会議をスムーズに進めるための「5つのS」とは?【スマート会議術第107回】

会議をスムーズに進めるための「5つのS」とは?【スマート会議術第107回】HR Design Lab. 代表/博報堂コンサルティング 執行役員 楠本和矢氏
(https://hrdlab.jp/)

働き方改革や生産性向上が企業における喫緊の課題となり、いままで以上に高度な人材育成ソリューションが求められている。そんな状況の中、企業は会議におけるファシリテーションの重要性に注目している。

働き方改革とファシリテーション。そこにはどんな相関関係があるのか。

「生産性を高めるためのコミュニケーションスキルとして、我々が特に重要視しているのがファシリテーションです。アイデアを引き出し、整理し、合意形成を図ることは、すべての業務における中心的アクションです」

そう語る楠本和矢氏に、会議をスムーズに進めるための「5つのS」を中心に、会議におけるファシリテーションの重要性とその役割について語ってもらった。

目次

ファシリテーションが必要とされる3つの時代背景

――昨今ファシリテーションが必要とされてきているのは、どのような時代背景があるからと考えますか。
大きく3つあると考えます。ひとつ目は、「働き方改革」、「生産性の向上」の共通課題化です。労働時間の縮減の波に抗うことはもはや不可能。そうなった際、いままでと同じアウトプットを維持するためには、同じことをより短い時間で成し遂げるか、同じ時間でより良いものを出すか、いずれかしかありません。さもなければ、生産性は単に目減りするのみです。その両方を、すべての業務で実現するために、何が必要かと言えば、「コミュニケーションスキル」の底上げ以外にないと私は考えます。
企業活動において、さまざまなものが生み出され意思決定される場面とは、考えてみると会議や打合せがほとんどです。そのスキルを高めないことには、短くもならないし、より良いものも生まれない。そのスキルの真ん中にあるものがファシリテーションです。これなくして、本当の意味での生産性向上、働き方改革というのはなし得ません。
そして2つ目は、停滞を突破するための「イノベーション」への渇望です。すべての業界で成熟化が進む中、従前の事業だけでは頭打ち。そうなると、多くの企業が「新事業」をブレイクスルーのきっかけにしようとするのは必然です。しかし、そういうことに手慣れた企業はほとんどない。普通は「イノベーティブなアイデアを出せ」と問いを立てても、すぐに出てくるものではありません。だからといって、個人のアイデア創発力やセンスにのみ期待していても、マネジメントとは言えません。
メンバーからアイデアを引き出すために、最も必要となるスキルは「問い」を立てる力にほかなりません。「いい問い」があるから、いいアイデアが出てくる。そこからアイデアを練り上げていくためにも、やはりそのための「問い」が必要となる。これはまさにファシリテーションスキルそのものです。
そして3つ目は、人材不足に伴う「辞めさせないマネジメント」への要求です。採用市場は、いまや完全に「売り手市場」です。簡単に採用したり、リプレイスできなかったりすると、現有戦力を維持し、育てて戦っていくしか道はないわけです。そして、売り手市場であるがゆえ、下からマネージャーを見る目もどんどん厳しくなる。優秀な人材であるほど、「このマネジャーの下にいて、自分は伸びるのか?」という意識を持ちます。もしNOと判断されたら、すぐに会社を去ってしまいます。人を預かるマネージャーは、いままで以上に、「育成」の観点をもってマネジメントしなければいけません。
日常のやり取りの中で人を育てるためには、主体的に業務にコミットさせ、考える機会を与えるということが最も重要です。とにかく、一方的に押しつけないこと。思考のチャンスを奪わないこと。そんな「引き出し型のマネジメント」が必要な昨今、その真ん中にあるスキルがファシリテーションであることは言うまでもないでしょう。

意見を言った人と、その意見は切り離して議論する

――ではここから、ファシリテーションを行う上での重要なポイントについて伺っていきます。リーダーがやるファシリテーションと、そうでない人のファシリテーションでそのやり方は変わるのかどうか。ここからお尋ねします。
基本的に、誰がやろうがファシリテーションの技法自体は変わりません。ただしファシリテーションの立場に合わせて、留意すべき点はいくつかあります。
まず上長がその会議の座長となり、ファシリテーションを行う場合です。このパターンが一番多いのではないでしょうか。もし、その会議のテーマに関して、リーダー自身に持論がすでにあると、ファシリテーターという役割は理解しつつも、どうしても先に自分の意見を言いたくなったり、持論へと誘導したい気に駆られたりしまいがちです。
ですが、そこはぐっとこらえ、まずはメンバーに対して問いを立て、意見を引き出すことに集中してください。リーダーが最初に持論を展開してしまうと、押しつけに聞こえて発想が拡がりません。発言する際は、途中や最後に混ぜたり、「これはあくまで例だよ」と添えて発言するなど、メンバーが萎縮したり白けたりしないようにする工夫が必要です。
そして、ファシリテーターが上役ではない場合の留意点です。多くの方から、このケースにおけるファシリテーションの難しさを伺います。たとえば、自分より立場が上の人がメンバーにいると、その上役の意見に引きずられ、発言が滞ったり、正しい選択ができなくなったりしますよね。円滑なファシリテーションを阻むよくある状況です。私が主催する研修や講演等で、さまざまな対策をお伝えしていますが、有効な方法をひとつ例示します。
それは、ホワイトボードを使って、「意見と発言者を切り離す」という方法です。なぜ、上役や声の大きい人の意見に影響を受けるのかというと、その人に、その意見を「発言」させ続けているからです。常に上役の口の周りでその意見がうごめくから、ファシリテーターやメンバーが、その人の立場やキャラクターに影響を受けてしまうのです。
本来、その意見を「誰が言ったか」については、その意見の善し悪しには関係ないはず。ですので、まずは「意見と発言者を切り離す」ために、いったんホワイトボードにリストする。とにかくこれをやってください。いろいろな方から発せられた意見やアイデアがホワイトボードにリストされると、誰がそれを言ったかなんて忘れていきます。とにかく、口頭でのやり取りが続く「空中戦」を避けることです。

会議に「丸腰」で臨む人が多すぎる現状

――著書『会議の生産性を高める 実践 パワーファシリテーション』に議論の設計モジュール「5つのS(Share(共有)、Set(定義)、Spread(拡散)、Solve(解明)、Select(選択)」を意識しておくと、会議がスムーズに進むという考え方がありました。この思想設計についてお教えください。
いままで、多くの会議を見てきた中で感じてきた問題意識があります。それは、会議に丸腰で臨む、何の想定も準備もしていないまま突っ込む人が本当に多く、それによって非常に時間をロスしているケースが非常に多いということです。アジェンダを作っていたとしても、何の中身もない、ただテーマを並べただけのものだったり。「議論の構成」をイメージできていない会議に、生産性もへったくれもありません。
そのような問題意識を背景に、まず「議論の構成」を考えるためのツールが必要だと考えました。アジェンダを作る際のヒントとなったり、議論が脇道に逸れたりしないように、いまどんなタイプの議論をしているのかを認識できるようなサポートになるようなもの。そんなツールを作るために、まずはいままで自分たちが行ってきた議論を類型化してみました。そうすると大体5つのパターンに分類されることがわかり、現場で思い出してもらうべく、「5つのS」という切り口にまとめました。
「議論というのは発散と収束の繰り返しである」という考え方がありますね。それは原理として正しい。しかし、発散、収束という2つの言葉を繰り返すだけでアジェンダができるかというと、現実的になかなか難しい。ですので、発散、収束という考え方を、もう少しブレイクダウンしたものが「5つのS」であると捉えていただいてもOKです。
議論が始まる前に、「5つのS」を上手く使い、会議の進め方を考えてもらいたい。私が主催するファシリテーション研修では、「5つのS」を使ってアジェンダを作成するワークがあります。何度か実際に考えて使ってみるだけで、簡単にコツは掴めます。
『会議の生産性を高める 実践 パワーファシリテーション』『会議の生産性を高める 実践 パワーファシリテーション』

Share(共有)ーー意見を出す前に、まずは情報をインプットする

まず、Share(共有)です。ファシリテーションというと、「意見を出させる」ということに着目されがちですが、しっかりと意見やアイデアを出してもらうためには、「情報のインプット」が必要となる場合があります。

メンバー全員が、議論に必要となる情報を等しく有しているかといえば、そうでないことのほうが多い。その会議が催された背景や目的を共有しないと、メンバーとしては「なんでそんなことをやるの?」と、開始前から白けてしまう恐れがある。何かアイデアを考える際、更地から考えるだけではなく、まず他業界や他社事例などを共有し、そこからアイデアを発散したほうがいい場合もある。メンバーから意見を出させる前に、まずはしかるべき情報をインプットしようということ。これが最初のS、Share(共有)です。

本格的な議論が始まる前に、インプットしておくべき情報はあるかな?という意識を持ち、その要否を判断するだけで、議論のクオリティは大きく高まります。そういう習慣を持っていただくためにも、ShareのSをモジュールのひとつとして入れました。

Set(定義)ーー曖昧な定義が、議論を混乱させる

2つ目は、Set (定義)です。議論を進めていくと、曖昧な言葉がとにかく頻発します。中でも特に、「会議のお題」自体に解釈の幅が広い、曖昧な言葉が入っていると要注意です。そのまま進めてしまうと、メンバー全員が各々の言葉の解釈のもと、議論を進めてしまうことになります。もし、お題の中に「解釈の幅が広くなりそう」と気になる言葉があれば、その定義をしてから進めるということが必要です。

たとえば、「社内の一体感を高めるための施策を考える」というお題があったとします。このお題の中で気になる言葉は、「一体感」でしょう。それはチームワークのことなのか、会社への帰属意識なのか、部門間の協業意識なのか…その定義によって、出すべき施策アイデアはまったく異なってきます。曖昧な言葉の定義を怠ることで、必要ないアイデアを考える無駄な時間が生じてしまうのです。

――そういう曖昧なお題に突っ込みを入れる人は意外と少ないですよね。
少ないでしょう。普通は何となくわかった気になって流しちゃいます。会議の生産性を損ねないためにも、Set(定義)が議論を進めていく重要なモジュールであるということを意識し、最初に必ずお題を見て、どの言葉を定義すべきなのか、チェックする習慣をつけてほしいと思います。

Spread(発散)ーーアイデアを広げるためには「切り口」が必要

3つ目はSpread、つまり、とにかくたくさんの意見やアイデアを「発散」する議論です。アイデアを自由に出させるだけなら、簡単そうに見えるかもしれませんが、コントロールしながら進めることはなかなか難しいものです。

この議論を進める上で、私の研修でも時間を割き説明している、非常に重要なポイントがあります。それは、メンバーの発想を促すための「切り口」を出すということです。

たとえば、この「ペットボトルのお茶を売るためのアイデアを出す」という議論があるとしましょう。「何でもいいからアイデアを出せ」というのは、切り口がない議論です。この議論における切り口、たとえば、「商品」という切り口はいかがでしょうか。パッケージ、内容量、価格などに関するアイデアを、その切り口の下で検討することになります。そして、ひとつ目の切り口が「商品」なら、他の切り口は「広告」「営業」「売り場」などになるでしょう。

このような切り口をファシリテーターが出さないと、アイデアが偏ったり、抜け漏れが出たりする可能性があります。各論から始まった議論であったとしても、議論の途中で、出てきた各論を切り口ごとに整理することも必要でしょう。これができるようになるかどうかが、リアルなファシリテーターになれるかどうかの「登竜門」のひとつです。

Solve(解明)ーー要因仮説を並べて主たる要因を特定する

4つ目はSolve、何かの事象が生じている要因を解き明かす、「解明」の議論です。アイデアをとにかくたくさん出す「発散」の議論に似ていますが、この議論は考えられる「要因仮説」をできるだけ出し、そこで終わらず最終的に「主たる要因」を特定することまで行うことが大きな違いです。

たとえば、「なぜこの商品が売れていないのか、要因を考える」というようなお題が、「解明」の議論です。まずは、考えられる「売れていない理由」、つまり要因仮説をできるだけ抜け漏れなく、切り口ごとに抽出します。そして、出てきた要因仮説の中から、何が売れていない「主要因」なのか、ということを特定して終わりです。発散の議論と比べて、必要となる行程がひとつ多いことに注意して下さい。

Select(選択)ーー客観的な基準をもって、複数の選択肢の中から選ぶ

――ここまでの議論で出てきたさまざまな要素を整理し、選択肢が見えたところで、最後に何を選ぶかという意志決定の議論が、Selectになるわけですね。
そうです。合意形成のときに出てくるモジュールがSelect(選択)です。複数の選択肢の中から選ぶ上で、どんな「基準」を用いるか明確になっていることが一番重要です。
明確な基準がないまま、何となく結論が出されてしまい、何となくもやもやした気分が残る終わり方ってよくありますよね。その結論に対する関与意識が薄れてしまう恐れがあります。もしその結論に反対だったとしても、ある明確な基準のもとジャッジされたものであれば、何もないよりかはよほど納得感が生まれるはずです。
――そもそも、議論の目的が曖昧だと、基準も定まらないですよね。
おっしゃる通りです。目的が曖昧であったり、捉え方がズレていたりすると、しかるべき基準もブレてしまいます。すべては「目的」からつながっています。逆に、目的がしっかり定められていて言葉の定義もできていると、基準選びでそこまで迷うことはないでしょう。目的を確認する。ゴールを決める。そして曖昧な言葉を定義する。議論を始める段階における必要条件です。
ファシリテーションというのは、深みがあるスキルであり、もちろんこれら以外にも、問いを立てる、ズレを正す、整理するなどのさまざまな技法が必要ですが、最初からすべてができるわけではありません。まずは「目的、ゴール、定義」の確認。これらをきちんと行う習慣をつくりましょう。それだけでも、かなりロスを防ぐことはできると思います。

文・田島慶太

楠本 和矢(くすもと かずや)HR Design Lab. /博報堂コンサルティング
HR Design Lab.代表 兼 株式会社博報堂コンサルティング執行役員。プロフェッショナルファシリテーター、ファシリテーター内製化コンサルタント、作家。神戸大学経営学部卒。ファシリテーションを中心とした数多くの企業内研修や、クライアント企業内プロジェクトのファシリテーション業務も数多く担当するなど、名実ともに、日本トップクラスのファシリテーターという評価を得ている。現在は、生産性向上、ファシリテーションをテーマとした各種講演や、多くのクライアント企業における人材育成のサポートと、実践知に基づく人材育成プログラム開発に注力。主な著書に『会議の生産性を高める 実践パワーファシリテーション』『人と組織を効果的に動かすKPIマネジメント』『龍馬プロジェクト―日本を元気にする18人の志士たち』『サービス・ブランディング』など。

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