PHP研究所)、『"惜しい部下"を動かす方法ベスト30』(KADOKAWA)、ベストセラー『40代を後悔しない50のリスト』(ダイヤモンド社)、『できる40代は、「これ」しかやらない』、『50歳からは、「これ」しかやらない』(共にPHP研究所)など多数。

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