オフサイトミーティングは対立→協働のプロセス【スマート会議術第145回】

オフサイトミーティングは対立→協働のプロセス【スマート会議術第145回】株式会社スコラ・コンサルト代表取締役 辰巳和正氏

1986年以来、「組織の風土・体質」という目に見えない領域に着目し、それまで日本では馴染みのなかった「プロセス型のコンサルティング」に取り組んできた株式会社スコラ・コンサルト。同社はプロセスデザイナーという専門家集団を擁し、社員相互の信頼関係の醸成や、議論を通じた問題の顕在化・解決、組織変革を促進させるキーマンの発見・育成などの支援に取り組んできた。

そして、そのプロセスデザインのカギを握るのが、気楽にまじめな話し合いを企業において実現する対話手法“オフサイトミーティング”である。オフサイトミーティングは一見、気分を変えて社外で行う会議と思われがちだが、同社代表取締役の辰巳和正氏は、「間違って使うと相互不信を招くだけで終わってしまう」と警鐘を鳴らす。

では、辰巳氏の考えるオフサイトミーティングとは何か? 辰巳氏はオフサイトミーティングを通して、組織をどのように成長させ、変革し得ると考えるのか? その理念についてお話を伺った。

目次

「自由に発言できる」だけでは変革はできない

――スコラ・コンサルトは1986年の設立ですが、企業コンサルティングをしてきた34年間でどのような変化があったと感じられますか。
多くの企業が“大企業病”と言われたような時代は、組織の構造がトップダウンでヒエラルキーがしっかりしていて問題があってもなかなか言えない状態がありました。決められたことをやればいいという会社が多かったので、そのような組織に対して、私たちは「働く一人一人が、思っていることをしっかり言える」環境づくりをご提案してきました。既存の仕組みに対しての違和感を言える状態をつくっていくのが、当時は結構重要だったのかなと思います。
もちろん、それはいまも重要だと思っているのですが、時代の変化と共に、どんどん組織がフラットになってきて、言いたいことが言えるようになってきたと思います。でも、言いたいことを言うと組織としては混乱を招くんですよね。好き勝手に言えるようになってきても、「じゃあどうするの?」となると誰も言えなくなるんです。問題点を指摘するのは簡単だけど、誰もその問題を乗り越える答えを持っていないところに悩む会社が多い。だから問題を言うだけではなく、言ったあとのステップが求められる。私たちが提供する価値も少しずつシフトしていると思います。
――御社の事業は“オフサイトミーティング”を軸にコンサルティングをされていると思いますが、具体的にどのように進めるのですか。
私たちは日本でオフサイトミーティングの登録商標を持っている会社ではありますが、そもそもオフサイトミーティングという言葉自体は一般的に使われています。ホテルに行けばオフサイトミーティングプランがあるし、社外で行う会議を「オフサイトミーティングやろう」と言う方も結構いらっしゃいます。ただ私たちが言う「オフサイトミーティング」は、それらとはちょっと違うところがあります。
最近は「心理的安全性」という言葉が使われるようになって、みんな「本音で話すことは大切だよね」ってよく言われるんですけど、それだけだと明らかに組織に混乱しか及ぼさないと捉えています。組織って通常は安定しているのですが、安定している状態は問題がない状態ではなくて、問題があっても問題が顕在化させていないだけなんです。そのような中で、本音で話し始めると当然混沌が起きます。意見の対立が顕在化することによってみんながバラバラになって苦しい状態になる。そして「もうやめておこう」となって、組織はまた安定に戻っていきます。「安定→混沌→安定→混沌」を繰り返していくうちに、組織はもう安定から出なくなってしまい、あきらめの原因となっていきます。
このようにオフサイトミーティングで「好きに言えばいい」というスタートでやってしまうと、混沌が起きて、結果、安定に戻ってしまう形になるんですね。そのため、私たちは「本音で話す」先に「混沌が必ず起きる」ことを理解しておく必要があります。その先のストーリーをしっかり描いておかないと安定に戻ってしまうので。混沌から安定に引き返すのではなく、その次のフェーズ「相互理解」に上がっていかなければならないんです。
ヒエラルキーがしっかりしている中で混沌が起きると、強い者が弱い者を抑え込むので安定に戻るのですが、フラットな階層でやると相互不信、たとえば部署対部署の対立が起こる。お互いにお互いのヒエラルキーがしっかり機能しないところになると、対立構造が顕在化して相互不信になったりもします。
一度作られた対立構造は固着しやすいので、組織上ずっといがみ合う状態になる。こうなると問題は深刻ですよね。だから本音で話し合うことで混沌をつくったのなら、決して混沌状態を放置せず相互理解に上げていくこと、そう意識することが重要です。相互理解というのは、どちらが正しいかではなくて、お互いがなぜそういうことを言っているのかを理解し合えている状態です。なぜ対立が起きているのかという全体像を俯瞰して見ることができるようになると、物事はより前に進みやすくなります。
このような話し合いを実現するためには、組織のコミュニケーションのリテラシーをあげておく必要があります。しかし、まだそういう状態じゃないときには、「安定→混沌→安定→混沌→相互不信→対立」というループになってしまいやすいので、この構造をしっかり理解して話し合いのプロセスをつくっていくことが重要です。だからオフサイトミーティングそのものが大切というよりは、このような構造を理解している人が、オフサイトミーティングという対話手法をうまく使うということが大切になります。

「安定→混沌→相互理解→協働」のプロセス

――話し合う環境をオフサイトミーティングという形に変えると、どういう期待ができますか。
オフサイトミーティング的なコンセプト、本質のところがわかっていると、オフサイトミーティングじゃなくても、普段の会議や、家族会議とか、友だちとの会話の質を上げることもできるんです。どこでも使えるスキルだと思います。ただ、オフサイトミーティングという形にすると、それがより構造的にやりやすくなる。たとえばオフサイトミーティングで普段の場所から離れることで、いつもと違う環境になるので、よりフラットに物事が見えやすくなるとか、相手の話を聞きやすくなるといった状態が生まれます。
オフサイトミーティングは最初に「ジブンガタリ」というプログラムから始まります。それはお互いの人となりを理解するためで、自分主語で話したことを相手が聞いてくれる時間です。「僕、ユーロサッカーは毎回必ず現地観戦するくらい、サッカー好きなんだよ」と言ったら、「へ~!そうなんだ」って、一人称で話したことをそのまま聞いてくれるというプロセスをまず通ります。
プログラムの構造自体が、「安定→混沌→相互理解→協働」とうまく進むようになっているんです。もちろんその会社の状態によって、「ジブンガタリ」を短くしたり長くしたりといろいろありますが、そういう構造がプログラムされているので、オフサイトミーティングを使うとよりやりやすくなるということです。
大きな会社の役員オフサイトミーティングのご支援をしたときに、オフサイトミーティングの「ジブンガタリ」で1泊2日が終わってしまって、当初話そうとしていた仕事のことは一切話さなかったっていうこともありました(笑)。でも参加されたメンバーから「また別で時間をとってやりたい」という声が上がりましたけど。時間通りに議論を進めるのではなく、リアルな対話のプロセスの進行状況を見ながら臨機応変にプログラムの進め方を変えたりします。トップや経営層は対立軸が深いことが多いのでジブンガタリの時間は有効なことが多いです。オフサイトミーティング的な構造がしっかりしたアプローチをとることが、時間はかかったとしても後々のことを考えると効果的だと思っています。
――論理だけでは進まないのが会社組織だと思いますが、感情面を非常に重視されているということですか。
そうですね。人は感情を持っているので、たとえば昔は本音で言い合うためだけの、ケンカになるようなところまでやらせて、そこに心療内科の先生なんかも入って、何かあったら止めに入るみたいなハードなやり方もあったんですよね。でもやっぱり人間って言い合えたらいいわけじゃなくて、その場ではうまくいっても、あとで傷ついたりもする。河原で子ども同士がケンカして、「お前なかなかやるな」っていう関係になればいいですけど(笑)、そこで負ったケガが、ずっと引きずって二度と修復できない傷になるケースだってありますからね。
オフサイトミーティングでは、混沌を前向きに捉え、受け入れ合いながらやっていくからこそ、その場にいる人たちの感情とか思いを大切にしなければなりません。

オンラインは双方向的な議論が苦手なことを理解しておく

―――オフサイトミーティングのコンセプトはテレワークでも成立し得るのですか。
はい、成立し得るものだと思います。対面で行うオフサイトミーティングと、リモート体制でのオフサイトミーティングは質的には変わりますが、テレワーク環境でもできます。私はテレワークの普及は働く人や家族に大きな意識変革をもたらすと思っています。働くところと住むところが一緒になっている「職住一体」といういい言葉がありますが、働くことと生きることが、すごく近い距離になってくるので、何のために働いているのか? 何のために生きているのか? が問い直されてくるようになる。ただ黙々と働いて一生が終わるのではなく、「あれ、何のために生きてたんだっけ?」「何のために働いていたんだっけ?」って問う人生のほうが豊かだと思うんです。また、時間や場所の制約から解き放たれていくのは素晴らしいことだと思います。
しかし、テレワーク下でのコミュニケーションは結構難しいことも事実です。私たちはお客さんにもテレワークをどんどん勧めていますが、検証するとどうしてもコミュニケーションの量と質が落ちているんです。たとえば量。リアルな会議だと、終わったあとに愚痴や不満も含めて、「あれ、どうやって進めます?」とか「腹立つよね、あれ」といった雑談が起きるんですよね。で、また次の会議に戻っていく。
でもテレワークになると、会議自体の量はそのままなんですけど、終わったあとにオフラインにしたら急に一人になる。相談したいときにはもう1回Web会議を設けて、「打ち合わせしませんか」ってやらざるを得ない。当たり前にできていた雑談の機会が圧倒的に減るんです。
これが働いている人の一体感を奪ったり、不信感を生んでいったりする。「あいつ働いてないんじゃないか? ちゃんと管理しろ」という話まで出てきて、管理コストがかかる。コミュニケーションの量が減って、より生産性が落ちることが起きています。
コミュニケーションの質で言うと、オンラインは明確になっていることを一方的に流すのは得意です。でも、「あれ、これってどうやってやるんでしたっけ?」「これ、もっとこうしたほうがいいんじゃない」「なんかちょっと使いにくいんだよね」といった双方向的な議論は苦手です。原因はいろいろあると思いますが、一番は話したときの周りの反応がわからず不安になって一歩踏み込んだコミュニケーションを取りにくいということだと思います。
テレワーク下でよりよいコミュニケーションを取っていくためには、なんとなく「テレワークってコミュニケーションとりにくいね?」で終わらせず、このように課題をしっかり理解しておくことが重要だと思います。そうすれば、どういう対応をすればいいか?はいろいろ知恵を働かせることが可能になりますよね。
たとえば、雑談などのコミュニケーションの量が少ないのであれば、Web飲み会なども含め、雑談が起こるような場を意図的につくることなどができますし、コミュニケーションの質を高めるには聞き手の反応が見えやすくするために、少し意図的に、うなづきなど日頃より大きなリアクションを取ってもらうとか、周りの理解がどのくらい進んでいるかを確認しながら進めるなどの方法があります。これは全員でなくても、話し合いの中の誰か一人でもそういう反応をすることで話し合いの質が随分変わるものなんです。ぜひ、一度試してみてもらえればと思います。
――相互理解を促すチームビルディングを考えるときに、たとえばスポーツでは個々人のスペックは低くてもチーム力で勝つという考え方は根強いですが、ビジネスにおいても同じでしょうか。
そうですね。スポーツでもお互いの自由度が高ければ高いほど、チームの一体感とか、チーム全体のパフォーマンス、関係性って結構影響してくると思います。サッカーなら左サイドバックしか守らなくていいとかではないですよね。誰かが抜かれたら必ずカバーに入ることや、献身的にサポートに行くとか、ミスしても助け合うっていうことの価値の幅が広いほうが、ビジネスもスポーツもチームという意味でのパフォーマンスが求められるのかなと思います。
一方、スポーツチームは「これをしたい」という1つの目的があって集まるケースが多い。ビジネス組織ではベンチャー企業は明確に目標があって、それを理解した人たちが集まってくる。でもビジネスの組織で難しいのは、ある時期を過ぎて人が増えると同じものを見ていない人もいっぱい出てきて、この会社で働く意味はなにか?この会社はなんのためにあるのか?という共通のものが見えにくくなる。そうなると、組織がバラバラな状態になる。チームビルディングという意味ではスポーツよりも会社組織のほうがはるかに難易度が高いんじゃないかなって思います。
――みなさんに伝えたいことはありますか?
私たちは、ただ生まれながら自然にコミュニケーションの仕方を学んできましたが、「これからもこのままでいいのか?」ということを、最近特によく考えます。世界的な環境変化やデジタル時代においてのコミュニケーションのあり方は、いまのままでいいのか? という課題意識ももちろんありますが、私たちが日々過ごす会社という枠組みで見ても同様です。仕事はドンドン進化していくことが求められる。一方でコミュニケーションの環境はリモートワークや働き方の多様性によって、いままでよりも難しくなっていく。変化の大きい時代において、組織に必要なコミュニケーションとは何か? いまのままでいいのか? そういう問いに向き合うことも重要になっていると感じています。
もちろん簡単なことではありません。コミュニケーションの質を高めていくには、いままでお話した通り、一定のロジックの理解や、自分や周りの目に見えない感情へのマネジメント力などが求められます。しかし、組織の全員でなくてもいい。1~2割の人でもそういうリテラシーが高くなれば、組織のコミュニケーションの質は飛躍的に高まると感じています。
ぜひ、コミュニケーションの機会を大切にするとともに、コミュニケーションの質にも注目してもらえるといいなと思います。

文・鈴木涼太
写真・大井成義

辰巳 和正(たつみ かずまさ) 株式会社スコラ・コンサルト
株式会社スコラ・コンサルト代表取締役。大手生命保険会社の管理部門および営業企画部門でマネジャー職を務め、管理部門時代には社内改善コンテストで2年連続1位の評価を得る。また経営企画部門では全社変革展開に取り組んだ経験を持つ。スコラ・コンサルトでは2012年、チームワークの状態を定量で測るアセスメントツール「ワークコラボレーション・レビュー」を開発。翌年にはWEBで無料提供を開始し、1年で延べ80以上の組織、6000人に利用されるツールに成長させた。2013年には、「つながる職場づくりラボ」を立ち上げる。産業カウンセラーとしての経験を生かしながら組織のメンタルヘルス問題にも取り組む。社会全体の機能不全の課題にも関心を持ち、行動している。2012年、自らの子育て経験で小さい子を持つ親が孤立していることに問題を感じ、親同士が互いにつながり助け合うためのSNS「パパママルーム」を立ち上げた。この取り組みは、リソウル株式会社が運営する社会起業大学ソーシャルビジネスグランプリで「リソウル大賞」を受賞。現在400名が参加している。2019年、有限会社きたもっくと協業で焚き火を使ったビジネス研修・合宿施設TAKIVIVAを設立。

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