シナリオプランニングで未来を描く【スマート会議術第101回】

シナリオプランニングで未来を描く【スマート会議術第101回】フューチャー·ファシリテーション合同会社 原由紀子氏

結論が出ない、発言がない、目的が見えない会議に日々悩む人は多いだろう。そんなダラダラ会議に目的を示しながら参加者から意見が出るように促す。それがファシリテーターの役割だ。

そして、問題を俯瞰して解決へと導くコンサルティングと、それぞれの思考・意見を引き出しながらメンバー自身が答えを見出していくファシリテーション。この2つのアプローチを連携させ、誰もが納得できる問題解決を実現。

それがフューチャー・ファシリテーションのコンセプトだ。

フューチャー・ファシリテーションの原由紀子氏は、シナリオプランニングやアクティブ・ブック・ダイアローグ®︎を武器に、全国の企業や学校、病院などでファシリテーターとして活躍する。

ファシリテーターの育成・支援を目的としたフューチャー・ファシリテーション カフェの主宰も務める原氏に、ファシリテーションが会議で果たす役割について語ってもらった。

目次

未来をともに創造していくフューチャー・ファシリテーション

――フューチャー・ファシリテーションとは、どんな組織ですか。
プロのファシリテーターやコンサルタントが集まった会社です。みんなそれぞれが活動をしていますが、ひとつの組織に所属しているという状態です。
――どうやってひとつのチームとして組織されたのですか。
ファシリテーターを一人でやるよりコラボしてみんなで一緒に仕事をすると、もっと大きな仕事ができるということで集まりました。
現在、ファシリテーターが集まる場として大阪本町にフューチャー・ファシリテーション カフェという場所をもっています。一人でやるのは難しいことを、誰かと一緒にやってみようというコンセプトの場所なのです。
独立したてのコーチやファシリテーターが、その場所でセミナーを開いたり、コーチングのセッションをしたり、そんな場に使ってもらいたいと思っています。小さい場所ですが、皆さん毎晩のように読書会やワークショップなどで利用してくれています。
オフィスビルの最上階にあるのですが、日本庭園もあって皆さん気に入ってくださっています。「普通の会議室じゃないから、アイデアが出るよね」とか、そんなふうに言ってくださっていますね。
現在行っている取り組みとしては、大学の先生や教員の方と共に進めているプロジェクトがあって、「共創造思考プロセス」というのを、開発中です。教育委員会の先生もいらっしゃるので、学校にも入れていけたらいいなという取り組みをしています。
大阪本町にあるフューチャー・ファシリテーション カフェでのワークショップ。
――参加者はどういった方が多いですか。
法人の方ですと、たとえば人事教育担当者の法人の方が集まって、対話をするプログラムがあります。でも、個人の方のほうが多いと思います。フューチャー・ファシリテーションは、「未来をファシリテーションしよう」という名前で、一人で創造するよりも共創造――未来をともに創造していくようなワークショップが多いと思います。
――原さんご自身は、どういった経緯でファシリテーターになられたのですか。
私はもともと営業職で、英会話スクールで運営責任者として売上げを上げる仕事をしていました。そのときに育成の担当になり、人材育成の大切さを知り、独立しました。
当初はクレーム応対研修や接遇研修などをやっていました。それが13年ぐらい前ですね。ただ、いくら接遇研修をしてもやはりあまり良くならない。応対研修をやると、その日は「いい話を聞きました。よかったです」となるのですが、あまり変わらない現状をずっと経験してきました。

対話で適応課題に挑む

――ファシリテーションを体系化して、仕事にするきっかけは何だったのですか。
ある病院の接遇研修を担当していたのですが、「ちょっと期間を設けて改善活動のお手伝いをしてください」と言われて院長と一緒にやり始めたのがきっかけでした。研修だけじゃなくてプロジェクトを立ち上げて、それをうまく進めていくことで、改善したということがあったんですね。
プロジェクトを始める2年前には患者さんの満足度が24%だったのに、2年後に54%になり、売上げも黒字になった。これがファシリテーションなのかなというのを知ったのが、いまから8年ぐらい前です。
そこから学び始め、いろいろな企業と単発で関わるよりは、期間を設けて会議に関わったり、何か人材開発の体系づくりに関わったりすることが多くなりました。
――どういったポイントで、改善されて満足度が上がったと判断されるのですか。
やはりスタッフみんなの気持ちが合ったというところだと思うんですね。プロジェクトも通常、病院では接遇委員会だけが組まれることが多いんです。そこでは本当にいろいろな人が集まって横断的なチームができて、院長直下でやったということも強かったと思います。みんなの意識がそちらに向いたところが大きかったです。
――病院で体系化したファシリテーションとは、具体的にどんなことをしたのですか。
いろいろ行ったのですが、ひとつ特徴的なのは全員で対話の場をもったということでした。いままでの研修は、看護師さんだけが受けるだけでした。私が関わった期間は、看護師さんや医師の方はもちろん、清掃員や警備員の方などこれまで受けたことがない人も、みんな一緒にテーブルを囲んで、それを何度も繰り返したということがありました。
――対話で組織が変わるのでしょうか。
ちょっと難しく言うと、組織の中の課題は大きく2つ分かれています。比較的解決しやすい技術的問題と、適応課題という複雑な課題に分かれます。
解決しやすい問題とは、平たく言うと「壊れたものを直す」「喉が渇いたら水を飲む」みたいな、いままでの経験や技術で解決できる問題のことです。昔から日本の企業が得意としているのですが、課題を特定して改善していくことで良くなっていくのが技術的問題です。そういうものは解決しいった結果、現在多くの組織では、複雑な問題が残ってきます。こちらを立てばあちらは立たずみたいな。いままでの経験や技術だけでは解決しづらい課題。それを適応課題といいます。
たとえば「接遇を良くしましょう」と言って、きれいにお辞儀だけすれば満足度が上がるのか。そういう問題ではない。スタッフ同士の仲が悪いのに、お客さんに、笑顔で対応しましょうというのは難しいんです。
あるいはきちんと業務ができていないのに、お辞儀だけきちんとしましょうなんて言っても、うまくいくわけがないんです。その背景には複雑な問題が潜んでいるわけで、それをちゃんと表に出すことが大切です。新しいアイデアというのは、いいことを言うだけでなく、言いにくいことをちゃんと言える場で生み出されます。その場をつくっていけることが大事だと思います。
対話をするのに、いつものその組織の中の会議室だけじゃなくて、ちょっと表に出てみるとか、それこそ合宿してみるとか、場を変えて話をするのはすごく大事じゃないかと思います。

シナリオプランニングという未来創造の手法

――すぐに改善される場合と、なかなか改善されない場合にどんな違いがありますか。
たとえば、ある看護学校の会議改善で劇的に良くなった例があります。そこは、先生のうちお一人がすごく積極的で、ご自身で学ばれたんですね。私たちが伝えたこともすぐに実践してくださるので、皆さんがひとつになりやすかったということがありましたね。
私はいま教育分野で対話を学校に入れたいということで活動しています。大学や高校でやっているのですが、変化に対する抵抗があり、なかなかうまく進まないことがあります。
変わりたくないという抵抗があると難しいです。先生の中にすごく積極的な方がいても、変化への抵抗があり、変わらない。そこはやっぱり粘り強く対話を重ねていくしかないのかな、と思っています。
教育現場は力が要ると思いますが、私は教育が変わらないと国が変わらないと思っているので、まずは教育だと考えています。いまは高校・大学を中心に活動していますが、できれば小学校・中学校にも対話ができる場を入れていきたいという思いで進めています。
――教育に興味・関心をもたれたきっかけは何だったのですか。
これまで社会人教育をずっとやってきた過程で、大人になってからでは遅いのではと思ったんです。私は「シナリオプランニング」という、未来を思考する手法を取り入れています。もともと企業の長期計画、長期戦略を策定するためのもので、いままでは、社会人に提供していました。
もっと若いころから未来を考えることを身につけたら、変わるんじゃないかと思ったんです。社会人になってから「未来のことを柔らかく考えましょう」と言っても、難しいことがあるんですね。そう思って、高校や大学でやってみることになりました。
もちろん、高校生は経験が少ないので、しっかりサポートしないと大人のようには考えられない。だけど、やっぱり柔軟性があるし、もっと想像力を引き出せるんじゃないかと感じるんです。そこから、シナリオプランニングを教育分野でできないかと思って大学や高校の先生に提案させていただいているところです。難しいところもあるのですが、どうにかやっていきたいと思っています。
シナリオプランニングとは別に、ご提供しているものがあります。先生方が授業に取り入れていただきやすい手法でアクティブ・ブック・ダイアローグというものがあります。うまく活用すれば、知識習得と創造的対話が実現できる手法です。
これを先生たちが使えるようになると、子どもたちは積極的に発言し、考えるし、先生にとっては比較的簡単にできる。この手法だとうまく行くんじゃないかなと思って目下活動しているところです。
大阪では、教養科目でアクティブ・ブック・ダイアローグを使って授業をしてくださっている大学があり、1年生がみんな教養科目をこの手法で学ぶということを取り入れてくれているところがあります。

アクティブ・ブック・ダイアローグ*
1冊の本を分担して読んでまとめる、発表・共有化する、気づきを深める対話。グループでの読書と対話によって学び、新たな関係性が育まれる可能性が広がる。

複数の未来を描いて、いまを準備していく

――シナリオプランニングでは、具体的にどんなことをするのですか。
シナリオプランニングは、未来を考える手法です。従来の、中長期計画策定では、「ありたい未来」「あるべき未来」といったビジョンを描いて、それに向け計画を立てることが多かったと思います。でも、ビジョンを描いても想定外なことは必ず起こるんですよね。
いま、不確実性が高い時代と言われており、「起こりうる未来の可能性」を描き、「想定外を想定内にしていこう」というのがシナリオプランニングです。
たったひとつの未来ではなく、複数の未来を描きます。不確実性の高い時代だからこそ、複数の未来を描き、どの未来になってもいいように、それに備え、いまを計画、行動につなげていく。そうすることで自分たちの未来をより良くしていこう、というのが、シナリオプランニングです。
現場で具体的に細かい目標がある場合と、大きなビジョンがある場合とどう変わってくるのですか。
中期経営計画では通常3年くらいの計画をしますよね。その際、その組織の「ありたい姿」つまりビジョンを描くことが多いと思います。しかし、シナリオプランニングの場合は、5年とか10年後の長期の未来を考え、しかも「ありたい未来(ビジョン)」ではなく、「あり得る未来」を考えるのです。10年後だと不確実性が高く、未来がどのようになるのか?複数のシナリオを描いた上で、計画、戦略を検討するというのが特徴です。
会社組織だと経営陣が主体のプログラムになりますか。
もちろん企業戦略をつくるときには経営陣は必要なのですが、どちらかというと、次世代リーダー育成のために視野を広げる、長期視点をもつというようなことで、活用していただくことが多いです。
シナリオプランニングはもともと、組織戦略策定のツールですが、長期視点を持つ、視野を広げる、リーダー育成に使ってもらうことが多いいですね。たとえば、次世代リーダーに新規事業を経営層に提案するプロジェクト型で行う人材育成に活用していただくことが多いです。
また、女性活躍、女性リーダーの育成向けのプログラムも多いです。女性って、ともすれば短期視点になりがちなんですね。なぜならば、いろいろなライフイベントがあるので、ここまではこれをしよう。ここまではこうしようって現状から考えてしまう。「今日のこともやらなきゃいけないし」という、短期視点になりがちです。それに対し、もっと視野を広げ、長期視点をもちたいとシナリオプランニングを使った女性リーダー研修のご依頼があります。
「いままでこんな風に考えたことがなかった」「新聞も読まなきゃ」などのご意見をいただくことがあります。

変わらなければイノベーションも起きない

――VUCA(不安定・不確実性・複雑性・不明確さ)の時代と言われる中、近年の日本は経済だけでなく、技術、インフラ、公平性、多様性などさまざまな点で先進国に後れをとっています。
ヤバいですね。だからこそ、それが適応課題として残っているというか、もうみんなで話し合っていかないと、うまく乗り越えていけないと思うんですよね。みんなそれぞれ立場が違って、学校なんかもそうですが、みんな立場が違って、先生と生徒、保護者、地域も全部バラバラ。
みんなで同じテーブルを囲むことがなくて、あっちのせい、こっちのせいとなっているんですよね。それが会社でも起こっているし、地域でも起こっている状態だと思います。やっぱり対話ができるような場がつくれたらいいなと、つくづく思います。
製造業もこのままモノをつくっていたら、問題がありますよね。いままでのやり方だと、多分10年後はすごく厳しいと思います。今回の教育改革もどうなるのかわからない状態になっていますが、変わろうとしても変われていない現状ですよね。
障がい者や女性もそうですが、いままでマイノリティと言われた人たちが社会に出て発言していくようにならないと、価値観も変わらない。ダイバーシティ(多様性)というのはとても大切で必要なんですけど、日本は進まないですね。
――このままだと、せっかく優秀な若者が出てきても、組織に染まって結局また20年後、30年後に同じようなおじさんが育ってしまいそうですね。
その子のいいところ、可能性を伸ばすのが教育で、その会社に合った人、その目的に合う人を育てるのが人材開発という側面があります。
日本の企業は自社の「何々色に染める」というのが好きですよね。だから新卒一括採用をし、新卒から育てていく。中途から入ってくると、いろいろな色が入ってきてややこしいから、自分たちで育てたいみたいなところがある。でも、これだけ多様性の重要性が叫ばれているなか、それも限界です。
だから、その会社に合った人を育てていったら、もう会社は変わらない。変わらなければイノベーションも起きないだろうし、起こしたいのに起こせない。人の良さを伸ばす教育を極めて、それに合わせた会社が形を変えていかなきゃいけない。いろいろな人が生かされる仕組みにしていかなきゃいけない。そんな時代になってきている。
そうすると、小さい会社のほうが変わりやすい、変えやすい。そうなると大きな会社は体力や資金力はあるかもしれないけど、10年後に変わりきれないままだと、大変なことになるんじゃないのかなと思っています。
原由紀子(はら ゆきこ)
フューチャー・ファシリテーション合同会社 ファシリテーター。大学卒業後、大手英会話学校に勤務、営業管理、採用、人材育成に従事する。「人財づくりが組織づくりの鍵」と実感し、2007年に研修講師、ファシリテーターとして独立。一般企業、行政、教育分野でファシリテーション、体験学習を活かし、人材開発を手がける。2016年フューチャー・ファシリテーション合同会社に参画、「人びとの違いが活かされ、その人の願いや大切にしていることを互いに尊重できる社会」を目指し、未来を共創造するプログラム「シナリオプランニング」を提供し、人材開発、組織開発に取り組んでいる。特に2019年からは、「シナリオプランニング」の担当として大学で教鞭をとり、教育分野で「共創造力育成」の活動に力を入れている。

文・鈴木涼太
写真・大井成義

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