寄り合い所帯が、軍隊のように統制のとれた組織に勝てるわけがない【スマート会議術第75回】

寄り合い所帯が、軍隊のように統制のとれた組織に勝てるわけがない【スマート会議術第75回】京都大学 経営管理大学院教授 末松 千尋 氏

かつて、日本の企業は「ジャパン・アズ・ナンバーワン」とも言われ、世界経済を牽引する存在だった。

そして、その原動力となったのが、集団合意制やQC(品質管理)活動だ。しかし、それは昭和の時代の産物であり、「失われた20年」を経たいま、日本は世界のナンバーワンどころか、三流国へと沈みゆく危機的状況にさえある。

GDPは中国に抜かれ、労働生産性は、OECD加盟36カ国中20位、主要先進7カ国で最下位の状況が続いている。

なぜ、日本の労働生産性はここまで低くなってしまったのか。京都大学で鞭を執る末松千尋教授は、「官僚主義と大企業病の蔓延が組織力の弱体化を招いた」と警鐘を鳴らす。そして、そんな企業の変革のカギを握るのが会議だとも言う。

世界25カ国以上の企業文化や会議を調査・研究してきた末松教授に、日本の企業が抱える問題と、その解決の糸口についてお話を伺った。

目次

いまだに根強い集団合意制信仰

――日本特有の集団合意制による意思決定は時代遅れなのでしょうか。
シリコンバレーの企業のように、うまく使えれば有効ですが、日本の企業は考えなく集団合意制という方向に走りすぎて、その問題もいろいろ出てきています。
昔は、「集団合意制は非常によい、日本型企業の特徴」だという論陣が張られて、世界的に着目されたんですね。それがいまの日本の経営学者のレゾンデートル(存在意義)になっているわけです。そういうやり方がいいという大前提があって、そこから逸脱しようとすると結構抵抗があるんです。
欧米ではトップにリーダーシップが求められるのは当たり前ですが、欧米のマイナーな学者がかつて「リーダーシップがなくても成功している企業がある」と言って、日本の大企業を例に出していたのですが、結局いまはダメになっている大企業の名前ばかりです。
集団合意制を唱える人は、主張を変えるわけにいかないから「集団合意制が日本の最大の強みである。そのやり方から逸脱することはいけない」と、2000年代半ばぐらいまでずっと言い続けてきた。そのあと、今後どうすべきかという議論はまったくされていません。
――振り返ってみれば、戦後の松下電器、ソニー、ホンダなど日本を代表する一流企業はみなリーダーシップが強い企業ですよね。
そうです。いまも伸びている企業は意思決定者がはっきりしている。たとえば、日本電産の永守(重信)さんや、ソフトバンクの孫(正義)さん、ファーストリテイリングの柳井(正)さんなどは非常に強いリーダーシップを発揮しています。 それは中小企業でも同じです。結構独裁的にやっている企業のほうが結果としては伸びているんです。
そういう意味では、強いリーダーシップはひとつのメリットです。もちろんデメリットも多いから、いろいろな要素を加味しながら、あるべき姿をそれぞれ探求しなきゃいけない。 その議論がされていないんです。戦略論は華々しいですが、本当に重要なのは戦略をいかに実現するかの体制やその管理能力のほうです。
本来、組織というのは最低限、軍隊みたいに統制が取れているべきなんです。軍隊というとトップダウンの絶対服従のように思えるけど、同時にボトムアップでそれぞれのエンパワーメント(権限を与えること)も進んでいる。 いざというときに、各部隊が独自に行動もできなければ全滅する。そういうバランスが的確にとられている。
組織のあり方を研究することによって、企業の意思決定の体制や執行管理体制が見えてくる。その認識がすっかり抜けているから、何もできない単なる寄り合い所帯になってしまう。小さな変化にさえ対応できない。その現状が大きな問題だと思います。 そこをちゃんと追求して、整理して、構造的な問題を抽出しているところは、世界のグローバル企業と比べると非常に少ない。
――利益や売上げが上がるといった因果関係が見えにくいので、どうしても後回しになりそうですね。
基礎体力を強めることだから、確かにすぐに結果は出ないです。でも、優良企業は、社員全体がその企業の「あるべき論」を全員で考えています。それぞれの個人が自分の利益のためだけでなく、企業全体のためにどうすればいいかを考える企業が当然強い。
――日本の多くの企業でできていないのは、単にそのノウハウを知らないということですか。
まずその認識がないということと、認識がないからやり方がわからないというところが大きいですね。
かつて日本の企業は海外から学んで研究していました。品質管理のデミング賞*に象徴されるように、日本の製造業における品質管理は他者から学習して最先端に至ったんです。 米国では無名だった提唱者のデミング博士を招聘して、デミング賞を設けて品質管理の向上に努めたわけです。
昔は世界から学ぼうとする姿勢がすごくあったけど、最近はあまりないですね。躍進著しい中国からだって学ぼうという気が全然ない。韓国にも学べるところがあるはずなのに、そういう海外からしっかり学ぼうという意欲がない気がします。

デミング賞*
TQM(総合品質管理)の進歩に功績のあった民間の団体および個人に授与されている世界最高ランクの経営学の賞。米国の品質管理の専門家であるW・エドワーズ・デミング博士の業績を記念して1951年に創設された。

頓挫したホワイトカラーのQC活動

――日本発のQC(品質管理)活動はいまも機能しているのでしょうか。
一時ほど盛り上がった状況ではありませんが、まだ健全なほうです。すべての企業がお互いに切磋琢磨し合い、競争し合いながら、全国で全企業のレベルが上がっていったという、そういう時代とは違いますが…。
QC活動はそれなりに根づいて、いまは世界中に広がってコモディティ化(価値の同質化)していると思います。QC活動は、本来工場以外でも適用できるもので、それをいろいろな企業がトライしたのですが、トヨタ以外はほぼ全滅です。 工場では上手くいったけど、工場から一歩出てホワイトカラーや間接業務では上手くいかなかった。
――工場で上手くいって、ホワイトカラーで上手くいかなかった理由は何だったのですか。
工場の場合は基本的にモノですよね。モノづくりの流れをいかに効率的にするかというのは効率化という達成目標もプロセスも見えやすいし、合意も得やすい。 でも、ホワイトカラーの間接業務では、その両方とも目に見えないから、概念的・抽象的になる。それを管理して徹底する組織力がなかった。それが対応できなかった理由だと思います。
工場の場合は、これを良くすれば、すぐに質が上がる、コストダウンできるという目標がすごくはっきりしている。ホワイトカラーのような間接業務は、売上、利益、ブランド、人材開発、新規開発などいろいろあり、工場のようには目標を設定できないんです。
何をやったから効果が出たのか。Aという活動が業績アップにつながったのか、あるいは違う要因があってそれに関係しているのか、因果関係は特定しにくい。曖昧性があるから、合意形成や執行管理をしづらいんです。

会議改善にも標準化したプラットフォームが必要

――先生のつくられた会議のスコアリングシート*は、会議の評価が数値化できますが、会議の質を可視化することで組織のパフォーマンスを具体的に測ることができるのでしょうか。
点数化されているから、点数を上げるという目標設定はしやすいと思います。スコアリングシートとしてプラットフォーム化することで、活動を標準化できる。QC活動も、お互いに同じ土俵で競争したり、協調したりと、しっかり標準化されていたわけです。 だから、みんなで競い合うことができたし、ノウハウを交換することもできた。
ある程度標準的なプラットフォームがないと、それぞれが独自にやっていったとしても、なかなかノウハウが共有されない。そういう意味で、ひとつのプラットフォームをつくることで、みんながそれぞれをやると同時に、協力し合ったり、比較し合ったりできる。
特に絶対基準がないホワイトカラーの業務では比較というのが非常に重要になります。

スコアリングシート*
会議のスコアリングをベースに、自社がどういう会議のレベルなのかを見てから改善していくメソッド。世界25カ国、500社の会議を調査した研究結果に基づく。
末松教授の監修でPhone Appliが作成した簡易会議スコアリング。
https://phoneappli.net/kaigikakushin/index.php

日本経済を蝕む官僚主義・大企業病

――改善しやすい会社と、改善が難しい会社の違いはどこにありますか。
改善しやすいのは、変化に対する意識と能力の高い会社です。たとえば、トップが非常に成長意欲を持っていて、さまざまなやり方を試し尽くす。使命感のあるトップが全体をコントロールするところは変化が起きやすいですね。
その対局にあるのが、いまの日本の官僚主義・大企業病です。官僚主義・大企業病とは、腐敗の状況ともいえます。腐敗というと、賄賂や粉飾決算みたいなものが一般的なイメージですが、水面下に存在するさまざまな腐敗行為を直視すべきです。
いま「変化しなきゃいけない」とみんなわかっている。誰かがやらなくちゃいけない。でも、それってすごく面倒臭く、自分に負担がかかる。そういう自己負担を回避するのもひとつの腐敗です。やらなくちゃいけないことを見て見ぬふりをするのは自己利益しか考えない怠慢です。そういうのが蔓延してくると全体が硬直化する。 改善がまったく進まないから、どんどん奈落の底に落ちていく。でも、みんなは「しょうがないや」と思いながら、「俺だけやる必要ないし」となるのが、官僚主義・大企業病です。
官僚主義というのは、文書主義で意味のない手続きが大変です。変化しないだけでなく、日常のオペレーションも動かない。そうなってきたら、当然組織なんて停滞しますよね。
会議も同様です。明らかにみんなおかしいと思っていても、それを指摘するのが面倒くさい。そういう官僚主義・大企業病に陥っているから、いまの経済停滞を招いている。何もしていないわけだから。これからもっとひどくなりますよね。
たとえば、AmazonのCEO・ジェフ・ベソスは基本的には「Leadership Principles」(リーダーシップ原則)と呼んでいる14項目で社員に指示して、管理して、教育している。
そこでは人としてあるべき行動が簡潔に明示され徹底されている。だからそういうカルチャーがどんどん強くなっていく。自然発生的、自主的に、必要なことを必要なときにやるカルチャーをすべての社員が持つようになってくる。
「Leadership Principles」という名称ですが、リーダーだけでなく、全社員が持つべき規範としての位置づけになっています。全社員が誰も見ていなくてもやるべきことをすぐにやるというカルチャーを、いかにつくるかにものすごく投資している。 最先端の企業は売上げや利益よりも企業カルチャーを優先して、それをいかに定着させるかにエネルギーを注ぐようになってきています。

決める内容じゃなく、決め方で混乱している

――著書『会議の9割はムダ』の中で、『disagree but commit』(同意しないが委ねる)という言葉がキーワードとして挙げられており印象的でした。
『disagree but commitment』(賛成しないが決定には従う)は、シリコンバレーで30年ぐらい前からよく使われる言葉です。意思決定をいかに健全に行うかというひとつのルールです。ただ、混乱している意思決定の会議を良くするやり方は、この他にもいろいろあります。
特に、日本は決める内容じゃなく、決め方で混乱しているケースが圧倒的に多い。だから決める内容にまでいきつかない。たとえば、いつまでに決定しなければいけないかを設定しない。最終的に誰が意思決定をするのか決めない。
全員が事実やデータを確認しておいて、自分なりの意見を持ってきて、そこで言い合って、オプションを出す。その前に評価軸をしっかり用意しておく。期限までに決まらなかったら、たとえばですが多数決にする。そういう流れが、事前に合意、共有できていればスムーズにいくと思います。 こういう流れがまったくないままにやるから、決めても蒸し返される。「知らなかった」「その話は聞いていない」と、また話が元に戻る。そういう混乱がものすごく多いです。
全員がファクトベースの情報をしっかり把握しておくのも大前提。それぞれの情報や考えを持ってきて、全員でリストアップして問題点をグルーピングしてみる。そういう単純なことができていないと、何度も振り出しに戻って、先延ばしになって、疲弊して、決めるべきことが決まらない。

十把一絡げでやるから何をやっているかわからなくなる

――『disagree but commit』(賛成しないが決定には従う)ことができない最大の理由は何ですか。
やはり前提としての決め方が決まっていないことです。決め方をしっかり事前に決めて、それに従って決める内容を議論しましょうということです。
たとえば会議形態がバラバラで混乱している意思決定の会議をやっているのに、教育や説教に話が変わるとか。あるいは、対面で決定事項を通達しているのに、聞いているほうは意見をただヒアリングしていると思っている。参加者のベクトルが全然一致していないんです。
意思決定と執行管理の混乱がすべて会議で露呈している。すべてを十把一絡げでやるから、混乱して何をやっているかわからなくなる。そういう状況に、手をつけられないというのが現状のように思われます。
――会議はとりあえず集まって話せばいいという誤解が問題ですね。
そうです。それは単なる人の集まりであって組織ではない。組織とは、集まることで単位あたりコストを下げることなんです。
ところが、日本の企業には組織の概念がない。会議に象徴されますが、人が集まって昔のコミュニティ的な発想で、みんな仲良くやっていればいいとなる。みんなで集まって幸せ感を感じていればよくて、それが目的化しているところがあります。
いまは世界的に厳しい競争にさらされていて、戦争ともいえるような競争が繰り広げられている。そういう寄り合い所帯が、軍隊のような意欲、倫理観、生産性を持つ組織と戦って勝てるわけがありません。
――「組織の概念」とは、1+1=3になる強さを持っているということですか。
そうです。1+1=3どころか、10にも20にもなる。数が増えれば増えるほど効率が上がる。それを規模の経済といいます。それを実現することこそが組織です。だから組織は強いのです。
――今後、組織を変革していくには、どこから手をつけていけばよいのですか。
やはり、組織を変えるカギを握るのは会議です。「変える」という意思決定をして、「誰がいつまでにどうやって変えるか」ということを決める。それを確実に執行管理していき、それを限りなく繰り返していけば良くなっていくはずです。
末松 千尋(すえまつ ちひろ)
京都大学経営管理大学院教授、経済学博士。1979年、東京工業大学卒業。84年、スタンフォード大学大学院MOT修了。システム・エンジニア、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、88年にコンサルティング会社を創業。国内外の大手企業からシリコンバレーのベンチャーまで、生産性向上をキーワードにした全社組織変革・戦略構築コンサルティング活動に従事。2001年より京都大学大学院経済学研究科および経営管理大学院。慶應義塾大学ビジネススクール、筑波大学ビジネススクール、東工大などで非常勤講師を兼任。 主な著書に『 会議の9割はムダ ホワイトカラーの労働時間を50%削減させるマネジメント』『 オープンソースと次世代IT戦略―価格ゼロ時代のビジネスモデル』 『Transaction Cost Management』ほか多数。

文・鈴木涼太
写真・佐坂和也

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