未来思考をつくる手段として活用してほしいグラレコ【スマート会議術第166回】

未来思考をつくる手段として活用してほしいグラレコ【スマート会議術第166回】グラフィックレコーダー ネコっち氏

文字とイラストを駆使して会議やプレゼン、セミナーの内容を描き起こす「グラフィックレコーディング」。ネコっちさんは趣味が高じて、わずか数年でプロのグラフィックレコーダーとして活躍するようになった。「グラフィックレコーディングは、その先の希望をつくる。未来思考をつくる手段」と、ネコっちさんはその魅力を語る。

グラフィックレコーディングは絵が上手なことが求められそうだが、実は「絵よりもスピード感が重要」だと言う。そして、グラフィックレコーディングの成否は、話される内容が「心に刺さるかどうか」にかかっていると言う。それはまるで話し手の「感情を移す鏡」のようでもある。

会議やプレゼンテーション、セミナーなどの品質を高めるためのリトマス紙にもなるグラフィックレコーディング。その果たす役割と魅力について、ネコっちさんにお話を伺った。

目次

まだ新しいグラレコの概念

——グラフィックレコーディング(以下、グラレコ)は趣味として始められたとのことですが、仕事にしてみて改めて難しかったり辛かったりしたことはありますか。
お仕事は、私の描いているものを気に入って依頼してくれることがほとんどで、みなさん結構信頼して委ねてくださるのでわりとやりやすいです。
私は最初からオンラインの仕事しかしていないのですが、コロナ禍前は現場に集まってみんながいる中で描くことが多かったと思います。私は人前で描くのが苦手で一人で集中して描きたいので、コロナ禍が落ち着いて現場に行くようになったらどうやって馴染んでいったらいいのかという不安はあります。いまはコロナ禍でみんながオンラインになったので、逆にやりやすくなったという感覚はありますね。
——今後、グラフィックレコーダ—として特にやっていきたいことはありますか。
私は特にグラレコにこだわっていなくて、必要な人に必要なものを届けるときに、うまく私を活用していただければ何でもやりますって感じのスタンスでいます。というのも、グラレコの概念がまだ新しいと思うんです。それゆえにそれぞれの表現がひとまとめにグラレコって言われている気がします。いまはグラレコと呼ばれているけれども、それがだんだん浸透していくごとに細分化されていって、いろいろな呼ばれ方をされるんじゃないかと予想しています。最終的にそれがグラレコと呼ばれるものでなくても、何かしらのアウトプットは続けているだろうなと思います。
具体的にどんなことができるか、私自身まだイメージはできていないのですが、グラレコを見ている人もどう使えばいいのかあまりわかっていないところがあるし、描いている側もこれをどう活用してもらうかっていうのも手探りなところもあります。日々のグラレコを続けながら、どんな形の使われ方があるのかをまだ模索していく過程にあるかなという印象です。
『成功企業の事例から学ぶ「1枚の未来地図」総集編①コロナ後の難局を克服した居酒屋社長の「1枚の地図」』(2020年11月10日Schoo放送)
【時系列で未来のビジョンを可視化する】「親方焼肉弁当」の三橋さんのインタビュー。対談ではストーリーを描きながら過去・現状・未来へとつなげ、成功のヒントや先のビジョンを可視化。 
——特にご自身で手探りと感じるのはどういったところですか。
「このグラレコがすごくいいのはわかる、でもどう使ったらいいかわからない」と、受け手側の感覚が伝わってくるというか…。いろいろいただくフィードバックの声を通して、ものすごく可能性を感じてもらっているし、価値を感じてもらっているのもわかるのですが、これをどう使っていこうかっていうのはまだまだ課題としてあるという感覚ですね。
——それはグラレコを依頼する側の課題でもあるということですよね。
依頼してくださる方はそれぞれに使い方を見出していて、こう使ったら効果的なんじゃないかとか、面白いんじゃないかってことを、それぞれに感じてビジョンを描いてくださって、依頼をしてくださっているんだろうなとは思います。それが人それぞれの使い方のアイデアになって、広がりになっていくところに可能性があるのかなと。
——グラレコに対してはどんなフィードバックが多いですか。
ビジネス書籍の販促物をつくることも多いのですが、書籍のグラレコを見た方が、その本を読んでみたくなったとか、まとまっているものを見て読んだ気になるんじゃなくて、コンテンツそのものの先をもっと見たくなるという、そういう次につながるものとして使っていただくという感じが多いですね。
——ドラマや映画の予告編みたいな感じですね。
まさにそれだと思います。セミナーとか授業であれば、このメソッドや内容を見て、「自分もこの行動を日々の習慣に取り入れてみよう」とか、自分の未来のビジョンにつなげていただけるよう目指しています。

川の流れをざっくりと描いていく

——グラレコでは議事録以上に自分の発言がピックアップされた、されなかったとか、自分がどんな役割を果たしたのかが可視化されると思います。
グラレコではすべてを描き切ることは難しいし、どこが引っかかって、どこを拾うかは人それぞれなので、同じ1 つの場を描いている他の人のものを見ても、捉えているところがそれぞれ違います。だから、その1つひとつの細部を記録するというよりは、私は全体の川の流れをざっくりと描いていく感覚です。すべての言葉を拾うことは難しいし、それは描かれる側にしてみたら「ここを削られちゃったか」っていうのは少なからずあるとは思いますが。
——でもすべてを記録するのであれば録音や録画をしておけばいいので、グラレコの意味がないですよね。
おっしゃる通りです。記録すること、内容を捉えることそのものにも、もちろん価値がありますが、グラレコで求められているのは感情の部分もあると思っています。何か価値になるとか利益になるとか、なんらかのメリットを求めてつくってもらうっていうよりは、見て楽しむとか、なんとなく雰囲気を感じてもらうとか、エンターテインメント的な要素も結構大きいと思っています。
——たとえば会議でホワイトボードを使うとみんなが同じ1つの方向を向いて、かつ絵や図を含めて可視化されるのでみんなが理解しやすいと言われます。言葉だけだと人によって解釈が違ったりするので、共通認識を持つために有効だとされます。ネコっちさんにとって絵はどういう意味を持ちますか。
おっしゃる通りで、言葉と絵の違いというのは、単純に言葉で「暑い」と書いても、「どのぐらい」の部分がそこには乗らないんですよね。じゃあどのくらい「暑い」のか、「めちゃくちゃ暑い」のか、「ちょっと暑い」のか、「汗ばむぐらい」なのか、「息がしづらいぐらい」なのか、その部分はやっぱり絵で表現していく。そこで「あ、このぐらいのニュアンスね」っていうのを共有できる。あるいはノンバーバル(非言語)な部分、つまり表情ですとか、そういう言葉の字面には乗らない周辺情報は絵で表現するのが共有しやすいのかなって思います。

クオリティよりも速さ。むしろ絵心はいらない

——絵は上手に描けなくてもみんながちゃんと見てくれるような議事録の残し方のコツはありますか。
グラレコを描くときに、よく絵心があるとかないとかはよく言われますけど、一番大事なことは、うまく描こうとか、まとめようとしないことだと私は思っています。速さや情報量のさじ加減をつかむためには、とにかく場数を踏むことで磨かれることだと思います。
グラレコの一番いい点は、実は絵心がいらないんです。むしろ人のイラスト1つにしても、丸とか三角とか四角、そういう単純な線だけで表現できる。議事録として求められるのは絵のうまさよりも速さなので、むしろ絵心はいらない。とにかく場数を踏みながら、感覚をつかんでいくことが一番大事なんじゃないかなと思います。
——何が大切で、何が余計なことかというポイントを拾っていくスキルが必要だと思いますが、そのへんの注意点はあったりしますか。
それも変換の回路が開かれているかによると思います。センスというのは筋トレと同じで、使っていかないとの磨かれないと思うんですよね。近道はそんなにないと思います。コツも特にない。ただひたすら数を打っていくということにしかないんじゃないかなと思います。
——スポーツと同じで、いくら練習しても悪いフォームだと上達しない。最初に基礎が肝心だと思いますが、ネコっちさんが特に心がけていることはありますか。
私は「どうすればもっと面白くなるかな?」ということをいつも考えて描いていますね。ビジネスですから、テーマを扱ううえで、ともすれば堅苦しくなりがちですけど、それをいかに柔らかくするかを考えます。とっつきにくいなとか、難しいなって思うようなことを、いかに柔らかく、かみ砕いて、見る人の頭にすっと入っていきやすくするか。「あ、これ面白いな」って思ってもらって、いかに日常に落とし込むかっていうところですかね。
——それはグラレコ全般にも言えることですか。
描き手によると思います。おしゃれなビジュアルに振り切って美しく見せることを重視する人もいますし。本当に人それぞれだと思います。私は自分では面白さを追求しているかなと思っています。
——手描きゆえの文字の書き方にも工夫はあるのですか。
太さ、大きさ、色分けによるメリハリはもちろんあります。話し手が、ここは強く言いたいなっていうのはやっぱりなんとなく察して、ちょっと大きく書いてみたりとか、話し手も知らず知らずのうちにそれがキャッチフレーズのようになっていたりとか、キーワード的なものになっていたりとか、ちょっといい言葉を選んでいるなと思うものは大きく書いてみたりしていますね。
——たとえば、ネコっちさんのグラレコの中に「愛があり 魂があり 詩があり」ってすごくコピー的な書かれ方をしているものがありましたが、これはどうやってこういう置き方になっているのですか。
そういう詩的な、いい表現を選んでくる方も結構いるんですよね。ああ、この表現いいなっていう。こういうのがポンと出てくる方もいらっしゃって、それを拾ってくるって感じですね。
——では、あえて普通の発言をポエムやキャッチフレーズっぽく言い換えて整理することはないですか。
「そのお話って要はこういうことですよね」っていう感触が自分の中にあったときには、それを書いて出すことはありますね。
——そうすると、発言した人がうまく伝えられてなくても、出来上がったとき発言者に「これだよ! 俺が言いたかったのは」と思ってもらえることもありませんか。
そうです。おっしゃる通りです。「うまく言えなかったことをまとめてくださった」「要するにこういうことなんです」って言ってくださる方もいて、そういうときはうまく捉えられたなって感じでうれしいですね。
——やはりポイントを掴むという意味での編集的作業は入ってくるのですね。発言者がぐだぐだとうまく言えていないけど、それを咀嚼してちゃんと言葉と絵にしてあげるという意味で。
そうですね。
——グラレコの可能性として、今後「こういうことができると面白いなあ」と思うことはありますか。
Schooの授業内で、カフカの『変身』をグラレコしてみたことがあったのですが、「こういう独自の解釈になった」っていうのが出来上がって、それがとても好評だったんですね。「物語の登場人物にすごく感情移入した」とか、「物語が終わったときにロス感が生まれた」とか、そういう感情を呼び起こせるようなものをつくれたという手応えがあった。そういう昔の名作とかを新たにグラレコでまとめて「1枚でわかる名著」みたいなものがつくれるのかなって、最近は感じていますね。
『深夜にあなたと本を読む。(第9回)カフカ「変身」を読む』(2020年9月1日Schoo放送)
かの名著がギャグマンガに変換されています。
——『100分de名著』というNHKの番組がありますが、1冊1冊が1枚の絵で解説された世界文学全集みたいなものあったら欲しいですね。歴史や世界史なども教科書のサブテキスト的にあったら、すごいわかりやすい。
わかりやすいですよね。パッと見て「あぁ、こういうことか」というのが掴めるのは、いまはそういうニーズがある気がしています。
——最後にネコっちさんが思うグラレコの魅力をお願いします。
グラレコの目的は描き手によっても違うし、使われる場面によってもそれぞれで、会議を可視化することで課題をあぶり出して解決策を導く一助となる手段だと思うんですね。グラレコがもたらすものは、一人では考えつかない気づき、視点、そこからの変化だと思います。
それをみんなで考えて共有することで、また別の視点に行き着いて、こういう見方もできるんだって、よりよい未来に目が向く。そこから発想が生まれたり、描かれたものを眺めていくだけで頭が整理されたりして、突然「あっ!」と思う瞬間、何か降りてくる瞬間がある。
そこから、いまできることは何なのか見えてくるのが、その先の希望をつくるんじゃないかなって思っています。そんなふうに、これから必要とされるであろう未来思考をつくる手段、ツールとしてグラレコを活用していただきたいなと思います。

文・鈴木涼太
イラスト・ネコっち

ネコっち
グラフィックレコーダー。株式会社メイクセンス・Cデザイン本部長。グラレコ・グラレポ・読書メモなどのアウトプット総数は、年間600枚以上。見えない世界をゆるーく見える化。Schooにほぼ毎日着席し、グラレコやひとくちイラストなどを描く。8頭身のシュッとしたテーマを2.5頭身でギュギュっと伝え、その高速アウトプットとまとめ力、独自のユーモアで各方面からの注目を集めている。ブラックミュージックや懐メロ好き。世界中のよきものにいいねを。LINEスタンプ『のびネコねこハウス』発売中。
https://grareco.mystrikingly.com/
ネコっち | 超速グラレコで内なる才能と熱量を見える化する猫
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