プレゼンに大切なのは、テクニックではなくコンテンツ【スマート会議術第90回】

プレゼンに大切なのは、テクニックではなくコンテンツ【スマート会議術第90回】圓窓代表 澤 円 氏

年間250回以上のプレゼンをこなし、“プレゼンの神”として講演依頼が絶えない澤円氏。もともとはエンジニアでありながら、マイクロソフト社の公式イベントでプレゼンターとして7年連続1位を獲得し、同社の名スピーカーとして名を馳せた。

日本人がプレゼンを苦手と感じる原因はどこにあるのか。そして、プレゼン上手になるためにはどうすればいいのか。

「そもそも世界中のほとんどの人がプレゼンは苦手と思っている」と澤氏は言う。『マイクロソフト伝説マネジャーの世界No.1プレゼン術』の著者でもある澤氏に、プレゼンに臨むにあたって大切な心構えについて語ってもらった。

目次

プレゼンはシンプルであれ

――著書『マイクロソフト伝説マネジャーの世界No.1プレゼン術』で、プレゼンはシンプルであることを強く提言されていますが、シンプルであることはなぜ重要なのですか。
シンプルであることは、まず多くの人に理解してもらう確率を上げるという狙いがあります。たくさんの人たちが理解できるようにする。シンプルであれば、フィルタリングを最低限に抑えることができるのがひとつ。
そして、シンプルであれば前回お話した「核」(記憶に残るメッセージ)にしやすいので、オーディエンスが持って帰りやすくなる。また、持って帰っても変質しない。逆にもっと良くなって伝わるかもしれない。シンプルだと面白さや新鮮さが失われないんです。複雑で冗長だと面白くなくなるし、持ち帰りづらい。シンプルであることは、最低限の必要条件だと思います。
特にいまはソーシャル時代なので、いろいろな人たちとつながりを持たないわけにいかない。昔みたいに閉じた集落だけで生活はできない。でもシンプルであれば、多様な中でも仲間をつくりやすい。仲間づくりを実践していくためには、シンプルな行動指針であったり、発想であったりすることが必要になってくると思います。
さらにはシンプルだと余白が多いので、他の人たちの考えも尊重しやすい。人をハッピーにするのがプレゼンの究極の目的なので、どういう人たちにどうやって伝えていけばいいかを考えると、シンプルであることは最大の武器になるのです。

プレゼンのメソッドは都度考えて、アプローチを変えていく

――プレゼンで伝えるメソッドはいろいろあると思いますが、伝える相手や内容によってメソッドは異なりますか。
たとえば、僕は空手と茶道をやるんですけど、両方とも手法(メソッド)があります。茶道の場合は、落ち着かせるという内面を見るために型通りにやる。余計なことを考えないようにあえてするというのがあります。
ただ、席主(せきしゅ)とお正客(しょうきゃく)というのは、会話をしたりして空間をつくるをやらなければいけないので、実はプレゼン能力がめっちゃ必要なんです。
空手は、型を覚えるときは思考はいらないです。しっかりと集中してその通りに体を動かしていく。その基礎的な動きを学びます。立ち方とか突きの型とかを徹底的に体に染み込ませると、実際の組み手、実戦になったときにいろいろな攻めに対応できるようになるんです。「型がないのは型なし」と言いますが、「型なし」というのは全然基本ができていないこと。「型破り」というのは、型があって初めてそれを破っていくものですね。
そういう言葉遊びじゃないけど、プレゼンにも基本となるメソッドはもちろんあります。だけど、正しいメソッドを全部身につけるというものではないです。たとえば、空手の組み手なんて相手がどう動くかは予想ができないから、都度反応したり、先読みをして自分が有利なところに体を置いたりしてやっていかなければいけません。
プレゼンも同じです。オーディエンスの反応は読めない。その中で、基本のメソッドはあるけど、やり方は都度考えて、アプローチを変えていく必要があります。

場数を踏むより、まず基本のフォームを固める

――状況によってプレゼンのアプローチ方法を変えていくためには、やはり場数を踏むことが大切ですか。
スポーツはやりますか?
――陸上をやっていました。
陸上も走るフォームを意識して走りますよね。フォームがきちんとしていなければなかなかタイムが伸びないじゃないですか。長く速く走れて、かつケガをしないようなフォームを認識する。それを守らずに、毎日100メートル走を100本練習したら速くなりますか? 多分間違ったフォームが身につきますよね。そうすると、次に間違ったフォームを直す手間が出ます。なので、最初の段階はものすごく基礎的なところをちゃんとチェックを受けて、つくり上げていくというプロセスは必要だと思います。
―――場数を踏めばいいというわけではないのですね。
はい。数ではなく質の問題です。それを徹底的に身につけるために回数をこなすのは大事ですが、やみくもに回数を重ねても上達するかと言ったら、僕はそう思わないです。時間は限られているので、間違ったところで出戻りが発生するより、もっと効率的に時間を使っていったほうがいいと思います。
――間違ったフォームで練習しないためには、やはり誰かに指導してもらうのがベストですか。
はい。誰かに見てもらうのはやったほうがいいと思います。ただその人たちに漠然と「これ正しいと思う?」と聞いても意味はありません。「あなたはどう感じましたか?」で良いと思います。いろいろな人から感想を集めてくると、自分は人からどう認知されているかなんとなくわかってきます。
やはり自分の姿をまず見るということです。それはビデオで必ず撮ります。恥ずかしくても、とにかく自分のパフォーマンスを見る。最初はへこむだろうけど、そこから修正していくしかないです。正しいことをやろうとするのではなくて、「自分はこうありたい」というやり方で構いません。それが正しいか正しくないかは、あとでみんなが決めることです。正しいというより、受け入れやすいかどうかなんです。
まずは自分がありたいと思う姿があるなら、その通りにやればいいと思います。ただ、もしそれがあまりにも奇をてらっていたら、最初にものすごいネガティブな反応が返ってくるから、そのときに考えればいい。
大事なのはコンテンツです。何をもって人をハッピーにするのかというマインドセットを持てているのか。テクニックに走る必要はありません。講座で「プレゼンが好きな人、得意な人いますか?」って聞くと、たまに「好きです」っていう人もいるんですけど、自分のしゃべり方に酔っているだけで中身が空っぽの人が一定数混じっています。それでは人をハッピーにするという効果はないです。まったく栄養のない嗜好品みたいなものです。それで自分は上手いと思っているから学ぼうとしない。だから、非常に浅い、浅はかなプレゼンを繰り返すんです。
――そういう人の浅はかさとか、中身がないってどういうところで感じるのですか。
それが相手にとってどう受け入れられるとか、どういうハッピーにするのかという部分がごそっと抜けているんです。正しいことを言っているとか、インパクトのあるデータを知っているとか、それだけであって。だから何なの?となってしまう。
――インパクトがあっても、ストーリーがないわけですね。
そうそう。インパクトがあるから、という理由だけで得意だと勘違いしてしまう。しゃべりが上手なことと、プレゼンが上手なことは同じではないです。上手く流暢にしゃべれるようになることが最優先で磨くことではないです。

世界にプレゼンが得意な人なんていない

――シンプルであることと共通するかと思いますが、丁寧に詳しく説明をしようとして、プレゼン資料が文字だらけになっていることがよく見られます。
僕はプレゼンで、背景となる写真をバンと出すのをよくやります。写真や絵は想起してもらいやすいのと、導きたい方向を間違えないために有効だからです。
文字でやると、必ずしもその方向に行かないというか、人によって全然違うイメージを持つ可能性があるんです。言葉だけで説明して、みんなに同じようなイメージを想起させるのは難しいので、どうしても説明が冗長になってしまう。シンプルからすごく離れていくんです。
「丸を描いて、その上に四角を描いて、その上に星を描いて」と言葉でやったら、みんな全然違うことを描く。文字だけでは伝えるのは難しいということを前提にしたほうがいいでしょうね。
――プレゼンもやったことなく、これから上手くなっていきたいと思う人は、何を一番気をつければいいですか。
プレゼンを失敗したからといって死にはしないということです。プレゼンなんて世界中の人が苦手なんです。アメリカでやったある調査で、恐怖症ランキングでトップになったのはパブリックスピーキングだったんです。一番怖いことは、人前で話すことという結果だったんです。
それまで高所恐怖症がずっと1位だったのが、いまはパブリックスピーキングが1位なんです。アメリカで、ですよ。ヨーロッパでも別の調査で、「人前で話すことは死ぬより怖い」という、欧米でもそれくらい苦手意識を持つ人がいっぱいいるということです。
プレゼンで苦しんでいる人たちの大半は、しゃべらなきゃいけないことをしゃべらされているという状態だから不幸なんです。会社としてこれをしゃべれと言われているとか。そういう状態で、文字だらけの「誰がこれ見るの?」っていうつまらないスライドを渡されて、「これを話してこい」って言われるから辛いわけです。「そんなの無視しなさい」と言いたいです。
――プレゼン能力をつけることで得られる最大のメリットは何ですか。
プレゼン能力を身につけることはコスパが良いんです。ちょっとでも上手くなったら、いろいろ巡って来るチャンスが増える。仕事の営業だけではありません。たとえば、転職するときはプレゼンが上手ければ成功率は上がるでしょう。社内のコンペに出たときにプレゼンが素晴らしかったら、社内での評価が上がるかもしれない。恋愛でも、相手がハッピーになるプレゼンができたら上手くいくと思いませんか? 良いことずくめなんです。だからコスパが良いんです。

文・鈴木涼太
写真・佐坂和也

澤 円(さわ まどか)圓窓
立教大学経済学部卒。生命保険のIT子会社勤務を経て、1997年、外資系大手IT企業に転職。 ITコンサルタントやプリセールスエンジニアとしてキャリアを積んだのち、2006年にマネジメントに職掌転換。幅広いテクノロジー領域の啓蒙活動を行うのと並行して、サイバー犯罪対応チームの日本サテライト責任者を兼任。現在は、数多くのスタートアップの顧問やアドバイザを兼任し、グローバル人材育成に注力している。著書に『あたりまえを疑え』『マイクロソフト伝説マネジャーの世界No.1プレゼン術』『外資系エリートのシンプルな伝え方』がある。 琉球大学客員教授。
Twitter:@madoka510

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