「いい会議」の3つの条件【スマート会議術第173回】

「いい会議」の3つの条件【スマート会議術第173回】園部牧場株式会社 代表取締役 園部浩司氏

ベンチャーから大手企業まで数多くの会議を仕切り、これまでに延べ6600人以上を指導してきたプロファシリテーターの園部浩司氏。昨年10月には自らの経験で培ったノウハウを一冊にまとめた『ゼロから学べる! ファシリテーション超技術』を上梓。テレワーク時代のオンライン会議のノウハウについても書かれた本書はいまや4刷りのベストセラーとなっている。

会議やファシリテーションのコンサルティングを提供する会社は珍しくないが、園部氏率いる園部牧場は年間2500人のファシリテーターを育成しているユニークな存在でもある。

コロナ禍で在宅勤務が推奨されるものの、なかなか定着しないテレワーク。日々のオンライン会議に戸惑う人も多い昨今、コミュニケーションや会議をどのように改善していくべきなのかを園部氏に伺った。

目次

リーダーがファシリテーションをやる理由

――世の中のファシリテーションに対する認識や姿勢はどのように変わってきたと感じていますか。
昔は決められた仕事をしっかり正確に大量にこなしていくというルーチンワークが多かったので、いまほど会議は多くなかったと感じます。企画を考えるのは一部の管理職だけだったのが、いまは新入社員でも企画に携わる人が圧倒的に増えてきたと思います。会議の量も爆発的に増えて、会議室がいつも足りないという印象は強く受けていましたね。
いまは誰もが問題を解決する役割を担うようになってきたので、ファシリテーションはみんなが身につけるべきスキルだと感じています。
――園部さんご自身は経理から経営企画部門へ異動されて会議が増えたということですが、自らファシリテーションを勉強しようと思ったのはなぜですか。
35歳くらいのときにだんだんプロジェクトリーダーを任されるようになって、見よう見まねでやるのですが、いざ自分がリーダーとしてやってみるといい会議ができていなかったなと思いました。会議で「こう決めたから、こうやって、ああやって」と、指揮・命令ばかりだったんです。そうするとだいたいチームが崩壊して、あとで文句を言われる。何がいけないのかを考えると、やはりメンバーの声をしっかり聞けていなかった。そういう体験を通じて「メンバーの声をちゃんと聞きながら合意形成を進めていかなきゃいけないな」と思い、どうすればいいのかを常に考えてきました。
最初はどういうスキルがあるかわからなかったので、会社にいろいろな研修に行かせてもらいました。そのとき、たまたまファシリテーションを学んでいるという人に出会って、そういうスキルがあることを知って、本を読んだり、セミナーに出たりして、ファシリテーションのスキルを吸収していきました。
――いざ自分で会議をやるとなると、頭で理解しただけではなかなか実践できないと思います。どのようにして習得していったのでしょうか。
そうですね。僕は立場や仕事柄、日常的に会議が山ほどあったので、勉強したことを片っ端から試していきました。最終的に研ぎ澄まされて生き残ったスキルが、今回本にした内容です。僕はチャレンジして失敗することに何の抵抗もなかったので、本に書いてあることやセミナーで学んだことをガンガン試していきました。「うまくいった・いかなかった」というのを自覚しながらやっているので、車の運転と一緒ですね。ガンガン回せばあっという間に上達するとわかったので、すぐに上達しました。
――著書ではファシリテーションはできるならリーダー格の人がやるべきだと書かれていました。ローテーションでみんながやったほうがいいという考え方もあると思いますが、なぜリーダーがやるべきだと考えるのでしょうか。
明確な理由が1つあります。会議で何を決めたいかとか、どういうディスカッションをしたいかというのはリーダーが常に考える立場なので、そういう立場のリーダーが会議を設計するのが大原則だと、僕は思っています。
それをきちんと設計できる人が右腕としてファシリテーターをできるなら任せてもいいと思いますが、普通はリソースにそんな余裕はないし、忙しい現場では一緒に打ち合わせする時間もなかなか取れない。効率の意味ではリーダーがアジェンダをつくって進行するのが一番いいと思います。
ただし、リーダーがファシリテーターをやると意見がリーダーに寄せられやすいという懸念点はあります。そこはリーダーが中立性を軸としてみんなの意見を率直に聞かせてほしいという態度を実践しなければなりません。自分の意見は単なる一意見という、リーダーの意見ではなくメンバーの一意見として出すことを徹底すれば、それほど難しくないと思います。正しい・正しくないよりは、メンバーを議論に参加させてメンバーの意見で決める。そこさえブレなければ、そんなに問題にはならないと思います。
――部長や役員クラスの上に立つ人がファシリテーターになるときに、いままでのやり方を変えることはなかなか難しいと思いますが、どうすれば変えてもらえますか。
たとえばプロジェクトが立ち上がったときに会議に僕がファシリテーターとして入るとします。実際に僕が会議のアジェンダの設計から進行までやります。いろいろなことを決めていかなきゃいけないときにも、もちろんお客様のリーダーと話し合いながら進めます。そうすることで、短時間でみんなから意見が聞けて、しっかり決まると体感させられるので、いかに自分たちが横暴な会議をやっていたのかに気づいてもらえますね。
まず見てもらう、体験してもらう。問題解決の仕方や会議の進め方を知っていれば、これだけ効率良く回せるということをデモとして何回か見せることは多いですね。それで興味を持ってもらったら、「僕が何をやっているのか体系的にまとめたものがあるので、2時間半ぐらいの研修でできます」という感じで、いかにイケてないところがあるのかに気づいてもらいます。
――概念的、教科書的な理屈を頭に詰め込むよりも、体感したほうが早いわけですね。
そうですね。実際いくら研修とか本に書いてある話を一生懸命しても、体感しないとわからないことも多いと思います。車も自分で運転して初めて「ああ、こんなにスピード出るんだ」「こんなスピードでコーナーを曲がれるんだ」って感じることだと思うので、まずは体感していただくことは効果的だと思っています。その場の登場人物に合わせて臨機応変に変えながら目的地に向かうという意味では、車の運転とまったく一緒かなと思います。

みんな議論の順番を忘れている

――著書の冒頭に問題解決のフレームワークについて書かれていましたが、改めて「問題発見から分析、問題解決策の確定、計画を実行する」までの流れをご説明いただけますか。
フレームワークはよく研修で説明するのですが、みんなそれぞれの議論はちゃんとしているんですよ。解決策の話し合いもしているし、原因の話し合いもする。現状の話もするし、あるべき姿の話もする。でも1つだけ違うのは、議論の順番がめちゃくちゃなことなんです。
皆さん、問題のベクトルをちゃんと揃える前に解決策の話ばかりをするんです。現状だって見えている世界はみんなそれぞれ違います。「職場の雰囲気が悪いよな~」と言っても、「すごく悪い」と思っている人もいれば、「いいんじゃないの?そんなに悪くないよ」と思っている人もいるので、そういうところから丁寧に揃えなければならない。あるべき姿も「こういう状態がいい」というのは人によって千差万別です。
そういう問題をちゃんと可視化するのが会議の目的なので、まずは現状とあるべき姿を立体的に捉えます。問題には必ずいろいろな原因が絡み合っているので、捉えたあとにちゃんと可視化する。根幹となる原因、枝葉の原因。そこに優劣をつけて、根幹を叩き潰すことがベースだと思います。
そういうことを順番に「現状はこうだよね」「あるべき姿はこうだよね」と、「みんな意識は揃っているよね」「解決策を洗い出してどれが効果的なのか」という議論を1つひとつベクトルを揃えながらやることが、解決策の腹落ちになる。これをリードするのがファシリテーターの役割であって、リーダーはそこを絶対に混ぜないように注意します。
――会議は大きく問題解決、情報共有、企画立案に分けられると思いますが、会議でこれらがちゃんぽんになるケースがすごく多いと感じます。
それもありますよね。会議の種類と目的を押さえたうえで、情報共有なら情報共有だけをすればいい。でも情報共有をしているうちに、「これ問題だよね」と言って問題解決の会議が急に生まれてきたりするので、そこはアジェンダをしっかりセットしておかないと、いくら時間があっても足りません。問題解決のどの話をするのか、それとも情報共有の会議なのかを、アジェンダをつくる主催者がしっかり組み立てておかないといけないですね。
――ブレスト会議にも、順番や段取りはあるのですか。
ブレストは問題解決の会議の中の解決案を出す一部なんです。だからブレストは会議というよりも、問題解決の会議の解決策を出すときの手法です。現状の洗い出しもブレストです。「現状はどう見えているか」「世の中の社会的課題にはどういうものがあるか、みんなでありったけ出してみよう」というのもブレストです。アイデアを出すことがほぼブレストで、どのターンでも基本的にブレストは意見を出す手法になるかと思います。
――全体のフレームワークの中で、ブレストの時間があるという捉え方ですね。
そうです。解決策の出し方はブレストの手法を使ってやろう、ということですね。現状把握するときの手法は、ブレストを使って現状を洗い出して整理するとか。KJ法を使うかもしれないし、ブレストかもしれない。どちらも意見を出して整理する手法の1つでしかないので、どこの場面でその手法を使うかという組み合わせです。

重要なのは正解よりも納得度

――先ほど、会議が爆発的に増えてきているとおっしゃいましたが、時間という点ではどうですか。働き方改革で時短が叫ばれていますが、会議も時間が短くなればいいのでしょうか。
「いい会議」には以下の3つの条件があります。
1. 時間が短いこと
2. 質が担保されること
3. みんなが納得すること
短い時間で質の高いものを決めるのは、実は経験があれば会議をやらなくてもできるんですよ。でも、リーダーが「こういう感じでやったことがあるから、これはこのやり方で、この方向でいこう。じゃああとはやっといて」となったら、メンバーはやらされ感が満載になっちゃうわけです。正しい答えが短い時間で出ている可能性はありますが、メンバーが議論に参加しないで全然意見を聞いてもらえなかったり、却下されたりして、リーダーが全部決めていたら納得しないので、たぶん会議を解散したあとに実行しない。やらないか、後回しになるか、やっても適当になる。
いい会議は時間通りに決まって、質が担保され、みんなが納得してくれる、この3点を揃えるゲームだと僕は思っています。暴君のように決めるのはうまくいかないんです。
――みんなの意見をなるべく取り入れようとすると最大公約数を採決してしまうというジレンマもあります。どのように調整していけばいいですか。
合意形成のテクニックになると思いますが、アイデアが10個出たときに、採用できるのは基本的に1個ですよね。じゃあどれにするというときに僕がシンプルにやっているのは、まず感覚でどれが一番効果が高そうか、どれが一番すぐにできて、イケてる解決案だと思うか、1人2票ぐらい投票してもらって、一度アタリをつけます。それでどれだと思うかを言ってもらいます。今度はその人がなぜそう思ったか、その理由を聞きます。
「だから○○さんは、これだと思ったんだ。じゃあ○○さんは?」と、ぐるぐる回して、「みんなの意見を聞いたうえで、さらに感じることがあれば教えて」と聞き続けます。そうすると3個ぐらいまでに絞れる。
でもどれか1個に決めるとなると難しいよねっていうのが、多くの会議のパターンだと思います。3個まで絞ったけど一長一短あるよねって話になったときに、最後はリーダーが決めればいい。甲乙つけがたいのであれば、どれになっても文句は出ません。丁寧に仕掛けるのであれば、「この3つの中で、これに決まったら絶対嫌だっていうのがもしあれば教えて」と伝えておくこともあります。ちゃんとみんなの意見を聞いてアタリをつけて、最後はリーダーが決めます。
そういうやり方をすれば、単純に多数決で決めることも最大公約数になることもありません。みんなが自分の意見を言いつつ、ちゃんと絞り込まれて、最後にどうしようもなくなったときにはリーダーが決めてくれるというやり方が、納得度を高めつつ時間内に収められるやり方かなと思います。
――現状は、納得度を高めるところが一番おざなりになっていることが多い気がします。
いろいろな研究結果を調べたら、納得度というのはやはり自分の意見が入っているかどうかがとても大事だということがわかっています。正しい・正しくないはあまり関係ないんですよ。ちゃんと議論に参加できた、自分はこの仕事に貢献できている、この人は自分の意見を受け入れてくれたうえで決めてくれているかが納得度の正体なんです。そういう意味でも積極的に話してもらうことはすごく大事だと思います。
きれいな正解を出すよりも、正解、不正解かどうかはわからないけど納得度が高い状態で決めたほうが、あとでみんなが自分ゴトになって、モチベーションが高い状態でちゃんと料理してくれるんですよ。なので、そこまで連れていければ、ほとんどの仕事はうまくいきます。
あと、他人の意見を聞いてくれる人のことを、人は信頼したり好きになったりすることもわかっています。だから否定の言葉は絶対に使わない。自分と違う考えがあっても「あぁ、そういう考えもあるよね」と笑顔で受け止める。安全安心の場、心理的安全性を担保するのもファシリテーターの役割なので、否定する言葉は使わないことです。

文・鈴木涼太

園部 浩司(そのべ こうじ)園部牧場株式会社
園部牧場株式会社代表取締役社長。プロファシリテーター。1991年、NECマネジメントパートナーに入社。300名在籍の組織変革プロジェクトリーダーをつとめ、年間1000本以上の会議をこなし、1年間で約2億円の営業利益の改善に導く。業務改革推進本部では、最年少部長に抜擢される。2016年に独立し、人材育成や組織改革、風土改革のコンサルティングを行う「園部牧場」を設立。ベンチャーから大手企業までの会議を仕切るほか、年間2500人以上のファシリテーターの育成に携わる。営業活動はSNSなどを一切使わず口コミのみだが、数年先まで仕事の依頼が埋まっている。これまでに指導した人数は、延べ6600人以上になる。
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