ワーケーションで自分の仕事や生き方をマネージメントする【スマート会議術第156回】

ワーケーションで自分の仕事や生き方をマネージメントする【スマート会議術第156回】一般社団法人ワーケーション協会 倉富喜久子氏

コロナ禍によって人との接触・働き方・コミュニケーションのあり方が見直され、非対面コミュニケーションやテレワークへのシフトが急務になっている。一方で創造性や多様性を培う働き方改革、大都市への一極集中化から地方創生への機運も高まっている。そのカギを握るのがワーケーションだ。

ワーケーションは旅先でも新しい発想・有給取得率を向上・社員のモチベーションを維持する目的で、導入をする企業や人が増えている。場所や時間にとらわれず、地方で働くといった考えも活発になってきた。

趣味の釣りや環境問題、SDGsへの関わりがきっかけでワーケーションとその普及活動に取り組むようになったというワーケーション協会で理事を務める倉富喜久子氏。ワーケーション協会では、地方の創世×雇用創出×環境問題を解決するために、ワーケーションに関する情報を発信・連携を行い、成功モデルを全国に波及させていきたいと考えているという。

ワーケーションを通じて自然のさまざまな表情を肌で感じながら仕事をし、夢中で熱くなれる仲間と一緒にSDGsや環境問題などの活動にも取り組んでいきたいという倉富氏に、ワーケーションの果たす役割と魅力について語っていただいた。

目次

サーキュラーエコノミーの一環としてのワーケーション

――ドイツや北欧のように豊かな先進国ほど労働時間が少ないという現実を見ると、ただGDPを増やすという経済成長を目指す時代ではなくなっている気がします。
たとえば、いままでムダと言われていたものに価値を持たせ、持続可能な循環型社会に向けた新しいビジネスを創出することで経済を回していくというようなサーキュラーエコノミー(循環型経済)の考え方がありますよね。
2020年は開催できなかったですが、東京オリンピックは、地下資源がない日本が技術や智慧で地上資源を循環させ、サステナブルで平和な世界の実現、つまりSDGsに則った先進的な形で開催できましたよってことをお披露目する場所でもありました。違いを超えてともに生きるために必要な「ボランティア精神」を日本に根付かせることもレガシーの一つと聞いています。選手団のユニフォームや金銀銅メダルも日本唯一の技術でリサイクルしたものでつくるとか、そういう要素がいろいろ散りばめられていたらしいんですよ。
だからやっぱり経済の発展や成長をどの目線で見るか、そこも大きく違ってくると思いますね。スポーツ選手もそうですけど、休んだら勝てないとかじゃなくて、やっぱり人間ってエンゲージメントを上げるためには休むことも必要。みんなコロナ禍で休んでみて、そのへんのメリハリは必要だってすごく気づいたっていうのはよく聞きます。コロナ禍では仕方なくとはいえ、自分の中でリセットされるのがわかったと思います。
――今後SDGs的な文脈でワーケーションと結びつけて具体的にはどういう活動をしていくイメージですか。
いまのところは、まずリゾートワークの形の中で、そこで起こっている環境問題をどう一緒に解決していくかといったことを地域の人と一緒にできることから見つけながらやっていくというのが最初の一歩ですね。
新しい土地に行って自然や人と交流していくこと自体がSDGsのひとつの考え方に入ってくるので、そこでできることを見つけていく。それも情報交換をしながら事例を増やしていくのがいいのかなと思います。いま皆さんにいきなり環境問題とか社会貢献とかSDGsとかに取り組みましょうと言っても、ハードルが高い。ハードルを下げることも大事なので、いろいろな行動に落としていくときに、ワーケーションの中に環境やSDGsに関わる行動をどう入れていくかとか、こちらでつくって提案して実行に落とす。そこに人を巻き込むとかそういったことをやっていくことで、広がっていくと思っています。
――そもそもSDGsはいつ頃からどういう文脈で言われるようになってきたのですか。
もともとは温暖化も含めて地球が限界に来ていると警鐘を鳴らしていて、2015年に国連で開かれたサミットで世界のリーダーによって決められました。国際社会共通の目標として、2030年をゴールに目指して、それを全部実現するというのをミッションにしましょうという形で、それぞれの国が納得してやり始めた形ですね。
――SDGsは大きな目標がたくさんありすぎて課題を乗り越えるのは至難の業にも見えます。
そうですね。SDGsには17の目標があります。「貧困をなくそう」「つかう責任、つくる責任」などいろいろありますが、自分がやりやすいところとか、できるところから取り組んでいけばいいと思います。余力があるからそういうことをやるのではなく、事業計画の中に2030年のゴールは「CO2を出さない」とか、そこに対して事業でどうしていくか逆算でやっていくのが本当のあり方。そういうことに企業は取り組んでいかなきゃならないのですが、なかなかそこまでは浸透していないですね。もう地球に住めなくなっちゃうかもしれないじゃないですか。平均温度があと1℃上がったら地球のエコシステムが崩壊。温暖化の暴走が始まると人が努力しても止まらないと言われています。今年も洪水も増えて、氷も解けて、いまよりも雨も降るし、いろいろ懸念されていますから。
フランスは現在も服やバッグなどは捨てるのは基本NGでリサイクルが当たり前。街のいたるところに回収ボックスがあるそう。シャネルやエルメスなどのハイブランドも古着は回収しています。2023年からは売れ残りの洋服を捨てたり燃したりすることが法律で禁止に。世界各国でCO2を出しているほうが税金が高くなったり、罰金になったりするなどどんどん変わっていく。環境がこれ以上悪くならないようにするという前提で、知恵を絞って、新しいビジネスなり、経済が回ることを考えませんかという流れですよね。

ワーケーションは新しい発想転換の一助になる

――SDGsの目標のひとつであるエネルギー問題でいうと、多くの先進国は再生可能エネルギーに対してお金が動いていますよね。まだ日本だけ遅れていて、追いついていないような印象もあります。
まだ日本はそういう意識と取り組みが遅いところがありますね。スウェーデンのボルボが一斉に電気自動車に変えるじゃないですか(2025年までに新車販売台数の約50%をピュアEVとし、残る約50%をハイブリッドにする)。あれもなぜ一斉にやるかというと、やると決まったことなら先手を打つほうがいい。経済の仕組みから考えると、「やります」って宣言したところに、原料を調達する会社とかが全部集まるので、自分たちが先にそのリソースと市場を確保できる。そういう狙いもあるのだけれど、いまの日本社会では、そこにビジネスチャンスもあるということにまだあまり気づいていない人たちも多い。どうやって話をしていくか、気づかせていくかみたいなところもすごく重要だと思います。
――ワーケーションはそういう新しい発想転換のために、環境で頭を切り替える一助になるかもしれませんね。
おっしゃる通りで、一回頭をまっさらにするって、もしかすると大事かもしれないです。全然違う非日常なところで価値観を変えないと、脳のキャパシティは変わらないので、中を空けないと入れ替わらないですよね。そういう意味では、ワーケーションはいままでの価値観を一回全部切り替えて、何かものを考えてみるとか、そういうきっかけになるかもしれないですね。
自由度が認められて、それでもちゃんと生活していける事例を知ったら、結構人は動くと思います。日本人は何でもある程度様子見じゃないですか。みんなが「これ、結構いけるじゃん」って思ったら急にバーッと動き出すはずです。
――ワーケーション協会が動き出してからの活動の中で感じる大きな動きとか、印象とか、あるいはこの先1年どうなっていきそうだとか想定していることはありますか。
私自身は決してワーケーションの専門家ではないので、限られた知見と感じたことでお話させていただきますね。昨年9月からジョインしてからの活動なので、急にアンテナが立ってすごく情報が入ってきているのもあるのですが、やっぱり地方創生のところがワーケーションをすごく推進していますね。助成金も含めて予算をとってやるところに人は集まるので、ワーケーションを掲げていろいろなところでお金が動くと話題になって、助成金が出るとそれに対して何かやろうっていう人たちも増える。
ワーケーションで地元や地域が期待することは、やっぱり企業が誘致されることなんです。たとえば支社でもいいのですが、地方側はそこに何かビジネスができるってことも期待しているから、そこに住む人たちの可能性をつくってほしいというのがあるから、そのへんのすり合わせがありますよね。いま、企業誘致したら社員1人あたり100万円を出すという自治体もあります。「本社が移転したらビルを提供します」みたいなところも出てきそうですね。
――いま自治体それぞれが勝手に動いていても効率は悪いですよね。本当は全国でアライアンスを組んで一斉にやればうまくと思うのですが、それはそれで調整とかがやはり難しいのでしょうか。
やっぱりまず県内の見解を統一しないと進まないですよね。沖縄もそれぞれでワーケーションやりたいとかいうと、そういう問題があると言っていました。いまはワーケーションをやるというと市単位になっちゃうんですね。
――ある程度の規模の企業が来て動くほうが早いのでしょうね。
そうですね。行政を動かすのはちょっと時間がかかってしまうので、協会でも結構いろんな拠点にコワーキングとかシェアオフィスとか、ワーケーションができるスペースを確保している方がいらっしゃるんですよ。だから本当は、いろいろなところに拠点をつくっていって、それをどこでも使えるようにするとか、そういうつなぎ方もできるんです。
行政からの補助金だと、たとえばある市がワーケーションの助成金出した場合、その市の住民以外が自由に使うのはダメとか、そういうことがないとも限らない。本当はもっとフラットに考えて、いろいろな人たちが出入りできるようにして何カ所も自分たちが使える拠点できたりすると、ワーケーションもちょっと楽しくなるのですが。

ワーケーションを通じて自立した人材をつくる

――働くことが楽しくなるサポートのひとつとしてワーケーションがあればいいのですが、マインドが変わらないと、どんなにきれいな自然の環境にいても意味がないですよね。
ワーケーションに限らず、会社員であろうがなかろうが自分で自分の仕事や生き方をマネージメントするってことをできたほうが成長できたり、幸せな生き方につながったりすると思うんですよね。ワーケーションをしたらサボっちゃうからやはり仕事は会社でという声もありますが、そうじゃなくて、自分が自分の時間とか働き方をちゃんとマネージメントしていくっていう、そういうことができるようになるための、ひとつの機会と捉えてほしい。
――たとえばスターバックスで仕事するのも、都市型のワーケーションの一種ですよね。おしゃれな環境で、ある程度ざわついていたほうが逆に集中できるとか、MacBookを持って仕事するとモチベーション上がるとか、都会の中のワーケーションっぽい。
昨年12月の「会議HACK!サミット」で五島でのワーケーションのお話しをされていましたが、実際に五島でうまくやっている人たちは、単純に五島が本当に好きで、五島を大事にしたいと思っている。そういう人たちはちゃんと地域の人も受け入れてくれる。やっぱりそこはすごく大事だなと思います。地域交流というか、受け入れ側との関係がうまくいくことがワーケーションを発展させるし、違う形で経済もつながるような発展ができるのかなって思いました。そういう気持ちがないと、実際に地元の人たちって嬉しくないというか、愛がないとうまくいかないのかなって。関係性をつくっていくっていうのはすごく大事なことですね。
――ワーケーションではやはり地域の方々とのコミュニケーションも大切だと思います。会社があれば会社の人たちとコミュニケーションがある、みんな安心する。テレワークになって誰にも会わないと、ただの引きこもり状態になっちゃいますよね。
ワーケーションにはいろいろな可能性があることは事実ですね。会社や企業としては、幸せな働き方って方向にベクトルをもうちょっと向けていくと、コストカットとかいろいろなメリットはあるかもしれないけれど、そこにフォーカスしていくと全体的に仕事のほうでもちゃんと数字が出てくるのではないかとは思います。
会社という組織の中で働くことがなければ、皆さんある程度自由かもしれないですけど、働き方自体はワーケーションじゃなくても、これから本当に考えていかないといけない。経済の状況にもよりますけど、実際に自分たちの雇用も守られるかどうかもわからない時代ですもんね。
――ワーケーションも生き抜くために必要だという文脈になっていくような気がします。
やっぱり自立できる社員をつくるのは、いまの企業のひとつの社員の育て方です。「自立したら会社辞めちゃうじゃん」って言うけど、そのくらい自立できる人たちを育てるのが、会社にとっても本人にとっても幸せだし、大きな目標であるべきですよね。
第二の人生をどこで生きるかっていうのも、ワーケーションでちょっと体験していると何かあるかもしれないですね。自分がいまの人生の次に何かやるときに、いろんなところで住んでみたりとか、地域に行ってみたりしていると、自分の生き方の選択肢も広がるかもしれないですし。会社の縛りなくどこでもやっていいって言われたら、やっぱり地域で考える人も多いと思います。ここの地域に行ってみたいとか、ちょっと住んでみたいとか、この場所いいねって旅行のように探して行くって感じですよね。
――今後、ワーケーション協会を通して実現していきたいことがあればお聞かせください。
私は個人的に2拠点生活を考えていて、釣りが好きなので玄界灘とかに近い北九州に拠点を置いてやりたいと思っています。そのうちもうひとつ、どこか行きたいところがあったら増やしていって、自分が協会の活動で得たことをそこでも広げていくとか、そういったことができたらいいなって考えています。ライフィステージの変化に合わせ、幸せな働き方、生き方ができる社会になったらいい。誰と働くかも大事ですが、どこで働くかも重要なファクターです。そのためにもワーケーションが発展するためには企業や個人の意識改革が必要だと思います。
環境リサイクル分野では世界のリーディングカンパニーとして知られる日本環境設計さんとも話しているのですが、ニューノーマルという価値観でくくったときに、「この指とまれ」って人たちを集めていけるような、そういうプラットフォームを軸にしていきたい。私自身は釣りでもいいんですけど、サーフィンとかビーチクリーンとか、そういった同じ価値観の人たちを巻き込んで新しいことをやっていく人が増えていったらいいなと思います。

※日本環境設計株式会社
https://www.jeplan.co.jp/

文・鈴木涼太
写真・大井成義

倉富 喜久子(くらとみ きくこ) 一般社団法人ワーケーション協会
一般社団法人ワーケーション協会理事。株式会社内外出版社外部プロデユーサー。合同会社クラトミデザイン代表。鹿児島県出身。鹿児島大学卒業後、森永製菓株式会社入社。退職後、TV番組制作会社、ベンチャー系広告代理店、編集プロダクションで、TV番組、広告・出版物のディレクションや企画・編集・執筆などのキャリアを積む。出産後10年のブランクを経て復帰。2011年通販支援専門 の広告代理店・株式会社ファインドスターに入社。媒体の仕入れ交渉をメインに担当。2013年より夫が20年営んできたクラトミデザインの経営とマネジメントの仕事に。オウンドメディア構築の株式会社しんがりのパートナーとして、ニフティの住まいメディアの立ち上げなども行う。2018年5月に法人化「合同会社クラトミデザイン」を設立。
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