コロナ禍を新事業で成功に導いた「1枚の未来地図」【スマート会議術第120回】

コロナ禍を新事業で成功に導いた「1枚の未来地図」【スマート会議術第120回】CRMダイレクト株式会社 代表取締役社長 横田 伊佐男 氏

緊急事態宣言が発令された4月、『迷えるリーダーがいますぐ持つべき 1枚の未来地図』を上梓したマーケティングコンサルタントの横田伊佐男氏。「1枚の未来地図」をもとに、一人の主人公のサクセスストーリーがドラマ仕立てで展開される本書は、単なるビジネス書の枠を超えたエンターテインメント本でもある。

また、コロナ禍で苦境にある企業が多い中、横田氏が提唱する「1枚の未来地図」にはそんなwithコロナ時代を生き抜くヒントが隠されている。いま日本は、迷走する国のリーダーシップに困惑し、混乱が続く。そんな先が見えない不安な時代だからこそ、リーダーシップとは何か、リーダーとはどうあるべきかが切に問われている。

コロナ禍の中、「1枚の未来地図」を道標に闘い1カ月で見事に蘇った企業を例に、リーダーのあり方、そして組織のコミュニケーションのあり方について、キャンピングトレーラーでテレワーク中の横田氏にお話を伺った。

目次

読者からのフィードバックで教えられたこと

――今春、『迷えるリーダーがいますぐ持つべき 1枚の未来地図』という本を出版されました。なぜこのテーマで本を出そうと思ったのですか。
企業のマネージメント層の方々にマーケティングをお教えしている中で、いつも受講者の方からフィードバックをいただいているのですが、経営者の方も中間管理職の方も、なかなか新しい方向に舵を切れないという悩みを抱えていて、リーダーたる人はいつも迷っているんだなという印象が強くあったんです。
そこで、何か決断できる力や勇気を出すお手伝いができればと思い、ここ数年、研修でも決断できるための道筋をプログラムにして提供していたんです。そうすると「すっきりと決断できた」という声も多かったので、より多くの人に届けていきたいと思ったのが執筆のきっかけです。
――マーケティングの講義を受けられた人の多くが、実はリーダーとしてどう振る舞えばいいのかという根本的な悩みを抱えていたのですね。
そうです。たとえば下記の図表では、上段をリーダー、下段をスタッフに分けているのですが、スタッフは上のリーダーに対して、上の人が決めてくれない、リーダーから見れば下のスタッフたちがなかなか自立をしないという悩みがあります。この上段と下段は戦略と戦術にわけられていますが、どちらに対してもお互い不満がある。
不満があるというのは、つまりリーダーとスタッフが1枚の絵を一緒に見ていないんです。この本では、全員が同じ1枚の絵を見ることが最も必要なことだということを伝えたかったんです。

リーダーの鳥の目とスタッフの虫の目

――今年はコロナ禍にあってテレワークが推奨されていますが、うまく対応している会社もあれば、うまく活用できていない会社もあって、かなり戸惑いがあるようです。ペーパーロジック社の調査によると、テレワークの定着を求める人は96.4%もいるにもかかわらず、45.9%の人が「コミュニケーションが難しい」と答えています。
そうですね。テレワークは基本的に物理的に離れているので、見えなくなってくる環境が多くなってきます。見える化させるスキルがとても求められる。たとえばリモート会議とリアルの会議では同じホワイトボードを見るにしても、たとえリモート会議でホワイトボードの機能があっても、まだまだ慣れずに苦労しているところがあります。みんなに見える化させる工夫はテレワークでもさらに強まってきていると思います。
――テレワークの普及で「働かないおじさん」があぶり出されて、「中間管理職要らなくね?」という問題も出てきているようですが、リーダーとして今後どう動けばいいのか、著書にあるような事例があればお教えください。
本を読んでくださった読者の方から毎日のように報告とか感想をいただくのですが、その中に「ビジネス書を読んで泣いたのは初めて」という方がいらっしゃいました。群馬で5店舗くらいの居酒屋を出している飲食店の経営者の方でしたが、アルバイトを含めて100人くらい雇っていたそうです。ちょうど本が出たのが緊急事態宣言が出された4月初頭で、外出自粛が徹底されていた頃です。そんな状況で4月以降の売り上げが10割減になってしまった。売上ゼロです。「ピンチはチャンス」という言葉もあるし、「明けない夜はない」と思いながらも、毎晩、星空を眺めて涙を流す日々だったらしいんですね。でも僕の本に出会い、「これではいけない!と勇気をもらった」と言ってくれたんです。
そして、僕が本で書いた10X(テンエックス)を実際にやってみようと思ったそうです。10倍にするビジョンを描き始めたのが、このままでは飲食はどうなるかということを上段のStep2 [市場把握]で確かめて、まず店に来てもらうという業態を変えなければいけないと判断。そもそも店に来てもらうという「待ち」じゃなくて、「攻め」に出ようと、居酒屋はやめるという決断(上段Step3[戦略決定])をして、その代わり、お弁当事業に踏み出すことに舵を切っていったんですね。
ここまでは自分で決めていったけど、下段(スタッフ)に移すときに、ともすれば自分でやりがちだったことを、Step4[戦術検討]の細かいことを考える段階から会議室にスタッフを呼んで、「居酒屋をやめてお弁当事業を始める決断をしなければならない。だから、Step4[戦術検討]からみんなで考えてほしい」という形にしていきました。
初めはスタッフも「慣れ親しんだところでやるべきだ」と言っていたのですが、すぐに「大将はここを決めてくれたんだから」とStep4[戦術検討]以降を走り出していって、弁当事業を具体的にどうしていくかというところで“ドライブスルーマルシェ”という新事業を考えてくれました。駐車場を借りて、ゴールデンウィークに1日300食という目標を立てて、案内していったところ、あれよあれよの行列で、結局目標の2.5倍売れて、テレビ局などいろいろなメディアが取材に来るようになった。まさに本で例として書いたストーリーを実際に体現して大成功したんですよね。わずか1カ月で新事業に転換して成果を残したのは、僕自身、正直驚きました(笑)。
新事業で目標2.5倍を達成をしたお弁当。
――Step2[市場把握]からどのようにStep3[戦略決定]に至ったのですか。
Step2[市場把握]は、①導入期→②成長期→③成熟期→④衰退期の各段階で、「いまの市場は儲かるか?」という判断をするものですが、基本的に「待ち」である居酒屋は今回のコロナ禍の状況では、④衰退期になっていくであろうと判断したことがポイントだったと思います。コロナ禍で「外に出るな」と言われ、今後もこの状況がずっと続いていくとなると、居酒屋に人が集まって楽しむというビジネスは、すでに④衰退期であると早めに結論をつけたということですね。
重要なのは、Step1[目標設定]で売上げが10割減になったときに元に戻そうと考えると、どうしても既存の居酒屋に執着してしまう。でも、いまの売上げが下がっているのを逆に10倍にすると考えると、Step2[市場把握]の④衰退期(Black Ocean)にいては達成できないと判断した。居酒屋としてなんとか改善しようというのではなく、また新たにStep2[市場把握]の①導入期→②成長期→③成熟期に行ける業態は何かということを考えることで、Step3[戦略決定]のA(市場浸透)B(新製品開発)C(新市場開拓)D(多角化)のどの戦略を選ぶかが決めやすくなっているということですね。
――まずはStep1~Step3をリーダー、社長が考えるということですね。
そうです。スタッフでは大きな方向性は考えられないので、リーダーが「こちらに舵を切るぞ」と決断する。店舗なので飲食店が“城”を捨てられるかというのが大きな判断になりますが、やはり“城”は捨てたくない。だから、その“城”の中身を変えていく。並行して、こちらから「攻めて」いくことで、持っている“城”は居酒屋から焼肉に変更。焼肉は換気が優れている、密になっても大丈夫ということで、店舗はホルモン屋に鞍替えし、攻める新事業として“冷めても美味しく食べられる焼肉弁当”を始めた。
――つまり、Step3[戦略決定]のD(多角化)を取っていったということですね。
はい。新たな店舗もうまく工夫をしながら、こちらが出向いていけるように舵を切っていこうとリーダーが決断したわけです。スタッフはどうしても兵隊の目線、虫の目線になりがちで、なかなか鳥の目線を持てない。それがデメリット。しかし逆に言えば、現場はすごく見ている。自分たちが動きやすい、働きやすい戦術を考えられるというのがメリットです。
――リーダーが現場の声を尊重するあまり、虫の目線に囚われて引っ張られてもダメなんですね。鳥の目線をしっかり持っていかないと。
はい。持っていないといけない。どうやって鳥の目線を持つかというと、Step1[目標設定]で、いまの数字の10倍を具体的に描いていくということがあります。遠くから広く見ないといけないので、そういう意味ではStep1[目標設定]の10Xが一番重要だと私は思っています。
今回、絵を描けた社長さんも「現状維持にとどまらず、10倍に描いたから景色が見えてきた」と言っていました。兵隊(スタッフ)たちは日々の生活でいっぱいいっぱいなので、10倍で描くことはなかなかできない。ジャンプできないというのがある。だから、リーダーが果敢に決めていくことが一番重要なんです。

会議中のみんなにだんだん笑顔が戻ってきている

――リーダーが戦略を決めてStep3[戦略決定]からStep4[戦術検討]に下ろしていくとき、今回のケースでは具体的にはどういうプロセスを踏んだのですか。
社長さんは創業者だし、Step4[戦術検討]の細かい戦術も考えられる人ですが、本に書いた通りに忠実にStep3[戦略決定]とStep4[戦術検討]を切り分けることにした。Step3[戦略決定]は会議室を使って社員が同じ目線で見られるようにし、Step4[戦術検討]では「君たちが考えて、Step1[目標設定]を達成できることを考えてやってくれ」と伝えたそうです。
Step1~Step6のチャート図は右側にいくほど概念的になって程度曖昧な方向性になります。右に進むとだんだん言語化されるけど、数値化されていないので抽象的・概念的ではあります。逆に目標数値を決めるところは数字がくっきり出るので具体的になっていく。決めた大きな方角をより細かくするということではあるけれども、引き続き概念的・抽象的なところを抜けてはいないので、現実のビジネスに落とし込んでいくところで一歩進んで、「1日何個生産しなければいけないのか」と、Step4[戦術検討]の5項目[Customer(顧客)/Product(商品)/Price(価格)/Place(場所)/Promotion(販促)]を数字にしていく作業がStep5[目標具体化]になります。
すると、1日100食つくって販売していくのが目標になり、100食つくるとしたら何人ぐらいの手を借りて、いまある調理場でどういうラインを組み立てればつくれるのかがイメージできる。数字が出てくると、それはちょっと難しいかもしれないということで試行錯誤を繰り返す。数字を達成するための体制構築ということでまた戻っていく、というようなことがあったようですね。
――池井戸潤の小説みたいなサクセスストーリーですね。
そうですね。本当に『下町ロケット』のようです(笑)。その社長さんは「以前の自分は、Step4[戦術検討]に入り込んでいたので、スタッフの考える力を奪っていた」と反省したそうです。でも、いまは大きな方向性を決めたら、スタッフたちに果敢に任せて、Step4[戦術検討]以降は、自分がいなくても勝手に盛り上がるような形になっていると喜んでいました。
数字が決まったら、いよいよStep6[価値伝達]はお客さんに伝えていくところ。SNSを中心にゴールデンウィーク向けのキャッチコピーをつけて、クルマの大行列ができ、目標の2.5倍のお客さんを集め、メディアが駆けつけてきたというのがありますよね。
――新事業に転換して1カ月で苦境を脱したのはすごいですね。
そう、たった1カ月ですからね。全国の飲食業者のすべての方がこのスピード感でできるかどうかはわかりませんが、彼が「ビジネス本を読んで初めて泣いた」ということは、それくらい切羽詰まった危機感があったということだとは思います。星空を眺めながら途方に暮れていたとき、たまたま本を読んだことで、即座に動こうと決めて、未来を社員と描き、スタッフが実行してくれて、たまたまゴールデンウィークという目標設定があった。「ゴールデンウィークまでに新しいものをつくってお届けするんだ!」というデッドラインの意識があったのも大きかったんだと思います。

苦境から1カ月で売上げを2.5倍にした「前橋 ドライブスルー・マルシェ」。
――現場のスタッフはムチャぶりだと思ったでしょうね。
思ったでしょうね。社長さんが送ってくれた会議中の写真を見ると、僕が本で描いた会議の風景とそっくりなんです(笑)。始めた頃はスタッフの方々が戸惑っているような冴えない顔をされているんです。「そんなに方向が変わって俺たちにできるのかなぁ…」といった雰囲気です。でも社長さんは「俺の言う通りにやれ」というティーチングから、「商品開発はお前にかかっているんだ!」とスタッフのやる気を引き出すコーチングに変えていった。Step4[戦術検討]でリーダーが入り過ぎなかったということで彼らの自立とやる気を引き出していったという感じですね。
会議中の様子を見ていると、日が経つにつれてだんだんみんなに笑顔が戻ってきているのがわかるんです。大変な状況なのにみんなすごく生き生きとして、楽しそうな顔に変わっていったんですよね。
まだスタッフが戸惑っている会議(左)とスタッフが納得し、笑顔の会議(右)。
横田 伊佐男(よこた いさお)
横浜国立大学大学院博士課程前期経営学(MBA)修了。シティグループ、ベネッセグループにて、マーケティング部門・コンサルティング部門の責任者を歴任。大手企業でのコンサルティング経験を体系化し、2008年にCRMダイレクト株式会社(https://crm-direct.com/)を設立。横浜国立大学客員講師。横浜国立大学成長戦略研究センター研究員。主な著書に『迷えるリーダーがいますぐ持つべき 1枚の未来地図』(日経BP社)、『ムダゼロ会議術』(日経BP社)、『最強のコピーライティングバイブル』(ダイヤモンド社) 、『一流の人はなぜ、A3ノートを使うのか?』(学研パブリッシング)など多数。

文・鈴木涼太

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