良いファシリテーターは黒子のように存在を消す【スマート会議術第61回】

良いファシリテーターは黒子のように存在を消す【スマート会議術第61回】株式会社ONDO 代表取締役 谷 益美 氏

香川県を拠点に、ファシリテーター&ビジネスコーチとして企業研修や講演など、全国を飛び回る谷益美氏。また、働き方改革や女性のリーダー育成、イベントづくりなど年間150本以上の場づくりにも積極的に関わっている。

『リーダーのための!ファシリテーションスキル』『マンガでやさしくわかるファシリテーション』など著書も多く、作家やイラストレーターとしても活躍する谷氏に、会議におけるファシリテーションの重要性についてお話を伺った。

目次

会議は必ず「書いて見える化」する

――どんな課題を持って会議の相談に来られる方が多いですか。
会議が長い、結論が出ない、やり方がわからない、会議を何とかしたいという悩みが多いです。あと、具体的にはチームビルディングや新商品開発、コンテンツを考える編集会議など、議論を引き出してまとめていく支援をすることもあります。
会議の相談には、必ず「書いて見える化しましょう」とお伝えします。見える化するだけでかなり良くなるので。みんな寄ってたかってしゃべっているけど、ちゃんと共有できていないということが多いんです。たとえば、「会議改善」といっても、何に問題を感じているのかが、みんなそれぞれ違う。「そもそも会議なんか必要ないのでは?」という人もいれば、「会議は必要だけど、時間が長いのは嫌だ」とか、「あの会議は要るけど、これは要らない」とか、人それぞれなんです。
会議がうまくできていない大きな理由は、みんな好き勝手に話していて、それを誰も整理しないし、見える化もしない。会議は本来、それぞれの思いを出してもらって共有し、チームの目指す方向に導いていくために実施するもの。会議の目的や決め方など、大事なことが共有されていないことによる問題も起こりがちなことだと思います。

場を仕切るのがファシリテーターではない

――ファシリテーターはリーダーがやるべきですか。
リーダー=決定権者、である場合は、難しいかもしれません。リーダーがファシリテーターとして振る舞い、「みんな好きなことを言ってよ」といざやっても、「俺としてはこうだけどな!」と結論を出しちゃうと、「結局言ったって意味なかったじゃないか」となりがちです。決定権を持っているリーダーに「メンバーにこういう答えを言わせたい」という具体的な思いがある場合は、特にそうですよね。リーダーとファシリテーターの兼任はできないわけではないですが、場合によっては分けたほうがいいと思います。ビジネスや会議という場の中で、どんなにリーダーがスキルを身につけたとしても、中立の態度でいられない場合もあるだろうと思うんです。
――なるべく権限がない人がやったほうがいいということですか。
権限がある人がやってもいいんです。ただ、メンバーの気持ちを考えると、難しいとも思います。たとえば、会社の社長に「何でも好きなことを言え」と言われても、「社長は何を期待しているんだろう」と忖度してしまう気持ちはやっぱりあるのではないでしょうか。
一方で、リーダーや社長がファシリテーションのスキルを身につけることは、社内の人間関係やチームの関係性をより良くしていくために、すごく効果的な取り組みだと思います。
相手の発言を勝手に解釈するのではなく、きちんと確認をするなど、普段から丁寧なコミュニケーションを取ろうとする。そういう姿勢は、チームに必ずプラスに働きます。ファシリテーティブなコミュニケーションを、会議だけではなく、日常的に意識して実践すること。そして、みんなの意見を中立の立場で引き出せる、ファシリテーター的役割の人を育てること。そうすることが、これからのリーダーに求められるスタンスだと思っています。
――年配の人が会議でファシリテーターをすると、「それできるの?」とか、「現実味あるの?」とか詰問になって、会議の流れを止めることがありますよね。
詰問になりがちなのは、立場が対等じゃなくて、上下関係がある場合でしょうか。年齢差や立場だけではなく、能力の差がある場合もそうかもしれませんね。私たちは、下手なことを言ったら潰される、怒られると思うと萎縮します。「クリエイティブなチームをつくりたい」とか、「もっとみんなに意見を言ってもらいたい」と思うのであれば、相手を問い詰める「詰問」は封印するといったルールを決めたほうがいいですね。
ただ、会議にも種類がある。喧々諤々やり合う場があってもいいと思うんです。対等な立場で、「どうなっているの?」「それ違うでしょ」と、意見をぶつけ、議論し合うのはアリ。けれども、それが単なる主張のぶつけ合いだと意味がない。例えば、営業部と製造部が、ひたすら自分たちの立場だけを考えた主張だけをワーっと言っていてもケンカにしかならない。
そういうときは、みんなの言い分をちゃんと整理する。そもそも議論の背景にある目的は何で、会社として向かうべき方向はどこなのか、というところから整理をして、俯瞰して軌道修正する人がいたほうがいいと思います。ぶつかり合う議論はいいけど、ただのケンカで終わらないための整理役=ファシリテーターが必要だと思います。

良いファシリテーション、悪いファシリテーション

――ファシリテーションがうまく機能しているときはどんなときですか。
ファシリテーターが黒子に徹して回るときだと思います。会議で、話を振ったり、発言を促したりするのはファシリテーターの役割ですが、実際に現場で動くのは参加者です。あくまで主役は参加者ですから、参加者が盛り上がって、しっかり結論が出る。ファシリテーターが目立たなくても盛り上がっていくのが一番いい。宴会の幹事と同じですね。乾杯する人がいて、主役も立って、来た人も楽しい。「今日やって良かったな!」っていうのがいい場だと思うんです。
必要に応じて介入したり、いろいろな働きかけをしたりすることで、メンバーの満足度を上げていく。その「プロセス」をデザインできるのがいいファシリテーターだと思います。
――逆にうまく機能しないファシリテーションとは?
ファシリテーションで誤解されがちなのが、「答えに導く」ということ。よく「こっちに持っていきたいけど、うまくいかないんですよ」と言う方がいます。でも、それはファシリテーティブではありません。みんなにAと言わせたいのであれば、最初から「俺、Aと思うんだけどどう思う?」って聞けばいいだけ。でも「ファシリテーションって、みんなから答えを引き出さないといけないんですよね」って言われることがよくあります。
――それは「みんなが賛同した」というアリバイがほしいだけですよね。
そう。誘導尋問ですよね。それは時間のムダです。ただ、リーダーがすでに答えを持っている場合にも、大きく3つのケースがあるように思います。
① Aで決まっていて全員に納得してもらうケース
② Aで8割ぐらい決まっているがもっといい案があれば折り込みたいケース
③ Aというアイデアはあるけど、全然変わってもいいというケース
「絶対A!」という場合は、「チームとしてはAでいこうと思っている」と、まず説明しないといけない。Aに関して、どんな不満や不安があるのか聞きたいことをきちんと説明して、自分が答えられることは答える。改善すべき点があれば軌道修正をみんなで検討したい旨、ちゃんと伝えなければいけません。
でも「Aが8割」ぐらいの場合は、「Aでいこうと思っている。ただ、みんなからもいろいろ新しいアイデアを聞きたい。他に案がなければAにする。いったんAがない前提で、アイデアを出してもらえないか?」と。「その上で、どっちがいいかをみんなで検証しよう」というやり方になると思うんです。
最後の「Aというアイデアはあるけど、他の案があったら」という場合は、みんなで議論をするための呼び水として、1つの案として投げ込むぐらいの温度でいい。
結論をAに持っていくことにこだわってしまうのはあまり良くない。プロセスも含めて、みんなが納得できるように導く。その上で結果のクオリティにもきちんとフォーカスできるのが良いファシリテーションだと思います。

“烏合の衆”が集まってもいいブレストはできない

――ブレストでありがちな落とし穴があればお教えください。
ブレストって、よく「自由に何でも発言し合うのがいい」とされますが、闇雲に“烏合の衆”を集めてもいいブレストにならないんです。たとえば、あるデベロッパーさんと分譲マンションについてディスカッションをしたことがあります。「1階にどんなテナントを入れたら、入居者満足度が上がるか」というテーマでブレストをしたんです。「やっぱり美味しいパン屋さんとかカフェがあったらいいね」とか、「コインランドリーもほしいね」とか、いろいろなアイデアが出て盛り上がりました。
その後、実際に購入されるお客様候補のファミリー層向けにヒアリングの座談会をやったんです。「…というような分譲マンションをいま考えているんですけど、どういうのがいいですか?」と質問したら、全員の答えは、「テナントが入っているマンションは嫌です」。
要するに、「不特定多数の他人が入ってくる可能性があるマンションは怖いから嫌だ」と。「管理人さんが常駐していて、子どもたちが遊べるように中の公園があって。まずセキュリティが第一で。その上で交流ができるような場所があるといい」と。お客様候補不在で実施した私たちのブレストは、全く方向違いだったと気づかされました。
ディスカッションやブレストは、当事者や専門知識を持っている人がいて初めて深まったり広がったりすると思うんです。メンバーの選定で専門家を入れるのが難しければ、自分たちで勉強する時間をつくるとか。
専門家が入る場合も、みんなが語っていることに対してポジティブな反応を返せたらいいですね。出てくる意見に、「それはどこでもやっていますよ」とか、「こういうのもありますけどね」と水を差されると、自由に発言がしづらくなってしまうので。
出てきたアイデアに対して、「この案はすごく面白い。実際に成功した事例もあります。だから、もっとこのエリアなりにやれることを加えるといいと思いますよ」という、ポジティブに聞いて、ポジティブにフィードバックできる専門家をメンバーに加えるのがオススメ。専門家や当事者の意見と、自由な意見交換をうまく促すファシリテーションが機能することで、良いブレストになるのではないでしょうか。
谷 益美(たに ますみ)
ファシリテーター&ビジネスコーチ、イラストレーター。企業、大学、官公庁などでコーチング研修やコーポレートコーチングなど、年間150本以上の実践的学びの場づくりを行う。2015年、優れた講義を実施する教員に贈られる「早稲田大学Teaching Award」を受賞。香川大学卒。建材商社営業職、IT企業営業職を経て2005年独立。早稲田大学ビジネススクール、岡山大学で非常勤講師。雑誌やウェブサイトへの記事寄稿、取材依頼等多数。著書に『リーダーのための!ファシリテーションスキル』『リーダーのための!コーチングスキル』(すばる舎)、『マンガでやさしくわかるファシリテーション』(日本能率協会マネジメントセンター)など多数。

文・鈴木涼太
写真・佐坂和也

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