コミュニケーションはエネルギーの総量で計るべき【スマート会議術第144回】

コミュニケーションはエネルギーの総量で計るべき【スマート会議術第144回】東京テレワーク推進センター 湯田 健一郎氏

2017年に東京都と国がテレワーク推進の拠点として設置した東京テレワーク推進センター。同センターは、優秀な人材の確保や生湯田産性向上を実現するためのテレワーク導入を推進することを目的に設立。テレワークに役立つ機器やツールの体験、導入事例を含めた情報収集、テレワークを実現するツールを組み合わせた利用、制度の整備、社員教育、助成金活用などの相談などに対応している。

東京テレワーク推進センターの事業責任者を務める湯田健一郎氏は、東京と九州の2地域居住で家業にも携わりつつ、講演等で全国を飛び回る生粋のテレワーカーだ。

コロナ禍でテレワークを実施した企業も緊急事態宣言が解除されると「テレワークではコミュニケーションが難しい」とテレワークをやめてしまった企業も少なくない。

しかし、湯田氏は「コミュニケーションの総量を質と量と頻度で整理すべき」と提言する。つまり、テレワークは工夫次第で対面以上にコミュニケーションの総量を膨らませることができると言う。

果たして湯田氏が語る「コミュニケーションの総量」とは?

目次

世代間のコミュニケーションギャップを解決するには?

――テレワークではコミュニケーションが難しいという声も多いと思いますが、難しいと思う原因と解決の糸口があればお教えください。
私はテレワークを推進していく立場ではありますが、一番パフォーマンスが高いのはやはり直接会ってお話しすることだと思います。関係構築の一歩目や、交流を含む研修などは対面のほうがインプットが高いと言えます。ただ、すべて会って話さないといけないという意味ではありません。いままで会うことが大前提になっていたものも、濃淡をつけるほうが好ましく、2回目、3回目の打合せや、社内の営業会議などは非対面でも良いのではないかという観点での整理が必要です。
コミュニケーションが円滑な企業さまは、コミュニケーションの総量が多いと言え、質と量と頻度でとらえると理解しやすいです。テレワークになると1回で話す会話量は減りがちです。会議も議題の内容だけ30分で話し、雑談は消えてしまうことも多くなります。量が減った分、補うべきものが頻度です。ビジネスチャットを活用することで何度でも確認がしやすくなり、Web会議形式にすることで1週間に1回の開催であったものも1週間に2~3回できるようになります。テレワークツールを有効に活用すると、会話の頻度を上げやすくなるのです。
ただ、ツールやファシリテーションの工夫をしていないと、テレワークでのコミュニケーションはしづらくなったという声が社員からあがることになります。自社のコミュニケーションのスタイルを把握しつつ、コミュニケーションの頻度を上げるか、事前にアジェンダや資料の共有をすることにより質を上げる工夫をすることで、かなりの部分を改善することが可能です。
加えて、非同期のコミュニケーションの特質を捉えられるかも重要です。いままではリアルタイムに、いわゆる同期して話をすることが当たり前でした。しかし、テレワークではメールやチャットのように、非同期のコミュニケーションも増えます。Z世代(現在16歳~24歳)の方はデジタルネイティブとして、LINEなどを小さいころから使いこなし、非同期のコミュニケーションに日ごろから慣れています。一方、同期のコミュニケーションを基本として過ごして来られた年配の方は、非同期のコミュニケーションの特性を知り、マネージメントスタイルを移行する工夫や研修の実施も重要と言えます。
――「会社休みます」と上司への報告をLINEでするのは失礼かどうかという話が議論になることがありますね。
そうですね。自分の価値観を押しつけることなく、非同期のコミュニケーションスタイルをうまくチューニングするには、自分と相手のコミュニケーションタイプを知り、距離感のつめ方がわかっているかがポイントになると思います。
たとえば教育研修企業のキャプラン社は、50ほどの質問に答えることで、自分がどういう思考やコミュニケーション特性を持っているかがわかるAI診断を取り入れているそうです。「報告はこまめにしてほしい」「できるだけ問題点があったら解決したい」というタイプの上司と、「自由にやりたい」「できるだけ自分の裁量で工夫をしていきたい」という部下がいた場合、お互いのスタイルを主張するのみだと軋轢が生じやすいのは想像に難くありません。上司も部下もお互いコミュニケーションタイプを知っておくことができれば、コミュニケーションの仕方を変える工夫もしやすくなります。
「休みの連絡は電話じゃないと失礼だろ!」という方の中には、電話の声色でわかる雰囲気もあるため、電話を重視するという意見も聞きます。しかし、そのような一瞬の切り取りではなく、時間軸をもち、俯瞰したマネージメントが必要になってきています。たとえば日立システムズ社の「音声こころ分析サービス」は、電話の声色でその人がいまテンションが良い状態なのか、テンションが下がっている状態なのかを音声ではかることもできます。
――噓発見器みたいですね(笑)。
そうですね(笑)。その人がどういう心理状態にあるのか、対面でなくともテンション把握の支援ツールを使うことで、メンタルケアもできる時代とも言えますね。

対面でも非対面でもエネルギー交換の総量は変わらない

――昨年開催されたキャリアカンファレンス「CAREER THEATER」の講演で、コミュニケーションとエネルギー交換のお話をされていて、とても興味深かったです。テレワークにおいてもエネルギー交換は可能なのでしょうか。
そうですね。人が会話をするときは普通にエネルギーが出ていると思うので、それは対面であったとしても非対面(オンライン)であったとしてもあると思います。
祖母が熱心な仏教徒で、私も幼少期によく説法に連れていかれ、そこで聞いたお話がありまして…。和尚さんが「私とこの机は一緒」という話をされていて、何の話かな? と思って聞くと、すべてのものは分解して原子や陽子や中性子のレベルになると、すべて同じものだと言うんですね。そう考えると人が輪廻転生するのも当たり前だし、キリスト教の「隣人を愛せよ」というのも納得するよねっという話です。
それを私たちはエネルギーと呼んでいます。エネルギーというのは、エネルギー保存の法則があるように、出力したら、同量のエネルギーの返りを求めるものです。幼稚園で「挨拶をしましょう」と教えるのも、エネルギー交換の一環とも言えます。同じように、テレワークにおいても、誰かが発信したものに対して反応がないと、次のターンは戻ってこない。
人間は成長しようと思うと同じエネルギー量でとどまっているわけにはいきません。その和尚さんの説法では、自分が100出したときに110、120ぐらい返してくれる人と一緒に仕事すると成長する。そうすると、いつか自分も110、120と投げられるようになる。それを『人の器を大きくする』って言うのです」というお話でした。
テレワークを活用すると、移動せずとも、たくさんの方とつながる機会を持つことも可能です。
自身の成長にしても、企業の成長を図るにしても、コミュニケーションの量や、発信を増やす手法がさまざまあるテレワークを上手に行い、テレワークは“殺伐として寂しい”ものではなく、むしろご縁やエネルギーを広げられるものととらえられると良いと思います。
テレワークでエネルギーの交換をしていくこと考えると、情報の渡し方はいままであった会話だけではなく、「他の人たちはこういうこと言ってたよ」や「会議情報これだよ」という動画やリンクを提供するなど、工夫するといろいろなことができるわけですね。
――テレワークになるとチャネルは増えるので、エネルギーの総量も増やせる可能性があるということですね。
そうですね。確かに対面で会ったときのほうが、議題にない他の話などもしやすくなったりするので、一時のインプットやエネルギーの発散は高いと思います。
たとえば月に3本は自社とは関係のないインプットをすると決めている企業の方もいます。リアルで月3本異業種交流会に行くのはパワーがいりますが、いまはオンラインでのセミナーも多くありますので、月3本以上視聴するとしても障壁は低いですよね。このように接点の取り方は変わっていくと思います。

エネルギー保存の法則*
エネルギーが、ある形態から他の形態へ変換する前後で、エネルギーの総量は常に一定不変であるという法則。高所にある物体は落下によって位置エネルギーが減少するが、運動エネルギーを得て、その和は常に一定であり、これを力学的エネルギー保存の法則と呼ぶ。マイヤー、ジュール、ヘルムホルツらによって1840年代に確立。

テレワークを意識しないのが理想の環境

――あるセミナー講師の方は、コロナ禍でオンラインがメインになったけど、オンラインでも10人なら10人なりの、1000人なら1000人なりのコミュニケーション、高いエネルギー交換はできるとおっしゃっていました。ワークグループを作ったり、チャットを交えたりと、いくらでもやりようはあると言っていました。むしろリアルに1000人集めるのは大変だけど、オンラインならそれが簡単にできるようになったとも。
そうですね。たとえば、Zoomならブレイクアウトセッションを使ってしまえばグループワークもできますし、あとQ&Aなどはすごく特徴的ですね。オンラインのほうがQ&Aは多く投稿されます。手を挙げる障壁が減り、講演登壇者が話すだけではなく、聴講者からの反応をどう反映していくかも含め考えると、工夫できる点はいっぱい出てくるでしょうね。
――挙手だと周囲を見回しながらになりますがテキストだとみんな気を使わずに書けます。
オンラインの場合の工夫として、Q&Aを先に受けつけ、聴衆全体に対して答えたほうがいいと思えば講演者が話をしますし、単純な感想であればバックオフィスの方々がチャットで戻せばいい。このような工夫ができるのも利点で、エネルギーの総量としてはリターンも含めて大きくなっているかもしれないですね。
――リアルだとあてた順番だけでしか答えられないですが、オンラインならたくさんの質問の中から取捨選択ができるのも大きなメリットですね。
はい。ピンポイントで質問に答えることで、交流を深めるきっかけにもなります。リアルだと講演後に名刺交換はするものの、後ろに長い列ができていると伝えたいことを伝えられないまま終わったりもする。もったいないですよね。最近ではミーティングをする際に自己紹介を記載したWebページのリンクをQRコードで出しておくとか、テーマを先にチャットで投げておくとか。このような工夫によって改善できる幅は広いです。
――これからテレワークの導入を考えている人に向けてメッセージをお願いします。
皆さんがいま働き、生活している中で意識していないものって増えていると思うのです。たとえばクルマの中にモーターが何個あるかなんて、いちいち考えたこともないですよね。
同じようにテレワークもひとつの手法で、パーツでしかない。「テレワークをしよう」と思うよりは、テレワークをきっかけに仕事の仕方や生活を変えていけるのだと思っていただき、将来的には「テレワークって何だっけ?」と言えるぐらい馴染んでいくことが良いと思うんです。
いまはテレワークを特別として意識するフェーズの企業さまと、すでにそれを取り込んで普通になっている企業さまでは、働き方の柔軟性、グラデーションが分かれてきています。これは別の視点から言うと、企業としてこのまま働き方を変化していかないと、他の企業との差が広がっていくことになるわけです。
自社の強みを高めていくために何をすべきかを考え、テレワークを実施していただきたいです。働き手についても、これからパラレルワークや柔軟な働き方ができる方は、人生を100年楽しみながら働ける幅が広いと思います。自分の人生設計の手法を広げていくためにも、テレワークをうまく使いこなせる働き手となっていただけると良いと思います。

文・鈴木涼太
写真・大井成義

湯田 健一郎(ゆだ けんいちろう)東京テレワーク推進センター
東京テレワーク推進センター事業責任者。株式会社パソナ リンクワークスタイル推進統括。2001年パソナ入社。組織戦略・BPO・CRMのコンサルティングに携わり、特にICTを活用した事業プロセス最適化の視点から、幅広い業界・企業を担当。株式会社パソナにて営業企画、事業開発、システム推進、Webブランディングの責任者を経て、現在、ICTを活用し、場所を問わず多様な人材の能力を活かす「LINK WORK (リンクワーク)」の推進を統括。 自身でもテレワークを活用し、東京と九州の2地域居住にて家業にも携わりつつ、一般社団法人クラウドソーシング協会の事務局長、国家戦略特区としてテレワーク推進を展開している東京テレワーク推進センターの責任者としても活動。政府の働き方改革推進に関連する経済産業省の「雇用関係によらない働き方に関する研究会」や厚生労働省の「柔軟な働き方に関する検討会」「雇用類似の働き方に関する検討会」委員等も務め、執筆・講演活動など「テレワーク×フリーランス×副業・兼業の推進」に広く従事している。東京テレワーク推進センターでは、テレワーク推進支援施策として東京都のサテライトオフィスやコワーキングスペース等が簡単に検索できるTOKYOテレワークアプリの提供もしている。

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