上司の流儀が通用する時代は終わった【スマート会議術第77回】

上司の流儀が通用する時代は終わった【スマート会議術第77回】ビジネスコーチ株式会社 常務取締役チーフHRビジネスオフィサー 吉田 寿 氏

1on1ミーティングという対話の方法をご存知だろうか。ヤフー、楽天、日清食品、パナソニックといった大手企業が次々と導入し、注目を集めている。

1on1ミーティングは、上司と部下が1対1で行う対話のことだが、決して上司が部下に指導したり、アドバイスしたりする場ではない。

1on1ミーティングが注目される背景には、ダイバーシティ(多様性)やアジャイル(敏捷性)が求められるグローバル社会がある。数年先もどうなるか読めない不確実な時代に、上司の経験や知識を一方的に部下に教えるという従来の指導方法が通用しなくなってきているのだ。

いまや「上から下に教える」のではなく、「対等なコミュニケーション」をしていく関係の構築が求められているのだ。

ビジネスコーチ株式会社で、常務取締役チーフHRビジネスオフィサーを務める吉田寿氏に、1on1ミーティングの現状と、いま求められる社会的背景についてお話を伺った。

目次

上司と部下がコミュニケーションの原点に立ち返る

――1on1ミーティングを導入される会社の主な動機と、現状についてお教えください。
会社によって取り組み的にはさまざまです。職場単位で現場の活性化やコミュニケーションの円滑化を目的にする会社もあれば、人事制度や評価制度との連動というアプローチで導入される会社もあります。
部下が前向きに仕事に取り組めるような環境をつくっていくことが1on1の目的です。基本的には、職場単位の上司・部下間のコミュニケーションを良くして、組織の生産性を高める一助として導入されるのが大きな流れだと思います。
1on1は文字通り、上司と部下が1対1でコミュニケーションをとることです。やることはシンプルです。「いや、そんなの昔からやっていた」という声もあります。ところが、最近はそういう当たり前のコミュニケーションが不足しているのも事実です。 上司と部下のコミュニケーションを良くすることが組織にとってプラスになるから、もう一度原点に立ち返って取り組もうという動きですね。
――一人の上司が何人の部下とやるものですか。
基本的には直属の上司と部下になります。会社によって組織単位が非常に大きく、何十人単位で1on1をやるとなると、上司はかなり大変です。だから、一人の上司が何十人の部下をみる1on1はあまりお勧めしていません。
たとえば、1on1を積極的に進めていることで有名なグーグルは、1チームの限度は7名と言っています。そのぐらいの小規模単位でやらないと、密なコミュニケーションがとれないということです。「適正規模ってどれぐらいですか?」とよく質問をいただくのですが、 「大体7名ぐらいですね。グーグルさんだと7名で上手くいっていますよ」とお答えします。私のこれまでの経験から言っても、最大で10人だと思っています。それ以上多く抱えると、きめ細かな評価やミーティングはやはり難しい。 そこで「あの上司は仕事もロクに見てくれないくせに、そんな上司に評価されたくない」と部下から不満が出てくるんです。たくさん部下がいるとそうなってしまう。だから7人から10人ぐらいが限度だと思います。
――部下が多い場合、上司の負担を減らす意味で、2on1というのはどうですか。ツッコミ役となだめ役みたいなカタチで。
「鼎談型」といって、2on1のカタチをとる会社もあります。しかし、1on1ミーティングは、1対1でやることに意味がある。もし部下が20人いるとしたら、そのうちのリーダークラスの何人かに、権限委譲して1on1をさせるほうがいいですね。
相互理解した上で突っ込んだ話をするためには、小規模単位のほうがいいです。第三者的な人間が一人いてやるのは、やはりやりづらいですよね。そういう意味で、1on1は1対1でやるのが原理原則です。

1on1ミーティングが果たす2つの役割

――1on1ミーティングが会社で果たす主な役割は何ですか。
1on1は、職場の上司・部下間の関係性を良くしていくのが目的になります。定期的にミーティングをする機会をつくらないと、上司も部下も何をやっているのか、どういう人物なのかが、お互いによく理解できない。プライベートも含めて相互理解がないとコミュニケーションは成立しない。だから、お互いをまずよく知るというのがあります。
もうひとつ、1on1が果たす重要な役割として、心身の健康状態の把握があります。先行きが見えない不安定な時代ゆえ、メンタルケアが必要な人たちが増えてきています。モチベーションも含め、部下の心身の健康状態を確認していくのも大事なことです。
それを踏まえて、本人の成長支援のために、会社の課題や問題を発見したり解決したりする1on1もありますし、MBO(目標管理)のように本人のキャリア形成や能力開発、目標設定や評価をするための1on1もあります。
そういういくつかの目的はありますが、土台はあくまでも上司と部下の良好な関係性の構築です。1on1のそれぞれのタイミングでテーマに応じて話し合いをします。
1on1は組織を良くしていくための土壌づくりなので、そこからいろいろ柔軟な発想が出て、何か新しいビジネスのアイデアも出てくるかもしれない。そういう期待もありますね。

生産性を上げるために必要な心理的安全性

――会社からいきなり「1on1ミーティングをやれ」と言われても、何を話し合えばいいのかわからず戸惑う人もいませんか。
1on1というのが、いかに組織の改革や活性化に役立つものなのかを説明した上で、職場の取り組みをしなければなりません。どういう目的でやるのか。1on1自体が目的になってしまうと、1on1をやることに終始してしまう。
上司・部下間のコミュニケーションを円滑にして、信頼関係を築く。そのために最近では、「心理的安全性(Psychological safety)」という考え方が重視されています。
これもグーグルの例ですが、グーグルでは、「プロジェクト・アリストテレス」という社内プロジェクトで、組織の生産性を上げるために何が重要かという取り組みを実施しました。それで、社内で一定期間リサーチして出した結論が、「生産性を上げるために一番重要なのは、心理的安全性である」ということだったんです。
それから、「心理的安全性」というキーワードが広く語られるようになりました。心理的安全性を確保していくために重要なのは、やはり人間関係だと。現場単位になれば、「上司・部下の関係が重要」となったんです。そういう観点からの取り組みとして、1on1ミーティングが重要視されてきたという背景があります。
会社組織が上手くいっている例として、よくシリコンバレーの企業が挙げられますが、シリコンバレーの企業はそういうことを随分前から行っているんです。だから新しい発想で、新しい製品やサービスが生まれてくる。イノベーションを起こすために組織風土を開発しているから、良いものが生まれてくるということです。
――グーグルが発端というより、あちこちから同時多発的に出てきているということですか。
そうですね。実は私が最初に勤めた富士通という会社は、1980年半ばぐらいには「TT(タイム・トゥ・トーク)面談」というものをやっていました。1on1という言葉ではないですが、上司と部下が1対1で面談するという意味では同じです。1on1の考え方自体は昔からあるんです。組織の活性化のために実施するという考え方は、その頃からあるんです。最近になって、シリコンバレーから突然生まれて脚光を浴びたわけではない。
1on1がここにきて盛り上がっているのは、やはり1on1を導入している会社は業績も良いし、組織も活性化されている。「だから、1on1はいいね!」というムードが生まれてきているのだと思います。

どうしても合わない上司と部下が無理に1on1ミーティングをする必要はない

――1on1ミーティングを導入しても、どうしても相性が合わない関係だと、逆効果になってしまいませんか。
それは、問題意識の高い上司がいるかどうかにかかってきますね。自分自身の意識改革に前向きに取り組む上司なら、変わってくれる。なんとか1on1で関係性をつくっていこうとする上司であれば、多少合わない部下とでもまだ可能性はあります。
しかし、相性が合わないという人間関係は、どうしようもないこともあります。そこは早期に発見して、異動するなり引き離すなり、関係性を変えたほうがいい場合もあります。
1on1の理想は上司・部下間の関係性の改善ですが、関係が良くならない上司・部下も必ずいるので。

個別化、個性化していく人材育成

――1on1ミーティングの考え方が昔からあったにもかかわらず、いま改めて脚光を浴びているのは、企業が生き残るために必要に迫られているからですか。
先進的な外資系グローバル企業は、1on1を当たり前のようにやっています。なので、「日本企業は、何でいまさら・・・」というのが大方の外資系企業の率直な感想です。日本企業は、これまで本腰を入れてこなかった。だから最近、やっと取り組み始めたところじゃないかと思います。
――上司が「俺はこうやってきたんだ。黙って俺についてこい」というのは通用しない?
昔は、上司の流儀で一律マネジメントで良かったんです。しかし最近では、社員一人ひとりに対して、個別にきちんとフォーカスを当てたマネジメントを上司ができないとダメです。これは、企業自体が会社中心の世の中から、個人中心に、大きく変わってきているという背景があります。
これを人事の世界では、「人事のパーソナライズ化」と言います。人材育成は個別化、個性化していかないとダメだということです。上司が「俺のやり方に従え」というやり方はもう全然通用しないということです。
社員一人ひとりの状況をきちんと確認した上で、その人に合ったマネジメントを、上司がどう工夫して実施できるかが問われている。だから1on1なんです。
近年はダイバーシティ(多様性)の重要性もよく言われますが、一人ひとりの違いをきちんと認めましょう、ということです。認めた上できちんとマネジメントしていくことがダイバーシティマネジメントです。同じ正社員でも、フルタイム勤務で働く人もいれば、短時間勤務の人もいるわけです。そうすると、時間の長さでも違いが出てきます。
最近は若手、中堅、年配者の社員をどう活かすかにフォーカスを当てたマネジメントもあります。きめ細かくやろうと思ったら、世代別の価値観を前提としたマネジメントもやっていかなければダメなんです。「ジェネレーショノミクス」という考えもありますが、いま、そういう流れに変わってきています。
今後は、外国籍社員の活用を視野に入れる機会も増えてくるでしょう。日本人だけではなく、外国人もいる職場でどんなマネジメントを実践するかが大きなテーマになってくると思います。
吉田 寿(よしだ ひさし)
ビジネスコーチ株式会社 常務取締役チーフHRビジネスオフィサー
BCS認定プロフェッショナルビジネスコーチ
中央大学大学院戦略経営研究科客員教授。早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員。早稲田大学大学院経済学研究科修士課程修了。富士通人事部門、三菱UFJリサーチ&コンサルティング・プリンシパルを経て、2015年より現職。 “人”を基軸とした企業変革の視点から、人材マネジメント・システムの再構築や人事制度の抜本的改革などの組織人事戦略コンサルティングを展開。人事制度改革コンサルティング等プロジェクト担当実績450件程度。著書に『 世界で闘うためのグローバル人材マネジメント入門』(日本実業出版社)、 『『 リーダーの器は「人間力」で決まる』』(ダイヤモンド社)、『 企業再編におけるグループ人材マネジメント』(共著、中央経済社)など多数。

文・鈴木涼太
写真・佐坂和也

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