会議では全員がファシリテーターになればいい【スマート会議術第67回】

会議では全員がファシリテーターになればいい【スマート会議術第67回】株式会社ナガオ考務店 代表取締役社長 長尾 彰 氏

最近よく耳にするチームビルディング。それはチームが同じ1つのゴールを目指し、個々の能力を最大限に発揮しつつ一丸となって進んでいくことを言う。

いまや多くの企業で人手不足や時間短縮、高い離職率などに悩み、効果的な組織づくりやチームをまとめる手法が求められている。そして、コーチングやファシリテーションなどとともに、リーダーに求められるマネジメント能力の1つとして注目を集めている。

大手玩具メーカーでの経験をもとに、採用と組織開発のコンサルティング会社ナガオ考務店を設立した長尾彰氏。チームビルディングのノウハウは、企業をはじめ、官公庁、Jリーグなどのスポーツチームまで業種・業態を問わず幅広い領域で生かされる。

長尾氏にとってのチームビルディングとは何か? 長尾氏の口からは「信頼」「want」「愚者的賢者」「心理的安全性」といった“心”や“気持ち”を重視する言葉が多く出てくる。チームビルディングを通して、会議はどのように改善されるのか? ファシリテーターとして、数多くの企業や団体を支援してきた長尾氏に、チームビルディングの考え方、実践方法について話を伺った。

目次

良い事業が良いチームをつくる

――ナガオ考務店の事業についてお教えください。
ナガオ考務店という社名は、実家が長尾工務店という建設業を営んでいたので、それが由来です。親父が四代目なんですが、兄も僕も継がなかったので、せめて音だけでも継ごうということで、ナガオ考務店という社名にしました。
ビルディングには、「そこにある材料を使って組み立てる」というイメージが僕にはありました。いま、そこにいる人たちが何かをすることで、何かをつくりだすということをしていこうと思って、この屋号にしました。
いまは主に、「エア社員」という肩書で定期的にクライアント先に行って、リーダーの育成と組織づくりを中心にお手伝いしています。
――チームビルディング業務は、具体的にどういうことをされるのですか。
主に事業推進が求められています。新規事業を立ち上げたり、既存の事業のテコ入れをしたりします。あくまでも良い事業があるから良いチームができるという考え方でリーダーの育成と組織づくりを進めています。
たとえば、メーカーだと、「新しい工場をつくりたいから手伝って」という依頼だったりします。「いままでは工場の人たちだけで話し合っていたが、全社横断のプロジェクトチームでやりたい。だけど、そんなのやったことないから」といったようなご相談を受けます。

大切なのは「Should」ではなく、「Want」の気持ち

――チームビルディングをやってみて、どういう手応えを感じている経営者が多いですか。
「社員の言葉を全然信じていなかった」という声をよく聞きます。「本当はやればできるのに、その機会を社長である私自身が奪っていた」と。「転ばぬ先の杖で、みんなが困らないように一生懸命考えて、たくさん仕事を取ってきて、みんなに落としていたのに、それが成長を阻害していたことに気づいた」という声が一番多いです。
――社員を信じろと?
みんな優秀なんです。それがうまく引き出せていないだけ。「Want」と「Should」という言葉がありますが、やりたいという「Want」の気持ちさえあればやれるんです。でも、「Should」という、しなければならない外圧的な関わり方だと、やっぱり個人に内在しているやる気を奪ってしまう。
僕のチームビルディングのスタイルでは、「何をやりたいの?」「なんでこの会社入ったの?」「この会社でやりたいことは何?」ということをひたすら突き詰めることをしています。「社長は何をやりたいの?」「社員の皆さんは何をやりたいの?」「本当にそれをやりたいの?」「いまやっていることをやりたいの?」って。
組織のビジョンというのは、一人ひとりのビジョンの集まりです。そのビジョンを引き出す手段として会議がある。「みんな本当は何をしたいの?」ということを言いやすい雰囲気や環境をつくって、出してもらったものをカタチにすることがファシリテーションかなと思っています。
一人ひとりのビジョンをカタチにする手法のひとつに、「Appreciative Inquiry」という手法があります。「Appreciative」というのは、「感謝する、受け入れる」という意味です。「Inquiry」は「問い合わせ、探究、調査」という意味です。みんなが「これやりたいよね」という、「これ」を探す手法です。それがいま、世の中の会社には圧倒的に足りていない感じがします。

ファシリテーターは見えないものを見えるように導く

――どうすれば、「感謝して探究する」会議にすることができるのですか。
会議に参加する人はみな、お互いに見えているものと、お互いに見えていないものがあります。まず「私が見えている」「あなたが見えていない」「あなたも私も見えている」「あなたも私も見えていない」と四象限をつくってほしいんです。「ジョハリの窓」*と言いますが、お互いに見えていないものを探したり、片方が見えていて、片方が見えていないものをお互いに見えるように調整したりするのが、ファシリテーターの役割だと思っています。
――会議では、見えている人が言ったことに対して、見えていない人が否定することがありがちですね。
お互いに見えていないものが何だったのかが明らかになることを「気づき」と呼んでいます。片方が見えていて、片方が見えていないものが見えたとなれば、お互いに気づくことで同意や合意が形成されていきます。
「私も見えていて、あなたも見えている」ことをテーマにしちゃうと、途端にムダな会議が発生する。そんなことをする必要はないわけです。儀式としてやっておくことに意味があることもありますけど。

*ジョハリの窓
コミュニケーションにおける自己の公開とコミュニケーションの円滑な進め方を考えるために提案された考え方。

「賢者風愚者」と「愚者風賢者」

――チームビルディングにおけるリーダーはどんな役割を果たすのですか。
リーダーは、自然体でいることが一番大事だと考えています。リーダーには、自身の権威や権力を全面に押し出すことで物事を進める「賢者風愚者」がいます。
たとえば、「賢者風愚者」は、「社長だから、部長だから、課長だから、ちゃんとしなきゃいけない」と完璧を目指して必要以上にがんばってしまうタイプのリーダー。
反対に、「愚者風賢者」はは、「俺、社長だけど何もできないからみんな手伝って」と言える人。「部長だけど、この部分は専門知識がないからサポートしてほしい」と素直に言える。その素直に言える感じや、装わないということがすごく大事だと思っています。
リーダーというと、どうしても率先垂範で先頭に立って「俺について来い」とやってしまいがちですが、何をリードするのかが大事です。リーダーは権限や権力を行使するより、導くことができないといけない。
では、どういう人が導けるのか。自分が行きたいところがはっきりしている人じゃないと導けない。「お前、ついて来い」と命令して相手の自由を奪ってついて来させる人ではなく、ついつい、「ついて行きたい!」と思ってついて行ってしまうような関わり方をしてくれる人が、リーダーだと思っています。
どっちが良い、どっちが悪い、ということではありません。だた、人がついていきたくなるようなリーダーは、やりたいことをやっている人。人を傷つけるような強い正義を振りかざすのではなく、自然体のありのままの姿で本当にやりたいことをやっている人の周りに人は集まるものです。
「愚者風賢者」は、自然体なので無理がない。無理がない人にはついていきやすいんです。でも、すごく無理をして、権威を装って、権力でどうにかしようとする人にはついていきたくないでしょう。

高い業績を残す会社に共通しているのは「心理的安全性」

――チームビルディングでいう、チームとはどんな意味を持つのですか。
組織を表す言葉には「チーム」という言葉と「グループ」という言葉がありますが、似ているようで違いますよね。たとえば「グループ企業」と言うけど、「チーム企業」とは言わない。「仲良しグループ」と言うけど、「仲良しチーム」とは言わない。「日本代表グループ」と言わない。でも、「日本代表チーム」と言う。「グループ」と「チーム」は、そもそも概念が違うんです。
チームは突然できるわけではない。赤ちゃんとして生まれて大人になるように、組織や集団も発達していきます。ブルース・タックマンという社会学者が唱えたその考え方を「タックマンモデル」と呼びます。 「タックマンモデル」は、大きく4つのステージで発達していきます。
第1ステージは「Forming」。「形成期」と呼ばれていて、お互いに遠慮している時期です。第2ステージは「Storming」という本音で話ができる時期。それを乗り越えて、自分たちで主体的にルール、役割、目標を決めることができるようになると、第3ステージの「Norming」という時期になります。つまり、グループがチームに変わる時期です。
新チームを立ち上げるときには、「タックマンモデル」を使って、この内容をグループのメンバー、チームのメンバー、組織の構成員に理解してもらうことをやります。
 
立ち上げのときに大事なのは、第1ステージと第2ステージとの間に壁があって、「これを言っても大丈夫かな?」というコミュニケーションの壁がある。お互いに何を言ったらいいのかなって、ぎこちない感じです。
今日の取材みたいに、初対面で「コーヒーのおかわりがほしい」とはなかなか言えないですよね(笑)。これがFormingな感じで、それを乗り越えるには「心理的安全性」が必要になってくる。最近は「チームビルディング」という言葉より、「心理的安全性」という言葉のほうが流行っている感じはしますね。
――「心理的安全性」とは?
Googleが「プロジェクトアリストテレス」と名づけたプロジェクトがあります。2、3年かけて優れたチーム、優れた業績を残しているチームを徹底的に研究して、共通している要素を抜き出したんです。「こういう要素を大事にすれば高い業績を出す組織をつくることができるはずだ」という仮説のもとに徹底的に調査したそうです。
いろいろな要素がある中、共通したのは1つだけ。高い業績を出せているチームは、すべて「心理的安全性」が確保されている。「心理的安全性」とは、何を言っても大丈夫ということ。失敗しても叱られない。チャレンジしても、チャレンジしなくても、お互いに認め合ってもらえるという関係性があること自体がすごく大事だということが研究の結論としてまとめられています。
――言い合いをしても激論になっても、安心感があるということですか。
はい。人格否定をしているわけではなくて、「もっと良くするための話し合い」という感覚がちゃんとみんなにある状態です。つまり新チームを立ち上げたときには、いかに「心理的安全性」を集団の中で確保できるかということがキモになるという、そんな考え方です。

「社長、外に出ていてください」と言えるのがファシリテーター

――「心理的安全性」といっても、「賢者風愚者」が入ってきたときには、どうしても心理的圧迫が生まれませんか。
生まれますね。そのときのためにファシリテーターがいるのだと思っています。社長が話をしていると、風切って、「お前ら心理的安全性を確保しろよ!」って言うわけです(笑)。「チームになれ!」って言うんです。そこでファシリテーターが「社長、見て、みんなの顔。ほら、すごく不安そうな顔をしていますよ。これを見てどう思います?」って言うんです。「みんなも言いたいこと言ったほうがいいよ」って。でも言えない。「そうだよね、言えないよね。じゃあ匿名で紙に書いてみるか。みんなからもらったメモを社長に伝えるから。「社長、外に出ていてください」と言えるのがファシリテーターの本来の強みです。
そもそも「ファシリテーション」が、「支援する」「促進する」という意味なので、社長を支援促進する社員がいてもいいわけです。ファシリテーターは会議の司会役として役割とか機能で考えることもできるのですが、存在としてのファシリテーターももちろんいるわけです。会社にそういう人がいるといいですね。
「ファシリテーター」と名乗った時点で、ファシリテーターとそれ以外の人という関係性が生まれますが、みんながファシリテーターになればいいんです。
長尾 彰(ながお あきら)
株式会社ナガオ考務店代表取締役社長。組織開発ファシリテーター。日本福祉大学卒業後、東京学芸大学大学院にて野外教育学を研究。企業、団体、教育現場など、15年以上にわたって2000回を超えるチームビルディングをファシリテーションする。文部科学省の熟議政策に、初の民間ファシリテーターとして登用され、復興庁政策調査官としても活動したほか、「エア社員」として複数の法人にファシリテーターとして事業に参画している。

文・鈴木涼太
写真・大井成義

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