環境の激変でコワーキングスペースが求められる時代に【スマート会議術第124回】

環境の激変でコワーキングスペースが求められる時代に【スマート会議術第124回】株式会社いいオフィス 代表取締役 龍崎コウ

近年、IT企業を中心に働き方、働く場所の自由度は増しているが、今年に入って新型コロナウイルスの影響もあって、世界的にテレワークのニーズが急速に広がりつつある。

「いいオフィス」は、そんな時代の流れを先取りしたコワーキングスペースを運営するベンチャー企業だ。

コワーキングスペースは決して珍しい事業ではない。しかし、それをフランチャイズ化し、世界に10万店舗の規模で展開しようとしているのは、「いいオフィス」の代表・龍崎コウ氏だけに違いない。

まるでコンビニのように日本中のどんな駅の近くにもコワーキングスペースがある――龍崎コウ氏はそんな世界を目指し、少なくとも国内で2万店舗の「いいオフィス」を目標にしている。

コロナ禍によって、これまでの旧態依然としたオフィスや働き方の改革が急速に進み、テレワークを機にリモート会議、コワーキングスペース、シェアオフィスのニーズが高まっている。

環境の激変によって働き方はどう変わっていくのか。オフィスのあり方がアップデートされる中、コワーキングスペースの世界制覇に向けて準備を着々と進める龍崎氏にお話を伺った。

目次

フランチャイズ化で急成長を遂げるコワーキングスペース事業

――いいオフィスの設立までの経緯をお教えください。
2015年に、私が副社長を務めていたLIGというWeb制作会社が入っていたビルのオーナーから「ビルが2~3割しか埋まっていないので付加価値をつけたい」と相談をいただき、コワーキングスペースを始めたのがきっかけです。以後、池袋、広島、長野、セブ島(フィリピン)にもコワーキングスペースを広げていきましたが、各地に自分たちの拠点をつくるついでに展開していったので、コワーキングスペースで商売をしているというイメージではあまりありませんでした。
コワーキングスペースを始めて今年でちょうど6年目になりますが、2年前にいまのビルに引っ越して、新しいビルでも引き続きコワーキングスペースを運営しています。
それでもやはり店舗をつくるとなれば借入金が相当大きいので、直営でやるのはもう厳しいと判断して、フランチャイズ化することにしました。そして、2018年3月にLIGから分社化という形で「株式会社いいオフィス」を設立し、本格的にスタートしました。現在、「いいオフィス」はLIGの関連会社という形になっています。
「いいオフィス」上野
――コワーキングスペースを増やしていくには莫大な資金が必要だとのことですが、現在どうやって店舗を拡大していっているのですか。
もともとフランチャイズ以外では伸ばすことはできないだろうと考えていました。エクイティにおける資金調達でのコワーキングスペース運営は、不向きとかんがえておりました。通常のシェアオフィスの場合、簡単に言うと坪単価1万円でオフィスを借りて2万円で貸し出すというビジネススキームであります。
しかし、コワーキングスペースは坪単価1万円を2万円にするまでにすごく時間がかかります。年数をかければ将来的にはすごく収益率の高いビジネスになるのですが、とにかく時間がかかる。なにせ、今までのコワーキングスペースはフリーランスやノマドワーカーを対象にしていましたから。よほどの資金がなければ多店舗展開は難しいのがコワーキングスペースの実情です。
また比較的出店しやすい「40坪くらいでコワーキングスペースをやりましょう、人を置きましょう」というのは実は成り立たないんです。人件費で破綻します。コワーキングスペース事業を成立させるためには、80坪以上ないと難しい。80坪あってようやく人をひとり置いて、事業としていずれは成立する。でも、あくまでも“いずれ”で、それが1年半後なのか2年後なのか、というのがわからない。
80坪くらいでやっても、その1年半~2年の間の運転資金、保証金、改装費、家賃、人件費で4000~5000万円かかってきます。だから1社で10店舗を一気に出すのは難しいんです。コワーキングスペースはチェーン店がほとんど存在しない業界で、大金を費やしているにもかかわらずこんなに儲からないのかって、みんな1~2店舗でやめてしまう。
最初はコミュニティをつくって本業に対してどういったシナジーがつくれるかを考えて始められるんですけど、みんな途中で諦めてしまうんですよね。それらをどうやってまとめあげられるか、会社設立までの2年間ずっと考えていました。また東京オリンピック・パラリンピックを目指して今年の7月までに100店舗オープンさせれば、間違いなくコワーキングスペースの需要が出るだろうと進めてきました。営業のピッチも上げて、いま(6月末時点)113店舗オープンしていて、10月中には200店舗がオープンする予定です。

エクイティ*
返済期限の定めのない資金のこと。新株や優先出資証券などの発行、または組合出資などから得た「資本」にあたる部分で、自己資本とも訳される。

箱とソフトをセットにしていかないと厳しい

――今回のコロナ禍によってどんな影響がありましたか。
オフィスワーク→コワーキング→テレワークと順番に来ると思っていたのが、コロナ禍でオフィスワークからいきなりテレワークが来てしまった。コワーキングという形が抜けてしまったんですよね。でも今回テレワークを経験した人がコワーキングという考え方があることを知るいい機会になったのかなと思っています。
当然ながらコロナ禍の第二波、第三波があるかもしれない。そのときまたテレワークになって問題がいろいろ出てくるでしょう。生産性が上がったという会社もあれば、落ちたという会社もあります。生産性が落ちたという人たちを見ていると、だいたい共働きの方、人事でマネジメントする方、お子さんがいて仕事にならないというケースが多いですね。
特に共働きでお子さんがいる人は、コワーキングスペースを使ったほうがいいということにもなる。テレワークを行った人が新たな働き方、サードプレイスという形でコワーキングスペースを選びにくるのを実感しています。いまはどんどんネットワーク化していきましょうと、コワーキング業界をまとめにいっている状況ですね。
この業界を全部まとめることによって、新たな市場ができればいい。フリーランスやノマドワーカーを対象にしていたのがいままでのコワーキングスペースの考え方ですが、我々は既存のコワーキングスペースを全部ネットワーク化した上で、新たなオフィスの流動化をつくっていく形でやっています。「いいオフィス」単体で儲けようというプランではないんです。協同組合に近い形かもしれません。
――いまはイベントなどの集客が難しい状況だと思いますが、今後イベントやセミナーはどういう形になっていくと考えられますか。
今後は100~200名規模の集客はほぼオンラインになっていくと思います。オンラインはいざやってみるとリアルイベントに比べて参加率が高いんです。雨の日になると大体5割くらいの参加率になってしまうイベントでも、オンラインでやるとほぼみなさん参加される。しかも場所に限定されずに日本全国から人を集められるメリットがあります。
今後は、貸し会議室もイベントもオンラインで情報発信ができることが条件になってくると思います。箱(貸し会議室)を貸して終わり、ではなくて、撮影の部隊がいて、マーケを駆使し情報発信しましょうというトータル的なものですね。付加価値のついた情報を発信できるところが生き残っていけると思っています。ただ単にいままで通りに箱を用意するだけの会社は消えていくのではないでしょうか。
――スタジオ化していく感じでしょうか。
そうですね。閲覧者がいるテレビのスタジオみたいな形が理想かもしれません。観客がいて、そこに参加もできるし、全国に発信もされるという形が次のフェーズになってくるかもしれません。それらが全部できることによって、どんどん新たなお客さんが生まれてくる。コワーキングスペースもそうですが、箱とソフトをセットにしていかないと厳しいでしょうね。

パソコンとネットがあれば世界中どこでも仕事はできる

――海外店舗も積極的に展開されるということですが、どんなメリットがあるのですか。
現在、セブ島(フィリピン)にオフショアという形で150名(LIGフィリピン)ぐらいのスタッフ(ITエンジニア)がいますが、コワーキングスペースをつくっている理由は他にもあります。会員さん同士で仕事の受発注をする仕組みも設計に入っています。我々はいまのところ第4フェーズまで構想がありますが、これから第2フェーズに入り、世界中をクラウド上でできるITの仕事を会員さん同士でつなげて委託ができるような仕組みをつくっていきます。現在フィリピンだと日本の5分の1の価格で発注ができるのですが、これらが4分の1、3分の1となっていくことでフィリピン人の所得も上がっていきますし、会員さんも為替差の恩恵を当面の間は享受できるのでWin-Winの関係になるんです。
「いいオフィス」セブ島(フィリピン)
働き方を変えることによって、新興国の人が先進国から仕事をもらえることになるんですよね。そこで所得が競争によってどんどん上がっていくんです。日本や米国から発注を受けて、結果的に月に20~30万円稼げるようになれば、フィリピンではすごくお金持ちなんですよね。そういう形になってくると、いまスラム街などで暮らしているような子どもたちも、勉強すればこういった生活が待っていると希望が持てればいい。勉強して「いいオフィス」の会員になって、そこで仕事をもらえるようになってくことが大事だと思っているんです。だからそのインフラをつくろうと思っています。
――国内でも地方と東京と比べれば家賃も人件費も相当安くなりますよね。
日本の地方創生もそうですが、地方に行くとだいたい生活水準は下がりますが、その分給料も下がります。だから結果的にあまり変わらない。だったら東京のほうがいいよねってなる。これが給料水準は変わらなくて生活水準が下がるとすごく余裕ができるじゃないですか。イベントもオンラインで地方からでも参加できて、東京から取り残されることがなくなれば、地方に住んでもいいかなっていう人が増えてくるんじゃないかなと思っています。
我々は地方の労働市場をニアショアと呼んでいますが、日本でもニアショアだとIT関連なら東京の半額くらいになるんですよ。たとえば九州の地方のIT企業は、東京と福岡に仕事をとりにいっている。これがもうムダだと思っています。せっかく地元に帰って地元に貢献しようと思って盛り上げている人たちが、結局仕事がないから東京に来るんですよね。それでは意味がない。コワーキングスペースが全部つながっていって、仕事の受発注ができればこのムダがすべて解決すると思ってインフラをつくっています。
パソコンとネットがあれば、基本的に世界中どこでも仕事はできる。だから仕事の受発注の仕組みをつくっていって、それを会員さんにどんどん提供していくという形をとっていきます。そうなると結果的に会員さんの所得も上がっていきますからね。

必要なのは本当に仕事がしやすい環境

――ノマドワーカーやテレワーカーがスターバックスのようなカフェで仕事をするのは、結構根づいてきている印象があります。でも、仕事をするのには必ずしも最適な環境だとは言えませんよね。
本当に毎日おしゃれなカフェで仕事をしたいかっていうと、人ってすぐに慣れてしまって3日で飽きてしまう。それよりもやっぱり居心地のいい椅子だったり机だったりと、本当に仕事がしやすい環境のほうがいいに決まっています。スターバックスに電源がないのも仕事場ではないということでしょう。今後はカフェや居酒屋のアイドルタイムやカラオケ、ホテルを利用したコワーキングスペースがたくさん出てくると思います。そしてそれらをネットワーク化するサービスもたくさん出てくると思います。しかしそのようなサービス単体では残念ながら成立しません。あくまでも仕事をするための空間でなければいけないからです。コワーキングスペース(ホーム)があるからこそ一時利用に価値が出るのです。
また、カフェなどの公共場ではセキュリティ面でもリスクが高い。
たとえばカフェなどは、小さい机を1つで2名席にしているんですよね。実際コワーキングスペースで一番いいのは1名に対して120cm×60cmのサイズなんです。この120cm×60cmを確保していると横に知らない人がもうひとり座っていても気にならないんです。ただ設計士さんは、どうしても席数を確保するために60cm×60cmの机を2名席にしたがります。「このぐらいの稼働率になるのでこれくらいの会員数を受け入れ可能です。」となるわけです。残念ながらそのような幅だと結果的にひとつ空いてしまったり、逆に全体の稼働率が下がったりする。そういった部分を我々は結構注意してつくっています。
そんな小さな机に一日中ずっとパソコンの前に知らない会員さん(友人であっても)座っていたらイヤじゃないですか。私は嫌なんですよね。結果的に2席あるけれども、ひとりしか座らない形になりますし、そうなったら予めちゃんと大きくつくって椅子をひとつ置いたほうが快適ですよね。
飲食店も一緒だと思いますが、みなさんどうしても席数☓スペースで、坪単価でいくらだとか、売上げがこのくらいと走ってしまう。あくまで自分たちが働く場合にどのくらいなら気にならないか、知り合いだったら80cm横に座ってもいいんですけど、知らない人だとひとり120cmはとっておかないと無理なんですよね。
――まさにソーシャルディスタンスですね(笑)。
そうですね。そのくらいのスペースは必要ということです。120cm×120cmなら真正面に座ってもちょっとずらすだけで2mの距離が確保できるんです。そうやって工夫して、予め大きくスペースをとっているので弊社の場合はすでにコロナ対策できていたといっても過言ではないですね。

文・鈴木涼太
写真・大井成義

龍崎コウ(りゅうざき こう)株式会社いいオフィス
株式会社いいオフィス代表取締役。芝浦工業大学情報工学科卒業後、ガリバーインターナショナルに入社。営業から本社FC管理チームにてSVになる。その経験から健全な経営とは財務からと実感し、独立。2014年、取引先でもあった株式会社LIGに入社。LIGでCFOを務める傍ら、働く場所の流動性、自由度を高めるために副社長として推進した事業の中のひとつであるコワーキングスペースのいいオフィス株式会社を設立。契約ベースでは2020年6月の時点で180店舗。2021年3月までには300店舗に展開する予定。コンビニのようにどこにでもあるコワーキングスペースを世界中に10万店舗を目指す。

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