焚き火と羊から見えてきたもの【スマート会議術第152回】

焚き火と羊から見えてきたもの【スマート会議術第152回】有限会社きたもっく 代表取締役 福嶋誠氏

厳しくも豊かな自然の中にこそ、未来を創造するヒラメキがある――そんな理念のもと、「未来が育つ場づくり」を推し進めるきたもっくの福嶋誠氏。きたもっくはキャンプファンの間では知らない人はいない、日本有数のキャンプ場「北軽井沢スィートグラス」の運営母体だ。

そんなキャンプ場を運営する代表の福嶋氏は、昨年9月に焚火に集う宿泊型ミーティング施設「TAKIVIVA(タキビバ)」を北軽井沢にオープンした。人と自然の対話や、家族再生を理念に掲げる福嶋氏は、なぜいまビジネスパーソンを対象にしたプロジェクトを起ち上げたのか。

「火を中心に語りあう濃密なコミュニケーションによって、共同体はより深く広く連携していく。現代でも、火の求心性を尊ぶ祭りや神事が世界中に残る。 まさに火が人を進化させ、社会性を育み、文明をつくったと言える」

そう語る福嶋氏。

焚火が現代の私たちにもたらす効用はさまざまあるとのことだが、そのひとつを福嶋氏は「羊に教えてもらった」と言う。羊と同じ方向をきちんと見渡してやればなつきにくい羊も安心して人になつくというのだ。それはまさに焚き火の効果にも通ずるという。円陣を組んでみんなで自然に同じ火を眺めることで、ヒエラルキーは壊れ、フラットな関係になり、隣にいる人から伝わる雰囲気や安心感を得ることで、お互いの関係性が深まっていくと。

自然との対話、そして人と人のコミュニケーションをつくる場。その大切な要素が焚き火なのだ。それは今日の現代人が最も失っていることなのかもしれない。

目次

組織の再生をテーマにしたTAKIVIVA

――昔はキャンプといえばアウトドア派の象徴的なレジャーというイメージがありましたが、いまは裾野が随分広がった気がします。さらには、きたもっくで運営する焚き火を使った宿泊型企業研修事業のTAKIVIVA(タキビバ)は、ビジネスパーソン向けにまでそのターゲットを広げています。どういう狙いでTAKIVIVAをつくったのでしょうか。
最小単位の組織は家族といえると思います。キャンプ場であるスウィートグラスでは、その家族の関係性の再生をテーマにしています。しかし、世の中にはさまざまな組織が他にもありますよね。企業体もそうですし、学校とか、各地方の自治体など、いろんな組織の形態があると思うんです。TAKIVIVAは家族以外の組織の活力を再生するというかうみだす場です。
TAKIVIVAでのプログラムを一緒に開発、運営してくださっているスコラ・コンサルトさんは企業の風土改革を非常に強く訴えてこられたコンサルティング企業です。TAKIVIVAをまさに構想しているときに、代表の辰巳さんとお会いし、風土改革をするうえで肝となるコミュニケーションの方法やそのプロセス、そしてそこにかける情熱をお聞きし、大変共感し、一緒にやらせてもらうことになりました。まさに必然の出会いだったと思っています。
TAKIVIVAはある意味、スウィートグラスがあったからこそ生まれてきたと言えるんです。スウィートグラスが“家族再生の場”であることに対し、TAKIVIVAは“目的をもった集団がその活力を再生する場”なのです。
私たちは片田舎の会社ですが、だからこそ日本の企業体が活力を失ってきている現状がクリアに見えています。マスコミも日本企業の生産性がどんどん低くなっているとか、イノベーションがなかなか起きてこない現状を伝えていますよね。そういうのを見るにつけ、組織を根本からつくり変えていくような在り様を世の中に提案する必要があるんじゃないかと思ったんです。
“家族再生の場”を創ってきた我々であればこそ何か提案できるんじゃないかと、TAKIVIVAの事業を組み立てていくことになったんですね。
会社は組織ですから、当然何か目的を持っているわけですね。目的を持った集まりです。この集まりがいかに目的を共有して、互いに共感しながら歩んでいけるか。今は、強制的に社長が「お前、こういうふうにやれ」っていうトップダウンの時代ではありません。いかにそれぞれが当事者として同じ方向を向けるか、です。それは個々の人がしっかりと内省を果たしていくだけでなく、同時に他者にしっかり共感していくかという二軸が合わせらないとダメなんです。だから内省も大事ですし、共感もすごく大事なんです。
これをTAKIVIVAでどういうふうにしたら実践できるか。私たちは“自然と人の関係性”をテーマにずっとやってきたので、自然に一役買ってもらうしかないとなりました。
キャンプ場に来るとみんな焚き火をするんですよね(笑)。誰に言われるわけでもなくて、お父さんもお母さんも生火を囲って、何を話しているかわかりませんけれども、ぼそぼそ話しています。子どももその周りをちょこちょこしたりして、焚き火のまわりには非常にいい空間ができるのは分かっていました。そういった場をつくることが、目的を持った集団がその活力を再生していく、つまり同じ方向を向いて歩んでいくというときに、とても大切になるんじゃないかという考えに至ったんです。

相向かいだけど、相向かいじゃない関係

――キャンプ場はなぜ焚き火がセットになっているのですか。
たとえば、フィンランドのような北欧では、自然が日常生活の中に取り込まれています。彼らは習慣的に森に入るんです。森の中を散歩しながらコミュニケーションをはかるんです。それが日常なんです。とても豊かなコミュニケーションの取り方だと思いませんか? そんなことも私たちはキャンプ場を運営する中で考えてきました。自然にはいい形のコミュニケーションが培われる土壌があるんです。
焚き火を真ん中に置いて囲むとある程度の距離ができるんですね。正面の人とは形としては相向かいになりますが、この関係性は相向かいじゃないんです。不思議な関係性です。そして更に面白いのは横の人との関係性です。横の人は暗いし、相向かいでもないので、よくわからないのだけど気配は感じるんです。その人が醸し出す気配で人と人の関係を感じていく関係性が、私はものすごく大事だと思っているんです。
都会ではやたら相向かいの関係性になっているように思えるんです。Webミーティングなんてその最たるものじゃないですか。そういうのが一般的な関係って思われているけど、田舎にいるとそうじゃない。真向かいよりもむしろ隣り合ったときに感じる気配が人と人との関係性の肝なんです。かつての日本の共同体の中ではそれが普通だったと思うんです。
ところがいまは共同体も解体してしまい、関係性が非常に単純な相向かいのものだけになった。それでいて本質のところにはちっとも届いていない。いくら会話していても、本音で話せるところまで届かないんですよね。
お互いに本音で話ができれば、いろいろな形でいろいろなものが生まれてくることがあるんですけれども、そこに到達できないんです。到達しさえすれば、クリエイティブなものはいくらでも生まれてくるのだと思うのですが。
隣の人が大変そうだから、ちょっと団子でも持っていって食わしてこようかとか、ちょっとおすそわけしようかとか、そんな隣の人の気配を感じる関係性、そういう関係性をベースにしたほうがお互いの本音の部分が共有できるんじゃないかと思うんです。

羊との距離感が教えてくれた社会でのつながり方

――きたもっくでは羊を飼っているとのことですが、その意図は何だったのですか。
集客の一役を担わせようかという魂胆があって(笑)、会社で飼うことにしたんです。ところが羊はすごく臆病で、うちのスタッフには動物好きもいるんですけれども、誰も羊を手なづけられなかったんですよ。ぶっきらぼうで、一生懸命おいしいエサを持っていっても、蹴っ飛ばされちゃう(笑)。あとで食べるんですけどもね。
誰も面倒がみられないので、最終的に「社長何とかしてくれ」となったんです(笑)。それで「ちょっと待ってろ、俺がやってみるから」ってやってみたんですが、全然ダメ。羊はある距離まで近づくとすごく敏感に反応するんです。困っていろいろと考えてみたんですね。
そして私がやったのは、羊と同じ方向を見ること。たとえばクルマがブーっと向こうを通ると羊はそっちを向いたりするので、私も一緒にクルマを見るんです。これを4~5日続けましたかね。これはてきめんでした。毎日ひたすらやったら、あっという間になついたんです。
羊が感じるんですね、「あ、この生き物は、俺と同じものを見る」って。同じものを見てくれるっていうのが羊にわかると、そこに垣根がなくなるんです。
――集団行動する羊は群れで動くから、羊と思われたんでしょうか。
そうかもしれません(笑)。ただ臆病で群れで動く動物は、そもそも相向かいの関係じゃないんですよね。だって相向かいの関係だったら外敵に対応できないし、逃げることもできない。何もできなくなっちゃう。
それぞれが集団で同じ方向をきちんと見渡していく。そういう中に集団であることの強みが出てくる。だから羊は同じ方向を見てくれる仲間が一番良かったんじゃないですかね。同じ方向を絶えず見ることで、私はこれ以上近くに寄ると意識される一線を自然と越えることができたんです。
――どんな動物にも当てはまりそうな気がしますね。
セバスチャン・サルガドという有名なカメラマンがいて、彼はガラパゴス諸島のゾウガメとかウミガメの写真を撮ったりしているのですが、そのときのサルガドは、そのカメと自分の立ち位置をものすごい時間をかけて縮めていくんです。
どんなに縮めていっても、ウミガメのほうにはある一定の境界があるんです。その境界線をサルガドは写真を撮る行為の中で見抜いていく。それがいい写真につながっていると思うんです。「許せる一線」をすごく慎重に探っていく行為というのがあって、お互いにいい関係をつくっていくときには、その一線をどう判断していくかがものすごく大事なんだと思うんです。これは人間の場合も一緒じゃないかと。
企業体にしても、ある目的を持った集団がお互いに共感していくためには、同じ方向をしっかり見ていく、それぞれの境界線を少し破って本音の部分でつながっていける部分をいかにつくっていけるかっていうのが、現代社会では大事になってくるかなって。

セバスチャン・サルガド*
ブラジル・ミナスジェライス州出身の写真家。徹底した取材によるドキュメンタリー写真で世界的に著名なモノクロ報道写真家。

人が集うことの力を信じたい

――TAKIVIVAでは「日本に新しいミーティング産業を興す」と謳っていますが、具体的にはどういうところを目指していきたいと考えているのですか。
やっぱり人が集うことの力を素朴に信じたいですし、信じられると考えていいと思うんです。人が集うことの力を信じなくなったら、たぶん社会の活力はあっという間に消え失せてしまう。もともと、集うことの力によって共有をして共に生きていくというのが、人間のとても大事な特性だと思うんですけれども、その部分に対する自信と信頼を失ったら、社会の活力は一気に失われてしまう。
それは私の願うところではないし、多くの人もそんなことは願っていないと思います。次の世代につないでいかなくちゃならない重要な使命もあるので、未来の子どもたちに活力のある社会をいかに残すかというのを絶えず考えています。
コロナ禍で非常に制約が加えられていますが、私は集い方、集う方法やそのやり方、に焦点を当てれば、あまり問題にならないんじゃないかと思っています。
内省と共感、私たちは“離合(りごう)”って呼んでいるのですが、合わさって離れ、離れて合わさる離合プロセス、を集いの中にきちんと入れていくやり方、これをTAKIVIVAでは明確に打ち出していきたい。
コロナ禍の時代であるからこそ、この離合プロセスを追求していったほうがいいんじゃないかなと強く感じています。
――離合というのは、対面・非対面みたいな二律背反の選択肢ではなく、リアルの集い方にもいろいろな方法があって、そこをどう組み合わせてメリハリつけていくかということですか。。
そうですね。リアルの集い方にもいろんな方法があることを具体的に提示していけたらいいですね。いままでの集い方や向き合い方が一概に悪いということではないですが、もうちょっと横の関係をきちんと気配として感じていく集い方や、同じ方向を見ていくために、自己の内省と他者への共感を、協働作業を通じて深めていくような集いの質的な転換は必要になってくる。それが新しいミーティング産業の原点になるんじゃないかと私は思っています。
これまで焚き火を囲むという行為をずっと考えてきて、数年前から“焚き火ディスタンス”を提唱してきていたんです。すると今年コロナ禍でソーシャルディスタンスという言葉が出てきて、本当にびっくりしました。焚き火を囲むときの距離感や意味を一生懸命考え、ようやく“焚き火ディスタンス”という言葉にたどり着けたと思ったら、ソーシャルディスタンスという言葉が出てきて、なんかちょっと取られたような感覚になってしまいました(笑)。
炎にはゆらぎがあります。このゆらぎの空間は、日常の中で体験できそうでなかなかできない焚き火の特性です。実際このゆらぎの中に、気づきとか、ひらめきとか、が詰まっているんです。
炎のゆらぎは、内省し、お互いに共感を覚えていくためにもとても大切な要因ですし、気づきやひらめき、いわゆるクリエイティビティ、イノベーションの源でもあります。TAKIVIVAではそのゆらぎの効用をより深く、みんなで考え続けていきたいと思っています、未来のために。未来は自然の中にあります。

文・鈴木涼太
写真・大井成義

福嶋 誠(ふくしま まこと) 有限会社きたもっく
実業家。1951年、群馬県北軽井沢生まれ。1990年ふるさと忘れがたく、家族と共にUターン。浅間山に恥じることなき生き様を求め続ける。1994年開業したオートキャンプ場スウィートグラスは、全国版アウトドア誌の人気キャンプ場ランキングでは過去4回1位に輝く。株式会社パイオニア福嶋、有限会社きたもっく代表。北軽井沢観光協会会長。著書に『未来は自然の中にある。 The future is in nature.』がある。

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