一番理想的なのは、会議がない状況です。【スマート会議術第23回】

一番理想的なのは、会議がない状況です。【スマート会議術第23回】株式会社リプロエージェント 代表取締役 勝部 元気 氏

評論家、社会起業家として活躍する勝部元気氏。また、働く女性の健康啓発事業を行うソーシャルベンチャー・株式会社リプロエージェントの代表も務める。

71個の資格を取得する“資格マニア”の顔ももち、まさにドラマ『ハケンの品格』を地でいく、仕事のプロフェッショナルだ。

会社員時代に始めたブログが話題を呼び、以後、ジェンダー論を軸に教育、労働、人権、組織論までさまざまなジャンルで活動の場を広げる。

働き方改革や労働生産性の低さについて問われている昨今、日本の企業経営はどこへ向かおうとしているのか。企業研修会や講演も数多くこなす勝部氏が見た、日本の会議、ひいては企業文化はどのように映っているのか。その社会構造が抱える課題について語ってもらった。

目次

ムダな会議の元凶は、権限移譲ができていないこと

――あるアンケート調査で、約7割の人がムダな会議が多いと感じているという結果がありました。何が問題だと考えますか。
それは意思決定の権限が移譲されていないのが問題だと感じています。極論すれば、会議がない状況が一番理想なんです。たとえば、AI(人工知能)が全部解析してくれて、情報の共有も意思決定も勝手にやってくれる状況が理想なんです。今は組織の中で人と人はすり合わせをしないといけないから、会議が必要になる。ムダな会議をなるべく少なくしていくと考えると、個々がある程度自立して、自分で情報をもっていて、意思決定する権限があるという状況が好ましいと思っています。
ところが、決定権限を下に与えないことが非常に多い。だから「報連相をしろ」ってことが生じる。やったことをいちいち上司に報告、連絡をしないといけない。部下の判断能力を鍛えるためにする相談はいいと思うんですけど。
つまり上司がいないと部下が動けない。他の部署との会議をするときも、社内調整をしなきゃいけない。そこに利害関係者や意思決定をする人たちがたくさんいるから、社内調整をやらなきゃいけないわけです。それが自分たちでポンポン進められれば、本当は会議は必要ないんです。
組織全体として、意思決定権を下にどんどん移譲できていないから、ムダな会議が生じていると思います。
――上司は「経験のないお前らに任せるのは心配だから」という意味で、上に立っているわけですよね。
もちろん上に立つ人は、責任を取らなきゃいけない立場です。でも、それ以前に育てていないんですよね。部下の経験がないままなのは上司の責任で、経験がないのだったら一人でやれるような状態まで引き上げるのが上司の仕事じゃないかなと。
ちゃんと下を育てられる組織は、どんどん下に仕事を振って、上司は部下からフリーになって、新しい仕事をつくっていくという流れができているんです。
ムダと思わせる会議をしている会社は、その流れを自分たちで止めちゃっていると思います。下に経験がない状態をそのまま放置してしまっている。経験を積ませれば、上司は「後は俺が責任をもつ」と自信をもって言える。でも、何もやらせていないから責任がもてない。
――会社組織としては、もっとトライ&エラーで経験を積ませるべきだと。
失敗の程度にもよりますが、「これくらいなら大丈夫」というところでたくさんトライさせないと、育たない。部下を単純に監督するような立場になっている上司も少なくないのでは。
部下が想定外の大きな失敗をせずに、チャレンジが続けられるような環境って何なのかをずっと見ていかないといけない。経験を積めば、部下がどこで失敗するのかがわかってくると思うので。上司がどれだけマネージャーとして成長できるかにかかってくると思います。
これは中間管理職の話に限らず、日本の全体、会社組織全体でも言えることです。後継者問題で廃業危機に陥る中小企業もそうですが、マネージャーが下をどう上に引き上げるかという仕組みづくりを経営者の仕事としてやってこなかった会社が多いなと思います。

会議が多いのは、“やばい会社”の兆候

――会議の数が多い会社についてはどう考えますか。
社内の会議がすごく多いのは、“やばい会社”の兆候の気がします。最近はオープンイノベーションも増え、社外との接点も増えています。それが、社内調整に奔走しているのはジリ貧というか、イノベートが生まれないですよね。会社の中から、生まれても潰れちゃう。
――会議が多い会社ほど“やばい会社”のサインというのは、具体的にどんな状況ですか。
繰り返しになりますが、1つは意思決定権の問題です。意思決定権者がその場にいないとやっぱり遅いですよね。「じゃあ上に確認しますので、また次回」って言って何回もやったりとか。その場にいれば決まるものが、なかなか決まらない。
アジェンダや目的が設定されていないのは言語道断ですが、会議に2人参加したら人件費が2倍になるじゃないですか。その人件費感覚がない。
自分たちの人件費がこれだけ、相手の人件費がこれだけ、会議室を予約するならたとえ社内でも賃料が発生している。そのうえで何となくの損益分岐点を把握していないといけないのに、それをやっていない。
たとえば、粗利がそんなに立たない話のときに、何時間以上費やしたら赤字になるというのが、計算できないのはまずい。逆に言うと、会議に時間をかけたら、そのぶん大きな利益を生まないといけない。時間当たりの利益に対する意識がまだ低いのかなと思います。
――定例会議はただの報告会みたいになって、マンネリ化しやすいですよね。
定例会議は、もともとコミュニケーションを円滑にしようとして始まったはずなんです。ところが、いざ定例会議が習慣化すると、その目的がむしろ逆になってしまうことが多い。コミュニケーションをよくするために始めたものが、それが原因でさまざまな軋轢が生まれ、コミュニケーションが悪くなる。
会議がムダだと部下が思う場合は、結局ディスコミュニケーションが起こっている状態なんです。それでは、本末転倒。一度できた制度を何年も使うんじゃなくて、定期的に見直さないといけない。常にやり方をアップデートしていくスタンスで運営していかないと、その会議自体が腐っていってしまいます。

会議が多いのは、タクシー代をたくさん使うのと同じ

――マネージャークラスの方にお話を聞くと、スケジュールが会議で埋まっていると得意げに話す方も多いのですが、それはどう思われますか。
会議は投資なんですよね。会議をやったことによって、どれだけの利益が生まれるか。会議に使ったコストが回収できないと意味がない。会議をたくさんしているのが自慢になってしまうのは、会社の経費をたくさん使って自慢しているのと変わらない。「俺こんなにタクシー乗っちゃったんだ」とか、「交際費月100万円使ったぜ」と言うのと同じ気がします。
――会議が多いというのは、投資に対して費用対効果が悪いと。
会議に出たら出ただけ、レバレッジを効かせてリターンを大きくしないとダメですよね。自慢にも何にもならないです。
――「全部俺に頼ってくるんだよ~」と言っていてはダメですね。
部下が頼ってくるというのは、自分が後身を育てていなかったり、権限を渡していなかったり、情報を独り占めしていたりするからだと思うんです。「俺しかいない」という状況をつくっては、基本的にはマネージャー失格です。

上司は“人として偉い”わけではない

――会議の時間は、できるだけ短いほうがいいと考えますか。
会議でも、企画立案の会議はメリットを感じることが多くあります。参加者の関係がフラットでブレスト的に話し合える環境であれば、やっぱり一人で話しているより、アイデアが重層的になりやすいですから。
企画会議では「三人寄れば文殊の知恵」じゃないですけど、何人かいたほうがメリットが絶大なところはあります。それも楽しい雰囲気で妄想大会みたいなところから始めるのっていいですね。関わっている人のモチベーションも高まるし。
――企画会議で、これをやってはダメということはありますか。
企画会議に限りませんが、ピラミッド組織の大きな会社だと、上司が“人として偉い”みたいな構造がありますよね。そうすると、下の者はどうしても意見を言いづらい環境になる。部下が言いやすい環境をつくるためには、上司の仕事は、あくまで組織のマネージメントをするだけ。人として偉いか偉くないかは、一切関係ないという意識でいないといけないと思います。
逆に意見をガンガン言ったり、反論したりするのが生意気だと思っていたら、上司としては失格です。部下のもつ能力を最大限に発揮して、どれだけ組織に貢献させるかが管理職のやるべき仕事なので。押し潰してしまうようなことは絶対してはいけない。
だから、自分が権限をもったときこそ、コミュニケーションをしやすい人間関係を普段からつくるべきです。たとえば、敬語を部下に使わせるのであれば、自分も使う。自分だけ敬語じゃないと、どうしても力関係が生まれる。そういう日常のコミュニケーションから、なるべく権力格差を設けないように心がけるということが重要だと思いますね。
また、年功序列があると、「年齢=偉い」となることが多くなる。日本の会社はまだまだスペシャリストに対する評価が低いと思います。スペシャリストに対して高い報酬を払うことが少ない。プレイヤーとして優秀な人に対して、論功行賞的にマネージャーの権限を与えてしまう人事慣習がとても根強いですね。
――「お前は仕事ができるからマネージャーもついでにやれ」と。
本来はマネージャーをするスキルと、プレイヤーのスキルはまったく別のはずなのに、経験やプレイヤーとしての実績に、出世という形で報いてきたからミスマッチが起こるんです。
――評価の基準が難しいとは思いますが、たとえばプロ野球だったら監督より、活躍する選手のほうが給料が高い。
部下のほうがものすごいプレイヤーなら、マネージャーより給料が高いというケースがあっていいと思います。スタートアップとかで20代のマネージャーがいたりして、それ自体は良いことですが、本当にマネージャーとしての資質が高いかどうかが重要。一本釣りの場合、プレイヤーとして優秀というだけでマネージャーになっているケースもある。プレイヤーとして優秀なだけなら出世という処遇はせず、マネージメントができる人に上に就いてもらってやったほうが組織としては健全な形ですね。
――具体的に評価はどうすべきだと考えますか。
評価の軸に関してはもう少し明確にしたほうがいいと思います。今後20年くらいで、単純作業だけではなくマネージャーの仕事の多くもAIに置き換わっていると思います。意思決定って、上司の個人的な経験とか勘より、統計的に選んでやったほうが正確になるはずですから。意思決定はAIに任せておけ、「上司はAI」ってなることも増えてくると思いますね。
上司は決して人として偉いわけではない。ただマネージメントという職権を与えられているだけなんです。だから、評価軸を明確にして、各自が果たす役割によって、どんどん権限移譲をしていくべきだと思います。ムダな会議に疑問をもたないムダな上司をなくす。そういう組織の仕組みづくりが早急に必要になってきている時代だと思います。

文・鈴木涼太
写真・佐坂和也

勝部 元気(かつべ げんき)株式会社リプロエージェント
評論家、社会起業家、株式会社リプロエージェント代表取締役。1983年東京都生まれ。早稲田大学社会科学部卒。民間企業の経営企画部門や経理財務部門等で部門トップを歴任した後に現職。ジェンダー論、現代社会論、各種人権問題を専門とする若手論客として評論家活動を展開。著書『恋愛氷河期』(扶桑社)。所有する資格数は71個。

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