プレゼンは人生を豊かにするツール【スマート会議術第98回】

プレゼンは人生を豊かにするツール【スマート会議術第98回】株式会社morich代表取締役社長 森本千賀子氏

「幸せの赤いモリチ」。

株式会社morich代表取締役・森本千賀子氏のキャッチフレーズである。

森本氏は、これまで3万人を超える転職希望者と接点を持ち、2000人以上の転職に携わってきたキャリアデザインのプロである。近年は講演活動をはじめ、NHK『プロフェッショナル~仕事の流儀~』の出演や、各種メディアでの連載などを含め幅広いジャンルで活躍する。 

そんな森本氏は昨年、一般社団法人プレゼンテーション協会にオフィシャルパートナーとして参画。昨年12月末には、「女性の働き方」をテーマにイベントを開催。

果たしてプレゼンは働き方改革とどんな因果関係があるのか。キャリアデザインのプロから見た、プレゼンの意義について話をうかがった。

目次

まだまだ女性がプレゼンをする機会は少ない

――12月にプレゼンテーション協会主催で「女性の働き方」をテーマにしたイベントを開催されました。どういう経緯でこのテーマに決まったのですか。
女性はどうしても人前で話すことに苦手意識が強いんです。一対一とか、お茶の間のおしゃべりというのはすごく楽しく盛り上がるんですが、いざ人前で話すとなると苦手な人が多い。従前から、そもそも女性は人前で話す機会が少ないと感じていました。子どものときからクラスの中でも発表するのはたいてい男の子。教育現場では生徒会長とかリーダーはまだまだ男の子が中心でした。そういう意味で人前で何かを取りまとめるとか、何かを伝える機会が男性と比べて圧倒的に少なかったのではと感じます。
脳科学的にも女性は初めてのことや経験したことがないことに対してちょっと躊躇してしまう生き物でもあるんですね。インポスター症候群と言うのですが、女性脳は、経験したことがないことに対して一歩引いてしまったり、躊躇してしまったりして、ストレスがかかりやすい。そういう生き物だと実証もされているんですよね。
たとえば人前で話すことも、経験があればいいですが、経験がないのにいきなりやれって言われても、急には対処できない、躊躇してしまう。脳科学的に苦手意識が男性と比べても強い。
なので、そういう女性にプレゼンの技術をしっかり伝えて、それをひとつの強みにして自信にしてもらいたいという思いから引き受けさせていただきました。また、女性の皆さんに、プレゼンテーションや想いを伝えることを強みに変えて、これから生きていく上で何か“変わる”きっかけにしていただければと考えています。
――そもそも日本の教育現場ではプレゼンをする機会が少ないですね。
面白いデータがあるのですが、4月・5月生まれの子どもたちはプレゼン上手なんですよ。早く生まれている分、体格がよかったり、勉強ができたりする。そうすると、先生から「見本でやってみろ」とか「クラスを代表してやってみろ」っていう機会が多いらしいんですよね。そういう機会が多いから自信となり、結果としてスキルやテクニックの向上につながっているというのを本で読んだことがあります。
あとは、より多くの女性がプレゼンが得意になったら、社会への影響力が大きくなると思ったんです。仕事だけじゃなくて、友達や家族、子どもとの関係ももっとうまくいくんじゃないかと思うんです。子どもに対しても、例えば何か迷惑をかけるようなことをやってしまった時に、叱ったとしても、子どもの心に響かなければ意味がない。感情的に怒ったところで意味がないんです。ちゃんと子どもが「ああ、悪かったんだ」と思わない限りは、「伝わった」ことにはならない。伝えることを得意にしてもらえれば、社会への影響力が大きいと考え、今回は女性に限定したというのもあります。
――他にも環境的に男女格差の課題はありますか。
家事・育児は女性のほうが多分得意だと思います。そうすると男性と比べて自ずと負荷はかかる。そういう前提がまず違います。あと女性の場合はロールモデルが少ない。日本の企業は女性の管理職の割合が極めて低い。全体の約10%程度というデータがあります。ほとんど男性なんですよね。男性の中では「ああいう人になってみたい」というロールモデルはいくらでもある。どういうことをやっていけば、そこにたどり着くのかというのが見えるんですよね。
だけど、女性の場合はロールモデルが少ないので、目指したいもの、こうありたいというものが明確に見えない。どうやって山を登ればいいかわからない。だからみんな迷ったり悩んだりするんです。
――女性が働く上で実現していきたいと考えていることはありますか。
「こういう業界で、こういうことをやってください」と言うつもりはありません。キャリアを生業にしている私でも「ここに行けば安泰ですよ」という回答は私もわからないです。未来は予測できない。その人らしい輝き方があると思うので、自分らしいことを実現できる社会をつくりたいし、そうなってほしいと思っています。

生産性を上げるための施策は何もしていない

――働き方改革の中で、残業や会議の時間を短くする会社が増えています。
何か手をつけなきゃいけないという問題意識にはなっていますね。国の掛け声もあり、いろいろ制度化されてきてもいます。でも、実際に何をしたらいいのかわからない。そういう中で、成果として「何かをやった」と一番わかりやすいのが残業をなくすこと。労働時間を短くすることに取り組んでいる企業がほとんどですね。
ただ、短くすることが目的化してそこで終わっている会社が多いと思います。短くした分、業績も落ちました‥ではダメなので、そのために生産性を上げなきゃいけない。でも、生産性を上げるためにインフラや環境を変えることがないまま、残業だけ減らして「早く帰れ」って言う。この状況にはすごく違和感があります。
要は生産性を上げるための施策は何もしていない。結局自分たちで勝手に解釈してやっているのでリスクが高いと思います。残業はできないから家に持ち帰ってやる。それが実態だと感じます。
また、一方で副業についてもそうです。副業解禁といいながら、実態では、できない空気が流れている。許可を取るのにものすごく面倒だったり・・「ふく」が潜伏の「伏」になってしまって、伏業をしている人たちがたくさんいるのではないでしょうか。
――先進国の中でも日本の生産性は一番低いという現状をどう見ていますか。
生産性自体は多分昔から高かったわけではないと思います。サービス残業の中で何とか帳尻を合わせてきた、一見生産性が高いように見えていただけでしょう。みんな企業戦士として働いてきた。だからいきなり残業を減らしたからといって、生産性が上がるわけではないんです。
――たとえば、ドイツはヨーロッパの中でも特に労働時間が短いですが、生産性が高いですね。
IT化を進めていったのがやはり早かったのだと思います。たとえば、会議室が空いているかどうかをいままでだったら連絡帳みたいのを見て記入するものが、一気に閲覧ができて入力したら完了。
そもそも何のための働き方改革なのか、その目的をきちんと議論し腹落ちさせなきゃいけない。どちらかというとマインドセットの問題だと思います。

伝えるということは、日々どこのシーンでもある

――プレゼンが得意と自負する人でも、ワンパターンで退屈なプレゼンはよく見かけます。
多くのプレゼンって、最初の導入のところに決まり文句があって、最後にもこれを言わなきゃいけないという暗黙のルールのような形式的な型がある。そういうものに思考が拘束されている気がします。もっと自由でクリエイティブであっていいんじゃないかなと思っています。
――結婚式や入学式などのスピーチはその典型ですね。
そう。きちんとしていなきゃいけないと縛られていますね。もっと自由にすれば楽しめるのにと思いますね。プレゼンもどうしたらみんながもっと楽しめるかなと考えればいい。たとえば学校でも会社でも自分が一番リラックスできる格好でやればいいと思ってしまいます。
――プレゼンが上手な方って、みんな自身が楽しんでいる人が多いですよね。
そうですね。私もまだまだですけど、しゃべっているときの自分がすごくテンションが高く、乗ってる感じ・・ジョギングなんかでいう、“ランニングハイ”な状態っていうのは確かにあります。そういうときは、やはりしゃべりながら楽しいですよね。
――プレゼンテーション協会では、今後どういうことをやっていきたいと考えていますか。
まずはプレゼンそのものがひとつの表現方法でありいろんな形がある。ぜひ、表現することそのものに自信を持っていただいて「自分は“伝える”ことがすごく得意なんだ」って言える人が増えたらいいなと思っています。すごくきれいな資料を作って、何千人の前でしゃべるみたいなことじゃなくてもいい。伝えるということは、ビジネスに限らず日々どこのシーンでもあります。自分の伝えたいこ想いを伝えて、相手の心に響き届いた結果として、相手が一歩踏み出したくなる、行動したくなる、その人自身の人生がもっともっと豊かになれば、より“伝える”ことの価値を理解してもらえると思っています。
自分にとって、“思いを伝える=プレゼン”そのものが人生をすごく豊かにしてくれると思える人が増えてほしいと思っています。
――夫婦や家族でも「このクルマが欲しいけど、奥さんにも欲しいと思わせたい」といったこともプレゼンですよね。
そうそう。どう伝えたら相手が、「じゃあ買いましょうか」と言ってもらえるかですね。
あとは子どもたちにも伝えていきたいです。日本の場合、子どもたちも想いを伝えたりプレゼンをする機会がまだまだ少ない。きちんと“想いを伝える”ことで人が動くことがすごく楽しいとか、やりがいがあることだと気づいてもらえるような機会をつくっていきたいですね。
大人になってから、自分らしいキャリアを見つけてもらおうと思っても、なかなか大変です。社会人になってからじゃなく、できればもっと手前でちゃんと自分のキャリアを考えてもらいたい。
世の中にはいろいろな職業がいっぱいあるということを理解して、その中から選択できることを知ってもらいたい。誰もがどんな職業も選択できることをわかってほしいんですよね。制約されるわけじゃないということを、ちゃんと子どもたちに伝えていきたいですね。
一般社団法人 プレゼンテーション協会
一般社団法人 プレゼンテーション協会は「社内プレゼンの資料作成術」「プレゼン資料のデザイン図鑑」(ダイヤモンド社)などの著者で、年間200社以上に講演・研修を開催する前田鎌利氏が設立し、2019年11月よりビジネスや教育現場でのプレゼンテーションスキルの向上および普及を目的とした団体。ビジネスパーソンをはじめ、ご自身が伝えたいことを相手に伝えるようにするために、多くの参画企業と共に日本のプレゼンテーションを高めるためのスキルの普及・啓発を行います。
HP:https://presen.or.jp/

文・鈴木涼太
写真・佐坂和也

森本 千賀子(もりもと ちかこ)株式会社morich
株式会社morich代表取締役社長。
獨協大学外国語学部英語学科卒業後、1993年現リクルートキャリア入社。ベンチャーから大手上場企業まで多くの経営者との強いリレーションをべ―スに採用、組織課題を全方位にソリューションすることが強み。新人にして全社MVPを皮切りに30数回の受賞を経験。2012年NHK『プロフェッショナル~仕事の流儀~』出演。2017年3月、株式会社morich設立、NPO理事、社外役員・顧問などパラレルキャリアを体現、さらに活動領域を広げる。一般社団法人プレゼンテーション協会オフィシャルパートナー。

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