オンライン会議はいいことしかない【スマート会議術第174回】

オンライン会議はいいことしかない【スマート会議術第174回】園部牧場株式会社 代表取締役 園部浩司氏

会議をスムーズに進めて問題解決に導くスキルを教えるプロファシリテーターの園部浩司氏。会社員時代にファシリテーションスキルを身につけ、年間1000本以上の会議をこなし、1年間で約2億円の営業利益改善に貢献。最年少部長に抜擢された経歴をもつ。

ファシリテーション講座をはじめ、企画の立て方・通し方講座、自らがリーダー役となって受講生の能力を最大限に引き出すというユニークな講座で人気の講師でもある。

昨年10月には、園部氏が大企業に25年間勤め、試行錯誤の中で磨き上げられたノウハウを凝縮した『ゼロから学べる! ファシリテーション超技術』を上梓。今回は、同書をもとに問題解決の仕方、メンバーの意見の引き出し方、合意形成の仕方、上手なオンライン会議の進め方など、生産的な会議のやり方を園部氏に伺った。

目次

心理的安全性がないと人はしゃべらない

――会議でなかなか意見が出なかったり発言が少なかったりするときは、どうすれば議論が活発になると考えますか。
やはり心理的安全性がないと人はしゃべらないです。みんな意見が出ない原因は意見がないからと思いがちですがそうではありません。横柄なリーダーは「こいつは意見がない」と部下のことをバカにしています。意見は絶対にあるんですよ。心理的安全性が担保されていないので、「お前には教えてやるもんか」「この場で言うのはやめておこう」「他の誰かが言ってくれるだろう」というのがほとんどです。
心理的安全性を担保すれば意見が出てくるのはわかっているので、それをやればいいだけだと思います。だから意見が出ないのはメンバー側の問題ではありません。ファシリテーターの問題です。その際に順番に聞くのがポイントです。みんなに聞くとシーンとなるのは当然で、声の大きい人の演説が始まってしまう。僕は順番に聞くことを徹底しています。「皆さん」という言葉は絶対に使わない。「皆さんご意見はないですか」は絶対NGです。
――いつも同じ部署、同じメンツで会議をやったときに、発言する人、発言しない人が決まってきてしまうのは、ファシリテーターの責任ということですね。
メンバーのせいにしている時点で、ファシリテーターとしての努力を怠っていると思います。実は僕も昔はそういう気持ちでした。「こいつは意見を言わないな」と思っていたんですね。でも、それは僕が心理的安全性をつくる場を担保しなかっただけ。心理的安全性を確保してからは本当にみんなが話すようになったので、やっぱり僕に問題があったのだとすぐに気づきました。
――心理的安全性が確保されれば発言の質も高くなるのでしょうか。それとも質は問わず発言があること自体に意義があるのでしょうか。
質は問わなくていいと思います。また、どうしようもない意見が出てくるのは、その人の責任だとは思いません。そういう場合はだいたい質問が悪いです。質問が悪いから、とんちんかんな答えが返ってきてしまう。何を聞きたいかファシリテーターが明確にすれば、必ずいい答えが返ってきます。ピーター・ドラッカーも言っていますが「大事なのは答えじゃなくて問い」。いい質問を投げかけることは、ファシリテーターのすごく重要な役割と能力だと思います。
――いい質問、悪い質問の例があればお教えください。
やはり質問に質問が生まれるような問いは良くないですよね。「いまの質問はどういう意味ですか?」「経営会議っていうのは、何を、どこを指しているのですか?」などと聞かれたらアウトですよね。質問された人がどこの範囲の何を聞いているのか理解していない。
たとえば、こういう回答がほしいという例を2~3個挙げてもいいと思います。「会議で困っていることを、みんなちょっと教えてくれるかな」という問いがあったとしたら、「情報共有の会議ですか? 企画系の会議ですか? 何の会議の話題を聞いているんですか?」と聞かれたら、それは良くない質問です。
シチュエーションにもよりますが、「今回は企画会議でみんながイライラすることを教えて」のほうが良い問いかもしれないですよね。みんなが何を聞かれているか、シチュエーションやみんなの把握している情報、持っているものによっても変わるので、僕はそのときどきで最善の問いを考えるということを会議前に常にやっています。
――参加者の発言を生かすにはファシリテーターの振り方、質問の仕方にかかっていますね。
そうですね。僕はまずメンバーに恥をかかせてはいけないと思っています。メンバーが答えられないような質問をしない。「今回のこの件に関して、気になったこと、もっとこうなったらいいとか、何でもいいから感じたことを教えて」と、気持ちを聞きます。そうすると無理な正解を求めているわけではないから答えやすいですよね。「この3つの中で、これはなんとなくざわざわするんですよ」「ざわざわするんだ。そうなんだ。どのへんがするの?」と、まずは気持ちを吐き出してもらう。そういう感じだと答えやすい。とにかく答えやすい、正解・不正解がないような、恥をかかないような質問を心がけています。

アジェンダは会議のシナリオ

――著書では会議でのアジェンダ(議題)の重要性を強く提言していますが、なぜアジェンダはそれほど重要なのでしょうか。
アジェンダは会議のシナリオみたいなもので必ずゴールがあります。そのためにどういう議論をしなきゃいけないか、その議論にはこういう知見のある人がいないと成り立たないか、こういう意思決定者がいないと決まらないなど、ゴールに向けて必要な演者をきちんと招集しなければなりません。
シナリオと役割を持った人をクリアにするのがアジェンダなので、リーダーがしっかり設計して会議に臨まないと自由演技になってしまい何も決まらない。逆にしっかりしたアジェンダができればあとは演じてもらうだけですから、あっという間に決まりますよね。だからアジェンダがない会議はあり得ないです。そのぐらい大事なものだと思います。
会議を自分が演説する場にしか思っていないリーダーだと、自分の思いをぶちまけて、命令して、威圧的にメンバーに仕事をさせるスタイルになりますよね。そもそもメンバーの納得度を高めようという意識がない。
――昔はそれでも通用していたのでしょうね。
そうですね。昔は決まったモノを大量生産していれば売れる時代だったので、そのノウハウがあれば上から下に伝えていればよかった。どちらかというとトップダウン系のマネジメントが多かったかもしれません。
いまはいろいろ複雑すぎて、上の人だけで物事をすべて判断できるような時代ではありません。デジタルテクノロジーがこれだけ進歩して、若い人のほうが感度も高い。新しいサービスを生み出すにしても、上の人はそれまでやってきたやり方が抜けないから、「そんなのやる必要ない」「まだまだ紙が必要だ」と言ってしまう。
変化が激しい多様性の時代にトップダウンだけのマネジメントは厳しいと思います。自分の経験を活かしながらもみんなの意見をしっかり聞いてボトムアップ型で判断していくファシリテーターになっていかないと、なかなかうまくいかない気がします。いまは1on1ミーティングも含めて、しっかり部下の意見を聞いて背中を押すマネジメントスタイルが浸透してきているので、世の中が大きいうねりとして変わっていく気はします。

どちらか選べと言われたらオンラインを選ぶ

――園部さんは著書でオンラインでのコミュニケーションは、リアルをいかにオンラインで実現できるかがカギだとおっしゃっています。そのために特に気をつけていることはありますか。
僕はこの1年間でお客様のコンサルティングや研修など8~9割がオンラインに切り替わりました。いろいろな工夫を重ねた結果、いまはオンライン会議のほうが生産性は高いと実感しています。皆さん、まだリアルの対面でやりたがりますが、僕はどちらか選べと言われたらオンラインを選びます。
まず、オンラインのデメリットは音が途切れる、表情がよくわからないといった通信環境の問題があります。もう1つは話がかぶると聞こえない、1人ずつしか話せないからコミュニケーションが取りにくいという点です。でも、そういったデメリットは簡単に打ち消せると思っています。
まず通信環境はWi-Fiを強化すれば済みます。普通に100MbpsぐらいあればZoomやMicrosoft Teamsで落ちることはないです。画面映りに関してもカメラの角度や位置に気を遣って、ちょっといいマイクやリングライトを使ってなるべくリアルな声と顔色になるように工夫するだけで、十分対面と同じぐらいのニュアンスが届けられると思います。これが逆光で画面が真っ暗だったりとか、音声が途切れ途切れだったりすると困りますが、ちょっと工夫すればリアルとほとんど差がないレベルまでできると思います。
話がかぶって聞きづらいという問題点は、ファシリテーターが「この点に関して○○さんからお願いします」「じゃあ○○さんからお願いします」とちゃんと仕切れば、話がかぶることはないです。顔を出せば表情も全部捉えられる。あとはメリットでいえば、画面共有ができるのは大きいですね。
リアルの会議でプロジェクターで投影すると、スクリーンが薄かったり、字が小さくてよく見えなかったりすることもありますが、モニターに共有されれば全員が平等にきっちりと見える。すぐ必要な資料にも切り替えられる。ポストイットを使ったKJ法も全部チャットに書いてできる。チャット使うと意見もガンガン出てくるし、それをあとですぐにExcelでまとめることもできる。そういった意味でも会議中に情報を集める、整理するのがすごく速くなったんですね。移動時間も当然ないし、録画もできるので議事録も細かくとらなくていい。いいこと尽くしですよ(笑)。
――1年前の緊急事態宣言のときは多くの企業がテレワークをやりましたが、今年はやらなくなった企業が増えています。テレワークの弊害として、コミュニケーションが取りづらくなったという声が圧倒的に多いようです。根本的な原因はどのようなところにあると考えますか。
もともとコミュニケーションの能力が低いということだと思います。だから対面を使わないとコミュニケーションがとれない。ファシリテーションもコミュニケーションに含まれますが、コミュニケーションは人と人が意思疎通する、感情を理解し合うことですよね。
「メラビアンの法則」によれば、人は言葉以上に視覚と聴覚で情報を収集して判断するということなので、オンラインで画面をオフにして議論をしてもうまくいくわけがありません。身振り手振りを使って意思疎通をしているのですから。そういうことも知らないで、オンラインはダメだってなってしまっているんですよ。
せっかくあるテクノロジーを使わないのは、ただの知識不足、能力不足、努力不足だと思います。手っ取り早く昔のやり方に戻してしまうのはすごく安易な考えです。なぜコミュニケーションがうまくいかないのかしっかり突き詰めて考えていくと、顔を出さないとか、音声が途切れるとか、本当に単純なことだったりするので、そこを全部クリアしたら全然問題ないと思います。
オンラインはコミュニケーションがとりにくいと言っている人は、リアルでもコミュニケーションがとれていないと思いますよ(笑)。あと雑談ができなくなったからアイデアが出しにくくなったというのも言い訳です。本当にそうであれば雑談をしようとアクションを起こせばいいだけです。いままではタバコ部屋があったというなら、Zoomでタバコ部屋をつくればいい。みんなでタバコを吸いながらやればいい。要はそういう知恵が足りないだけで、全部言い訳だと感じています。
オンラインになることで会議自体の生産性は上がるし、フロア代はかからないし、移動時間もかからない。出張してきてもらう必要もないし、通信費はちょっとかかるけどたかが知れています。いいことしかない気がしますね。
対面ですらうまくいってないのに、さらにテクノロジーの操作の問題とか、顔を出さないとかの問題も重なったので、すごくオンライン会議が悪者みたいになって、うまくいかないってなっていますが、そもそも対面でうまくできていないことから考えてもらえれば、乗り越えられない壁ではないと思います。

メラビアンの法則*
1971年にカリフォルニア大学ロサンゼルス校の心理学名誉教授であったアルバート・メラビアンによって発表された法則。情報が相手に与える影響は、「言語:7% 聴覚:38% 視覚:55%」とされている。

文・鈴木涼太

園部 浩司(そのべ こうじ)園部牧場株式会社
園部牧場株式会社代表取締役社長。プロファシリテーター。1991年、NECマネジメントパートナーに入社。300名在籍の組織変革プロジェクトリーダーをつとめ、年間1000本以上の会議をこなし、1年間で約2億円の営業利益の改善に導く。業務改革推進本部では、最年少部長に抜擢される。2016年に独立し、人材育成や組織改革、風土改革のコンサルティングを行う「園部牧場」を設立。ベンチャーから大手企業までの会議を仕切るほか、年間2500人以上のファシリテーターの育成に携わる。営業活動はSNSなどを一切使わず口コミのみだが、数年先まで仕事の依頼が埋まっている。これまでに指導した人数は、延べ6600人以上になる。

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