絵で思いを伝えていた数千年前を見直してもいい【スマート会議術第180回】

絵で思いを伝えていた数千年前を見直してもいい【スマート会議術第180回】グラフィックファシリテーション協会 代表理事 山田夏子氏

さまざまな企業で、グラフィックファシリテーションを取り入れた会議やワークショップをファシリテーションする山田夏子氏。グラフィックファシリテーションと一言で言っても、人材育成から組織開発、チームビルディングまで、その役割の幅は広い。いわゆる“記録係”とは違う。

「合意形成をちゃんととっていくためには、一人ひとりが主張していることの背景までを理解し合ったうえで決めるという対話の次元に深めていかないといけない」

それが山田氏の考えるグラフィックファシリテーションの基本的な考え方である。ではなぜ相互理解のために、グラフィック(絵)が必要になってくるのだろか。

山田氏はグラフィック(絵)が求められる時代背景をこう説明する。

「現代は言語が記号としてしかやりとりがされなくなっている気がします。感じること、思っていること、想像していることを絵で見える化するということは、言語よりももっと原始的なものだと思うんですよね」

それはまるで人類がコミュニケーションの手段として使っていた絵が、文字へと変化していった数千年前への原点回帰のようでもある。

価値観が多様化、複雑化し、先が見えない不確実な時代だからこそ、私たちはコミュニケーションの原点に立ち返るときなのかもしれない――グラフィックファシリテーションはそんなことを考えさせてくれる。

グラフィックファシリテーションを使い、日本随一のファシリテーターとして活躍する山田氏に、グラフィックファシリテーションの役割、そしてコミュニケーションの場としての会議のあり方についてお話を伺った。

目次

グラフィックファシリテーションの考え方が会議を変える

――企業が山田さんにグラフィックファシリテーションを依頼するとき、どんなことが一番期待されているのですか。
ケースバイケースですが、具体的にグラフィックファシリテーションを教えてくれというより、そこに至る前段階のほうが多いです。会社の雰囲気が良くないとか、最近部下の心が離れているかもしれないとか、いろいろな切り口からご相談をいただくので、必ずしも入り口がグラフィックファシリテーションということではないです。私はもともと人材育成やコーチングを専門にしてきたので、組織の風土改革とかを切り口にご相談いただく場合が多いですね。
――その中の一手法として、グラフィックファシリテーションも使えるので導入してみてはどうか、という流れになるのでしょうか。
もう少し大きいスコープの話をすると、日本の組織の多くが、トップダウンであることでうまくいっているところと、うまくいっていないところがあると思うんです。
わかりやすい例で言うと、ある会社で何かの不祥事や不正が起きてしまったとします。じゃあ不正を起こさないようにルールを厳しくすれば、不正はなくなるのか?と言ったら、そういう問題ではありません。なぜ不正が起きてしまったのか?不正をせざるを得なかった、その組織の背景、体質や風土に問題がある場合が多いのです。
そういった組織の根本にある問題に取り組んでいかない限り、不祥事や不正以外でも、過労死だったり長時間労働だったり、パワハラだったりという別の形で、会社の風土がいまの時代の中で健全に働いていないことをシグナルとして知らせてきます。「常に正しくあるべき」「絶対にミスがあってはならない!」と、ものすごく気を張りながら仕事をしている企業の人たちは、とても真面目に業務を遂行しようと頑張っています。「失敗があってはならない!」という雰囲気や意識が職場に蔓延していると、ミスが起きてしまったときに、ミスが小さなうちに正直に言えなかったり、過ちを認めることができず、その積み重ねが不祥事や不正の種になってしまうのです。もしも組織の中に、失敗を受容する文化があれば、小さなミスの段階で対応できていたかもしれません。
こういう組織の中で当たり前になってしまっている思い込みに組織全体が改めて気づくには、トップダウンのような一方向からの考え方に凝り固めるのではなく、ボトムアップを混ぜて、さまざまな視点から自分たちを客観的に捉えられる必要があります。ボトムアップをしていくためには、普段の会議で合意形成していくときにトップダウンではなく、若手の声もちゃんと混ぜていく文化がつくれないと変えていくのは難しいんですよね。
私はそうやって会議の文化を変えようというグラフィックファシリテーションを皆さんにお伝えしてきています。グラフィックファシリテーションができる人を社内に育てていく感覚というより、会議のあり方をいま一度考え直しましょうということです。グラフィックファシリテーションの考え方自体が、会議の考え方自体を変えているんですよね。
いままでは上の人の言うことが正しくて、経験豊富で優秀な人の言うことをみんなが真似して、横展開で同じことをやっていれば成功できる時代が長かった。だけど時代の大きな変化の中で、上の人の言うことが必ずしも正解かどうかはもうわからなくなってきている。
多様な人の多様な意見をテーブルに上げて、会社にとって一番いい決断は何かということを、もっとフラットに考えられる会議のあり方をつくっていかないと決断がどんどん難しい方向にいきます。合意形成をちゃんととっていくためには、一人ひとりが主張していることの背景までを理解し合ったうえで決めるという対話の次元に深めていかないといけないと思っています。

『グラフィックファシリテーションの教科書』

絵の上手さより強い思い

――企業には自分たちでもグラフィックファシリテーションができるようにアドバイスもされているのですか。
はい。自分たちでグラフィックファシリテーションができるようになるのもそうですし、その前段階としてグラフィックファシリテーションの考え方を理解してもらうことを大切にしています。会議で実際に絵を描くかどうかはともかく、その人自身が丁寧にこの場の話を聞いて、主体的な合意形成をつくるにはどうしたらいいかを理解しておくというのは、会議でものすごく大切なことなんです。
グラフィックファシリテーションを企業の研修として行う場合は、描けるようになるというアウトプットまでを必須にするというよりは、実際に会議がどうなったらいいのかとか、それにはファシリテーターやこの場をまわす人が、どういう心持ちでその場をホールドしたり進行していったりする必要があるのかを学んでもらうことを中心にしています。
――絵心ある人がやる、ということではなく、その前の段階のファシリテーションのやり方というところを絵で具現化するくらいのイメージですね。
そうです。絵が上手い人が「上手でしょ!」って描く絵って、往々にしてキャラクターのスタンプみたいになっていくんですね。そうするとリアリティーがないんですよ。それよりも、その会議をどうにかしたい、この組織をどうにかしたいという思いがある人が描く絵のほうが、場に染みるんですよ。上手い人が描くというよりは、この場をどうにかしたくて、「君の意見をいま受け取ったよ!」って一生懸命描こうとしている姿のほうが人の心や場を動かす気がしています。
子どもの絵がすごく生き生きして心に響くのは、その子が他の人が見たらどう思われるだろうかなんて考えずに描いているからだと思うんですよね。
絵は、本来は言葉ができるもっと昔からあるもので、アルファベットのAだって、形の由来はもともとは牛の頭なんですよね。アルファベットが誕生した3500年ぐらい前に人間にとって一番大切だったのは牛だったから、一緒に畑を耕してくれたり、血肉になってくれたり、ミルクをくれたり、牛が人間が生きていくうえでなくてはならないものだったからこそ、牛の頭をアルファベットのAの形として置いているんですよ。
現代はそういう思いが形骸化されて、言語が記号としてしかやりとりがされなくなっている気がします。感じること、思っていること、想像していることを絵で見える化するということは、言語よりももっと原始的なものだと思うんですよね。

purpose(目的)を紡いでいくのが、グラフィックファシリテーションの役割

――他者に説得したり納得してもらったりするスキルがなくて悩む人も多いと思います。「どうせ言ってもうまく説得できない」「すぐ否定されてしまう」と。そんな人たちにとってグラフィックファシリテーションはどんな役割を果たしますか。
まず、物事をすっきりさせることはそんなに重要じゃないと思っています。「これどういうこと?」ってモヤモヤしたり、納得しない中で潜っていくんだと思うんですよ。グラフィックファシリテーションは、そういう立ち止まって自分の胸に手を当てて「自分はどう思うかな?」と考えるきっかけのツールだと思います。
競争社会の中で、物事を速く決めなきゃとか、すっきりさせなきゃとか、結果や成果を出さなきゃとか焦るところを、いま一度立ち止まって「自分たちはなぜこれをやっているのか?」という大事な感覚を取り戻すために描いている感覚があって、そこが一番伝えたいことですね。
縦割りの自分の与えられている仕事の範囲の中で何かを決めていくというよりは、もっと一人ひとりが会社のことを自分ゴト化していけるといい気がしています。みんながざっくりと大きく会社のことを自分ゴト化できると判断基準がみんなで握れると思うんです。
そうすればたくさんの細かい会議で「どうする?」ということもなくなってくる。何のために会議をするのかというテーマ設定はものすごく大事なので、そこをどれだけ大きく捉えられるか。全員が自分ゴトとして捉えられるか。グラフィックファシリテーションを通してそんなところがやれるといいかなって思います。
――多様性が叫ばれる中、特に世代間のギャップは大きな課題だと思いますが、今後どんなことを意識していけばよいでしょうか。
世代間ギャップは多くの企業さんに相談を受けるのですが、上の人たちはなぜこれをやる必要があるのかというところよりは、言われたことをちゃんとやるということを大事にしている人たちが多い。だから「とにかくこれをやるんだ」としか言わない。
要はpurpose(目的)をあまり考えなくても、役割や責任を果たすところで一生懸命頑張ろうとするんですよね。逆に若い人たちは「なんでこれをやる必要があるの?」とか、「自分がここで仕事をするってどういう市場価値があるんですか?」ということを大事にしているので、purposeが見えていないと腑に落ちないんです。
SNS世代の若い人たちは人との関係性にあまり深入りしたがらないので、質問することすら言い出せないのだと思います。世代間ギャップは、「purposeは一体何なのか?」という橋をかけていかないと埋まらないと思います。
たとえば会議で話される内容にしても、「なぜこれをする必要があるのか?」というpurposeの部分を紡いでいくのが、グラフィックファシリテーションの一番の役割ですね。なぜグラフィックなのかという点で言うと、言語レベルのファシリテーションに限界が来ているということです。言葉の層の問題だったり、ハイコンテクストだったり、言葉にしない美学みたいなところが、悪い影響を与えてしまっている。
――人類がアルファベットを生む前に原点回帰する時代ということですね。
はい。いま一度、人類が絵で思いを伝えていた時代を見直してもいい気はしています(笑)。

文・鈴木涼太

山田 夏子(やまだ なつこ) 株式会社しごと総合研究所
一般社団法人グラフィックファシリテーション協会代表理事、システムコーチ/クリエイティブ・ファシリテーター。武蔵野美術大学造形学部卒。クリエイターの養成学校を運営する株式会社バンタンにて、スクールディレクター、各校館長を歴任し、その後、人事部教育責任者として社員、講師教育、人事制度改革に従事。さらに、同社にて人材ビジネス部門の立ち上げ、キャリアカウンセラー、スキルUPトレーナーとして社内外にて活動。その後独立し、2008年に株式会社しごと総合研究所を設立。人と人との関係性が、個人の能力発揮に大きな影響を与えていることを教育経験から実感し、グラフィック・ファシリテーションやシステム・コーチング®を使った組織開発やチームビルディング事業を展開している。著書に『グラフィックファシリテーションの教科書』、監修に『場から未来を描き出す――対話を育む「スクライビング」5つの実践』がある。

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