プレゼンを通してひとつの文化を構築したい【スマート会議術第96回】

プレゼンを通してひとつの文化を構築したい【スマート会議術第96回】TANREN株式会社 代表取締役CEO 佐藤 勝彦氏

ロールプレイング動画で営業スキルを磨く教育クラウドアプリ「TANREN(タンレン)」を提供する株式会社TANREN。同社は教育とITを掛け合わせたEdTech(エデュケーションロジー)領域における事業を展開。

「プレゼンを通してひとつの文化ができたら、公教育の現場に乗り出していきたい」

教育事業への熱い思いを語る代表取締役CEOの佐藤勝彦。そんな彼が今秋、前田鎌利氏が会長を務める一般社団法人プレゼンテーション協会(https://presen.or.jp/)の理事に就任した。

プレゼンはビジネスにとってどんな意味を持つのか。一流営業マンにとってどんな重要性を持つのか。プレゼンテーション協会を通してビジネスにどんな貢献をしていきたいのか。「“学び”は伝播していかなければならない」と主張する佐藤氏に、“伝える”ことの大切さについて語ってもらった。

目次

治外法権の場所で寺子屋ビジネスをやりたい

――プレゼンテーション協会の理事に就任した動機をお教えください。
神戸の小学校で教師同士の暴行事件がありましたよね。彼らは「そんなに悪いことだとは思いませんでした」と弁明していて、何年教育に関わっているんだ!と情けなくなりました。いろいろな意味で教育改革が起こるのは、ああいう人たちが一掃されてからじゃないですか。いまはまだそういう文化が残っているので。
また、家に帰っても親御さん世代もそういうふうに指導されている。学校でも家庭でもそうだから、居場所がなくなっちゃって、自分の自己表現を殻に閉じこめちゃう子が多いわけです。
学校にも、親にも頼れないなら寺子屋ビジネスをやるべきだというのが、僕の哲学としてあるんです。学校教育を無理に変えようとも思わない。
そういう治外法権の場所で寺子屋ビジネスをやりたい。プレゼンテーション協会はまさにそういう意味で、僕の考えに近いビジネスだと思いました。学校で教育を変えられないなら、プレゼンテーション協会という組織をもって変えていこうと。
対象年齢はビジネス上、どうしてもスタート時は企業であり、一ビジネスパーソンになりますが、理想としては、いずれ幼少期の児童にもプレゼンを伝えられる協会となっていたいですね。「つまんない」って学校から帰ってきて、ゲームにすぐに勤しんじゃうような子たちでも、「プレゼンの勉強ならしたい」という思いを持っていただけたら理想です。
遠回りですが、僕はプレゼンを通してひとつの文化ができたら、公教育の現場に乗り出していきたいと思っています。鎌利さんをハブにして、いろいろな方々ともつながっていければと考えています。

プレゼンに必要なのは、「課題・原因・解決・効果」の4つの行程

――プレゼンテーション協会ではどんな活動をしていきたいですか。
プレゼンというものを小難しくしたくないので、プレゼンは簡単なんだということを訴えていきたいですね。会長の鎌利さんが提唱するプレゼンでは、覚えるためのプレゼンを体系化にして、踏ませるステップを簡単に定義している。ケーススタディで調べるのではなく、「これと、これと、これをやれば8割がた上手くなります」というロジックがすごく重要なんです。
たとえば、鎌利さんの本には、「課題は何ですか? 原因は何ですか? その解決法は何ですか? 効果は何ですか?」と、課題と原因と解決と効果の4つが書かれています。この4つをちゃんと提示すれば、話がロジカルにわかりやすくなるんです。社内のプレゼンならこの4つでいい。鎌利さんは、「この4つの行程を、ちゃんとテキストで書き出すことが重要だと言っています。 プレゼンテーション協会では、まず「簡単」というメッセージを伝えたい。
意欲を湧かせて、欲しいと思う段階を踏ませないと、クロージング話法とか切り返しとか、テクニカルな技も全然生きてこない。お客様を聞く体勢にしないと「ああだ、こうだ」と言っても、つまらない接客を受けていたら、早く帰りたいじゃないですか。まず聞く体勢になるまでの基礎作りがすごく重要です。
もうひとつは、講義を受けた人が動いて、自身にも講師になってもらうことがすごく大事だと考えています。プレゼンテーション協会の構図が、長い円錐型の三角形のヒエラルキーにならないように、なるべく天井は低くする。世の中に伝搬させることを考えると、横に裾野が広がるような生態系になっていったほうがいい。
この2つがミッションとして重要だと感じています。

派生するプレゼンのトリガー(引き金)を作りたい

――佐藤さんにとって、スマートなプレゼンとは何ですか。
思わず行動まで引き起こしてしまうプレゼンです。重要なのは「本を読んでわかった」だけではなく、伝播させなければ意味がない。プレゼンは人を動かすことに意味がある。プレゼンターが気持ち良く話して、「よっしゃ!今日は完璧にプレゼンできた。どうでした? 皆さん、僕上手かったですか?」というのが本質ではない。 
聴衆の100人が「プレゼンの可能性ってすごいですね」と言って、その人がまたプレゼンターになり、いろいろな人に派生していかなければならない。プレゼンターのミッションは、こうやってトリガー(引き金)を作ることです。
聞いて、「ふーん」で終わって満足しているようではダメ。プレゼンテーション協会の認定講師陣には、どうやったら相手を動かせるのか、アウトプットを重視します。そういう練習や表現できる場を提供してあげる。
会社として言うなら、デジタルを使った場作りがミッションだと思っています。「プレゼンは簡単」「やってみたら面白い」「僕も先生になれた」「僕も教えられた」と。そういう満足度が得られるのが「TANREN」になれば、弊社の価値につながると思っています。
結果的に価値を感じて、みんながつながっていけば僕らの初回のミッションである、世の中にプレゼンターをどんどん輩出していくことができると考えています。
――プレゼンを学ぶ上でのコツはありますか。 
僕はマイクロラーニングを提唱しています。鎌利さんは『ミニマムプレゼンテーション』という本を出しました。つまり、コツは少しずつ小さなことを積み重ねること。僕のセールスのメソッドも全部覚えなくていい。シンプルに最低3つだけやれば、十分打率の高いバッターになれます。3つに絞ったら、あとはグラフィカルな話ですが、写真はすごく重要です。鎌利さんは「リアルな写真こそが人を動かす」と言っています。
本当にこの入り口だけです。3つにまとめて体系化されたロジックにあてはめて、自分の頭の思考を整理する。本当に簡単なトピックスはビジュアルにこだわること。これだけやれば、「お、俺のプレゼンめちゃカッコ良くなった」ってなります。どうぞドヤ顔してください。ドヤ顔をしたものを自分だけで満足するのではなく、その勢いのまま、「俺のプレゼン、見てみろ」と、どんどん伝搬させてほしい。その行程が3段階まで進んでプレゼン生態系が見えてきたら、僕らのミッションはクリアしたと思います。

プレゼンの最終ゴールは目的と目標意識

――どうなったらプレゼンが上手になったと判断できますか。
1段階目は自己満足。「プレゼンが自分で上手にできた、時間通り完遂できた」という一定満足は自己の承認欲求が満たされます。最初はやる気を削がない視点で自分自身を認めてあげることが大事ですね。ただし、ここがゴールだとプレゼンの本質にたどり着いていない。
その上で2段階目は、「何のためにやるのか?」という目的と目標の設計ができること。
「何のためにやりたいのか」と目的意識を要素分解していくと、自分のスキルが丸裸にできます。「あの人を動かすために、こういったことを伝えたい」「こんなことを事前に調べておこう」。こういったことを資料作成スキルとして評価項目に並べます。
「俺、資料作りが下手」とか、「しゃべりの能力が低い」とか。「人に対して、時間を10分もらったにも関わらず、30分話し尽くしちゃった」とか。そういう「何がいけないのか」が明確にならないと、目標意識がわからないので。
それをやるために「TANREN」はルーブリック*という評価方法で能力を可視化することができるので、僕はここに「TANREN」の存在意義があると思っています。
大学校や検定を通じた最上位クラスは、「TANREN」を使ってパフォーマンス能力までみます。個人個人の能力に合わせた、再現性ある個別学習プログラムになっているので、明確にプレゼンが上手になったかどうかを、可視化することが可能です。

ルーブリック*
学習の達成度を表を用いて測定する評価方法のこと。

――今後が楽しみですね。
はい。鎌利さんは“念い”という漢字をよく使って説明しますが、何のためにという目的志向が共鳴しているんです。「AIの時代だからこそ“鍛錬”なんです」という私のビジョンと、「デジタルで音声認識という時代だからこそ、書だ」と説いている鎌利さんのビジョンが同一なんです。それぞれ見てきた世界は異なれど、人に伝えるという能力の重要性をミッションとして理解していて、それができていない人たちに、シンプルにその伝えることができるバリューを提供する。プレゼンテーション協会は、そのようにビジョン/ミッション/バリューといった”念い”を共有できる場所でありたいですね。
一般社団法人 プレゼンテーション協会
一般社団法人 プレゼンテーション協会は「社内プレゼンの資料作成術」「プレゼン資料のデザイン図鑑」(ダイヤモンド社)などの著者で、年間200社以上に講演・研修を開催する前田鎌利氏が設立し、2019年11月よりビジネスや教育現場でのプレゼンテーションスキルの向上および普及を目的とした団体。ビジネスパーソンをはじめ、ご自身が伝えたいことを相手に伝えるようにするために、多くの参画企業と共に日本のプレゼンテーションを高めるためのスキルの普及・啓発を行います。
HP:https://presen.or.jp/

文・鈴木涼太
写真・佐坂和也

佐藤 勝彦(さとう かつひこ)TANREN株式会社
TANREN株式会社 代表取締役
東京都出身。日本料理店「なだ万」で調理師として勤務した後、携帯電話販売の業界に転職し、店頭販売スタッフおよびセールス支援研修の講師を務める。2014年10月、モバイルクラウドを利用した教育アプリ事業を営むTANREN株式会社を設立し、代表取締役CEOに就任。モバイルクラウドを利用した接客スキル向上サービスとして、ルーブリックアプリ「TANREN」を開発・提供中。

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