会議は人じゃないとできない価値として残る【スマート会議術第122回】

会議は人じゃないとできない価値として残る【スマート会議術第122回】マキナ株式会社 代表取締役 植川悠氏

先進国の中でも著しく生産性が低いと言われる日本の企業。そして、「資料や議事録が見つからない」「目的や議題が不明瞭」「時間通りに終わらない」「結果が共有されない」「決まったことが行われない」などと、会議が生産性の低さの元凶としてやり玉に挙がる。

パーソル総合研究所のデータによると、ムダな会議による企業の損失は年間15億円。社内会議・打ち合わせの時間は一般社員で週に3時間、係長級で6時間、部長級になると8.6時間になるという。

植川悠氏は、大手シンクタンクで民間企業や官公庁のコンサルティングに携わった後、ベンチャーやスタートアップを支援する企業へ転職。その間、彼の頭の片隅にはいつも「ムダな会議」が課題としてあったという。そして、2017年に独立すると、会議のムダを減らすクラウドミーティングサービスのSavetimeを開発。年間300時間と言われる会議をスピード化・効率化し、働き方改革の実現を目指す。

Savetimeが果たす役割を通してリモートワーク時代の会議はどう変わっていくのか、植川氏にお話を伺った。

目次

日本は企業規模を問わず会議が多い

――会社を設立するまではどんな仕事に携わっていたのですか。
2006年に大学院を出た後、シンクタンクに就職して、官公庁の調査や民間企業のコンサルティングに携わっていました。その後、もっと世の中の変化に近いところで仕事がしたいとか考え、ベンチャーやスタートアップに人材を紹介する会社に転職しました。職場の社員数は二桁くらい小さくなったのですが、意外と会議は多く、企業規模にかかわらないのだと思いましたね
――その後、どんなきっかけで起業されたのですか。
スタートアップの採用を支援していく中で、振り返ってみると自分自身は会社を創業したことがなかった。だんだんと自分もやってみたいなと思うようになってきた。30代後半といい歳になってきたので、やるんだったらもうそろそろかなと思い、会社を興しました。
――Savetime(会議のムダを減らすクラウドサービス)を開発しようと思ったのは、やはり会社員時代に会議に対する課題を抱いていたということですか。
そうですね。キャリアを重ねて、何かを決めないといけない仕事になればなるほど、会議が増えていきます。ほかのマネージャーのカレンダーを見ても、やっぱり朝から晩まで会議が入っていたりするし、メンバーもそういった会議に拘束されることで作業時間がなくなっていたりする。自分自身はもちろん、部下や会社のマネージャーの働き方を見ていても、変えられたらいいなって思っていました。
――会議がたくさんあることがムダだと感じていたのですか。
単純な量というよりも、うまくやれていない会議が多かったということですね。日本の会社の特徴だと思いますが、誰が何を決めるかが決まっていないケースがとても多いと思います。みんなで話し合おうとか、調整しましょうとか、決める主体が決まっていない状況がすごく多い。そういった調整をいかに早くできるか、いかに少ない人数と少ない会議で済ませるかは、いつも考えていました。
――民主的で風通しの良いフラットな組織のデメリットとも言えるのでしょうか。
そうですね。現場に裁量権があっても、みんなが勝手に仕事をしたらうまくいくわけがないですよね。結局は裁量があるというのは「お互いにみんなで調整しましょう」ということでもあります。こういった課題は、企業規模を問わず、現場の裁量の大きいスタートアップやベンチャーでも起きることだと思います。
――それはシンクタンクに在職されていたときともあまり変わっていないですか。
大企業は、どちらかといえば組織の大きさゆえに決裁権を持つ人が会議にいないとか、決めるまでのプロセスが長いといった課題を感じることが多かったですね。どんな仕事もリスクはゼロにはできないわけですが、企業規模が大きくなって本来はチャレンジできる(リスクをとれる)企業体力があるはずなのに、実際にはリスクをゼロに近づけるための承認プロセスや責任を不明瞭にするためのコミュニケーションが発達しています。
――もともとはそうする必然性があったから手間をかけるフローになっているわけですよね。
そうですね。80~90年代であれば、決裁には3つの会議と10個の捺印が必要、といったスピード感でも良かったんだと思います。しかし、いまはその頃に比べると世の中が変化する速度が何倍も速くなってきている。大企業は速く変化に応じることによって利益を出す側面と変化に対応せずにリスクを減らす側面の間でバランスを取りにくい時代になっていると思います。

中小・ベンチャー企業と大企業の会議の違い

――起業された2017年は働き方改革が打ち出された時期と重なりますが、起業されるときに市場のニーズやターゲットはある程度想定していたのですか。
まず会議に関しては、成長中の比較的小さな企業と、かなり出来上がった大企業ではかなり性質が違う問題だと感じていました。市場はどちらにもあるとは思いましたが、まず立ち上げられる市場は新しいツールを試してみてくださる機動力のある小さめの会社だと思っています。
数十人くらいの会社から、そろそろ上場準備をするような数百人くらいの中堅企業が最初に想定したターゲットですね。こうした規模の企業様に製品を提供する過程でしっかりと製品の価値を高めてから、より大きな企業様に提供していきたいと思っています。
――市場としては小さいところから入っていって、アップデートしていくなり差別化するなり大企業にシフトしていくような発展の仕方があると思いますが、スタートアップの小さな企業と大企業の一番違うところはどんな点ですか。
明確に違うのは、ワークフローだと思います。中小・ベンチャーであれば、会議の人数も比較的少なく、同時編集やリアルタイムな通知など、スピード感が速いワークフローの製品が最適です。しかし、大企業になると参加人数も非常に多く、会議中の進行にも決まりがあり、開催後には承認プロセスが必要だったりもします。いまは大企業とスタートアップで働き方はそれなりに違うと思いますが、2000年代のネット対応、2010年代のクラウド化のように、大企業も少しずつ変化していくだろうと思っています。

会議の大きな役割は「決める」こと

――働き方改革が推進される中で、お客さんのニーズはどう変わってきていますか。
ひとつは「自動化」という文脈が完全に定着してきたかなと思います。この2、3年でRPA*1やDX*2と言われる自動化のサービスやツールも少しずつ導入しやすいものが増え、大企業が取り組みやすくなってきたと思います。
――自動化というのは、具体的にはどういうイメージですか。
いままで、人間が目視で伝票を見て、エクセルに打ち込んでいた作業を、多少の例外処理が必要であっても自動的にプログラムが判定したり解釈したりして入力してくれるといったことですね。こうした単純だけど大きな雇用を生む仕事は世の中に非常に多いですが、RPAによってロボットに置き換えるという取り組みは非常に多くの企業で進んだと思います。
――いわゆるAI化と解釈してよいのですか。
そうですね、ざっくり言えば「AIがホワイトカラーの仕事においてかなり実用的になってきている」ということだと思います。それはそれで進んでいくというか、自動化できることがいろいろありそうだということがわかったし、自動化に投資すればそれだけコストが下がることもみんなわかってきたのがこの数年の変化だと思います。
これからは逆に「人間でないとできないことは何か?」ということが問われてくると思います。人は引き続き働かないと食べていけないし、働いている人にお金を払わないといけない。人じゃないとできないことは何か?どこに人の時間を使うのか?というのがこれからの課題になっていく。
そういう意味で、会議は人じゃないとできない価値として残ると思っています。会議の大きな役割のひとつに「決める」ことがあります。「決める」という作業は、もちろん数学的に最適化すればいいような問題はAIに任せられることもあると思いますが、基本的に「人間でなければできない」ことであり、会社という集団で仕事をしている以上「複数人で決めなければならない」ことだと思います。人が決めないといけないことを決め続けるのがたぶんホワイトカラーの最後の仕事になるのではないでしょうか。そこを支援するような製品をつくりたいなと思っていますね。
――今後は働き方改革の文脈でSavetime自体も進化・発展していくイメージですか。それともまったく新しいものを開発することになりますか。
ホワイトカラーの最後の重要な仕事である「コミュニケーションをして意思決定をする」ことの費用対効果を高くしてあげるのがゴールとして達成したいところですね。
――Savetimeは、段取りや機能自体がチュートリアル的な感じがしたので、「いまこれをやるのはムダなんだな」と気づかせてくれる印象がありました。Savetimeを使うと、なんとなく集まってなんとなく解散するようなことができなくなりますよね。
そうですね。まったく準備されていない会議をしてしまった場合に「時間がムダになることが実感できる」ようになっていると思います。逆にいえば、費用対効果の高い会議を行うような行動を促すことを目指しています。ムダな会議が多く、なかなか改善しないのは、会議は適当に開催してもなんとなく時間は過ぎるし、人間はある程度発言するとコミュニケーション自体に満足してしまうからなんです。
会議でよく上司が独壇場で延々としゃべるみたいなことってありますよね。参加者はいまいち納得していなかったりしても、たくさんしゃべった上司は満足しているので、また来週も同じような会議が行われる。ましてはそういった会議の時間の費用対効果が可視化されることってないですよね。
なんとなく会議をやって満足しちゃう、仕事した気になってしまう。そういった会議の悪い側面をなくしたいというのはとてもあります。やるべき準備をせず、会議で出すべき成果を出してないと、会議がうまくいってないと認識できるような環境を提供したいというのがSavetimeを提供している理由でもあります。

RPA*1
Robotic Process Automationの略語で、事務作業を担うホワイトワーカーがPCなどを用いて行う一連の作業を自動化できる「ソフトウェアロボット」のこと。

DX*2
デジタルトランスフォーメーションの略。2004年にスウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授によって提唱された概念で、「進化し続けるテクノロジーが人々の生活を豊かにしていく」という考え方。

植川悠(うえかわ ゆう)
マキナ株式会社代表取締役社長。慶應義塾大学環境情報学卒。東京大学大学院情報学修士。2006年~2012年、シンクタンクにて流通・小売業、製造業等に対するコンサルティング、経済産業省、内閣府、農林水産省等の調査研究に従事。2012年にスローガンに入社し、取締役としてGoodfindにおけるセミナー講師、メディアディベロップメントディビジョンのディビジョンマネジャーを務める。2017年にマキナ株式会社を設立。会議のムダを減らすクラウドサービスSavetimeを開発。趣味は、自転車に乗り、ときどきドラムを叩いて、希に海に潜ること。
Savetime
https://youtu.be/YM9YFrjvado

文・鈴木涼太

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