弱者の立場で相手の気持ちを理解する【スマート会議術第92回】

弱者の立場で相手の気持ちを理解する【スマート会議術第92回】モダン・ボーイズCOO/作家 竹中功氏

「あれは誰に謝っていたのかさっぱりわからなかった」

物議を醸したあの吉本興業の謝罪会見を一刀両断した。もし、この人がいたらもう少し違った謝罪会見になっていたに違いない。

竹中功氏は、元吉本興業の広報マンで、“謝罪マスター”と呼ばれた男だ。2015年に吉本興業を退社し、いまは企業の広報コンサルタントや、ラジオ番組のパーソナリティ、コメンテーター、作家として活躍する。

そんな竹中氏が35年間勤めた吉本興業で最も学んだことは、「弱者の立場で相手の気持ちを理解すること」だと言う。

竹中氏は現在、釈放を控えた受刑者の社会復帰プログラムにも携わる。「彼らには、とにかく人の気持ちを理解する大切さを知ってもらいたい」と熱く語る竹中氏。その気持ちがあれば、本当に強い自立した人間になれると。「弱いからウソをついたり、ごまかしたりする」

「弱者の立場で相手の気持ちを理解すること」の大切さとは? 竹中流コミュニケーション術についてお話をうかがった。

目次

広報マンとして相手の気持ちを察するコツを学ぶ

――吉本での広報の経験は、刑務所での社会復帰プログラムに、どのように生かされているのですか。
広報って記者と駆け引きをするわけです。「あの新聞は全然うちの記事を書いてくれへん」「あの事務所はどうやってあの記事を書かせたろかな」と、仕掛けていくわけです。そのときに、この記者は実は漫才、落語のほうばかり追いかけている人だから、「落語家のこんなネタを持って行ったら、こんな写真撮ってくれるんちゃうかな」とか思いながら仕掛けていきます。そういう心理の駆け引きはずっとしていました。
でも、それだけだと商売人の駆け引きです。だから、「この前の失敗をこれで許してくださいよ」と言って頭を下げたり、貸したり、借りたりする。「これは貸しにしておくわ」「これは借りにしておくわ」みたいなことで、押したり、引いたり。それは広報で学んだことです。
――「すごいぜ、面白いぜ」と一方的に言ってもなかなか興味は持ってもらえないですよね。
そうです。こっちがどれだけ自分に都合のいいことを言ってもダメ。記者からすると「それ、あんたの都合やね。竹中くんが勝手に面白いと言うてるだけやもんね」となりますから。
昔はネットなどはないから新聞に掲載された記事を毎日切り抜きしていたんです。新聞の切り抜きを3年ほどやっていたら、新聞社のデスクの気持ちがわかるようになる。こういうソースを渡して、こういうタイミングの取材ができたから、これだけの大きく載せてくれたとか。これだけの記者会見で、これだけ人が来てくれて、たくさんの質問があって盛り上がったのに、次の日の新聞で5行だけとか。これは、実は何も刺さるネタが配られていなかったとか知るわけです。
そういう意味で、新聞社のデスクの気持ちを理解することがすごく重要になります。メディアに取り上げられるためには、それを選択する記者の気持ちになればいいんです。つまりどれだけ相手の気持ちを察するかということです。そのコツがあるんですね。
いま受刑者の社会復帰プログラムでお手伝いしている刑務所でもよくやっているのが、「人の気持ちを察する人間になりなさい」という話です。
たとえば「朝の8時に満員電車の列に並んでいました。自分の後ろにベビーカーを押すお母さんが並んでいたとしましょう。どう思いますか?」という話をします。
すると「うっとうしいな」とか、「邪魔やな」とか、「金ないんやろな」とか、みんなそんなことを思うわけです。僕自身も意見を言う。「僕も機嫌の悪いときやったら、『邪魔臭いなあ、隣の列に行ったらいいのに』と思う」と。
「そんなふうに思うよね。満員電車にベビーカーやもんな。じゃあ、なんでこのお母さんは8時にベビーカーを押して並んでいると思う?」って聞く。すると「家にクルマがない」「タクシーに乗るお金がない」「急いでいる用事がある」とか、みんないろいろ言うんです。そこで「事情があるよな。そんな時間に来るんやから」と。
「もう1回聞くで。朝8時の地下鉄のあなたの並んでいる後ろに、ベビーカーを押したお母さん来たらどう思う?」って言ったら、「『ちょっと譲ってあげて』とか言います」「手伝ってあげます」「子どもがちょっと心配になります」とか、みんな意見が変わるんです。
みんないい人になったわけではないんです。お母さんの気持ちがわかったんです。こんな人たちの集まりなのに、ベビーカーを押すお母さんの気持ちがわかった。
「相手の気持ちがわかるってこういうことやで。ちょっと察してあげたら、次に何してあげようかと思ったときに、あんたらだって『ちょっと開けてやれや』って言うやん」と。「相手を察したり、慮る力があるやんか」という話をするんです。みんな「おお~」って、すごく納得した顔をしてくれますよ。

考えが言語化される質問をする

――他にはどんな授業がありますか。
刑務所で「いままでやったことないけど、やってみたいことを書き出す」というテストみたいなのをやることもあります。「いっぱい書いてみなさい」と言って、やったときに、受刑者の人たちは書けなかったんです。世間の情報が入っていないから何も想像できないんです。でも「100万円あったら何に使う?」って聞いたら出てくるんです。
――問いかけ次第で自分の考えが言語化されるということですか。
そう。吉本を辞めてから気づいたんですけど、よく講演会で主催者から「15分ほど質疑応答の時間を取っておいてください」って言われますが、「質問のある方」って聞いても誰も手を挙げないんです。質問を考えてと言ったら、ゼロから考える頭がいるんです。
でも、「今日の話で一番役に立ったと思ったことは?」とか、「面白い話だと思ったことを教えてください」と聞くと、手を挙げてくれるんです。それを言ってくれたら、僕はそれに被せてまたしゃべります。
だから「質問をしてください」と言われて質問を考える脳みそと、1時間ほど聞いた話の中の記憶のあるものを思い出すものと全然違うんです。「今日の話で一番心に残ったものとか教えてください」と言ったら手を挙げますよ。
人との接し方の感覚を覚えておいたら、初めて会った人には「はじめまして」と言えばいいし、何か奢ってもらったらちゃんと「ありがとう」と言う。聞いてわからなかったら「もう1回教えてください」と言う。その言葉のキャッチボールを始められるはず、という感覚が身につくはずです。

クリエイティブにもっとも必要なのはグルーブ感

――吉本時代に会議や打ち合わせで、いいアイデアを出したり、話を盛り上げたりするために心がけていたことはありますか。
僕はそんなに現場でマネージャーをしていなかったのですが、たとえば僕がよしもとNSC(吉本総合芸能学院)をつくったときが1982年で、その一期生にダウンタウンの2人がいました。当時はまだダウンタウンを名乗っていませんでしたが。彼らと一緒にネタづくりをするのですが、僕が「まっちゃん、こんなん言ったら面白いで」なんて言うことは決してないです。でも、そのときにどっちが言ったというわけでもなく、「あんなんしたら?」「こんなんしたら?」と一緒に笑っているようなグルーブ感ですね。そのグルーブ感の渦をどうつくるかは考えました。
たとえば、ナインティナインの岡村くんと『無問題』という映画を香港でつくったんですけど、映画をつくっている現場で、日本語を話すのは僕と岡村くんとマネージャーと、向こうのプロデューサーの4人だけ。他のスタッフはみんな日本語を話せない。でも、岡村くんを中心にグルーブ感を起こすんです。心がけるのは、誰を中心にして動いているかを見てグルーブ感を起こすことですね。あの映画は、スクリーンに映し出される岡村くんの怪演をみんなが思いきり笑ってくれたらいいなと、求めているわけです。目標をひとつにして、中心人物を核としてグルーブ感がどうあるかです。
それは決して「右向け右、左向け左」というリーダーの一声じゃない。グルーブ感という渦、ノリ、潮目みたいなものをつくれることがいまの時代にもっと必要だと思います。
もちろんヘッドホンを聴きながら、パソコンと向かい合って仕事が進むことも十分にあり得る。だから、コミュニケーションの輪というか、グルーブ感というのは、ひょっとしたら古い考え方かもしれません。ただ、吉本にとってのクリエイティビティは完全にグルーブ感でした。
たとえば、後輩にいじられキャラがいてくれるから、そいつが失敗をしてくれたり、面白くないことを言ってくれたりするのもエキスになって回ることもある。エッセンスみたいなことも含めたグルーブ感です。
――一般のビジネスの会議でも、そういうノリのグルーブ感はあったほうが良いでしょうか。
会議でもよく言われることですが、まず人が言ったことは否定しない。誰もが最低でも1つ2つは発言する。ずっと黙っているのも反則。人を批判するとか、「それできない」っていうセリフも反則。そんな最低限のルールがわかっていない人がいたら説明しなきゃいけない。「いま、そんな細かいこと、そこで訂正しなくてええねん」と言わなきゃ。「言い間違いとかそんなんどうでもええ」と。そうしないと大きい渦は回り始めない。渦の中心になるやつが明確であるということです。
「できないとは絶対に言ったらあかん」とか、「途中で人の批判をしない」とか会議で守ったほうがいいルールがありますよね。昔は上の人が「それやったらあかん」と平気で言いますからね。「昔やってあかんかったからって、なんで今日あかんねん」って反発したかったけど、押さえつけられるんです。昔は経験がものを言う時代だったんです。いまは経験ぐらいで「何を言ってんねん、長く生きてたら誰でも知ってるやろ」と無視されますよ。僕も途中からそう思うようになりましたから(笑)。
「お前、これやってもあかんねん。俺、前にやって知ってるねん」とか「俺、昔こんなんやったときに、これだけ売り上げ上がったんやで」とかいうのが、いまの人には役に立たないです。それが何も生み出さないということを知っていますから。単なる自慢話でしかありません。

批判しない、悪口言わない、自慢しない

――「正解のない時代」「多様性の時代」といわれ、ベテランの経験だけでは生き残れない時代ですね。
きっと、いままでは「みんなであの山登ろうぜ、エイエイオー!」で良かったんですけど、最近は「社長一人でエイエイオー言ってるわ」みたいな。「俺は俺で、会社の邪魔もせえへんし、会社の目標や未来も見据え、自分の欲求にもちゃんと向かっていますよ」と言う。自分が強い人ならそれをやっていると思います。
昔は売り上げを上げて、ボーナスをたくさんもらって、同期よりも早く出世して袖付きの椅子に座るという競争時代があったわけです。いまはそんな夢を持っている人なんていないじゃないですか。自分の持っている次のハードルをどうやってしっかりクリアしたいかという、自分を主に置いたものの見方をしている人が多いと思いますよ。
だから、僕は逆に歳をとったら、「文句を言わない、昔話をしない、批判はしない、自慢はしない」と決めました。それを決めた頃に高田純次さんも同じことを言っていました。「説教と昔話と自慢話はしない」と(笑)。
――でも、まだまだ「批判、悪口、自慢」は、いっぱい耳にしますね。
特に大きい組織はそのほうが生きていきやすいというのがありますから。大きい組織ほど、自慢がない人は寂しかったり、批判をせえへん人は大人しい人だったりするので。古い組織ほど自慢や批判とかがまかり通るんじゃないですか。

強い個をつくることが強い組織をつくる

――働く人たちの組織が生き残るために求められることは何だと思いますか。
自立した強い個人をつくることだと思います。その強さというのは、勝ち負けの強さじゃなくて、自立心です。自立心が弱いと、どうしても隣の人の意見に合わせておこうとか、会社の上の言うことに逆らわないでおこうとか。会社によっては流されざるを得ないこともあるので、従順な人であってもいいのですが、どこかで芯は持っておいてほしい。芯をしっかりと持っておかないと、流されっぱなしになって、激変したときに取り残されてしまいます。そんな人が心を病んで月曜日に会社に行けなくなったりするわけです。だから、強い個をつくることが強い会社をつくり、強い家族をつくり、強い国をつくると思います。
いまは働き方自体が変わってきた。終身雇用が崩れてきて、週休2日だったら2日は自営で喫茶店をやってもいいし、図書館にこもって勉強してもいいわけです。時間の使い方とか会社との関係性が変わり始めている。
自立性がもっと重要になってくるはずなんです。逆にそうならないと、強い組織、新しい組織も生まれない。自分の道がちゃんと見えている自立心が、いまもっとも必要だと思います。それがひいては強い組織をつくる。組織は組織で、リーダーはリーダーという立場でものを見なきゃいけない。
まず個々人が独自性や自立性を高めることを見せる。ひょっとしたら、いまは若い人のほうが独自性や自立性を持っている気がします。50~60代のおっさんは、とりあえず定年まで働かせてって思っていますから。給料は減っても会社にはいられる。とりあえず真面目に10時には会社に行く。何かを変えるわけでもなく、何事も起きないように淡々と仕事を終える。
そういう意味で、20~30代の人のほうが自分と会社との関係をシビアに見て、しっかりしてるんじゃないかと思います。
竹中功(たけなか いさお)
モダン・ボーイズCOO/作家。同志社大学卒業、同志社大学大学院修了。吉本興業株式会社入社後、宣伝広報室を設立。よしもとNSC(吉本総合芸能学院)の開校や心斎橋筋2丁目劇場、なんばグランド花月、ヨシモト∞ホールなどの開場に携わる。コンプライアンス・リスク管理委員、よしもとクリエイティブ・エージェンシー専務取締役、よしもとアドミニストレーション代表取締役などを経て、2015年退社。現在はビジネス人材の育成や広報、危機管理などに関するコンサルタント活動に加え、刑務所での改善指導を行うなど、その活動は多岐にわたる。著書に『謝罪力』(日経BP社)、『よい謝罪 仕事の危機を乗り切るための謝る技術』(日経BP社)、『他人(ひと)も自分も自然に動き出す 最高の「共感力」』(日本実業出版社)がある。

文・鈴木涼太
写真・大井成義

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