多様性こそがイノベーションの要【スマート会議術第106回】

多様性こそがイノベーションの要【スマート会議術第106回】弁護士 徐東輝氏

徐東輝氏は弁護士の傍ら、学生時代に立ち上げた「政治×テクノロジー×教育」を軸に事業を展開するNPO法人Mielka(ミエルカ)の代表理事も兼任。また、弁護士としてはIT企業をはじめ、数多くのスタートアップ企業の業務支援に携わる。

円卓会議、ホラクラシー、ティール、OKR、フォロワーシップ、多様性……。徐東輝氏の口から出てくるキーワードはどれも、先行きの見えない現在の時代背景を如実に表している。

徐東輝氏が挙げたこれらのキーワードにはどんな意味が込められているのか。それは会議、ひいては組織改革においてどんな役割を果たすのか。VUCA(不安定・不確実・複雑・曖昧)時代に生き残るための経営論・組織論について語ってもらった。

目次

ホラクラシー組織とティール組織の使い方

――徐先生は円卓会議*1を重視しているとのことですが、円卓会議にはどんな特徴とメリットがあるのですか。
大学院時代に立ち上げたNPO法人Mielka(ミエルカ)がヒントになっています。Mielkaは社会人も学生もいるので、学生はみんなサークル感覚でやっていますし、社会人は複業でやっているんですね。年齢もバラバラですし、やっていることも立場も全然違う人たちばかり。
Mielkaは僕が代表ということだけが決まっていて、あとは何も決まっていないんですね。わざとそういうふうにしていて、ホラクラシー組織*2とも言われますが、プロジェクトとか何かが起きるたびに、やりたい人が集まって、みんなでわちゃわちゃやっていく形にしているんです。職務上ではなく、純粋に人が楽しいことをやるために集まっている組織、自己実現の場所にしたいのでそうしているんです。
法律事務所でも同じようにしていて、弁護士は期(弁護士資格を取った年)によって上下関係がはっきりしているのですが、わざと期を意識させないようにしています。50期も70期も同じ場所にいるので、全員同じポジションで語れるようにするんです。そうすることで期に関係なく全員が平等に発言できて、全員が同じ視点で価値提供ができる仕組みにしています。
それが多分、経営としても正しいものだと思っています。上に気を遣って何かを言えないとかあり得ないと思うんですよね。というのが円卓会議の考え方で、それがいい会議と思ってやっています。
――会社の規模・業種関係なく、普遍的にそういう枠組みのほうがいいのですか。
いや、会社の規模や業種によって変えるべきだとは思っています。最近はティール組織*3もトレンドですが、これは専門職に強いんです。法律事務所は専門職の集まりなのでティール組織がすごく合うと思います。それぞれがプロフェッショナリズムをもってやっていて、それぞれに意見があり、かつプロジェクトごとに専門職で集まれるような組織だといいんですけど、ひとつのサービスでプロダクトを持って、ピラミッド構造になっている組織もある。そういう会社ではむしろ導入すると死ぬ可能性すらあると思います。
上意下達とまではいかなくても、トップダウン型で成立するピラミッド組織もあります。私が弁護士として支援させていただいている会社の多くもそうですが、一番上に経営陣がいて、部署があって、ピラミッド組織があって、しかし同時にトップダウンもあればボトムアップもある。いい具合の組織になっているんです。部署を横断するような組織形態もつくれるようになっていて、いわゆるピラミッドとホラクラシーの中間みたいな組織をつくっているんです。素早い意思決定をして、すぐに進んでいかないといけない組織においては、ピラミッドでトップが決めていくこともわりと重要だと思います。
――GAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)と呼ばれる企業も、ピラミッドとホラクラシーのいいとこ取りで成功しているように見えます。
そうだと思います。Tech Giantと呼ばれる企業は、GAFAのみならず、多くが組織論を研究し、良質な組織形態を研究していると感じます。というのも単純な縦割りで進められる世界ではなくなっており、さまざまな部署を横断的しないといけないプロジェクトが少なくないため、ホラクラシー組織とピラミッド組織を組み合わせたさまざまな組織形態が試行されていますね。
ティール組織もちょっと特殊なケースが多い印象はあります。看護師組織だったり介護領域だったり、個々人が個々としてパフォーマンスを発揮できるような特殊領域の業態だと、すごくやりやすいものかなって思います。

円卓会議*1
参加者間の相互関係や席次の明確化を避けるなどの目的で円卓を用いて行われる会議のこと。ソ連崩壊間際の1980年代末に東欧で大きな潮流となり、一党独裁体制崩壊後の民主化・政権移行を実現させた。

ホラクラシー組織*2
組織を成す人の立ち位置がフラットで、個人の主体性を高める組織形態。

ティール組織*3
上からの指示系統がなくても、目的のために自ら進化する組織のこと。メンバー一人一人が自分たちのルールや仕組みを理解して独自に工夫し、意思決定をしていく。

フォロワーシップこそがリーダーシップを生かす

――徐先生は組織において、リーダーシップを生かすも殺すもフォロワーシップにかかっていると言われていますが、それはどういう意味ですか。
フォロワーシップとは、部下という立場の人が目的を共有するチームを機能させるため、上司やチームメンバーに対して、主体的に働きかけることです。NPOをやり始めたときに、僕の下には8人の幹部がいたのですが、彼らのフォロワーシップがすごかったので、NPOが大きくなっていったとき、これは僕の力じゃなくて、むしろ彼らの力だと思ったことが端緒でした。
それがいま、たとえば自分が会社で社長を支える立場にいて、事務所でも代表を支える弁護士の立場になったときに、フォロワーになって初めて代表のそばにいるフォロワーがしっかりすれば、組織は代表の器を超えてもっと大きくなれるんだって思ったんですね。
――大統領の首席補佐官みたいな役割ですね。
そうです、そうです。よく「ベンチャーは代表の器を絶対に超えない」って言われますけど、多分それは、代表の近くにちゃんとしたフォロワーがいない例だと思います。フォロワーにちゃんとした人がいれば、代表を超える器の会社にもできるし、むしろ組織の質とか成長は、その下にいる会社全体のフォロワーシップによって決定されるんだって、よくわかったんです。
NPOを例に挙げると、8人の幹部の誰かが毎日のように僕の家に泊まりに来て、いろいろディスカッションをしていたんですね。そのときに「民主主義はどうあるべきか」とか「若者の投票ってどうあるべきか」といった話も含めて、「この組織はどうあるべきか」「どういう事業をやっていくべきか」ってずっと話し合ってきたんですよ。
当時、NPOの組織が100人まで増えたのですが、僕とその8人の対話によって決まっていったことを100人に伝達しないといけない。そういったときに、その8人は幹部ミーティングでは僕が出したアイデアに対して徹底的に叩きにくるんですね。敲(たた)いてくるし、反論するし、ノーを言うんです。でもそこで決まったことは、100人全員に説明するときには徹底的に守ってくれる。
そこで決められたことについて、その場所で代表の僕を攻撃しないし、組織の意思決定に不満を述べない。むしろ僕が見えない末端の子たちの意見も拾い上げて、組織全体に不平不満が生じないようにしてくれる。そういうのを見ていたんですね。
僕にとっては、この8人はどれだけ逆らうんだと思って、すごいケンカもした。苦しい時期もあったんですけど、彼らが守ってくれないと組織は大きくならなかったってすごく感じたんです。
加えて、僕が判断に迷ったときに、「そういえばあのとき、こう言っていましたよ」って、脳のバックアップみたいな役割も果たしてくれる。彼らがいなければ僕はこの組織にいられなかったっていうぐらい、彼らに支えられたと実感しています。
そういうナンバー2、ナンバー3のフォロワーたちがイノベーションを起こしてくれるんじゃないかなと考えたときに、たまたまデレク・シヴァーズ氏の「社会運動の起こし方」~発起人に次ぐ2人目の重要性~(https://www.ted.com/talks/derek_sivers_how_to_start_a_movement?language=ja)というTEDの動画を見たんです。
海岸線で裸踊りをする男の人が出てきて、「この人はいまからイノベーションを起こします。裸踊りをしている人がどうやってイノベーションが起きるかは、実は世の中で社会がイノベーティブになっていく状態と似ている」という話をしていたんです。
リーダーが裸踊りをする一人目で、バカだと思われることをやり続けるんです。この人は自分が裸踊りが楽しいと思って、裸踊りする人がもっと増えればいいのにと思って信じて踊り続けるわけですね。この段階ではまったくイノベーティブなことが起きる気配はない。ところが2人目、3人目と楽しそうだと思った人たちが入ってきて踊り始める。この2人目、3人目は、裸踊りを始めたリーダーについていって、信じて踊り続けるんですよ。そうすると、だんだん4人目、5人目って増えてきてやがてみんなが踊り始めるんです。
ここで重要なのはリーダーの役割は踊り続けることであって、他の人に何かを言ったりアプローチしたりせずとも、3人目とか4人目がそれをやる。2人~5人目のフォロワーたちは、リーダーを信じて踊り続けることで、彼らがいなければイノベーションは起きないってことを言っているんです。
――阿波踊りの「踊る阿呆に見る阿呆。同じ阿呆なら踊らにゃ損々」の発想と同じですね。
そうです。僕自身のNPOもいまの事務所もそうですが、それがすごく僕にマッチした。2人目、3人目、4人目、5人目のフォロワーたちが信じてやってくれなかったら、絶対にイノベーティブなことはできないってことを痛感したんですよね。
リーダーにノーを言えるフォロワーは、すごく大事なのと同時に、一度決まった組織の意思決定に対して、徹底的に組織全体に浸透させる力を持っている。それが僕が重視するフォロワーシップの力です。

日本は世界でも稀な多様性国家

――VUCA(不安定・不確実・複雑・曖昧)と呼ばれる予測困難な時代にあって、今後ビジネスで最も重視していきたいことは何ですか。
もっと多様性(ダイバーシティ)を重視してほしいと感じます。マッキンゼー・ア⁠ン⁠ド・カ⁠ン⁠パ⁠ニ⁠ーがリポートを出しているのですが、多様性のある企業のほうが成績がいいんですよ。
――具体的に何を見て「多様性があって成績がいい」となるのですか。
マッキンゼーが言っていたのは、人種と性別と年齢の多様性です。多様な組織と、多様じゃない組織の企業の成績を比べて、その業績の中央値の平均を取ったときに、多様性の高いほうが明らかに成績が高かったという話なんです。
そもそも多様性を言い始めたのはアメリカの西海岸で、東海岸じゃないんですよね。西海岸のほうがイノベーティブなことが起きる。西海岸はもともとヒッピー文化のアーティスティックな土地で、変な人が多かったんですよね。ヒッピーはいるわ、アーティストはいるわ、学生はいるわ、LGBTはいるわみたいな中で、反骨精神に育まれていったのがシリコンバレー。彼らがコンピューター文化という世界の中で、アイデアを出し合って「こうせざるを得ないよね」っていうアウフヘーベン*4的な昇華概念としてつくっていったものが、いまのシリコンバレーだと思います。
でも、実はそれって日本も歴史を見ると通ってきた道なんですよ。シルクロードを通じて西からどんどん東に来て、日本が常に文化の最終終着点だったわけなんですね。宗教もそうですけど、どこかの国で迫害されてきたりして渡ってきたものが日本から先は逃げるものがなくて、帰るとまた迫害されるしかない文化的な地形の中で日本に根づくしかなかった。だからこそ、キリスト教徒はいるわ、仏教はあるわ、儒教はあるわ、神道はあるわみたいな、そういう世界をつくってきたわけなんですよね。
つまり、もともと日本は多様であらざるを得ない地形にあった。日本って、そういう土壌があると思うんですよね。よく「日本は多様性に欠ける」と言われるんですけど、世界中の宗教家からすると日本ほど多様な宗教の国はない。日本はその辺の折り合いとか抽象度合いを高めて、一緒にやっていくことがすごく得意な国だと思うんですよ。だからこそ、もうちょっと異質を受け入れていいのになって思うんですよね。

アウフヘーベン*4
ドイツの哲学者ヘーゲルが使用した哲学の概念を表す言葉で「弁証法」という思考プロセスの最終段階を示す。対立や矛盾を包括しながら、高い段階の状態にとどまることを「アウフヘーベン」と言う。

女性の社会進出が進めば日本はまだ発展する

――「多様だからうまくいった!」と証明する事例が出てくると一気に進みそうですね。
それが一番重要だと思います。だから政府が、「女性管理職をもっと増やしてください」って言うのは結構正しいことだと思っています。そういう事例が生まれないと、社会の雰囲気が変わらない。
逆説的ですが、日本は少子高齢化の中で労働人口が減っていくと言われつつ、希望があると思うのは、他国に比べて女性の社会進出がまったく進んでないことなんですよね。それは非常にネガティブなことですが、逆に希望があると思っています。欧米諸国に比べて、まだまだ女性が働けるし、活躍できる伸びしろがあるんですよね。
――ポテンシャルとしては、女性の社会進出が進んでいる北欧以上の可能性を秘めているかもしれませんね。
そうです。なので、女性が働きやすい世界をつくると、きっと日本はまだまだいろいろなことができるし、もっと希望にあふれるはずなんですよ。「女性活躍の時代」って言った瞬間、「うわっー!」となっちゃうおじさんもいるかもしれないですけど、「女性が活躍すると自分たちの給料も上がる」「世界がよくなる」ってわかれば、「もっと女性のための世界をつくってあげないといけないな」ってなると思います。
――そういう意味ではクオーター制度(法的に議員や役員などの女性比率を定める)もありですか。
全然ありだと思います。日本は世界的に見て驚くほど女性の社会進出が低いにもかかわらず、奇跡的に世界3位のGDPを維持している。むしろいままでどうやってきたんだって思うぐらいです。なので、女性がもっと働ける世界ができたらっていうのが、この数年ずっと思っていることです。
徐東輝(そぅとんふぃ)
弁護士(法律事務所ZeLo・外国法共同事業)、NPO法人「Mielka」代表、「JAPAN CHOICE」運営、「NewsPicks」プロピッカー。京都大学法学部卒。京都大学法科大学院修了(京都大学総長賞受賞)。2016年司法試験合格。2017年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。データ戦略、アルゴリズム規制対応、プライバシー規制対応を始めとする戦略法務を得意とする。ベンチャーファイナンス案件及びファンド組成案件を多数取り扱う。スタートアップの業務支援の対価として金銭以外の株式または新株予約権等を取得するスキームを複数構築。IT系上場企業に出向し、ECサービス、システム開発、ゲーム事業等の法務及び紛争を担当。子会社10社以上の内部監査も担当し、リスク事象の未然防止実績多数。個人データを多数取り扱う事業者に対する規制対応を行い、Apple Storeランク1位のビジネススキームを事業サイドと確立。

文・鈴木涼太

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