コワーキングスペースで共有するのは場所ではなく信用【スマート会議術第131回】

コワーキングスペースで共有するのは場所ではなく信用【スマート会議術第131回】エキスパートオフィス株式会社 専務取締役 宅泰雄氏

近年、シェアリングエコノミーの高まりを受けて、日本でもシェアオフィス、サテライトオフィス、コワーキングスペースなど、さまざまな形態のオフィスが登場している。当初はスタートアップ企業や士業のニーズが高かったが、ここ数年で大手企業も着目し、プロジェクトオフィスやサテライトオフィスとして活用するようになってきた。

今年はコロナ禍によってテレワークを体験し、慣れない在宅勤務に戸惑う人もいれば、初めてシェアオフィスを利用した人もいるだろう。そんな状況にあってシェアオフィスは果たして今後、どんな役割を担おうとしているのか。

労働生産性の向上と効率化が求められる中、知的生産性と創造性を高めるための最適なオフィス環境とは何か? 一人で集中して情報を処理する時間、対話しながら協働してアイデアを創造する時間、ワークスタイルのシーンに合わせて自由に選択できることーーエキスパートオフィスでは、そんな理想のオフィス環境を追求し、プレミアムなシェアオフィスを提供する。

エキスパートオフィスで常に新しいオフィスのあり方を追求してきた宅泰雄氏に、withコロナ時代のシェアオフィスの活用術についてお話を伺った。

目次

テレワークが推奨される3つのポイント

――テレワークが推奨される中、在宅ワークの問題も出てきています。そういう点でシェアオフィスのニーズも高まってくると思いますが、どのように考えていますか。
ポイントは3つあると思います。ひとつは郊外型のコワーキング施設も含めて自宅の近くのターミナル駅にそういう施設がほしいというニーズ。
2つめは、満員電車のリスク。在宅100%という企業さんはなかなかないと思いますが、これまで週5日間出社していたのが3日間にしたり、出てくる時間もちょっとフレキシブルになったりして満員電車を回避する。満員電車を避けるという意味では出社時間に本社に行くのではなく、直接取引先に行くこともありますね。都心で自分の本社じゃない、取引先の近いところに借りるサテライトオフィスです。
もうひとつは今後も同じように伝染病が流行ったときのリスク回避の考え方です。これはどの程度の企業がそれをリスクと考えるかはわかりませんが、オフィスを一カ所に集めないで分散したほうがいいという考え方も出てきます。
――東日本大震災のときもリスク回避の意味で分散化の話が出ましたね。
そうですね。いままではコミュニケーションを良くしようという意図で集まるのを良しとしていたわけですが、たまに集まるだけで必要なときはメールやテレビ会議をやればいいとわかってきた。分散することでリスクを抑えられればいいという考え方ですね。
自宅の近くにある郊外型オフィス、都心の本社に出なくていいサテライトオフィス、それから感染症リスクを考えてのオフィスの分散化。それぞれにどうやって対応するかという3つの考え方があるんじゃないかと思います。
――コロナ禍の前のコワーキングスペースは、異業種交流やコクリエーションといった文脈で今後多様化する時代に向けていろいろなメリットがあるという流れがありました。でも、コロナ禍みたいなことが起きるといろいろな人と交わる場という考え方は難しくなっていますね。
そうですね。コワーキングスペースは“人が交わる”という点でのコンセプトは非常にいいと思います。でも、いまは世の中にさまざまな情報が溢れていて、インターネットで簡単に検索ができる。私がこれからスイスに行くのでスイスで手伝ってくれる人はいないかとネットで調べる。たとえば世界シェアがあるアプリで現地のスタッフを探せば「私やりますよ」と手を挙げる人が現れて取引が生まれる。ハードとしてのオフィスがそれをやる必要はないんです。インターネットでもSNSでもいいんですね。
もちろん、同じ場所にいろいろな人たちが集まって、その中でさまざまな創発が行われるということはあります。たとえば、シリコンバレーには世界中からいろいろな人たちが集まってきています。でも、ベンチャーキャピタリストやエンジェルは、シリコンバレーの中で情報のやりとりをするのであって、「あの人が言うのだからいい」「パートナーにあの人が入ってるから信用できる」と、信用が置けるかどうかっていう話になるんです。要するにたまたま隣合わせだから知り合ったという話ではなくて、その人の信用が大事になってくるわけですね。
シェアオフィスで大事なのは共有のスペースをただ提供するということではなく、たとえば交流会でお客さんの間を結びつけるということです。フェイストゥフェイスで日頃からお互い顔見知りになる。受付に聞けば「あの人ちゃんとしていますよ」「ちゃんと家賃払ってますよ」っていうのもわかる(笑)。日頃の行動を見ていれば、そのお客さんのお客さんがどんな人かっていうのもわかるわけですね。やっぱり、たまたまそこに隣り合わせだったということで知り合いになるのなら、喫茶店でもカフェでもいいわけです。
同じスペースの中でずっと一緒にいて、交流会などを開いて仲良くなるわけですが、じつはそこですぐにビジネスになるわけはなくて、「私、いい人を知ってる」と紹介してくれるところでつながりっていくことが多いんです。その人と直接会ってなかったとしても、その人が知ってるっていうネットワークができるのが大事なんですね。たまたまそこにビジネスマッチングがあるのではなく、そのコミュニティの中で仲良くなった人たちのそのもうひとつ先に、ビジネスマッチングの機会があるというのが、いわゆるコミュニティといわれているものだと思います。
――今後テレワークを上手に生かせるかどうかで、企業の成長に影響してくると思われますか。
事業の内容によっても違ってくると思いますが、成長企業なら当然優秀な人材がほしいと考えます。優秀な人材を採る条件にはまず給料がありますが、もうひとつはその人が好む仕事環境を用意してあげるということです。家庭の事情でその会社に行けない人もいるだろうし、会社の同僚と話すことで発想が生まれるという人もいるでしょう。テレワークという環境を提供することで生産性が上がるという前提に立てば、人それぞれのニーズを満たしながら気持ちよく働ける場を提供することで優秀な人材を集めるということだと思うんですね。
成長するにはいい人材が必要だから、いろいろなニーズに合わせて優秀な人材にとって魅力的な職場を用意できるのが成長企業です。そして、成長企業は常にオフィスのニーズが増えたり減ったりするので、やはりフレキシブルであることが重要になってきます。
――成長企業であるというのは新しい・古いはあまり関係ないですか。
新しい・古いというよりも、世の中の変化に対応していく企業ですよね。だから世の中の変化についていかないと儲からない商売が成長企業、それをうまくやれば成長するわけなので。そういう業界にいるのが成長企業ですよね。

市場規模は10年後に10倍になっている可能性がある

――今後、レンタルオフィスは市場としてどのように発展していくと考えられますか。
シェアオフィス、サテライトオフィス、コワーキングを含めて、新しいオフィスビルを建てる場合は賃料と立地とハード面を考えることがほとんどです。サービスの内容や契約の内容は千差万別で、今後はよりソフト面が競争になってくると思います。
不動産業界の場合は、資金があればある程度いい場所に土地が買えて、ある程度いいビルが建つところがあります。そういう意味ではお金で勝負できるところはありますが、シェアオフィスとかコワーキングの世界は、どういうサービスを提供するかというアイデアで勝ち負けが決まってくると思っています。
今後、潜在需要としてどのぐらい成長するのというのはなかなか難しいですが、テナントに入る会社さんの意識次第でものすごく大きな市場になると思います。米国ではシェアオフィスは、大体全体のオフィスの2%、ロンドンとか上海は6%、東京はたぶん0.2%ぐらいです。ちょうど10年前のニューヨークが0.2%くらいだったので、10年後には10倍ぐらいにはなる可能性はあります。今後、欧米各国ももっと増えていく可能性もあるので、まだまだこれから成長するマーケットではあるかと思います。
――シェアオフィスの使われ方の選択肢も増えていきそうですね。
どんな企業でもそれぞれに使い方があるっていうことだと思うんですね。1万人の企業だったとしても、そのうちの1/10をこういうレンタルオフィスの利用することもあるかもしれませんし、分散して全部シェアオフィスに使うということもあるかもしれません。我々は実際入ってきたお客さんに「あ、こういう使い方があるんだ」というのを学びながら、また新しいサービスを提供していっているところもあるんですね(笑)。対外的に秘密なプロジェクトを進行するとなると、オフィスの前に携帯を入れるロッカーを設置して、情報を持ち出さないようにするとか。
どの企業さんもいままでのように普通にオフィスを借りるんじゃなくて、会社としてどういうオフィスの借り方があるんだっていうのを考えてみると、それぞれの企業でいろいろな使い方が出てくると思うんですね。そういった企業のニーズに合うように工夫しながらやっていくところだと思います。我々のほうで各企業さんのニーズを把握して「これどうですか」っていうこと以上に、それだけいろいろなスペースが出てくるんじゃないかと思います。
――最近カラオケ店もコワーキングスペースとして売っていますね。
そうですね。結局商売がきつかったから何か工夫しなければいけない。そこにいろいろなニーズが出てくるということを皆さん考えていると思います。
たとえばニューヨークではバーが夜しか営業してないので、昼間はコワーキングに貸し出して二毛作にするというようなことはありますし、女性専用のコワーキング、レンタルオフィスもありしましたね。女性専用なのでちゃんとお化粧ができるスペースがあるとか女性が働きやすい形のコワーキングスペースがありました。
――東京はロサンゼルスぐらいの広さにニューヨークがあるようなポテンシャルがありそうな気がします。
東京は公共交通機関が非常に発達しているのでリーチできる人口が圧倒的に多いんですよね。ロサンゼルスは車社会なので、車社会で1時間半っていったら道路が混んだらそれだけで時間をロスするし、非効率ですよね。ニューヨークは市営地下鉄が市の中心部を走っていますが郊外までつながって延びていない。東京は交通機関が郊外まで網の目に広がっているので、通勤ラッシュの問題はありますが、東京都心には3500万人ぐらいの人口が出て来られるんですよね。だからいろいろな統計では東京が世界一大きな都市になっています。それぞれすべての面で東京が1位になっていたりします。シェアオフィスに限らず、東京ではまだまだやられていないことはたくさんあると思いますよ。

文・鈴木涼太
写真・大井成義

宅 泰雄(たく やすお)エキスパートオフィス株式会社
エキスパートオフィス株式会社専務取締役。1983年、東京大学工学部建築学科卒業後、住友不動産株式会社に約30年間勤務。住友不動産投資顧問株式会社社長、住友不動産株式会社執行役員財務部長、住友不動産カリフォルニア社社長を歴任。エキスパートオフィス株式会社
URL: https://www.expertoffice.jp/ 東京駅(日本橋)、渋谷、麹町、新橋、品川、新横浜に東京最大級のシェアオフィスを運営している。起業や地方からの営業拠点(サテライトオフィス)として利用されるお客様が多く、人材紹介や士業・コンサルティング企業の方や好評のオフィス。現在、同社代表取締役を務める大西紀男氏の著書『“シェアリング”のオフィス戦略』(日本経済新聞出版) が発売中。

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