チームの「考える力」を引き出すマインドマップ【スマート会議術第84回】

チームの「考える力」を引き出すマインドマップ【スマート会議術第84回】「マインドマップの原案者トニー・ブザンが作成したマインドマップ」
株式会社ヒューマン・リスペクト 代表取締役 塚原美樹氏

マインドマップは、「脳のスイスアーミーナイフ(万能ナイフ)」と呼ばれ、ビジネス界や教育界を中心に、世界中で使われている革新的な思考ツールだ。

マインドマップは、脳のメカニズムを自然に活かしながら思考や連想をサポートする。今日のビジネスシーンにおいて最も必要とされる、創造性と思考力を養う武器だと言ってもいい。

そんなマインドマップにいち早く取り組んだ塚原美樹氏は、日本のマインドマップ界の草分け的存在だ。今回は、塚原氏にマインドマップの活用法、書き方の基本について語ってもらった。

目次

マインドマップのイメージは記憶に残り、行動につながる

――マインドマップの効果的な使い方をお教えください。
マインドマップは、視覚的な表現を意識したツールです。これまでのノート法ではあまり使ってこなかった「色」「形」「大きさ」「イメージ」などを上手く使おうとしています。たとえば、サイズが大きいと、大切だと直感的にわかりますね。また、イメージは総じて言葉よりも直感的ですし、記憶にも残ります。
ですので、マインドマップを書くときには、視覚的な表現に工夫を凝らすことが大切です。たとえば、言葉で書いても構わないのですが、工夫して、あえてアイコン化してマインドマップに描き入れておけば、そのアイコンが記憶に残ります。工夫が多ければ多いほど記憶に残りやすくなりますし、そうした工夫を常に考えること自体が私たちのクリエイティビティを伸ばすことにもなります。
マインドマップを考案したトニー・ブザンは、記憶というものにものすごく興味を持っていて、世界記憶術選手権をずっと開催していました。5分間で500桁の数字を覚えられるような人たちが集まる大会です。彼は若い頃に記憶の法則を学び、独自の法則も作りました。その後、記憶の法則にかなったノートとしてマインドマップを作ったのです。
最近は、記憶しておかなくてもスマートフォンなどがあれば簡単に情報を引き出すことができます。ですので、皆さん、「記憶なんてたいして大事ではない」と思っているかもしれません。ですが、実は記憶というのは、人の行動を左右することもあるのです。
たとえば、何らかの目標を立てたとします。けれど、その目標が表面的な言葉だけで作られたものの場合、目標に向かって頑張ろう、行動しようという気には、なかなかなりません。一方で、目標が達成され、成功した状態をありありとリアルにイメージできたら、そのイメージは心に記憶として残ります。記憶は自然と行動に影響し、目標実現につながっていくのです。
会議においても同じことが言えます。たとえば、目標についての話し合いの後で、参加メンバーが実際に目標に向かって動こうという気持ちになるためには、会議中に、成功のイメージをみんなで共有している必要があります。イメージが共有できていなければ、実行されることはないでしょう。人間の脳は、イメージで思い浮かべたものは記憶しやすいという性質を持っています。つまり、イメージが共有されると、そのイメージがメンバーの頭に記憶され、それが行動につながるわけです。
目標を話し合う会議でマインドマップを使うならば、話し合いの最後に、目標が達成された状態のイメージをマインドマップの中心に絵として描いておくと良いでしょう。その絵が記憶に残りますので。

企画の青写真をマインドマップで視覚的に作る

――パソコンで使うマインドマップツールもありますが、手書きのマインドマップとはどう違うのですか。
マインドマップのソフトはたくさん出ていますが、マインドマップ自体の考え方と使い方を理解せずにソフトを使っても、あまり上手くいかないでしょう。
ソフトには、他の人と共有できる、書き直しができる、また、紙と違ってどこまでも広げることができるというメリットがあります。一方で、たとえば大きなマインドマップを作成した場合に、モニター上に部分だけが表示されるようですと、「全体が一覧できる」というマインドマップの利点が発揮できません。また、ソフトの場合、クリエイティブにマインドマップを作成しにくい。たとえば、ちょっとしたイメージを描きたいときにも、ソフトだとサッと描くことができない。ソフトでは、クリエイティブにいろいろな表現をすることが難しいと感じます。
実は私はいま、マインドマップをほとんどiPadとApple Pencilで書いています。iPadだと手書きでありながらデジタルですので、簡単にファイル保存できるし、スペースをどこまでも広げられるので大変便利です。ソフトもいいけれど、デジタル化するのであれば、タブレットを使った手書きのマインドマップはおすすめです。
――会議の発表やプレゼンテーションなどで資料を作成する際にも、マインドマップは使えるのでしょうか。
そうですね。私は丸一日の研修プログラムを作成する際、1時間くらいマインドマップを書くと、頭の中に一日分のプログラムが全部出来上がります。その後、マインドマップを見ながら100枚程度のスライドを作成します。つまり、マインドマップを作成している1時間が、最も生産性が高い時間になっているということです。その後のスライド作成は、単なる作業でしかありません。誰でもできる仕事です。どのような組み立てにするかとか、何を落としどころにするかを考えるところ、企画の部分が一番大事な仕事であり、価値を生み出している部分です。
――最初からスライドを1枚ずつ作っていくのと、先にマインドマップで内容を考えるのとで、効率はそんなに違うものですか。
全然違うと思います。何かを考える際に、気をつけておくと良いことのひとつに「全体から入る」ということがあります。全体像がないまま、細かいところから作ろうとすると上手くいかない。原稿を書く際も同様で、全体の構成を決めてから書かないと、書けないですよね。
何かを作る際には、やはり最初のプランニングが大切なわけです。いろいろな情報を出して、情報をどう組み立てるかをマインドマップの中で考える。全体のプランができていれば、後はその通りに作るだけです。プランニングがないまま始めてしまうと、どんな仕事も上手くいかないですよね。
――青写真を描くための援護ツールなんですね。
そうですね。マインドマップの便利な点は全体を見渡しやすいところです。全体を見渡したときに、イメージや色を上手く使って、「大事なところはこれ」と目立たせることができる。「こことここは関係している」と思えば、矢印でつなげられる。また、ナンバーを振っておけば、優先順位や順序が決まってきます。
たとえば、講義の内容であれば、時間割もマインドマップの中に書き入れることができます。また、研修計画であれば、演習の時間だけ色を変えてマークしておけば、一日のプログラムの中で演習をする時間が偏っていないかなども一目でわかります。視覚的に分かりやすいというのが、マインドマップの利点です。

対話を促進するマインドマップ

塚原さんが作成した原稿の内容を考えるためのマインドマップ
――会議に使うマインドマップについてお伺いしたいのですが、まず、会議について、意識しておいたほうが良いことは何かありますか。
会議に関する研修をよく担当するのですが、「職場で話し合いをしていますか?」と聞くと、多くの人は「やっています」と答えます。ところが、よくよく聞いてみると、一方的な連絡で終わっていたりして、参加メンバーが一緒に考えることができるような「対話」の場としての会議は、あまり行われていません。
月例ミーティングや週次ミーティングは、どこの会社でもやっているでしょう。課長や部長から連絡があり、部下から報告があるといったような。ですが、実はそういった報告や連絡のみの会議をしているだけでは不十分です。業務上の問題について、チームが一緒に考えられる場としての会議、本来の意味での「対話」が起きるような会議が、本当は必要です。業務上の問題を掘り下げて考えてみると、ほとんどのケースでは組織内のコミュニケーションが上手くいっていないことが原因になっています。ところが、そうした問題について、一緒に考える場は十分に設けられていない。
ですので、マネジャーは、対話の場をどのように用意し、どのようなものにするかということに意識を持っていく必要があります。たとえば、マインドマップを会議に使えば、出てきた話を視覚的に記録し、それを見ながら話し合うことができます。対話を促進するひとつの方法として、会議にマインドマップを取り入れるというのは、非常に有効かと思います。

「考える力」が日本社会に求められている

――来年から教育改革も実施予定で、国もグローバル社会に対応できる人材の教育に本腰を入れ始めましたが、人材育成についてはどうお考えですか。
日本では文科省が「エッジネクスト」(EDGE-NEXT:Exploration and Development of Global Entrepreneurship for NEXT generation)という取り組みをしていますね。国を挙げてアントレプレナー(起業家)を育てる必要があるというのです。
起業家というと大手企業などには不要な人材かのように思われるかもしれませんが、起業家と同様の資質を持った人材が企業内にも必要です。この場合、そのような人材はイノベーション人材と呼ばれます。つまり、新しい問題を発見し、それに対する解決策を考えられる人材です。国としても、そのような人材が不足しているという危機意識はあるということでしょう。
私は、マインドマップはイノベーション人材の育成にも役に立つのではないかと考えています。アントレプレナーの能力、つまり新しい問題を発見できる能力というのは、その人自身の物の見方、考え方が受け身ではなく、積極的に探求するような姿勢になっていて、初めて身に付くものでしょう。マインドマップは考えることを支援するツールですので、これを使うことで、自分の頭で考え続ける癖がつく。実際に、過去のご受講者の方の中にも、マインドマップを学んだ後に社会起業家を目指すようになった方がいらっしゃって、その方は「マインドマップを学んだおかげで、自分で考えるのを諦めなくなった」と話していらっしゃいました。
論理的思考力の向上にもマインドマップは役に立ちます。論理というのは、「得られた情報から推論し、その推論の結果をもとに意見を考える」という組み立てになっています。
よく知られている推論の方法は3つあり、「演繹法」「帰納法」「仮説形成」です。このうちの仮説形成、アブダクションと言いますが、このアブダクションを促進するための思考ツールとしてもマインドマップは非常に有効です。
アブダクションというのは、得られた情報から、それらの情報があるということは、どのようなことが起きているのかを推論する方法です。医者や探偵がしている思考法とも言われています。
アブダクションはビジネスにおいても非常に大事です。お客様のところにヒアリングに行って得られた情報を、総じて考えてみると、きっとここにニーズがあるだろう、ここに問題があるだろうと推論する際には、このアブダクションを使っています。演繹法や帰納法と違い、アブダクションは、クリエイティブに仮説を考えなくてはならないのですが、この際、やはり「全体を見る」ことをしないと適切な仮説が浮かんでこない。全体を見渡しやすいマインドマップは、アブダクション的な思考を促進するのにも役立つのです。
仮説が考えられるということは、新しいニーズを発見できる、新しい問題を発見できるということに繋がりますので、やはり、イノベーション人材には不可欠な思考力ということになるでしょう。

一人一人が「考える力」を鍛えなくてはならない時代に

――トニー・プザンがマインドマップを考案した根本思想は何だったのですか。
トニー・ブザンは、「思考はどうなっているのだろう」「記憶の仕組みは、どうなっているのだろう」「頭を使ってやっていることは、もっと分解して原理を考えた場合、どのような仕組みになっているのだろう」といったことを考えていた人です。
それらを考えた結果、彼は「脳はイメージで考えている」という結論に辿り着きました。
そして、脳のしている2つの大きな仕事は、「イメージを思い浮かべること、何かと何かを繋げること」だとも考えました。さらには、彼は全体性の大切さにも気づいていました。「ゲシュタルト」という言葉があります。これは「全体像」といった意味ですが、ブザンはよく「ゲシュタルト」という言葉を使っており、全体像を捉えることの大切さを強調していました。これらの脳に関する洞察を元に、脳に自然な思考ツールとして生み出されたのがマインドマップです。
トニー・ブザンがつくった造語ですが「メンタル・リテラシー」という言葉があります。「メンタル」は頭。「リテラシー」は何かを理解していて、それを使いこなす力のことです。つまり、「メンタル・リテラシー」は「頭をつかいこなす力」という意味です。マインドマップの奥には、メンタル・リテラシーを高めるための脳への理解があり、メンタル・リテラシーを高めるためのツールがマインドマップなのです。
――ビジネスシーンにおいて、メンタル・リテラシーを高めていかなければいけないという意識は、浸透してきていますか。
まだまだだと思います。日本人は着実な仕事は得意。だけどイノベーションが起きにくいのは、やはり思考パターンの問題かと思います。日本では、小さい頃から自分の考えを述べる習慣を身につけさせるということが、できていませんね。親や教師の言ったことを受け入れるように教育が行われており、とことん自分で考えさせるという教育にはなっていないのでしょうね。つまりは、メンタル・リテラシー(頭を使いこなす力)を鍛え、自分の頭でとことん考えるということが、国全体として、普通のことになっていないのかもしれません
しかし、こうした「考える」ということへの意識が変わらないと、多分、日本でGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)みたいな会社は出てこない。もちろん、スタートアップはある程度トップダウンでいかないとダメでしょう。天才的なリーダーがワッといかないとスタートアップ期は上手くいかないと思いますが、ある時期からは、それだけでは限界がある。天才がトップダウンでやる時期もあるけれど、企業のその後の成長のためには、社員一人ひとりに考える力をつけさせて、能力を発揮させるようなマネジメントに移行し、チームとしての力を高めていくことも必要です。
つまり、「考える力」というのは、一部のイノベーション人材だけが持っていれば良いというものではなく、これからの社会においては、社会で働く一人ひとりがみな、身につける必要のある力でもあると思います。

文・鈴木涼太

塚原美樹(つかはら みき)株式会社ヒューマン・リスペクト
株式会社ヒューマン・リスペクト 代表取締役。人材・組織開発コンサルタント、中小企業診断士。「マインドマップの学校」主催者。上智大学卒業後、メーカー勤務等を経て2004年に株式会社ヒューマン・リスペクトを創業。2006年、マインドマップの開発者であるトニー・ブザン氏のトレーニングコースに参加。日本におけるマインドマップ普及の黎明期からその活動に参加している。2019年、マスター・インストラクターに就任。日本におけるマインドマップ・インストラクター養成を担当する。著書に『マインドマップ戦略入門』がある。

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