ワーケーションに必要な3つの条件は、コミュニケーション(交流)、エデュケーション(学び)、コントリビューション(貢献)【スマート会議術第171回】

ワーケーションに必要な3つの条件は、コミュニケーション(交流)、エデュケーション(学び)、コントリビューション(貢献)【スマート会議術第171回】三菱総合研究所 主席研究員 松田智生氏

テレワークを活用して、リゾート地などの地方に滞在しながら働くワーケーション。働き方改革の一環として国や自治体の間でも関心が高まり、2019年にはワーケーション自治体協議会が設立。観光庁は「ワーケーション」の普及・定着に向け、2021年度政府予算案に約5億円を計上した。

民間企業では三菱総合研究所が2017年に「逆参勤交代」という名の下、国に先駆けていち早く新たな働き方を提唱。江戸時代の参勤交代とは逆に、都市居住者が期間限定で滞在型テレワークをすれば関係人口が増え、地方創生も可能だという考え方だ。

出典:三菱総合研究所松田智生主席研究員

一方で、同社の主席研究員・松田智生氏は「豊かな自然のメリット訴求だけの誘致合戦は一過性のブームになりかねない」と警鐘を鳴らす。現状では残念ながらワーケーションに熱心なのはIT企業など一部の人たちで、限られたパイの争奪戦はメリットを生み出さない。課題は一般企業をどう動かすか。SDGs(持続可能な開発目標)の観点から地域貢献と結びつけるなど、脱・バケーション型の新たなワーケーションを打ち出さないと企業は動かない。

松田氏は、コミュニケーション(交流)、エデュケーション(学び)、コントリビューション(貢献)がワーケーションを実りあるものにするために必須の3つの条件だと言う。なぜコミュニケーション、エデュケーション、コントリビューションが新たなワーケーションが求められるのか。withコロナ時代のワーケーションへの期待と課題を松田氏に伺った。

目次

脱・バケーション型ワーケーションへ

――コロナ禍になってテレワークが急速に加速した一方で、国内の移動が制限され人の流れは抑えられています。そういう二律背反的な状況ですが、テレワークとワーケーショの両立は可能でしょうか。
テレワークは確かに浸透したと思います。在宅勤務、駅近やターミナル駅にあるサテライトオフィスなどの利用ですね。ただ、バケーション型のワーケーションについて言うと普及するかどうかの分岐点にあります。受け入れ側の自治体は盛り上がっているけれども、民間企業はそうではない。だからテレワークは一定の普及はしたけれども、ワーケーションはそうでもないということですね。
――テレワークの加速にともなってワーケーションの機運も高まるといった、相関関係はあまりないですか。
ある調査機関のレポートでは、ワーケーションに興味がある人は60%あるものの、実施しているのはわずか5%ということでした。
ワーケーションを実施しているのはあくまでも自由な働きかを許容できる一部の人で、フリーランス、ITベンチャー、意識の高い人のスモールボリュームで終わっているのが現状です。ワーケーションという発想が休暇や遊びをしながらの仕事という先入観があり、まだ受け入れられていない。真面目な会社ほど、就労管理や労災、情報漏えいに敏感なので、バケーションと仕事を絡めること自体に限界があるということです。
出典:三菱総合研究所松田智生主席研究員
――有給休暇の消化率も10%程度の低い状況を考えると、やはり意識改革は難しいでしょうか。
休暇とワーケーションを絡めるのでなく、休暇を取るなら中途半端でなくしっかり休むべきです。
――どのように理解を広めていけば脱バケーション型が可能になるのでしょうか。
脱・バケーション型のワーケーションの方向性は、まず地域とのコミュニケーション(交流)ですね。いまワーケーションで不評なのは、行った人だけがバーベキューをやって盛り上がって、地元の方が白けているという現状があるからです。コロナ危機が収束した際に、せっかく地域に行くなら、地域の人との交流がなければ、浅薄なリゾート体験と一緒でしょう。そして、エデュケーション(学び)。たとえば、北海道でワーケーションをしたら、行った町の歴史や課題や魅力などを学ばないと、わざわざ行く理由がありません。企業の新たな研修としてエデュケーション型のワーケーションは有望です。
あとはSDGsと絡めて地域に貢献するコントリビューション(貢献)。自分の専門性や経験、自社の商品やサービスで地域の課題解決に貢献することです。このようなコミュニケーション(交流)、エデュケーション(学び)、コントリビューション(貢献)という新たなワーケーションにすれば、企業のイノベーション(事業創発)につながります。それが逆参勤交代の本質です。
出典:三菱総合研究所松田智生主席研究員
――三菱総合研究所では逆参勤交代を提案していますが、これはあくまで一時的な、たとえば年間通して1カ月とか数カ月という考え方になるのでしょうか。
期間は週末の2泊3日のトライアル逆参勤交代から、1週間、数週間、数か月の多様なモデルがあります。移住は無理でも、実現可能解が、期間限定型のテレワークです。人口が減る日本では、都市と地方で人材の奪い合いをするのではなくて、共有することです。まずは短期で始めて中期、長期にすることを考えています。
――テレワークが進んでいくことで、たとえば採用でも、東京の会社が直接東京に来てもらうのではなくて、地方在住の方々をそのまま地方採用する形も進んでいきそうですね。
おっしゃる通りですね。これは企業にとっては多面的なメリットがあって、下図の右上に人材育成と書いていますが、人事部門からすると、新卒採用にプラスというのは、いま自由な働き方ができる会社がやはり人気を高める。あるいは故郷で離職せず育児したり、将来介護したり、本社は東京だけど故郷での在宅勤務というか、テレワークできるところが採用にプラスに働くということです。
出典:三菱総合研究所松田智生主席研究員
ただ、ワーケーションは相手によって投げるボールとストライクゾーンが違う。企業の採用担当の方には、新卒や中途採用へのメリットを訴求し、研修担当の方には、従来の座学の研修とは違った地域での新しい研修を訴求します。健康経営を考えると、大手企業の健保組合は約7割が赤字ですが、その理由は社員の高齢化やメンタルヘルスの不調などですが、逆参勤交代ワーケーションにより、リフレッシュやストレス軽減を先手を打って進めることで、健保組合の財政が改善されます。左上の働き方改革であれば、これにより働き方改革を実施し、大手銀行や総合商社が解禁を始めた副業兼業を後押しすることになります。
左下のビジネス強化では、ローカルイノベーションを標榜しながら手を打てていない企業が、ワーケーションによって地域の課題解決に参加し、ローカルイノベーションに貢献できるということです。そしてSDGsです。SDGsの8番(働きがいも経済成長も)と11番(住み続けられるまちづくりを)は、まさに逆参勤交代=ワーケーションと親和性が高いので、SDGsを意識した形にできるということです。いま、経営者が懸念しているのは、SDGsやESG(E:環境、S:社会、G:企業統治)の投資が集まらなくなって企業価値、株価が下がることです。社長や経営幹部の方にはSDGsを、人事部門には研修や採用を、経営企画部門や新規事業に対してはローカルイノベーションを訴えることが必要ですね。
出典:三菱総合研究所松田智生主席研究員
――メリットを考えればワーケーションを進めない理由はなさそうですね。
個人も、地域も、企業も三方一両得になると言っていいですね。首都圏と近畿圏に勤務する大企業従業員は約1000万人いますが、その1割の100万人が1カ月逆参勤交代すると、消費ベースで約1000億円の消費を生み出すことを試算しています。繰り返しになりますが、いまのワーケーションの課題はスモールボリュームで終わっていることです。大手町・丸の内・有楽町の就労人口は約28万人もいます。このマスボリュームを動かさないと市場は広がらず、社会も動きません。ワーケーションを一過性のブームで終わったプレミアムフライデーのようにしてはいけません。

データによるメリットの可視化

――ワーケーションになかなか踏み切れない企業のネックは何があるのでしょうか。
三菱総合研究所で、企業の経営幹部向けにアンケートを2年前に実施したのですが、逆参勤交代を実施したいという企業は、大企業を中心に約70%もありました。一方で実施にあたっての課題を問うたところ、費用対効果の明確化、移動交通費、IT整備、優秀な人材を行かせることの影響などが挙げられました。企業の経営幹部からすると、逆参勤交代をして、コストはどれだけかかるか、それに対してどんなメリットがあるのか、いくら儲かるのか? 社員のモチベーションが上がるのか、採用にプラスになるか、人材育成にプラスになのか、ということがデータやエビデンスで可視化されていない点です。つまり効果の見える化が必要です。
――可視化するのは難しいのでしょうか。
データをとることは可能です。たとえば下図に「2.費用対効果の明確化」とありますが、企業からすれば、参加者の血圧やストレスといった健康データや、モチベーションやリーダーシップの向上、離職率の低下、自社製品やサービスの売上など、多面的にデータを取り可視化することが可能です。
また地域の視点では、逆参勤交代による消費、雇用、税収などの経済波及効果です。
出典:三菱総合研究所松田智生主席研究員
――たとえば親の介護のために実家に戻る場合、いわゆるリゾート地ではなく、ただの過疎の小さな田舎町だったりすると、利便性やモチベーションとかいろいろ不安もあって、なかなか踏み切れないところもあったりしますよね。
いまおっしゃった介護離職は、年間約10万人もいます。育児離職は約100万人です。これは社会的な課題ですよね。離職せずに故郷でテレワークすることによって、介護離職や育児離職の社会的課題を解決できます。社会課題を解決することがワーケーションです。バケーション型のワーケーションではなく、コミュニケーション(交流)、エデュケーション(学び)、コントリビューション(貢献)ということだと思います。

メリット訴求から課題訴求へ

――たとえばオーストラリアやフランスではワーケーションがかなり普及していると聞きます。日本と比べて決定的な違い何なのでしょうか。
国民性でしょうね。アンケートで逆参勤交代やワーケーションの支障で多かったのが、「同僚への気兼ね」でした。自分ばかり楽しくて心苦しいというのは、日本人らしいですよね。
――有給休暇もとらないぐらいですからね。そのへんの意識改革から、というところが大きいですね。
そうですね。あとは受け入れ側の自治体の課題としてサテライトオフィスのハード面の整備に偏重しがちなのが問題です。「わが町のワーケーションとは一体何か」をしっかり考えないと、単なる施設の打ち出しになってしまう。「自然もあります、温泉もあります、食べものも美味しいです」というのは、どこも一緒ですよね。訴求すべきは人のプロモーションです、少なくともいままで逆参勤交代を経験して、その地に行く理由や再度訪問するというのは、「地域のあの人に会ってみたい」だとか、「頑張っているあの人を応援したい」ということです。だから自然やグルメのプロモーションじゃなく、人のプロモーションが大事だということです。
――メリット訴求じゃなくて、課題訴求にできていない点が地方の落とし穴なのかなと思いました。課題訴求が見られないのはなぜでしょうか。
移住政策と同じになっていることです。みんな、「わが町には自然があります、食事が美味しいです」と打ち出しますが、移住と違って逆参勤交代やワーケーションでは、ビジネスパーソンからすると、何か課題があったほうが、それを解決したい貢献欲求が高まるわけです。そして困っている人、頑張っている人は応援したくなります。
課題では、たとえば旅館の稼働率が閑散期と繁忙期で激しく違うので、どうやったら閑散期に稼働率を上げられるかとか、また廃校をどのように再活用するかということです。また、地元の特産品をもっと国内や海外に販路開拓するには、どうしたらいいかという課題に対して、営業マンや海外赴任した人などはいっぱいアイデアがあります。ビジネスパーソンはそっちのほうが燃えるわけです。
――受け入れる側の人的リソースの不足が課題としてあると思いますが、逆参勤交代でどんどん地方に人が流れていけば、自ずとそういうスキルやノウハウを持った人たちが増えてくると考えてよいのでしょうか。
そう思いますね。最初はやっぱり市役所や行政の方に、コーディネートを担ってもらう必要がありますが、それをきっかけに地元の経済団体やNPOとかが担い手になれる。あとは、行った人がいかに「じゃあ次は私がコンシェルジュやコーディネーターやりますよ」ということになれば、自律的に継続していくことになります。

リーダーシップのある人に予算はついてくる

出典:三菱総合研究所松田智生主席研究員
――北海道上士幌町の事例動画「丸の内プラチナ大学・逆参勤交代コース」は、まさに脱・バケーション型のワーケーションですよね。こういうことが実現できるのは自治体の首長のカリスマ性やリーダーシップに依存する印象がありますが、実情はどうなのでしょうか。
最初の発射台としては、首長のリーダーシップは必須だと思います。その求心力をもって、地元のNPOや志望者が集まって、第二段階は、だんだん民間に移譲することですけども、やはり首長は会社の社長と同じでリーダーシップは必要だと思います。
上士幌町の竹中町長は、リーダーシップに溢れた魅力的な人で、ふるさと納税を初期から積極的に導入し、いまふるさと納税は約20億円も集まり、国内トップクラスです。そしてふるさと納税の財源を活かして、子育てや就労や魅力ある街づくりの政策を推進しているので、上士幌町は人口が増えているんです。初期は町長や市長のリーダーシップが必要で、第二段階は地元のキーパーソンに移管していくことになります。
――首長がすごくリーダーシップを発揮できる人でも、予算がないからやりたくてもできないという現実はありませんか。
結論から言うと、リーダーシップのある人には予算も人もついてきますね。あとはいま、地方創生、ワーケーション、関係人口に関連した予算は潤沢にあります。だから予算がないというのは言い訳に過ぎません。また自治体の予算に依存するだけではなく、クラウドファンディングなどを活かし、地元企業や民間ベースで推進することも十分可能です。
――せっかく予算があってもただ箱だけをつくるだけでは意味がないということですよね。
その通りです。単なるサテライトオフィスのハード整備でなく、そこに集う人のライフスタイルの質を高めるソフトが重要です。あとは逆転の発想だと思います。「いい町です、来てください」の安売り合戦ではなく、あえてハードルを上げることです。たとえば、「わが町でワーケーションするためには、最低週数時間、地域のために就労したり、子どもの家庭教師をやったりしなければならない」という「あえてハードルを上げる戦略」が、行く人のやる気を高めるのだと思います。

文・鈴木涼太

松田 智生(まつだ ともお) 株式会社三菱総合研究所
株式会社三菱総合研究所 主席研究員・チーフプロデューサー。高知大学客員教授。慶應義塾大学法学部卒業。1991年三菱総合研究所入社。専門は地域活性化、アクティブシニア論。中央官庁、地方自治体、企業のアドバイザーを幅広く務める当該分野の第一人者。内閣府高齢社会フォーラム企画委員、政府日本版CCRC構想有識者会議委員、石川県ニッチトップ企業評価委員、山口県山口市地方創生アドバイザー、長崎県壱岐市政策顧問等を歴任。著書に『明るい逆参勤交代が日本を変える』、『日本版CCRCがわかる本』。

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